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4Gamerをご覧の皆様こんにちは。クッキングエンターテイナーの大西哲也です。ゲームに登場する料理をプロの料理人が本気で再現し,プロ目線で勝手に検証する「俺のコラボカフェ」。今回もよろしくお願いします。
実は最近,豆腐作りにハマっています。豆腐を作るといっても,大豆から豆乳を絞って,にがりを入れて終わり,というほど単純ではありません。
大豆の品種,豆乳の濃度,凝固剤の種類と温度などなど,考えることは多いです。いろいろなことを毎日のように試し,白い四角い物体を眺めていたら,ふと思い出したんです。そういえば,「バイオハザード」に豆腐が出てきたなと。
しかも,ただの豆腐ではありません。ゾンビだらけのラクーンシティを,ナイフ一本で走り抜ける,関西弁の巨大豆腐です。なんでやねん。というわけで今回は,豆腐を作ります。
料理の話をする前に,せっかくなのでバイオハザードというゲームと,そこに突然現れた豆腐について,少し真面目に考えてみましょう。
初代バイオハザードがPlayStationで発売されたのは1996年3月22日。今年で30周年です。カプコンも30周年記念の特設サイトを開設しており,2月27日にはシリーズ最新作「バイオハザード レクイエム」が出たばかりです。
初代バイオハザードが発売されたとき,私は中学生でした。
当時の私は,せっかくホラーゲームをやるのなら,最大限怖い状態でやったほうが得だと考え,わざわざ夜中まで待って,部屋を暗くしてプレイしていたんです。なぜそこまで自分を追い込んでいたのかは分かりませんが,とにかく怖かったです。
シリーズをいろいろ遊んできましたが,純粋な怖さでいえば,個人的には今でも初代が一番だったように思います。「バイオハザード2」でディレクターを務めた神谷英樹氏も,初代のほうがかなり怖いと振り返っており,その理由として,1作目を率いた三上真司氏自身が非常にホラーを理解し,好んでいたことを挙げていました。
では,なぜあんなに怖かったのでしょうか。よくいわれることですが,初代は不自由だらけのゲームです。カメラは自由に動かせず,キャラクターはいわゆる「ラジコン操作」。持てるアイテムにも上限がある。弾薬も回復薬も少ない。セーブするためのインクリボンすら有限です。敵がいるからといって,全部倒していたら弾が足りなくなります。
廊下の向こうからゾンビの足音が聞こえる。でも固定カメラなので,こちらからは見えない。進むべきか,撃つべきか,逃げるべきか。この判断がずっとプレイヤーに付きまといます。カプコン自身も現在,バイオハザードの特徴を,極限の恐怖だけでなく,迫られる一つひとつの選択によって生まれる戦略的なゲーム性だと説明しています。
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ここが重要かもしれません。バイオハザードは,単にゾンビが突然出てきてワッと驚かせるゲームではなく,未来の自分がどうなるか分からない状態で,有限の資源を消費させられるゲームなんです。
1998年にはバイオハザード2が発売されます。舞台は閉ざされた洋館からラクーンシティへ。主人公もレオンとクレアの2人になり,複数シナリオによって同じ事件を異なる視点から体験できます。初代の閉塞感とは違い,警察署,地下施設,研究所と,行き来する場所も大きくなりました。
私の感覚では,2も間違いなく怖いゲームなのですが,初代よりもエンターテインメントとしてのバイオハザードが強くなった作品でした。実際,2019年のリメイク版「バイオハザード RE:2」の開発スタッフも後年,初代についてはアクが強い,一方で2はより広い層に分かりやすくなり,シリーズの人気を決定づけたのだと振り返っています。
そして2には,もう一つ重要な変化があります。クリアした後も遊ぶゲームになったことです。
ホラーゲームには一つ,構造上避けられない問題があります。それは,同じものを何度も遊ぶと,怖くなくなることです。最初はこの扉の向こうに何がいるんだろうと身構えていた場所が,2周目にはこの先にゾンビが2体いる場所に変わります。さらに遊び込むと,右側を走れば1体目の掴みは避けられる,というところまで見えてくる。恐怖が攻略情報へ変換されていくわけです。
ところがバイオハザードは,ここで別のゲームに変身します。マップを覚え,不要な戦闘を避け,最短ルートを構築する。つまり,サバイバルホラーが,ルート最適化ゲームになります。初代では3時間以内にクリアすると,次のプレイで無限ロケットランチャーが使える隠し要素がありました。
バイオハザード2には,本編をやり込んだプレイヤー向けに「The 4th Survivor」というエクストラゲームがあります。
主人公は,アンブレラ特殊工作部隊のHUNK。すでに探索も謎解きもほぼ終わっています。決められた装備だけを持ち,大量の敵が配置されたルートをひたすら突破して脱出地点を目指す。これは非常に面白いモードです。本編にあった物語や寄り道を削ぎ落とし,有限の資源を使って,どこまで生き残れるかというバイオハザードのゲーム部分だけを抽出しているからです。
RE:2の平林良章プロデューサーは,初期の3作については,全部の敵を倒して進むゲームではなかったと説明しています。HUNKは,その極端な形です。
そしてカプコンは,さらにもう一段階やりました。「The 豆腐 Survivor」です。
主人公は,巨大な白い豆腐。武器はナイフ。ダメージを受けると,「なにすんねん!」と関西弁で怒ります。どうしてそうなった。
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しかし,この豆腐にはちゃんと開発上の由来があります。バイオハザード2のディレクターである神谷英樹氏は,公式攻略本に掲載されたインタビューで,豆腐はもともと開発ツール上で使用していたキャラクターだったと説明しています。開発終盤になって,これでゲームを遊べたら面白いのではないかという話になり,製品版へ入ることになったそうです。
つまり,ゲームを作るための仮の存在が,そのままゲームの主人公になってしまったわけです。シリアスなサバイバルホラーとして考えれば,世界観を完全に破壊していますが,ここまでバイオをやり込んだ人は,もう特に恐怖などはどこかへいってしまって,エンターテインメントを求めているということでしょう。
そして豆腐にナイフしか与えなかったことも,単なるギャグではありません。装備を極端に減らすことで,バイオハザードのサバイバル部分だけがむき出しになっているのです。
これは料理にも少し似ています。材料を大量に使えば,いろいろな方法でおいしくできます。しかし材料や調味料を削っていくほど,ごまかしが効かなくなるのです。
さて,21年後の2019年,RE:2で豆腐は復活します。
リメイクの制作時,スタッフは「The 4th Survivor」と「The 豆腐 Survivor」は絶対に外せない要素だったと語っています。しかもRE ENGINEで豆腐をリアルに再現。E3 2018のインタビューでは,平林プロデューサーが,木綿なのか絹ごしなのか,どんな豆腐になっているのかを見てほしいと語っていました。
そして実際に,本物の豆腐をスキャンして作ったそうです。1998年,ゲーム開発のために使っていた簡素なキャラクターが豆腐になり,2019年,その豆腐を再現するために,本物の豆腐をスキャンする。完全に逆転しています。さらに,オリジナル版で豆腐の声を担当していた当時の開発スタッフがすでに退社していたにもかかわらず,RE:2のためにわざわざ呼び戻して再収録。そこまでやるかっ!
ラクーンシティを生き残れる豆腐を作る
でも,カプコンがそれほどまでにこだわったのなら,料理人側も本気で作らねばならないでしょう。目標は,一番おいしい豆腐ではありません。今回作るのはラクーンシティを生き残れる豆腐です。
ただし,大豆から豆乳を作るところから始めると,ゲームの記事なのに急に大豆を12時間浸水させることになります。ミキサーも濾し袋も必要。おからも大量に出るので,今回はスーパーで買える豆乳から作ります。
市販の豆乳でも,条件を選べばちゃんと豆腐になります。むしろ初めて豆腐を作るなら,こちらのほうが圧倒的に簡単です。ただし,豆乳選びだけは間違えないでください。
使うのは,成分無調整豆乳。できればパッケージに「大豆固形分10%以上」あるいは「豆腐が作れます」と書いてあるものを選んでください。これが低い豆乳や,調製豆乳では,うまく固まらないことがあります。家電メーカーなどの豆腐レシピでも,大豆固形分10%以上の成分無調整豆乳が推奨されています。普通の人は,豆乳とにがりだけで大丈夫。これがまず,もっとも簡単な豆腐です。
ただし今回の目的は,普通の豆腐ではありません。ゾンビに噛まれても,リッカーに殴られても,ナイフ一本で生還できる豆腐です。そこで秘密兵器を使います。トランスグルタミナーゼ。英語ではTransglutaminase。略してTG。
そう。T-ウィルスではありません。残念ながらT-ウィルスは入手できなかったので,食品として合法的に使用できるTで我慢しましょう。
トランスグルタミナーゼは,タンパク質同士をつなぐ反応を促進する酵素です。食品加工の世界でも利用されており,豆腐についてもTG処理によってゲル構造や強度が変化することが研究されています。
要するに,豆腐のタンパク質結合を強化できます。今回のテーマに完璧です。少しだけマニアックな話をすると,単純に豆腐を硬くするだけなら,水分をどんどん抜けばいい。しかし,それではパサパサになります。料理として面白いのは,水を抱え込んだ状態のまま,構造を壊れにくくすること。だからTGを使ってタンパク質のネットワークそのものを強化するという発想になります。
それでは作っていきましょう。
■材料
成分無調整豆乳:1L
にがり:約10ml(豆乳・にがりの種類による)
トランスグルタミナーゼ:1.5g+水15ml
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これで完成です。T酵素による強化は,HPを増やすというより,防御力を上げる感じでしょうか。しっかりと角があり,箸でつまんでも簡単には崩れません。でも,中にはちゃんと水分が残っている。食べると,きちんとおいしい豆腐です。出来立ては格別ですね。
ここで重要なのは,世界一硬い豆腐を作ったわけではなく,目指したのは,豆腐らしさを残したまま,生存能力を上げることです。ナイフ一本でラクーンシティを突破するなら,おそらくこのくらいの物性は必要でしょう。
今回,豆腐について調べるつもりが,結局バイオハザードの歴史をかなり振り返ることになりました。
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最初は正真正銘のホラーゲームながらも,何度もプレイして極めていくと,今度は,どこまで少ない装備で突破できるかというゲームになる。そして最後にナイフしか持っていない豆腐が出てくる。ふざけているようで,実はゲームとしてはものすごく筋が通っています。
豆腐作りも似ています。一見すると単純。でも理解し始めると,いくらでも考えることが出てきます。
1998年,開発ツールの中にいた白い物体は,冗談半分でゲームの主人公になりました。21年後,カプコンはその冗談を再現するため,本物の豆腐を3Dスキャンしました。そして30周年の2026年,なぜか料理研究家が,トランスグルタミナーゼまで持ち出して生き残れる豆腐を作っています。豆腐,おそるべし。少なくとも,30年近く生き残っているキャラクターなのは間違いありません。
面白いと思ったり,実際に作ったりした人は「#俺のコラボカフェ」「#COCOCORO」といったハッシュタグを付けてSNSに投稿してくれると嬉しいです。
それでは,またお会いしましょう。したっけ!
■■大西哲也(クッキングエンターテイナー)■■ あるときは料理研究家,またあるときは「COCOCOROチャンネル」のYouTuber。しかしてその実体は……料理を通じて多くの人を喜ばせたいクッキングエンターテイナーだ! ちなみに今回,あらためて「くだらないことを本気でやる強さ」について考えさせられたそうです。冗談のようなアイデアでも,徹底的に作り込めば何十年も語り継がれる。それはゲームでも料理でも同じなのかもしれません。大西シェフも今後ますます,役に立つのか立たないのか分からない研究を,全力で続けていくそうです。
※次回の掲載は2026年10月24日を予定しています




























