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「Clair Obscur: Expedition 33」の世界的ヒットは奇跡か否か。開発陣がアトラス,Tango Gameworksのクリエイターと語った少人数開発の本質
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印刷2026/07/28 16:40

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「Clair Obscur: Expedition 33」の世界的ヒットは奇跡か否か。開発陣がアトラス,Tango Gameworksのクリエイターと語った少人数開発の本質

 Epic Games Japanは2026年7月26日,横浜市開港記念会館にて「Clair Obscur: Expedition 33」PC / PS5 / XBOX Series X|S)のポストモーテムイベントを開催した。ポストモーテムとは「検死」を意味する言葉で,ゲーム開発においては,完成したプロジェクトを振り返り,何がうまくいき,何が課題だったのかを検証する取り組みを指す。

横浜市開港記念会館
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 本稿では,そこで行われたラウンドテーブル(座談会)の内容をお届けする。登壇したのは,開発元であるSandfall InteractiveのGuillaume Broche氏(CEO / クリエイティブディレクター)とTom Guillermin氏(リードプログラマー),Tango GameworksのJohn Johanas氏(「Hi-Fi RUSH」ディレクター等),そしてアトラスの和田和久氏(ペルソナシリーズ 総合プロデューサー)と山口拓也氏(「ペルソナ3 リロード」ディレクター等)だ。座談会は通訳を交えて行われたため,本稿では登壇者の発言の趣旨を端的にまとめる形でお伝えする。
 コアチーム30人弱でヒット作を作り上げたSandfall Interactiveが大切にしていたこととは何か。アトラスの両名やJohanas氏も興味深そうに耳を傾けていた。

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30人弱での完走は奇跡か 再現可能なモデルか


 最初のテーマは「少人数チームと,業界で一般的な大人数開発はどこが違うのか」。司会者からは,「本来なら数百人規模で作るようなゲームをコアチーム30人弱で作れたのは,運か,設計か,二度と再現できない奇跡か」という問いが投げかけられた。

 Broche氏は「正しい人材と適切なツールがあれば,奇跡ではなく再現可能なモデル」と答える。Sandfall Interactiveのメンバーには本作が最初の仕事という人が多く,年齢も若い。しかし,皆が卓越したスキルを持っていた。ただし,チームにフィットする人材を見つけること自体は難しい仕事ではあった。

 また,Unreal Engine(以下UE)やMetaHumanの活用により,5年前と比べてゲーム開発は格段にやりやすくなっており,本作は見た目の印象ほど開発費がかかっていないという。

Guillaume Broche氏
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 これを受けてJohanas氏は,「『Hi-Fi RUSH』のバーティカルスライス(製品版と同じ品質で1エリア分作り切ったバージョン)を作ったチームも30人程度だった」と明かしつつ,その規模なら明確なビジョンを維持するのは容易だとする。ただ「驚くべきは,その人数のまま最後まで完璧に作りきったこと」と語った。
 普通は途中から外部スタッフを組み合わせることになり,調整コストが発生する。30人ほどのコアメンバーで最初から最後までというのは非常に稀で,奇跡に等しいというのがJohanas氏の意見だ。

John Johanas氏
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 和田氏は,PS2時代の「ペルソナ3」以前ならその体制で作れていたかもしれないと振り返る。そのうえで,Sandfall Interactiveが今後もこの体制を維持するのか,それとも通過点として人を増やしていくのかを尋ねた。

和田和久氏
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 Broche氏の回答は明確だった。会社を設立した理由は「自分たちの手で作品を作ることが好きだから」。社内の全員の顔と名前が分かる規模が理想であり,それを維持するのが目標だという。
 人を増やせば採用や教育のコストが増える。気の合う仲間と腹を割って制作したいため,次のタイトルでも大きく人を増やすことは考えていないそうだ。

 Guillermin氏はゲームの規模の観点から補足する。コンテンツの量に目を奪われがちだが,大事なのは「プレイヤーに何が届いているか」。チーム全員が自分の担当箇所に強いオーナーシップを持ち,責任をもって決める。
 大きなコンテンツを作るために大きなチームが必ずしも必要なわけではなく,「必要なのは強いインテンション」(意図)だと語った。ここで示された「インテンション」というワードは,以後の議論を通して複数回登場するキーワードとなった。

Tom Guillermin氏
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少人数では難しいQAをどう乗り越えたか


 続いての話題は,逆に少人数だからこそできないこと。QAやローカライズなど,外部に頼ることが多い領域だ。

 Broche氏によれば,そうした業務は「ゲームを作る」仕事とは性質が異なるため,基本的にパブリッシャを通じて外注し,Sandfallはゲーム制作に集中する役割分担だったという。そのうえで「最初に何が不可能か」をすべて考える必要があったとした。本作はシングルプレイのタイトルであり,QAは開発最後の約1年に集中して実施している。20人以上の体制で「ゲームを壊そうとする」人たちが問題を洗い出してくれたそうだ。

 ここで山口氏から実感のこもった質問が出た。「チェック自体は外注できても,修正は社内でやらざるを得ず,30人規模ではスケジュールが想定より狂うことも多いのではないか」というものだ。

山口拓也氏
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 Broche氏は,「すべてのバグを直したいのはやまやまだが,納期は管理しなければならない」とし,重大ではないバグは後々パッチで修正する判断をしたと回答。またQAのピーク時は社内から有志も募って対応したという。

 Guillermin氏は「QAが始まる前にスコープをコントロールしておくこと」が大事だとする。本作は完全なオープンワールドではなく,ワールドマップから各レベル(ステージ)につながる構造だ。キャラクター,カメラ,コントロールについても,より多くのアクションを入れる案はあったが「それはこのゲームの本質ではない」と判断。集中すべきところに集中したそうだ。

 Johanas氏はエンジンの観点からこの問題を捉える。Unreal Engineのような汎用エンジンは「何でもできてしまう」からこそ,やるべき範囲を考えなければならない。広げることは簡単だが,広げすぎればコントロールを失って混乱しかねない。明確なビジョンを持った少人数,特にディレクター層がそれを守り抜くことが重要だと強調した。
 そのうえで,Sandfall Interactive側に鋭い質問をする。「30名以内のうちプログラマーは4名しかいなかったと聞くが,開発を進めれば想定外の要望や問題が必ず出てくる。その場合,潔くやらないと決めるのか,無理にでも取り入れるのか」というものだ。

 この質問に対して,バトルシステムのプログラマーでもあるGuillermin氏は「実際に非常に多くのリクエストを受け取った」と明かす。バトルシステムの核となる変更には対応しつつ,シェーディングやパフォーマンスといった優先度の高いトピックも同時に抱えていた。
 具体的な対応としては,ゲームデザイナーが最も欲しがっていたものを優先し,それ以外はビジュアルエフェクトなどを再利用できないかをまず考えていたという。ゲームで一番表現したいのは何か,何が核かをチームと日々見定めて,優先順位をつけることが重要だったそうだ。


自社エンジンからUEへ 得たものと失ったもの


 次のテーマは「共通言語としてのUnreal Engine」。自社エンジンから移行したアトラスとTango Gameworksの両者に「何を得て,何を失ったのか」が問いかけられた。

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 山口氏が「得たもの」として挙げたのは,立ち上げの速さだ。UEはプログラマーがいなくても,デザイナーやプランナーだけで遊び心地を確かめられるモックが比較的簡単に作れる。小さなプロトタイプではなく,それなりのサイズのものを作って「これは遊べるゲームになるか」を判断できるようになった。
 一方で失ったものは,便利さの裏返しだという。自社エンジン時代は何もかも自分たちで用意する必要があり,嫌でも学ばざるを得なかった。便利だからこそ「無理やりにでも学ばなければいけない機会」が減った。

 Johanas氏の答えもほぼ同じで,UEに移行すると,やりたいことをその場で自分で形にできる。レゴを組み立てるような感覚で,多少作りが雑でもものすごい速度でビジョンを示せるようになった。
 ただ懸念もある。アーティストがプログラマーを介さずいろいろ作れてしまうため,パフォーマンスが悪化したとき,プログラマーが原因を把握しにくくなる。良し悪しはそれぞれ,というのが氏の整理だ。

 一方,Guillermin氏は「逆方向からの話」として,Ubisoft在籍時のインハウス環境の経験を語った。UEなどの汎用エンジンならドキュメントがあり,検索すれば何かしら出てくるし,コミュニティに聞けば誰かが答えてくれる。しかしインハウス環境では情報源が極端に少なく,要素を開発した本人が退職してしまうと,もう調べる方法がない。ノウハウの蓄積という面では,インハウスエンジンには課題もあるとした。


「UEっぽさ」をどう避けたのか


 ペルソナシリーズも「Hi-Fi RUSH」も「Expedition 33」も,フォトリアル志向の強いUEを使いながら独自のアートスタイルを持つ作品だ。各チームはどのように「UEっぽいグラフィックス」を避けたのだろうか。

 Johanas氏は「Hi-Fi RUSH」について,最初から「カラフルでリアルではないゲーム」と分かっていたので,まずほとんどの機能をオフにしたと語る。また同時期,スタジオ内では同じUEでフォトリアルなビジュアルの「Ghostwire: Tokyo」が開発されていたが,両作のアートスタイルは大きく違う。
 むしろ現在は,リアル系のグラフィックスの中で,独自のアートの方向性を確立させる方が難しいというのが氏の考えだ。

 和田氏も,そもそも「Unreal Engine感」を基準に考えていないと語る。先にやりたい表現があり,それをUEでどう実現するかという発想からスタートする。アトラスの場合はアニメ的な表現を突き詰めていくことで,結果的にUE感を避けられているそうだ。
 また,制作中はエンジンのアップデートは極力避けるという。アップデート時に発生する作業が大きな負担となるためだ。


 Broche氏は「自分もHi-Fi RUSHの大ファンの一人」と明かし,スクリーンショットを見た瞬間に何のゲームか分かるスタイルの確立と,エンジンが作られた方向性に逆らって戦う姿勢に,同じUEユーザーとして感銘を受けると語った。
 一方で「Expedition 33」にとって,エンジンのリアル志向はむしろ大きな味方だったという。まずアートディレクションを明確にし,シュルレアリスムをテーマとして「リアリティをどの程度超えていくか」を考える。アートディレクターがライティングや環境,構図を作り「これでOK」と判断する。やはりSandfall Interactiveでも,「UEっぽいかどうかは,正直あまり気にしていなかった」とのことだ。

 なお,発表されたばかりのUnreal Engine 6への期待を問われた場面では,山口氏が「安定していることと,バグが少ないことです」と即答して会場を沸かせた。Broche氏はMegaLightsの実用性とビジュアルスクリプティング言語の進化を挙げていた。
 Guillermin氏は,UE6がオンラインやアカウント統合の方向を向いているように見えるとしたうえで,「シングルプレイヤー・オフラインのゲームには今後どういう恩恵があるのか」と,逆に問いかけていた。


数年後ゲームは何人で作れるようになる?


 最後のテーマは「数年後のゲーム開発はどう変わるか」。2028年,2030年には何人でゲームを作れるようになると思うか,という未来予想だ。

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 Broche氏の答えは大方の予想通り,「今と同じ25人前後」だった。目指すのは「職人(クラフトマンシップ)としてのゲーム作り」であり,技術の進化で一人ひとりにできることは何十倍にもなるだろうが,追求したいのは人数を減らすことではなく,同じ人数でより磨き上げられた作品を届けることだという。

 Guillermin氏は「技術はインテンションに奉仕する必要がある」と語る。AIは無限のコンテンツを生成できるようになるだろうが,プレイヤーは他の人間の意図を感じたいと求める。ツールはあくまで手足であり,背後にあるアーティストやデザイナー,プログラマーの強い意志が主体だ。ゲームは「第9の芸術」といわれるが,そのアートを通して作り手の意図をどうプレイヤーに届けるかは譲れない,とした。

 Johanas氏も両名に完全に同意するとし,エンジンやツールの役目は,オリジナリティのあるアイデアを発想から着地まで実現させることだと述べた。

 和田氏は,ペルソナは多くの人数の意志が集結してできている作品なので正直かなり減らしにくいとしつつ,作品のコンセプトによっても変わる話だと答えた。またペルソナとは関係なく,「自分ひとりでゲームを作ってみたい気持ちもある」と本音を漏らした。

 山口氏は,UEの導入をはじめとする効率化で一世代前よりかなり効率よく作れるようになったものの,こだわりの強いスタッフから「時間が浮いた分,もっと作り込ませてほしい」という意見がどうしても出てしまうと苦笑する。「日々スタッフとのせめぎ合いです」と笑いを誘っていた。

 ラウンドテーブル終了後の質疑応答では,会場からこんな質問があった。「『Expedition 33』はとてもフランス的であると同時に,とても日本的なゲームでもある。日本的な精神を持つ作品に,ワールドワイドでアピールできるアートを組み合わせるのは挑戦だったと思うが,逆に世界に向けたゲームを作りたい日本のデベロッパにアドバイスを」というものだ。

 Broche氏の答えは,問いの前提を覆すものだった。1992年生まれの自分は,日本のゲーム,アニメ,映画で育った世代であり,「異文化に挑戦した」というより,自分の経験と好きなものから作っていっただけなのだという。アートディレクターも日本のゲームに魅了されているが,日本のものをコピーしているわけではない。日本のテイストの完璧な再現はおそらく不可能だし,する必要もない。宮崎駿作品やフランス映画からも多くの影響を受け,それをアートディレクションや世界観に反映している。
 そのうえで,日本に限らず全世界の開発者への言葉として,「自分に素直に,真摯に何を作りたいか,どういうビジョンを実現したいかを定めてから作ればいい。日本に似ているかどうかは関係ない。自分がいいと思うゲームを作ればいい」と語った。氏は「ペルソナ4」が本当に好きで,数百時間はプレイしたそうだが「これ(ペルソナ4)が美しい,これがいいと思っているからこそ,この『Clair Obscur: Expedition 33』が作れた」とまとめた。

 少人数開発の方法論から始まった対談は,最終的に「作り手のインテンション」という一点に何度も戻ってきた。
 人数でもツールでもエンジンでもなく,何を作りたいかがまず先にある。作風の際立った作品を手掛けてきた登壇者たちがこの一点で交差していったのは,よくよく考えてみれば必然だったのかもしれない。

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