業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第191回:MMORPGを制作中の現役大リーガー
アメリカで最も有名なMMORPGゲーマーといえば,ボストン・レッドソックスに在籍するCurt Schilling(カート・シリング)投手だろう。2年前には,自らの背番号に由来する38 Studios(旧Green Monster Games)という開発スタジオを設立し,現在は,コードネーム「Copernicus」というMMORPGを開発している。そんな名投手であり,有名ゲーマーでもあるシリング氏に,独占インタビューを行った。
現役大リーガー,シリング投手に独占インタビュー
カート・シリングという名前を,聞いたことがあるだろうか。シリング氏は,松坂大輔投手と同じボストン・レッドソックスに在籍するピッチャーである。肩の故障で今シーズンは棒に振ってしまったものの,これまでワールドシリーズ優勝を3回経験,1シーズン300奪三振を3回達成し,通算216勝を上げているメジャーを代表する投手だ。
シリング氏は,現在41歳ながらも先発投手であり,中年ファンのアイドル的な存在だ。野球殿堂入りすると思われる現役メジャーリーガーだが,実際に会ってみるとゲームが好きなのが良く分かる,気さくな人であった。故障明けには,来シーズンに向けたキャンプ入りを予定しているとのことで,しばらくは開発会社社長と先発投手という二重生活が続くことになる
そんなシリング氏だが,実はかなりのゲーマーとしても有名であり,以前紹介したように「EverQuest」の大ファンである。いまは「World of Warcraft」内でも名を知られており,かなりの時間をゲームに使っているのがうかがい知れる。
趣味が高じて,2006年,開発会社「Green Monster Games」を設立。そののちに,自分の背番号「38」にかけて,会社名を38 Studiosに改称し,現在はコードネーム「Copernicus」というMMORPGを開発している。
Copernicusのリードアーティストには,コミック「Spawn」の生みの親Todd McFarlane(トッド・マクファーレン)氏,クリエイティブディレクターには,「ダークエルフ物語」などで知られるファンタジー小説家のR.A.Salvatore(R.A.サルバトーレ)氏が参加するなど,豪華なメンバーが集結。「究極のMMORPG」を生み出そうとしているのだ。
幸運なことに,BlizzCon 2008の会場で,そんなシリング氏にインタビューする機会に恵まれた。世界に名を轟かせる大投手は,いったいどんなゲーマーで,何を考えてゲーム作っているのだろうか。
4Gamer:
よろしくお願いします。あなたはかなりのゲーマーだといわれていますが,本当のところはどうなんでしょう。
シリング氏:
もともとボードゲームでよく遊んでいたのですが,チームメイトに「Ultima Online」を紹介されてオンラインゲームの存在を知りました。ちょうどその頃に発売された「EverQuest」をプレイして,ハマったという感じです。その続編である「EverQuest II」をプレイしたのは,自然な流れでしょう。
4Gamer:
EverQuest IIをかなりやり込んだといわれていますね。
シリング氏:
β時代からDROWというギルドに所属して,OgreのShaman ,FroglokのConjurer, TrollのBerserker, それからえーっと,もう一つ何だったか思い出せないけど,四つのレベル60超えキャラクターを持ってましたよ。
4Gamer:
なんだか醜い系のキャラクターばかりですね(笑)。
シリング氏:
そのあとは,World of Warcraftには随分と入れ込んで,TaurenのShamanとOrcのHunterをメインに使っていました。でも,キャラクターのメンテナンス目的で久しぶりにアクセスしたら,操作方法を忘れていました(笑)。
まあ,ほかにも「EVE Online」や,Total WarシリーズのようなRTSとか,FPSも好きです。
4Gamer:
World of Warcraftをあまりプレイしなくなったということは,新しいMMORPGを始めたということですかね。
シリング氏:
ええ,もともとボードゲームが好きだったので,「Warhammer: Age of Reckoning」に飛びついたんです。まあ,実際に遊んだ感想としては,半分大好き,半分大嫌いといったところですが。
4Gamer:
嫌いな理由はなんですか。
シリング氏:
えーと,今は他社のゲームに対して文句いえる立場ではないけど,正式リリースが早過ぎたのではないかという印象です。とはいえ,どんどん改善されていくと思うので,良いMMOになると思います。
4Gamer:
EverQuest IIでは,「シリング投手がプレイしている」と大騒ぎになりましたが,今も自分の正体を明かしてゲームを遊んでいるのでしょうか。
シリング氏:
38 Studiosの処女作は,7月末にサンディエゴでコンセプトアートと共に,「Copernicus」というコードネームが発表された。まだ,Unreal Engineを使った2010年末に公開予定のMMOGということ以外は不明だが,トッド・マクファーレン氏やR.A.サルバトーレ氏の参加など,非常に興味深いタイトルである
はい,そうです。EverQuest IIを遊んでいた頃は,ゲーム内の仲間達も大騒ぎしましたが,World of Warcraftではそんなことにはなりませんでしたね。ギルドメンバーは私の正体を知っていますが,誰も私や野球のことを話題にしないので,普通に楽しめています。“セレブ”と呼ばれる人がゲームをしているという状況が,めずらしいものではなくなってきたのかもしれません。
4Gamer:
なるほど。有名人としては嬉しい変化ですね。
では話を変えますが,ゲーム会社を作ってMMORPGを開発しようと思ったのは,EverQuestやWorld of Warcraftに満足できない部分があったからですか。
シリング氏:
ええ。MMOのあり方を変えたいというか,もう少しプレイヤーに合わせたゲームを作れるのではないかと考えたのです。ちなみに,顧客を大切にするというのは,38 Studiosのモットーでもあります。
4Gamer:
そんな38 Studiosの処女作「Copernicus」は,どんなゲームになるのでしょう。
シリング氏:
現状でいえることは,2010年12月のローンチをターゲットにしている「ファンタジー系のMMORPG」ということだけです。まだ情報は出さないようにしているんですよ。
4Gamer:
“コペルニクス”という名前を聞くと,ファンタジーというよりも,宇宙を連想しますね。
シリング氏:
確かにそうかもしれませんが,SFじゃなくてファンタジーものです。アクション,ソーシャライジング,それから生産と,多くのMMOが備えている要素がまんべんなく入ったゲームにしたいと思っています。
4Gamer:
壮大過ぎてイメージがつかめないですね(笑)。では,ゲームエンジンはなにを採用しているのでしょうか。
シリング氏:
Unreal Engine 3.0をレンダリングに,Big Worldをバックエンドに使用します。あとはアニメーションデザインにMorphime,それからライブチャットは,Vivoxをライセンスしています。
4Gamer:
開発には,どれくらい関わっているのですか。
シリング氏:
私はプログラムやデザインはできませんが,ミーティングには必ず出るようにして,ゲーム開発に関することを学んでいます。あとは自分のプレイヤーとしての声を,ゲームにフィードバック出来れば良いと思っていますね。
というわけで,なるべく朝の8時半から夕方の6時くらいまでは,出社してるようにしているんですよ。
4Gamer:
なんだか開発会社の社長が本業みたいですね。ところで,トッド・マクファーレン氏やR.A.サルバトーレ氏も,シリングさんと同じくらい会社に顔を出しているのでしょうか。
シリング氏:
いや,トッドは週に1〜2回来て,デザインチームとミーティングを持つ程度です。R.A.は,住んでいる場所が遠いので,それほど来ませんが,すでにバックストーリーの骨格はできています。R.A.は,私以上のゲーマーですね。
4Gamer:
サルバトーレ氏もゲーマーだったとは。ゲーム好きの人気作家が書き下ろすストーリーは楽しみです。そうなってくると日本人としては,ぜひ日本語化してほしいところです。
シリング氏:
どの言語のバージョンを用意するかは決まっていませんが,ローカライズをしっかり行って,グローバルな作品にしたいと思っています。でもそれは,「アジア向けに,建物をアジア風にしよう」とか,そんなものではないですよ。これまでに,そうやって失敗してきたMMOも少なくないですからね。我々の強味を生かして,多くの人に評価されるゲームを目指します。
4Gamer:
なるほど。楽しみにしています。ところで,ご自身はゲーマーとしても有名ですが,お子さんもそうなんでしょうか。
シリング氏:
38 Studiosは,BlizzCon直前に「Azeroth Advisor」というWorld of Warcraftでの活動をサポートする情報サイトを買収した。シリング氏は,「これで,とりあえず新作をリリースするまでの時間を無駄に費やすことはない」と話し,MMOコミュニティとの連携を密にしたビジネス戦略を打ち立てた
そうかもしれない。遠征中にオンライン上で会うためにゲームをしていた時期もありましたよ。
4Gamer:
子供にゲームを遊んで欲しくないと考える親御さんが多いですが,そうではないんですね。
シリング氏:
ええ,そんな考えはありませんね。たとえばボクの長男は,リーダーシップを発揮して他人を率いていくような性格ではないですが,ゲームの世界では,誰に教えられることなく仲間を集め,レイドとかをしています。ここ(BlizzCon)に集まっている人も同じような感じでしょう。リーダーシップや社交性,さらには読解力や計算能力までも向上できるのだから,ゲームはとても素晴らしいものだと思っていますよ。
4Gamer:
なるほど。とてもゲーム愛に溢れていますね。そんなシリングさんが手がけるCopernicusは,多くの人に受け入れられるゲームになりそうな気がします。まあ,まだ情報がほとんどないので,なんともいえませんが。もっと積極的に情報を公開してくださいよ。
シリング氏:
実は,ブログ(38Pitches)で,ゲームのことを書き過ぎて,会社内で問題にされてしまったんですよ(笑)。
4Gamer:
それが情報公開を絞っている原因ですね(笑)
シリング氏:
ブログには,ダイスケのことを書いたこともあったのですが,思っていた以上に話題になってしまって……。自分の思っていることを素直に話しちゃう性格なんで,ちょっと慎重にならないといけないんです。
4Gamer:
松坂投手に関する書き込みは,日本でもスポーツニュースで話題になったことがあるみたいですよ。
シリング氏:
ええ,知ってます (苦笑)。
4Gamer:
では,せっかくなので,松坂投手について何か話してください。
シリング氏:
えーっと,何を? さすがに具体的に聞かれないと答えられないよ(笑)。
4Gamer:
では,彼のシーズン18勝という成績をどう評価しますか。開幕当時は「25勝はする」とブログに書かれていましたが。
シリング氏:
素晴らしいの一言だ。ダイスケの野球に対する姿勢とか心構えは,本当にしっかりしているね。
4Gamer:
日本で投げていたときのような完投が見たいという声が,昔からのファンからは多いみたいですが。
シリング氏:
ファンとしたらそうかもしれないが,年間10億円近くも払うマネージメント側にもなってみてください。大切に,本当に大切に扱わなければならないし,とくに,あのキッド(アメリカでは先輩が後輩に対してよく使う表現)は,そうされる価値のある逸材なんだ。
4Gamer:
最後はちょっとゲームと関係ない話になってしまいましたが,野球,そしてゲーム開発ともに,頑張ってください。
シリング氏:
今日はありがとう。Copernicusは,日本のゲーマーも楽しみにしていて欲しいって書いてよね。
マウンドに立つときは,「常に最高のピッチャーであれ」と自己暗示するというシリング氏は,熱血漢としてファンに知られる。確かに,身長は190cmを超えており,山のような威圧感があるが,それと同時にゲームに対する愛,家族に対する愛がヒシヒシと伝わってきた。
そんなシリング氏が設立した38 Studiosが開発するCopernicusについては,残念ながらほとんど新情報は聞き出せなかった。だが,いずれ状況が進展するに連れ,その全貌が解き明かされるだろう。すでに日本のパブリッシャにもアプローチしているといわれているので,日本のMMORPGファンも,シリング氏がいうように,楽しみにしておいて,良いのではないだろうか。
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