業界動向
Access Accepted第523回:海外ゲーム通ならプレイしておくべき2016年のタイトル10選
前回の連載記事,「2016年の欧米ゲーム業界を振り返る」で書いたように,今年は例年にないほど多数のタイトルがリリースされており,多くのゲーマーにとっては,遊ぶべきタイトルが多過ぎて手が回らないという状況だろう。そんな「ああ,そういえばアレ,遊んでないよな」という記憶回復のお手伝いをするためにも,本連載の年末の恒例記事となった,“海外ゲーム通ならプレイしておくべき2016年のタイトル”を10本,紹介したい。
本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,この記事の掲載をもって2016年を締めくくることとなる。5月30日には“第500回”というマイルストーンを迎えた本連載。始まった当時の4Gamerは,PCゲーム専用の情報サイトだったが,やがてコンシューマ機向けタイトルやブラウザゲーム,そしてスマートフォン向けタイトルと,時代の変遷を追いかけてきた。
海外情報担当の筆者としては,まさか自分が「ポケモン」についての記事を書くことになるとは思ってもいなかったが,これも時代の変化なのだろう。
2016年を簡単に振り返ると,やはりVRデバイスをネタにした記事が多かったような気がする。Facebook向けタイトルやモバイルゲームについてもそれなりに書いたが,結局,いつもSteamネタにお世話になっていたことは間違いない。
さて,一年の最後となる今回は,恒例の「海外ゲーム通ならプレイしておくべきタイトル10選」を紹介してみたい。あらかじめ説明しておくと,下に並んだ10作は,必ずしも「面白い,あるいは優れているからプレイしておくべき」なのではなく,タイトルのとおり,“海外ゲーム通”として欧米ゲーム業界やジャンルの動きを知っておくためにプレイしておくべき。と筆者が考えた作品だ。
10作それぞれの寸評を読んでいただければお分かりになると思うが,優れた点だけでなく,何がダメだったのかという部分も含めて率直に書いており,例えば5年後や10年後,欧米や日本のゲーム事情を考えるとき,「歴史の節目に登場した」あるいは「転換点になった」作品として語ることになるかもしれない10作を選んでいるつもりだ。
ちなみにSteamによれば,筆者が「Sid Meier’s Civilization V」をプレイした時間は,実に3000時間を超えているそうだ。自分で言うのもなんだが,かなりパワープレイヤーであり,もし「ベストストラテジーゲーム」を選ぶのなら,(「Total War: WARHAMMER」や「XCOM 2」など,良作が多い年ではあったが),続編である「Sid Meier’s Civilization VI」を選んでいたはずだ。しかし,上記のような理由で,今回はランクインしていない。
さて,本連載をお読みの読者であれば,海外ゲームについて一家言(いっかげん)持っている方も少なくないはず。それだけに,「おいおい,あのゲームをお忘れでないかい?」という意見もかなりありそうだ。Steamでリリースされた新作だけでも4200本を超えており,筆者が把握してさえいない作品もある。そのへんは,お目こぼしを願いつつ,「ああ,そういえばこのゲーム,まだ遊んでいなかったな」くらいの気分で読んでもらえれば幸いだ。
それでは,皆さんの2017年のゲームライフが素晴らしいものになることを願いつつ,筆者が選んだ10作を紹介していこう
■Overwatch
開発元:Blizzard Entertainment
販売元:Blizzard Entertainment
公式URL:http://www.jp.square-enix.com/overwatch/
オンライン対戦をメインにしたゲームは,個人のスキルを重視したデスマッチ型からチーム対戦型へと急速に進んだが,長く遊んだプレイヤーに対する報酬として,武器のチューニングやアイテムが与えられるといったシステムは長期間にわたって変わらないままだった。
その現状に一石を投じる新しい仕組みとして試行錯誤し続けてきたのが,「ヒーローシューター」と呼ばれる新たなサブジャンルだ。
5月にリリースされた「Overwatch」は,20体以上の異なる武器やアビリティを持ったキャラクターから好きなものを選び,異なるスキルを持つプレイヤーをうまくマッチングしつつ,協力プレイを楽しめるようにするという,非常に複雑なゲームデザインに挑んだ作品だ。それらがハイレベルで達成された結果,カジュアルゲーマーでも楽しめるハードルの低い作品に仕上がり,大ヒットにつながったとも言える。
欧米ゲーム業界では,これまでの最上級を超える「AAA+」と呼ばれる作品群が注目されていることは,先週の連載第522回「2016年の欧米ゲーム業界を振り返る」で書いたとおりだが,その1つと目される「Overwatch」の背後には,今後,長期間にわたってアップデートやコミュニティサポートが続けられるとプレイヤーに信頼させるだけの実績を持った,Blizzardという非常に大きなブランドの力がある。
本作のコミュニティでは,カジュアルゲーマーとコンペティティブなゲーマーとの間の乖離も見え始めているが,それらがこれからどのように調整されていくのかにも注目できる。
■Tom Clancy’s The Division
開発元:Massive Entertainment
販売元:Ubisoft Entertainment
公式URL:http://www.ubisoft.co.jp/division/
今年は,Ubisoft Entertainmentの繰り出す果敢な挑戦に感心させられた1年だった。1万年前の世界を描いた「ファークライ プライマル」に始まり,ハードなチーム対戦ものの「レインボーシックス シージ」,ハッキングをメインにしたオープンワールドのアクション「ウォッチドッグス 2」,さらに,エクストリームスポーツを楽しむ「STEEP」や,VRに対して及び腰の大手パブリッシャの中では珍しいVRタイトル「Eagle Flight」など,直球だけでなく,さまざまな変化球でも勝負し続けた同社の挑戦は素晴らしかったと思う。「アサシン クリード」という看板タイトルが出ない年だとは思えないくらい,存在感を発揮していた。
中でも,疫病の蔓延で壊滅したマンハッタンを舞台にした「ディビジョン」は,未来的なテーマと,雪や氷の表現に力を入れた独自エンジン「Snowdrop Engine」によるゴージャスなグラフィックス,そして,ゲームの雰囲気に見事にマッチしたクールなUIなど,「こんな作品は,Ubisoftにしか作れない」と思わせるゲームになっていた。
もちろん,「Dark Zone」というPvPモードでのチートの蔓延やサーバーの不安定さ,そしてオンラインコンテンツの未熟さといったバックエンド部分の弱さについては,ある意味「いつものUbisoft」だったかもしれないが,10月に導入された最新アップデート「v1.4」でのシステム/バグ修正や「Survival」モードの導入は,多くのファンに受け入れられているようで,発売を少し遅らせても磨き上げに時間を掛けていれば,歴史に残る名作になったのではないかという気がする。
■That Dragon, Cancer
販売元:Numinous Games
開発元:Numinous Games
公式URL:http://www.thatdragoncancer.com/
小児がんに冒され,わずか5歳で命を落とした実の息子の記憶を形として残すため,ゲーム開発者のグリーン夫妻が作り上げたのが「That Dragon, Cancer」だ。病院でのつらい暮らしを余儀なくされた幼い息子ジョエルに対する主人公のプログラマー,ライアン・グリーンの独白からは,どうすることもできない事実に対するやり場のない苦しみと,深い家族愛が伝わってくる。
これを「エンターテイメント」だとは言いづらいが,本作はゲームというメディアの可能性を広げる作品であったと思う。
「Gone Home」(2013年)や「Everybody's Gone to the Rapture -幸福な消失-」(2015年)など,海外メディアが「ウォーキングシミュレーター」と形容するプロジェクトが増えてきたが,2016年も,1月の本作以降,「Firewatch」や「P・O・L・L・E・N」,「Virginia」などの作品が登場ている。挑戦の繰り返しもゲームスキルも必要なく,まるで,自主制作の映画や小説,エッセイを楽しむように2時間ほどで終わったりしてしまう作品群。これからも本作のような,「開発者が何を経験し,何を言いたいのか」を考えながらプレイする,パーソナルな作品は増えていくはずだ。
■Dead by Daylight
開発元:Behaviour Interactive
販売元:Starbreeze Studios
公式URL:http://www.deadbydaylight.com/
非対称型オンラインゲームである「Dead by Daylight」は,誰でも簡単に理解できる鬼ごっこと,誰でも感覚的に分かるホラーの要素を融合させた作品だ。Twitchなどのライブ配信を通して,遊ぶのが楽しいだけでなく,他人がプレイするのを見るだけでも楽しいゲームになっている。
最近,ヒットの重要な条件の1つとして「プレイ動画が面白い」という点がクローズアップされているが,本作がそれを狙って作られているのは間違いなく,結果的に大きなヒットを収めたことによって,今後,主流を成していくであろうゲームの1つの見本になったように思われる。
「Dead by Daylight」は,1980年代から1990年代のホラー映画,とくに“スプラッター”と呼ばれる,血しぶきを主体にしたB級作品をモチーフとしており,1人のプレイヤーが演じる殺人鬼から,4人のサバイバーが逃げ回ることになる。バイオレンス度も高く,殺人鬼に捕まったサバイバーはさんざん痛めつけられるし,サバイバーもまた,殺人鬼に捕まった仲間を助けるのではなく,見捨てて自分だけ逃げる,といった選択が可能になっているところも面白い。
1か月に1回のランキングがリセットされることに対するプレイヤーの評価が分かれているが,来年には,多数のフォロワーが登場するかもしれない。
■Titanfall 2
開発元:Respawn Entertainment
販売元:Electronic Arts
公式URL:https://www.titanfall.com/ja_jp/
2016年ほど,各パブリッシャが力を入れた大作が埋没してしまった年もないだろう。「ミラーズエッジ カタリスト」「Quantum Break」「DOOM」「Gears of War 4」「マフィアIII」など,それぞれに素晴らしい作品であり,年間TOP10に選ばれてもおかしくないクオリティを誇り,ファンやメディアの評価は高い。しかし,販売本数が予想を下回ったといわれており,マルチプレイモードのあるゲームのロビーは閑散としている。
その理由は前回の連載で述べているので,ここでは詳しく書かないが,一時期,Xbox Liveにアクセスする人の半数がプレイしていたと言われる「コール オブ デューティー」シリーズの最新作「コール オブ デューティ インフィニット・ウォーフェア」でさえ,マルチプレイの相手がいないというXbox Oneユーザーに対して,Microsoftストアが返金に応じているというから深刻だ。
ここに挙げた「Titanfall 2」も,高いクオリティを持ちながらも,思うように売れていないタイトルの1つである。前作はオンライン専用のタイトルで,ボリューム感の乏しさが批判されたりもしたが,続編となる本作には,ドラマチックで素晴らしいシングルプレイキャンペーンが用意されているうえ,タイタンも前作の倍となる6体が最初から使用可能になっている。
それでもなお,セールスに結びつかないというのは,前回の連載記事でも書いたとおり,遊び切れないほど大量の新作が発売され,しかも,長期にわたって遊び込める作品ばかりなので,本作まで手が回らなかったという状況としか説明できない。このまま「タイタンフォール」が歴史の中に埋没しないことを祈りたい。
■No Man’s Sky
開発元:Hello Games
販売元:Sony Interactive Entertainment Europe
公式URL:http://www.no-mans-sky.com/
一生かかっても新しい惑星を見つけ続けるぞと考えていた筆者だが,正直に言うと,「No Man’s Sky」はまだ10時間ほどしか遊んでいない。毎年8月にドイツで開催されるゲームイベント,gamescom 2016の直前にリリースされた本作を最初にプレイしたとき,「あれ,これまでの情報で理解していたゲームとは若干,違うな」と感じていた程度だったが,ドイツから帰ってきたときにはもう,熱は一気に冷めていた。
ドイツでは多くの批判を聞いたが,それらはもっぱら「約束とは違う」というものだった。2013年12月の制作発表時に公開されたトレイラーに登場し,筆者を含む多くのゲーマーを熱狂させた,大地を掘り進んでいく巨大アースワームは誰も見たことがないし,首の長い大型恐竜を確認した人はどれだけいるのだろうか。
筆者のプレイ時間が足りないだけかもしれないが,プレイヤーが降り立ったのは,荒涼とした無機質な世界が広がる,あまり魅力のない惑星ばかりなのだ。
イギリスでは,これに怒ったゲーマー達に訴えられるほどの騒動に発展してしまったが,11月末に膨大な改善点や追加コンテンツを含む大型アップデート「Foundation Update」がリリースされており,これについて筆者は期待しているし,開発者が投げっぱなしにしていないことに好感を覚えている。プロシージャルなゲームであるため,開発者の思いもよらないことも起き,それは仕方ないと思うが,「量だけでは質の高さは保証できない」ことも改めて考えさせられた,壮大な実験作と言ってもよさそうだ。
■Hitman
開発元:IO Interactive
販売元:Square-Enix
公式URL:http://www.hitman.jp/
日本では2017年にリリースされる予定のステルスアクション最新作「Hitman」も,「Titanfall 2」と同様,期待したセールスに達しなかった大作と言えるだろう。
しかし,これほどの知名度を持った作品を「エピソディック形式でリリースする」とした決断と,全エピソードのリリースをきちんと予定どおりに終わらせたスケジュール管理能力を,筆者は評価したい。結果として,思ったほどデジタル販売への移行は進んでいなかったということなのだろうが,こうした,業界の現状を知る手がかりとなる実験は,誰かがやってみるしかない。
Telltale Gamesのアドベンチャーゲームシリーズや,Square Enixのスマッシュヒット「ライフ イズ ストレンジ」など,直線的なストーリーのアドベンチャーゲームなら,エピソディック形式は成立しやすい。しかし,「Hitman」はオープンワールド型のアクションゲームであり,各エピソードを通して描かれる極悪6人組「サラエヴォ・シックス」を追いかけるストーリーは,ややぼんやりした印象だ。だが筆者は,ストーリーを重視した前作「HITMAN ABSOLUTION」よりも,ステルスアクションを満喫したし,「Hitman:Blood Money」を思わせる内容に回帰したことにも好感を持った。6つのマップの特徴や,デザインなども素晴らしい。
“今年プレイすべき”というタイトルの記事に本作を取り上げたのは申しわけないが,個人的に,もっと評価されて然るべきゲームだと思うので,日本の皆さんはぜひ試してほしい。
■ABZÛ
開発元:Giant Squid Studios
販売元:505 Games
公式URL:http://www.abzugame.com/
イタリアに本拠を置くパブリッシャ505 Gamesは最近,「Brothers: A Tale of Two Sons」や「Virginia」など,独立系デベロッパの無数の作品の中からキラリと光る原石を掘り出している。
そんな彼らが8月にリリースしたGiant Squid Studiosの「ABZÛ」は,発売直前のE3 2016でのプロモーションでメディアに注目されたアドベンチャーゲームだ。
「Flowery」や「風ノ旅ビト」を手掛けたthatgamecompanyのアートディレクターだったマット・ノヴァ氏が,自分の趣味であるスキューバダイビングをテーマにしたプロジェクトをずっと練ってきたという。そんな同氏の思いが詰まった「ABZÛ」は,いわゆるラウンジゲームとして,リラックスしながら楽しくプレイできる作品だ。幻想的な海の中を進んでいくと,何千匹もの魚群に出くわしたり,神秘的な海藻の森が目の前に現れてくる。ストーリーをただ終わらせるだけではもったいない作品であり,疲れたときに遊びたくなるようなゲームでもある。
■アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝
開発元:Naughty Dog
販売元:Sony Interactive Entertainment America
公式URL:http://www.jp.playstation.com/scej/title/uncharted/4/
「Uncharted 4: A Thief’s End」(邦題「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」)を一言で表現するなら,「エンターテイメントとしてのゲームの傑作」だ。ネイサン・ドレイクが主人公になるシリーズの最終章だけあって,グラフィックスやレベルデザイン,人物造形,アニメーション,物理表現,さらにはサウンド効果やボイスアクティングまで,まるで若い頃のスピルバーグ監督の新作冒険アクション映画を見るときのようなワクワク感があって,たまらない。
プレイはいつものアンチャーテッドらしく,イベントシーンを見て,走ったりよじ登ったり,あるいはパズルを解いたりして進みつつ,激しい戦いを繰り広げられていくという,定番といえば,これほど鉄板な定番もない進行だ。
パズルを回避するコマンドが用意されるなど,シリーズビギナーでも遊べることを意識して,ハードルを下げたという印象だが,本作のクオリティを超えるだけのTPSは,そう簡単に出てこないだろうという気がする。人々を楽しませるという点で,Naughty Dogの巧みさがヒシヒシと感じられるゲームだ。
■SUPERHOT
開発元:Superhot Team
販売元:Superhot Team
公式URL:https://superhotgame.com/
今年のラインナップは少々,アクションゲームが多すぎたようだが,最後に紹介する「SUPERHOT」も外せないゲームの1つだ。2013年にポーランドで開催された,「7日間でFPSを作るゲームジャム」でプロトタイプが制作され,その評判が良かったことからKickstarterでのクラウドファンディングを行い,成功のあと3年という開発期間を経て生み出された本作。東欧におけるゲーム開発の勢いを感じさせるタイトルでもある。
「SUPERHOT」の最大の特徴は,プレイヤーの動くスピードに合わせて時間の進み方が変わるという点で,ゆっくりと動けば敵や銃弾もローモーションで動くし,立ち止まれば周囲の時の流れもストップする。ゲームは簡単には進まず,時間を頻繁に止めながら,自分がどう動けば銃撃から逃れられるか,あるいはどうすれば敵に対処できるかを考えていくという,パズル的なゲームになっているのだ。
プレイは2時間ほどで終わり,ストーリーもそれほど深くはない割に,価格が比較的高いところがやや厳しいが,FPSという,すでに定番となったジャンルでも,まだまだ創造的なことが可能であることを示すゲームになっている。VRに対応した「SUPERHOT VR」も,映画「マトリックス」を思わせる,不思議な時空に迷い込んだような体験ができそうだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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