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GPUによるディープラーニングに注力するNVIDIA。その最新事情が披露された「GTC Japan 2015」基調講演レポート
そこで本稿では,GTCJ 2015で披露されたディープラーニングに対するNVIDIAの取り組みを簡単にまとめてみたい。
ディープラーニングへの取り組みをアピールしたNVIDIA
2015年3月に米国サンノゼで行われた「GPU Technology Conference 2015」(以下,GTC 2015)では,NVIDIAの社長兼CEOであるJen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏が,基調講演で同社によるディープラーニングへの取り組みを説明したことがあった(関連記事)。GPUの有力な応用事例としてディープラーニングが急浮上しているのは確かで,NVIDIAにとっては,グラフィックスとHPCに続く,第3のGPU市場というわけだ。
GTCJ 2015もまた,基調講演から技術セッションまでディープラーニング一色という内容で,NVIDIAの本気具合が窺える。
Hamilton氏が語ったテーマは大きく分けて以下の4点である。いずれも目新しい話題はなかったが,それぞれのテーマでゲストが登壇して,利点や技術をアピールする形式で進められた。
- GPU仮想化ソリューション「NVIDIA GRID」による「HPCの可視化」
- ディープラーニング
- 車載コンピューティング
- HPC分野におけるGPUの将来
とくに時間が割かれたテーマは,やはりディープラーニングだ。NVIDIAは,同社製GPUを用いたディープラーニング向けライブラリ「cuDNN」や,ミドルウェアの「DIGITS」を配布しており,今回の基調講演では,DIGITSを使ったリアルタイムデモが披露された。
また,cuDNNは今後さらに開発を進めて,「Recurrent Neural Network」(以下,RNN)のサポートが計画されていることも明らかにされた。RNNとは,ニューラルネットワークモデルの1つで,時間の経過によってデータが変化していく「時系列データ」の学習に対する応用が可能とされているものだ。
NVIDIAでは,自動運転車の実現に向けた取り組みとして,ディープラーニングを活用するソリューションを提案しており,同社製SoC
Shapiro氏によると,ディープラーニングによって,周囲を走る車の種類や環境などを認識することが可能になり,状況に応じた自動運転が実現できるという。
さらにShapiro氏は,GPUを自動車の設計に応用する例も紹介した。講演で披露されたのは,ホンダで利用されている衝突シミュレーションの様子で,実車による衝突実験と,パッと見では見分けが付かないほど精密な衝突シミュレーションがGPUで実現できているそうだ。このデモには,正直驚かされた。「GPUによって,コンピュータ上で自動車の設計が行えるようになりつつある」とShapiro氏が主張するのも頷ける。
基調講演の締めくくりには,NVIDIA GPUのロードマップも簡単に紹介された。といっても,内容は3月のGTC 2015からまったく変わっておらず,2016年に「Pascal」,2017〜2018年頃に「Volta」が出る予定となっている。
Hamilton氏は,2016年に登場するPascalは,HPCやディープラーニング用途での性能を,さらに向上させられる設計になっていると強調する。その理由として,氏が挙げたのが,Pascalには倍精度浮動小数点演算ユニットが組み込まれるという点だ。NVIDIA GPUに倍精度浮動小数点演算ユニットが組み込まれるのはKepler世代の「GK110」シリーズ――GeForceでいうなら「GeForce GTX TITAN」シリーズ――以来であり,これは大きなトピックだろう。
さらに,メモリ帯域幅を劇的に拡大させる3Dメモリの採用や,GPU間の高速インターリンク技術「NVLink」なども,ディープラーニングの性能を向上させる鍵になる技術であると,Hamilton氏はアピールしていた。
そしてPascalの先に見えるのが「Volta」だ。最後のゲストとして登壇した,IBMの日本法人である日本アイ・ビー・エム(以下,IBM)の朝海 孝氏は,NVIDIAとIBMが共同開発を進めているVoltaの応用事例を簡単に紹介した。
米国が進めるスーパーコンピュータ開発プロジェクト「CORAL」がVoltaを採用するというのは,2014年12月に報じたとおり。CORALで開発されるシステムの1つであるオークリッジ国立研究所の「Summit」は,VoltaとIBM製のCPUである「Power 9」プロセッサの組み合わせによって,ピーク性能で300PFLOPSの演算性能を持つシステムを2017年に実現するとのことだ。
PascalやVoltaに関する新情報が皆無だったのは残念だが,Pascalが倍精度浮動小数点演算ユニットを組み込んで2016年に登場するという情報を,再確認できたのは,収穫といえば収穫かもしれない。
NVIDIAとPreferred Networksがディープラーニングで提携
ちなみに,Preferred Networksは,Preferred Infrastructuresという企業からスピンアウトした企業で,「Chainer」というディープラーニングのフレームワークをオープンソースとして公開している。このChainerが,時系列データの学習をサポートできるフレームワークとして注目を集めているということだ。
自社開発によるcuDNNとDIGITS,そして今回の提携によるChainerなど,わずか1年ほどで,NVIDIAは,GPUによるディープラーニングの開発環境を整えつつある。同社が,GPUの新たな応用分野として,ディープラーニングに相当に力を入れていることが明確に表れているわけだ。
実際,GPUのデータ並列アーキテクチャとニューラルネットワークは,比較的相性がいい。ディープラーニングのプラットフォームとしてGPUが使われるのは,その意味でも自然なことだろう。
ただ,NVIDIAが期待するように,ディープラーニングが幅広い分野に浸透した頃には,GPUに代わって,ディープラーニングに特化した専用ハードウェア,たとえば「ニューラルネットワークプロセッサ」のようなものが,登場してこないとも限らない。もし,そうなると,ディープラーニングに向けたNVIDIAの投資は,結果として無駄になる恐れもあると,筆者は見ている。答えが出るのは,何年も先になるだろうが。
いずれにしても,PascalにVoltaといった2016年以降のGPUにおいても,ディープラーニングがトピックとして語られていくことは間違いなさそうだ。GPUの未来に注目している人は,ディープラーニングの動向にも気を配っておくと,いいのではないだろうか。
GTC Japan 2015 公式Webサイト
NVIDIA 公式Webサイト
- 関連タイトル:
NVIDIA RTX,Quadro,Tesla
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