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新作をリリースすることが一番の宣伝。ひとりで7年間,ゲームを作ってきた個人開発者が心がけていたこととは[IDC2024]
新作をリリースすることが一番の宣伝
セッションの冒頭では,じぃーま氏の経歴が紹介された。氏は「フラットマシン」や「カタストロフィレストラン」「パラサイトデイズ」といったスマートフォン向けの2Dゲームを多数開発している。
もともとじぃーま氏は,データセンターでサーバーのハードウェアを出し入れする仕事をしており,ゲーム業界にいたわけではなかった。その後,2012年から雑貨屋を始めたそうだが,家庭の事情で2017年に続けることが難しくなったという。
その時に趣味で作っていたゲーム「TimeMachine」がヒットし,まとまった収入を得たことからゲーム開発者としてのキャリアを歩み始めたそうだ。
現在まで7年間,個人でゲーム開発を続けているじぃーま氏だが,イベントへの出展は行ったことがなく,プラットフォームはスマートフォンオンリー,広告出稿やパブリッシャがついたこともほぼなし,マーケティングらしいマーケティングはほとんど行ったことがないと語る。
そんなじぃーま氏がこれまで生き残ってきた理由として挙げたのが,「1年に1回以上はゲームをリリースしているから」だそう。氏は新作をリリースすることが何よりの宣伝であると考えており,定期的にゲームをリリースすることを意識的に心がけている。
ゲームをリリースすれば,メディアに掲載されたり,ストアランキングに入ったり,SNSでも話題になったりするからだ。また,新作を遊んだ人は,そこから過去作に流入し,相乗効果を生み出す場合もあるため,大きなメリットとなる。じぃーま氏はこれを“無限超パワー”と呼んでいるそうだ。
ただ,無限超パワーを生むためには,1年に1回のリリースのほかにも「世界観の統一」という工夫が必要だそう。じぃーま氏の場合は「やさしい終末世界」という統一されたテーマでゲームを作っている。
これによるメリットは,タイトル間でキャラクターを共有させやすいということだ。過去作でユーザーが気に入ってくれたキャラクターをゲスト出演させると喜んでもらえるし,統一した世界設定なので,キャラクターはどんどん蓄積されていく。
また,新作のたびに世界設定を毎回練り直すのは大変な作業で,そこを短縮できるのは大きな工数の削減になる。
さらに世界設定を統一することで作家性が生まれ,まったく異なるジャンルのゲームをリリースしても「あの人のゲームならやってみるか」と手に取ってもらいやすくもなる。この点は,Somi氏が下記のセッションで述べたことに通じるもので,じぃーま氏も「Somiさんも言ってたから正しいと思います!」と語っていた。
「未解決事件は終わらせないといけないから」ポストモーテム。怒りや嫌悪を煽る時代だからこそ,優しさにあふれたものを作ろう[IDC2024]
2024年11月30日にインディーゲーム開発者向けカンファレンス「Indie Developers Conference 2024」が東京・新橋で開催された。本稿では,その中で行われたセッション「『未解決事件は終わらせないといけないから』ポストモーテム」のレポートをお届けしよう。
これらを心掛けながら新作のリリースを続けていくと,じぃーま氏は新作がすぐに売れなくても気にしなくなったという。年に1回のリリースは決めていることだし,何かのきっかけでヒットしたり,ロングテールでダウンロードされたりするかもしれない。何より,先述の無限超パワーがあるため,早く結果を出す必要はないからだ。
さらに世界設定を統一してブランディングを行った結果,ファンに応援してもらいやすくなり,App Storeで10回以上も紹介されたそう。また,年に1回のリリースを続けたことにより,ゲームのコンテストに毎年出られるようになったこともメリットとして挙げていた。
年1でゲームをリリースするために
とはいえ,ゲームを1年に1回リリースするというのは簡単なことではない。ここからはじぃーま氏がゲームの手数を増やすために意識していることや,心構えなどを紹介しよう。
●ParsecとSwitchBotの利用
リモートデスクトップアプリのParsecと,家電などのスイッチを遠隔操作できるSwitchBotを使うことで,出先から自宅の作業用PCにアクセスし,いつでも開発を再開できる。こちらの活用方法はUnity Japanの公式YouTubeでも紹介されており,じぃーま氏もオススメだそう(YouTubeリンク)。
●忘れないようにアイデアは書き留めておく
アイデアが枯渇しては年に1回ゲームは出せない。じぃーま氏は2018年から,アイデアや訪れた場所,食事などをすべて紙のノートに書き留めているという。一時期はEvernoteなどのWebサービスも使っていたが,気が向いたときにパラパラとめくれる利便性から,最終的には紙媒体のノートに戻ったそうだ。
●イベント出展は吟味する
イベントは出展するだけでお金がかかったり,工数がかかったりするものなので,本当に出る必要があるのかはよく考えたほうがいい。もちろん,イベント出展自体を否定するものではないが,ゲーム自体の開発を進めるのも大切なことだ。
ちなみに,じぃーま氏がこれまでイベントに出展したことがない理由は「燃え尽きるのが分かっているから」。イベントに出た後に反動で何もできなくなるのが,怖いそう。
SNSで精力的に活動している他人を見ると,とりあえず片っ端からイベントに出ないとチャンスをつかみ損ねると思う人もいるかもしれないが,「こうやってなんとなく開発してる人間もいますんで」と,無理をしてイベントに出る必要はないとじぃーま氏は意見を述べていた。
●自分の作りたい気持ちを大事にしよう
ゲーム開発を続けていくのに大切なのは,「自分の作りたい気持ちを大切にすること」であるとじぃーま氏は述べる。
「バズるゲームを狙って作るのは良いことなのか,悪いことなのか」という議論を耳したことがある人もいるかもしれないが,これに関して,じぃーま氏は「どちらでも良い」と考えているそうだ。「絶対にバズる! 作りたい!」と強い気持ちがあるならば作ればいいし,「そこまで作りたくもないけど,バズりそう」くらいの気持ちならば,止めた方が良い。要するにモチベーションを高くやれるかが大切なのだ。
●メンテナンスはやりやすいように工夫しよう
じぃーま氏は過去にリリースしたゲームの開発に使っていたゲームエンジンのサポート終了により,ゲームのメンテナンスができなくなってしまった経験があるそう。そのため,難しいことではあるが,ゲームエンジンは長くサポートが続くものを選びたいと述べる。
また,導入するとビルドが早くなるなどのシステム系のアセットは,ゲームエンジンが更新されると,ビルドに失敗してしまうことがあるそう。これは,アセット側がアップデートに対応していない場合に起きる現象だ。
そのため,アセットを導入する際にはよく考えてから選ぼうと呼びかけるとともに,アセットの開発者にも「うちは定期的に対応しています」とアピールしてもらえると使いやすくなると語っていた。
昨今のアプリストアは,定期的にアップデートをしないと消されてしまうため,メンテナンスのしやすさは重要だ。
そのため,じぃーま氏自身は,過去作のゲームエンジンのバージョンとプラグインはすべて統一しているそう。簡単にアップデートできるというのは見過ごされやすい強みであり,意識してほしいと述べていた。
●コンパクトでも人を楽しませるゲームは作れる
セッションでは,2Dスマートフォンゲームのメリットにも触れられていた。
1つめに挙げられたのは,最適化の手間が少ないこと。昨今のスマートフォンは性能が上がっているため,とりあえず2Dゲームなら動くことが多い。3Dゲームのように手間をかけて最適化する必要がないのが強みの1つといえる。
2つめは,ゲームの容量が少ないということだ。特に海外ではインターネット回線が細い国もあり,容量の大きいゲームはダウンロードに失敗することがあるのだそう。容量の軽いゲームはそれだけでメリットなのだ。
昨今,スマートフォンアプリをリリースする場合は一定数のテスターを集める必要があったり,広告表示の際にもいろいろな手続きが必要だったりと参入障壁は多いが,1つ1つ対応すれば確実に解決できることでもある。
じぃーま氏は自身のゲームを遊んだ人から「あなたのゲームが今までで一番面白かった」と言われた経験を語り,「コンパクトでも人を楽しませるゲームは作れる」と改めて2Dゲームの可能性を語っていた。
●Discordを自由に利用してもらおう
Discordの活用方法も紹介された。じぃーま氏曰く,基本的にDiscordはファンの自由にやってもらっているそうだが,Discordにやってくる海外のユーザーからの問い合わせに,ファンが対応してくれる点が非常に助かっているそうだ。
日々の問い合わせの対応に追われるのは個人の開発者あるあるだが,そこをファン同士で解決してくれるため,結果的にゲームの開発ペースを上げることにつながっているという。
●最も重要なのは開発者自身の健康
最後にして最も大切なことだと,じぃーま氏が言うのは,開発者自身の健康だ。開発者は座ってゲームを作っている時間が必然的に多くなってしまうため,不摂生になりがち。じぃーま氏もかつては健康診断の肝・膵臓機能でE判定を受けたことがあるそうで,心と身体を健康に保つことの重要性を語っていた。
じぃーま氏の失敗談
セッションでは,じぃーま氏が体験したゲーム開発における失敗談も披露されたので,紹介しよう。
●何日もかけたバグ調査。影響したユーザーは数名
一部の古いAndroid端末で必ず起きるクラッシュ報告を耳にしたじぃーま氏は,ゲーム開発を2週間ストップし,対象端末を購入したうえで調査を実施したそう。
最終的にGoogle Automatic Integrity Protectionが原因だと判明したそうだが,おそらく影響したユーザーは世界レベルで数名しかいなかった。解決したときの気持ち良さはすごかったそうだが、バグ調査自体にのめり込んでしまったことを反省していた。
●入力デバイスにこだわり,“入力速度沼”にハマる
キーボードが好きなじぃーま氏はいかに入力速度を上げるかにこだわり,いろいろな入力デバイスを試したそうだ。直交格子配列や分離型,ときにはかな入力にもチャレンジしたが,あるとき「慣れる時間や考えている時間の方が長いから,あまり意味がないな」と気づいたそう。
確かにキーボードを選ぶのは楽しいが,効率のために長い時間をかけて選ぶものではないと語っていた。
●広告のさまざまなトラブルに遭遇
スマートフォンゲームでありがちなのが,広告周りのトラブル。テスト広告のままリリースしたり,広告出稿の設定をミスして一瞬で50万円ほどが飛んでしまったりと,じぃーま氏も例に漏れずさまざまなトラブルに遭遇したそう。
●ローカライズの失敗談
じぃーま氏はローカライズ周りでもトラブルに遭遇したことがあるそう。
知り合いの会社に「安く引き受けるよ」と誘われてお願いしたら,その後まったく連絡がなく,突いてやっと出てきたのが機械翻訳。ローカライズにはお金がかかるが,プロに任せるのが一番と述べていた。
また,海外のファンから申し出があり,実際に「パラサイトデイズ」のトルコ語とスペイン語が有志によって実装されたこともあるそう。しかし,すべてローカライズしてもらえる確率は限りなくゼロに近く,申し出をした人も突然雲隠れしてしまうのだという。
じぃーま氏は「結果的にゲームを好きで申し出てくれたファンに,途中で逃げ出すという経験を与えてしまった」と反省したそうで,今はローカライズの申し出があっても断っている。
ひとりでも本当に大丈夫,大丈夫だから
最後にじぃーま氏は,ひとりのゲーム開発は自由にやれるし,自分の分だけ稼げばいいので,気が楽である。また,自分の足りないスキルを身につけて,できなかったことを実現していくというものづくりの楽しさにも触れられると,ひとりでゲーム開発することの楽しさを述べる。
そして,自身の交友関係がそこまで広くないことをアピールし,「ほかの開発者と交流がなくても大丈夫です,本当に大丈夫なんです」と強く語る。じぃーま氏がそこまで「大丈夫」と強調するのは,SNSの存在が開発者にとって毒になり得るからだという。
すさまじいクオリティの開発ポスト,仲睦まじそうに交流する開発者同士,売上をアピールする人などなど,ひとたびSNSを開けば,情報が洪水のように流れてくる。「みんなはこんなにすごいのに自分は……」と比べてしまってつらい,つらいのになぜかついつい見てしまう。そうした経験がある人は多いのではないだろうか。
そんな人に向けて,じぃーま氏は「大丈夫です」と繰り返し,「あまり気にせず,自分のように何となくで7年やってる人間もいるんです」と語りかけていた。そして,最も大切なのは「作りたい衝動を大事にする」ことであり,ゲームに限らず何か作りたいと思ったら素直に従い,モチベーションを維持することであるとセッションをまとめていた。
今回のセッションは,じぃーま氏の柔らかな語り口と,失敗談を交えた小気味いいトークで聴講者を笑わせているシーンが印象的だった。ゲーム開発に限らず,ひとりだと不安に駆られたり,孤独感に苛まれることがあるかもしれない。そんな不安を抱えている人を「大丈夫」と優しく諭す,そんなセッションだったと感じた。
「ズィーマ」公式サイト
「Indie Developers Conference 2024」公式サイト
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