インタビュー
[iPhone]iPhoneのゲーム開発って,ぶっちゃけどうなの? 「iYamato」を世界的にヒットさせたゼペットの宮川代表に聞いてみた
そんなiPhone/iPod touchでのゲーム開発の実態に関し,ゼペットの代表取締役 宮川義之氏が,CESAデベロッパーズカンファレンス2009(CEDEC)で講演を行う。
ゼペットといえば,iPhone/iPod touchゲーム「iNinja」「iYamato」の2本を相次いでヒットさせた,国内外で注目されている存在だ。また宮川氏自身はかつて,プログラマーとして,約15年間スクウェア・エニックスに在籍し(入社時の社名はスクウェア),「聖剣伝説2」「ファイナルファンタジーXI」といった作品の開発に携わった経歴を持っている。
今回4Gamerでは,CEDECに先がけ,その宮川氏にインタビューする機会を得た。時間の許す限り,さまざまなトピックについて質問したので,日本のiPhone/iPod touchゲーム界をリードする開発者の一人,宮川氏の話にぜひ耳を傾けてほしい。
「ゼペット」公式サイト
「CESAデベロッパーズカンファレンス2009」公式サイト
ゼペット爺さんのような真摯な姿勢でゲーム開発を
2008年12月,世界的なiPhoneブームを受けてゼペットを起業して以来,ゲーム開発に関する作業の多くを宮川氏が一人で行っている。というのも,もともと宮川氏には,スクウェア時代,プログラマーとしての仕事だけでなく,映像的な演出などを含む広範な作業を自ら手がけた経験があるからだ。
「カメラワークから何から勝手にやるタイプのプログラマーでした。分業制が確立される前は当たり前でもあったのですが,そうとはいっても何でも一人でやりすぎでしたね(笑)」(宮川氏)
宮川氏は現在,3〜4ラインのゲーム開発を並行して進めている状況だ。自分の能力だけでは表現力に欠ける──例えば,もう少し綺麗な絵が必要だ──と感じた場合,その部分だけを外注するという形で,よりクオリティの高いゲームをリリースしていきたいと,宮川氏は当面の抱負を述べた。
クオリティの高さで好評の「iYamato」。その実態は,ネットで知り合った兄ちゃんと1か月で作ったゲーム!?
「実は,iYamatoは二人だけで作りました。制作期間も1か月ほどしかかかっていません。いってしまえば,“ネットで声をかけた兄ちゃん”とテキトーに作ったようなものなんですよ(笑)。
そもそも,“100円で売る”というラインを引いて取り組んでおり,そのことを考えると,なかなかクオリティの高い作品に仕上げられました。実際,海外のプレイヤーやメディアからも,高く評価してもらっています」(宮川氏)
宮川氏は,iPhoneやiPod touchのゲーム作りに関しては,とくに“ビジョン”が重要だと力説した。彼のいうビジョンとは,すなわち,どんなゲームが作りたいのか,どのように作っていけば完成するのか,そして,どういう人に喜んでもらいたいのかといったことだ。
そのようなビジョンさえしっかり持っていれば,開発にマッチする“コラボレーター”──iYamatoでは,グラフィックスデザイナーだった──を,容易に見つけられるという。
大規模なゲーム開発では,10人以上,場合によっては20,30人以上のスタッフが必要となり,ビジョンの共有に長い時間が必要となるが,少人数であれば,その手間もほとんどかからないわけだ。
「思い立ったらすぐできるというのが大きいと思います。iYamatoは,『一緒にやりませんか?』とメールを送ってから,約1か月で完成しているんです。初めて会って,『こんな感じ』と説明し,骨格となるプログラムに出来上がってきた絵を組み込んだら,完成したという感じです」(宮川氏)
このような,いわば“にわか”なプロジェクトにも関わらず,iYamatoはApp Storeにおいて,売上ランキングで2位に入るヒット作となった。
自分の作品が,App Storeを通じて世界の人々に届けられていくことは,宮川氏にとって“とても新鮮な体験”だった。と同時に,これまで大規模化の一途をたどってきたゲーム開発が,App Storeの登場により,再び個々の開発者のものになっていくのではないかと感じたそうだ。
宮川氏は,ゲーム開発の大規模化に伴い,開発者個人が自らのアイデアを具現化する場がなくなっていったと指摘する。しかし多くの開発者は,自分の好きなようにゲームを作りたいと考えており,実際,宮川氏が「iPhoneでゲームを作りませんか」と声をかけた人のほとんどが,積極的に参加してくれたそうだ。
日本のゲーム業界は行き詰っている,低迷しているといわれて久しい。しかし個々の開発者に目を向けると,とても高い能力/技術を持つ人が多く,iPhone/iPod touchゲームの小規模なプロジェクトであれば,企画の趣旨にマッチした人を数人集めるだけで十分勝負できると,宮川氏は力を込めた。
iPhone/iPod touchゲーマー待望のiYamato 2.0。「企画が盛り上がりすぎているため」リリースはもうしばらく先に
iYamato 2.0の開発にあたり,“兵器の墓場”“吸収膨張爆発”“ブラックホール”“タイムスリップ”“巨大な何か”……などなど,数多くのアイデアが次々と湧き出ているそうだ。そのため企画が盛り上がりすぎ,どのアイデアをどのような形で実現するか決めるのに,時間がかかってしまっているという。
また,iYamato 2.0の開発には,「クロノトリガー」の作曲を担当した光田康典氏も参加するとのこと。
予想以上に規模が大きくなった分,価格は少し上がるそうだが,当初の予算の範囲に収めて小さくまとめるのではなく,今回はクオリティのさらなる向上を追求していくとのことで,期待感が高まるところだ。
「もともと低予算で取り組むという前提がありますので,クオリティを高めるべき部分──つまり,お金や手間を突っ込むべきところ──は当然限られます。最初のうちはどこに突っ込んでいいのか分からないものですが,まず出してみて,反応のあったところに力を注ぐのが手っ取り早いかなあと考えているんです。面白いと思ってもらえるものを作ったほうが,こちらとしても楽しくやれますしね。
iYamato 2.0では,グラフィックスデザイナーがアイデアの多くを出してくれました。正直なところ,こんなにたくさんのアイデアが出てくるなら,最初のバージョンのときにもっと聞いておけばよかったかも(笑)。とにかく,皆ですごく楽しんで作っていますよ」(宮川氏)
ヒットを飛ばした「iNinja」だが,商業的には成功したといえない
宮川氏は当初,「iPhone/iPod touch向けにゲームを出せば,即,大金がつかめる」くらいに考えていたそうだ。第1作のiNinjaを発売したのは,Macintoshの購入から4か月後(!),起業から3か月後のことで,宮川氏としては自信を持ってのリリースだった。
ところが,同じような考えを持っている人は世界中におり,iNinjaは,毎日登場する膨大な数のアプリに埋もれていったという。
そこで宮川氏が考えたのが,プロモーション。手始めに,自分の手でプロモーションビデオを作るため,Apple Store, Ginzaに出向いて「Final Cut Pro」の無料講習を受講したそうだ。
そして,友人の役者に出演を依頼し,ブルーバックも手作りしてビデオを制作したものの,さほどセールスには結びつかなかった。宮川氏は,せっかくビデオを作っても,きっかけがなければ誰も見てはくれないという,当然の──しかし,やっている本人はなかなか気づかない──理由があったと語った。
手詰まり感を覚えた宮川氏は,試行錯誤の末,iNinjaのアイコンに,「Sale!」の文字を追加した。
ランキングが上がると徐々にレビューが付くようになり,認知度も高くなっていきます。その後ようやく,YouTubeなどで公開していたプロモーションビデオが注目され始めました。このような経緯の末,iNinjaは最終的に,有料ゲームランキングの2位に入ったんです」(宮川氏)
とはいえ宮川氏によると,iNinjaは商業的には成功したといい難いとのこと。売り上げからロイヤリティや運転資金を引くと,儲けは微々たるものだったようだ。
そこで宮川氏は,あらためてiPhone/iPod touchにおけるゲーム開発のあり方を考え直した。宮川氏曰く,時間,すなわち予算をかければ,日本で人気を獲得できる300〜400円クラスのゲームは開発可能だ。
しかし,アメリカのApp Storeで人気のアプリは大部分が0.99ドルであることや,要素を絞り込めば,2週間程度で十分面白いゲームが作れる見通しが得られたことから,価格は115円で,シンプルながらくり返し楽しめるゲームにするという,iYamatoの基本方針が固まったのである。
試行錯誤のうえ,成功を収めた「iYamato」
この頃,Twitterを通じて知り合ったのが,先ほど話に登場した“ネットで声をかけた兄ちゃん”だ。グラフィックスデザイナーであり,iNinjaのファンでもあった彼は,宮川氏の次回作に関心を寄せていた。
宮川氏がiYamatoの初期バージョンを見せ,開発への参加に興味があるか尋ねたところ,「ぜひやってみたい!」との答えが返ってきた。そこからは完成に向け,とんとん拍子に話が進んでいったのだ。
またiYamatoでは,iNinjaで得た経験を踏まえ,プロモーションの手法を変えたという。
あらかじめプロモーションビデオを用意したのはもちろんのこと,6月にアメリカで開かれたWorldwide Developers Conference 2009の参加者向けパーティで,iYamatoのプレイアブルデモを起動したiPhoneを首から提げ,興味を持って話しかけてきた数百人に実際に遊んでもらったのだ。
この手法が当たり,首からiPhoneを提げた宮川氏の写真は,世界中のゲームメディアに掲載されることと相成った。とはいえもちろん,多くの参加者の注目を集めたのは,ゲームそのもののクオリティの高さあってこそだろうが。
宮川氏は,自らのこのような経験を踏まえ,iPhone/iPod touchにおいては今までのゲーム開発のセオリーが役に立たなくなってきているのではないかと指摘した。
宮川氏曰く,従来のゲーム開発では,アイデアの良さより,収益性の高さがゴーサインを得る決め手となっているのに対し,iPhone/iPod touchにおいては,光るものがあれば必ず手助けしてくれる人がいるという。
また品質管理に関しては,大規模なプロジェクトの場合,管理すべき要素が膨大な量になるため,高い水準をキープするにはかなりの労力やコストが必要だ。
その一方,コンパクトなiPhone/iPod touchゲームであれば,グラフィックスにしろサウンドにしろ,一つ一つの要素のクオリティを高めることに注力できると,宮川氏は述べた。
「今,大手メーカーにとって,そういったことが一つの壁になっていると思います。その壁の向こうでバッカンバッカンやりましょうというのが,我々のスタンスなんです」(宮川氏)
App Storeの今後のサービス展開に注目
宮川氏に,iPhone/iPod touchのゲームプラットフォームとしての可能性について尋ねたところ,機能やスペックに関しては,すでに必要十分な水準に達しているとの答えが返ってきた。これ以上のスペックが必要なゲームなら,iPhone/iPod touchにこだわらずとも,据え置き型のゲーム機やPC向けに作ればいいという考え方だ。
それ以上に宮川氏は,現在6万5000本以上ものアプリ/コンテンツが流通し,世界最大級の配信サービスに成長しつつあるApp Storeの今後の展開に,大きな可能性を感じていると話してくれた。
「App Storeは今のところ,iPhone/iPod touch向けのアプリ/コンテンツしか扱っていませんが,今後,MacやWindows向けにサービス展開しないとも限りませんよね。そうなれば,例えば同じ『SimCity』でも,お試し感覚でiPhone/iPod touch版に触れ,もし気に入ったら,より多くの要素が盛り込まれたMac/Windows版を購入し,自宅のマシンでプレイするといった流れが生まれてくるかもしれません」(宮川氏)
勝負を決めるのは技術ではなく,「何ができるか」というビジョンだ
CEDECでは,現在,ゲームクリエイターの西健一氏と共同で開発している「まったく新しい3Dレースゲーム」の開発途上版をお披露目するそうなので,ぜひ期待してほしい。
あまり詳しくは書けないが,70年代後半に日本の小学生のあいだで流行した“とある遊び”を題材に,海外のゲーマーにも喜んでもらえるさまざまな演出を盛り込んだ作品となるそうだ。
このゲームに関しても,iYamato 2.0と同様,開発が進むにつれてさまざまなアイデアが湧き出ており,当初予定よりリリースが先になる見込みとのこと。
「いいアイデアさえあれば,次々にゲームができちゃうんですよね。世界でランキング上位にあるタイトルは,もはや技術を問われることより,いわば“味”の競争になっています。そこに気づき,自分達のビジョンをしっかりと持てるかどうかが勝敗を決めるといってもいいでしょう」(宮川氏)
iPhone/iPod touchゲーム開発は儲かるか?
せっかくの機会なので,iPhone/iPod touchゲームを出すとどのくらい儲かるか尋ねてみた。すると宮川氏は,「実際のところ,もしランキング上位に入らなければ,こんなものかと思ってしまうほどの売り上げにしかなりませんよ」と答えてくれた。
しかし,これは一次収益の話であって,ゲームをリリースすることで,副次的なメリット──世界中のクリエイターとの出会いなど──が得られるという。宮川氏は,その人次第でいくらでも展開していけるはずだと述べた。
iPhone/iPod touchが世界的なブームになっているとはいえ,もちろん,ただゲームを作ったから売れるというものではない。進捗や予算の管理,プロモーション展開など,行うべきことは多いのだ。
とはいえApp Storeであれば,まさに宮川氏が体現しているように,大規模なチームを組まずとも,ほんの数人ですべてを行うことは可能だし,世界にだって進出できる。
iPhone/iPod touchゲームを作ってみたいという人や,世界進出を志すクリエイターならば,宮川氏の講演を聞きにCEDEC会場に足を運んでみよう。
「CESAデベロッパーズカンファレンス2009」公式サイト
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(C)2009 Geppetto Inc.
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