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Radeon HD 6800
  • AMD
  • 発表日:2010/10/22
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「Barts」に隠された謎を探る。消えた“もう1つのBarts”は「Cayman」と関係アリ?
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印刷2010/10/27 00:00

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「Barts」に隠された謎を探る。消えた“もう1つのBarts”は「Cayman」と関係アリ?

筆者が2010年上半期の時点で入手していたIslandsファミリーのロードマップ。エントリー市場向けモデル「Turks」やローエンド市場向けモデル「Caicos」が先陣を切る予定とされていた
画像集#002のサムネイル/「Barts」に隠された謎を探る。消えた“もう1つのBarts”は「Cayman」と関係アリ?
 AMDが,同社にとって第2世代のDirectX 11対応製品にして,開発コードネーム「Northern Islands」(ノーザンアイランズ)と呼ばれていたGPUファミリーの第1弾を,日本時間2010年10月22日に「Radeon HD 6870」「Radeon HD 6850」として発表したのは既報のとおりだ。
 開発コードネーム「Barts」(バーツ)と呼ばれてきたRadeon HD 6800シリーズ。その技術的な詳細や3D性能は,4Gamerで掲載済みの記事からチェックしてもらえればと思うが,端的に述べれば,「Evergreen」(エバーグリーン)ファミリーとされてきたATI Radeon HD 5000シリーズをベースに,シェーダプロセッサ数を削減してコストを落としながら,より高クロックで動作するように改良することで,より高い単精度浮動小数点演算性能の実現を目指したGPUである。

 ただこのBarts,筆者が2010年5月の時点で紹介したAMD製GPUのロードマップと比べると,投入が前倒しされているなど,いくつかの疑問点もある。
 この点についてGPU業界関係者に取材を行ったところ,Barts,そしてNorthern Islandsファミリーに関する興味深い情報が得られたので,今回は,それを基にして,Bartsの秘密に迫ってみたいと思う。

Radeon HD 6800シリーズ,GPUアーキテクチャ解説記事

Radeon HD 6800シリーズ,新機能解説記事

Radeon HD 6800シリーズ,3D性能レビュー記事



関係者への取材で見えてきた

“もう1つのBarts”とは


 さて,いきなりだが,そもそもこのRadeon HD 6800の仕様自体,2010年前半の情報とは異なっている。
 2010年前半の時点で筆者がグラフィックスカードベンダーをいくつか取材した時点では,「Northern Islandsでは,従来とは異なるアーキテクチャが採用される」という情報を入手できていた。また,これも冒頭で軽く触れたとおり,Bartsの市場投入予定時期も,2010年第4四半期以降――5月掲載の記事では2011年初頭としていた――で,第1弾製品は,エントリー市場向けの「Turks」(タークス,開発コードネーム)や,ローエンド市場向けの「Caicos」(カイコス,同)になるはずだった。

 そして実のところ,「Northern Islands」というコードネームそのものも,2010年前半と10月時点では位置づけが変わっている。
 大手PCベンダー関係者いわく,「AMDの新世代GPUはもともと,複数のアーキテクチャが混在する計画だった。だからなのか,我々はAMDから,新製品のコードネームは『Islands』だと聞かされている。カードベンダー筋からは,たしかに『Northern Islands』というコードネームも聞こえてきていたが,(聞こえてきた経路からして)Northern Islandsというコードネームは,(“Islandsファミリー”の)ハイクラス製品を示すものという理解だった」。

 では,なぜロードマップは変更になり,当初の予定よりもBartsは前倒しされたのか。
 理由の1つは,「GF104」アーキテクチャの存在だ。NVIDIAがGF104アーキテクチャを(「GeForce GTX 460」から,GF104をベースにした「GeForce GTS 450」「GeForce GT 430」へと)広く展開し,エントリークラスまでGeForce 400シリーズのラインアップが広がってきたため,より競争力がある新製品の投入を迫られたためだというわけである。

製品版Barts(=Radeon HD 6800シリーズ)のブロックダイアグラム。TPは,5基のSPで構成されている
画像集#004のサムネイル/「Barts」に隠された謎を探る。消えた“もう1つのBarts”は「Cayman」と関係アリ?
 また,AMDに近い半導体業界関係者は,「AMDは“2つのBartsコア”を計画していた」と指摘している。Radeon HD 6800シリーズが投入される前に,海外のPC系ニュースサイトで情報がリークされていたGPUこそが,“もう1つのBarts”だというのだ。
 ATI Radeon HD 2000〜5000シリーズ,そしてRadeon HD 6800シリーズでは,4基の「Streaming Processing Unit」(以下,SP)と,それらよりも複雑な演算に対応したSPに,分岐ユニットを組み合わせたものを1基の「Thread Processor」(旧称:SIMD Unit,以下 TP)としていた。これに対して,“もう1つのBarts”では,従来型の“4+1”ではなく,基本性能を高めた4基のSPでTPを構成することにより,より少ないシェーダプロセッサ数で,さらに高い性能を引き出そうとするアーキテクチャになっているという。

 ただし,4SP構成に切り替えて,SP 1基あたりの機能を強化することは,設計の大幅な改変を意味しており,製品の歩留まりに少なからず影響が出ることとほぼ同義でもある。
 一方で,大手グラフィックスカードベンダー関係者は,「Radeon HD 6800シリーズでは,価格対性能比を引き上げ,カードの市場想定売価を250ドル以下に留めることが絶対目標とされた」と述べている。要するにAMDは,Radeon HD 6800シリーズの投入にあたって,新しいアーキテクチャを採用して,高機能化を図ることと,従来からあるアーキテクチャに手を加えて価格対性能比の向上と開発期間の短縮を実現し,市場シェアを維持・拡大することを天秤にかけ,後者を優先させたということのようだ。

 なら,その“もう1つのBarts”はどこへ消えたのか。実はこれこそ,「Cayman」(ケイマン,開発コードネーム),つまりRadeon HD 6900シリーズと深い関係にあるというのが,今回のポイントである。
 「Caymanで,AMDがSP構成に手を入れてくるのは確かだ。もともとは,その(高機能化した4基のSPによるTP構成を採用する)アーキテクチャこそが,Northern Islandsと呼ばれていたものなのだから」(前出の大手グラフィックスカードベンダー関係者)。最終製品としてのBartsが,従来アーキテクチャからの小変更に留まったことで,下位モデルがIslandsベースなのかNorthern Islandsベースなのかは不透明になってきたというのが,大手PCベンダー関係者の見方だが,いずれにせよ,AMDが2種類の開発ラインを同時に走らせていたことは,まず間違いない。

Radeon HD 6850リファレンスカード
画像集#003のサムネイル/「Barts」に隠された謎を探る。消えた“もう1つのBarts”は「Cayman」と関係アリ?
 なお,これは4Gamer読者にとって,よい兆候かもしれない。
 複数のグラフィックスカードベンダー関係者は,AMDがBartsで2種類のアーキテクチャを用意していたことは,同社が再びグラフィックスビジネスに本腰を入れ始めた証だと見ている。
 というのも,2006年のATI Technologies買収以降,AMDは,グラフィックスチップ開発の常套手段とされてきた「アーキテクチャや機能実装が異なる製品開発を並行して行い,よりベターな製品を市場投入する」という手法を,「開発費のムダ遣い」として取りやめていた。デュアルGPU製品をフラグシップモデルと位置づけてきたのも,大きなダイサイズの製品では歩留まりが下がるからと,経営陣が開発に難色を示したためと言われている。
 そんなAMDが,Bartsで2種類のGPUコアを並行開発し,Caymanでは,新しくなったGPUアーキテクチャを採用してくることになったのだから,面白くなってきた,というわけである。


APU生産計画がBartsの仕様を決めた可能性も

ついにGLOBALFOUNDRIESがRadeon生産か


 もう1つ,半導体業界関係者が,「AMDには,Bartsで冒険できなかった別の理由がある」としていた点も紹介しておきたい。
 AMDは,同社初のAPUとなる『Zacate』(ザカテ,開発コードネーム)や『Ontario』(オンタリオ,同)で,GPUと同じTSMCの40nmプロセスを採用する。「しかし,TSMCの40nmプロセスで生産可能な容量には限りがあり,安定したAPUの供給を実現させるためには,GPUの歩留まり向上が必須になる」というのだ。TSMCは,2010年末から,40nmプロセスの生産能力を従来比で2倍に引き上げると発表しているが,「大手PCベンダーへAPUを潤沢に安定して供給しようとすると,あまり余裕はない」(同関係者)。

 そこでAMDは,エントリー以下の市場に向けたGPUを,TSMCではなく,GLOBALFOUNDRIESで生産することにより,状況を打破することも計画しているようだ。
 AMDはこれまでも,エントリー&ローエンドGPUでは,TSMCだけでなく,UMCも使って,生産キャパシティを補うことがあったが,今回はGLOBALFOUNDRIESでのGPU生産立ち上げによって,GPU供給の安定化,ひいてはAPU供給の安定化を図る意向である。

 実際,GLOBALFOUNDRIESにおけるAPU「Llano」(ラノ,開発コードネーム)生産計画は順調で,High-kメタルゲートを用いた32nmプロセスも立ち上がりつつある。
 AMDは,TSMCとGLOBALFOUNDRIESの製造プロセス進化を見極めながら製品開発を進めることで,NVIDIAよりも速いペースでのGPU高性能化を進める計画のようだ。
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