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2007年の欧米のゲーム業界は,巨額買収や合併のニュースが相次いだ。その最大の目玉といえたのが,12月に発表されたActivision Blizzardの誕生だろう。ヒット作を連発する両社の合併の背後にいたVivendiは,業界最大級のパブリッシャとなるActivision Blizzardの経営権を握った形になる。だが,Electronic Artsをはじめ,そのほかの会社も業界で生き残るため,このまま指をくわえて見ているとは思えない。2008年は,大小さまざまな会社を巻き込んだ,業界再編成が勃発する可能性が高そうだ。
超優良ゲーム会社が合体したActivision Blizzard
2007年は,アメリカのゲーム業界に大激震が走った年として記憶されるだろう。その話題の主役は,なんといってもActivisionとBlizzard Entertainmentの合併である。
発表によると,VivendiはActivisionにVivendi Gamesを81億ドル(約8600億円)で提供。そしてVivendi Gamesの株式は,1株27.5ドル換算でActivisionの新規株2億9530万株に変換され,Vivendiはそのうちの6290万株(およそ17億ドル=1800億円)をActivisionから購入する。新設されるActivision Blizzardは,1億4650万株をVivendiに譲渡し,買収にあたって交換された2億9530万株,そして新たに発行される2450万株を加えて,VivendiはActivision Blizzardが発行する株式の3分の2を保有することになり,同社が経営主導権を掌握する。つまり,VivendがVivendi GamesをActivisionに売却し,それによって誕生した新会社の株を,Vivendiが68%取得して経営権を得たという構図だ。
Activision躍進の原動力となっているのが「Call of Duty 4: Modern Warfare」だ。PC版を除くプラットフォームだけでも300万本以上のセールスを記録する大ヒットとなり,482万本の「Halo 3」,412万本の「Wii Play」(邦題 はじめてのWii)に続く,2007年の年間売り上げ3位となった
この合併によってVivendiとActivision Blizzardは約4億ドルの負債を抱えると業界アナリストたちは見積もっているものの,ActivisionもBlizzardも,業績は非常に好調であり,新会社の売り上げは1年で6億ドル(約640億円)から8億ドル(約850億円)程度になるといわれている。つまり,たった1年で合併による損失は解消されてしまうと予測されているのだ。
Activisionの業績は非常に好調であり,この業績を牽引しているのが,2007年11月6日の発売から6週間で300万本を越える販売本数を記録したFPS,「Call of Duty 4: Modern Warfare」と,10月28日にリリースされ,8週間で272万本も売り上げた「Guitar Hero III: Legends of Rock」の2作だ。欧米で吹き荒れるGuitar Hero旋風は,日本にはあまり伝わっていないようだが,前作「Guitar Hero II」は,旬が過ぎたはずの2007年さえも187万本を売り上げるというベストセラーになっており,シリーズ合計で870万本というお化けシリーズなのだ。また,暴力的表現がなく,家族で遊べるゲームとして注目されているのである。
そして,Blizzard Entertainmentには,アジア圏での550万アカウントを含め,世界で1000万アカウントいうマイルストーンを記録したばかりのMMORPG「World of Warcraft」がある。複数の料金支払いプランがあるが,月額プレイ料金を15ドルとして計算すると,欧米だけでも6750万ドル(約71億円)もの大金が,毎月入ってくるのである。もちろんサーバーのメンテナンスや人件費といった運営費も膨大なはずだが,キャッシュの多さは,莫大な先行投資が必要なゲーム開発において,かなりのアドバンテージになる。
業界再編成で一極集中がさらに進むゲーム業界
今回の合併劇により,一番得をしたのはやはりVivendiだろう。フランスの総合メディア企業であるVivendiが,Sierra Entertainmentを傘下に収めていたHavasを買収することでVivendi Gamesを立ち上げ,北米のゲーム市場に乗り出したのは1998年のことである。
Sierra Entertainmentを母体とする各ゲーム開発部門には「Crash Bandicoot」など,それなりに知名度のある作品があったが,その資産を活かしているとはいいづらい状況で,最初は慣れない業界で四苦八苦している様子だった。2003年には「Half-Life 2」を鳴り物入りでリリースしようとしていたValveと,オンライン配信サービス「Steam」の導入に絡んで裁判沙汰になっており,さらにはBlizzard Entertainmentの経営権を掌握しにかかったことから主要開発メンバーの離反が相次ぎ,有能な人材を失った。
もし,2004年にリリースされたWorld of Warcraftが驚異的なヒットを記録しなかったら,音楽業界で大きな地位を占めるUniversal Musicを系列に持つVivendiといえども,ゲーム業界から手を引かざる状態に追い込まれていただろう。それが,今やゲーム業界で1,2を争う最大手パブリッシャ/デベロッパとなったActivision Blizzardを経営するまでになったのだ。
Vivendi自体には,余り優良なゲームがなかった。2008年リリースされるもので目立つのは,画像の「Ghostbusters: The Game」くらいだろう。巨額の負債を1年で回収できるほどのラインナップを揃えるActivision Blizzardの経営権を掌握することは,Vivendiにとって,お得な買い物だったようだ
Activision Blizzard誕生の発表前である2007年10月,独立系のデベロッパであるBioWareとPandemic Studiosを買収し,業界に大きなインパクトを与えたのはElectronic Artsだった (参照記事:第146回:Electronic Artsによる大買収劇の表裏)。Electronic Artsは,MaddenやFIFAシリーズといった,スポーツ系のゲームが多く,毎年堅実に売り上げを記録するものの,多額のライセンス料によって収益は多くない。そこで,独自IPにこだわるBioWareとPandemic Studiosを買収し,そのライブラリーを多角化したいという狙いがあったと思われる。実際,2008年は「Mercenaries 2」「Saboteur」「Spore」「Battlefield 3」,そして「Burnout Paradise」といった,非ライセンスゲーム5作がミリオンヒットを記録するだろうと予測する業界アナリストもおり,買収によって得られる利益は,かなりのものが予想される。
ただ,今回のActivision Blizzardの電撃的な合併により,Electronic Artsも黙ってはいなそうだ。今後,経営基盤の引き締めや新たな買収を模索するのは間違いなく,例えばすでに25%の株を保有しているUbisoftとの関係を強め,Activision Blizzardの追い落としを狙う可能性もある。Activision Blizzardの誕生が発表された数日後,Electronic Artsが北米でも存在感を示す韓国企業NCsoftを買収するのではないかというウワサが流れたことも記憶に新しいところだ。
この2社に加え,現在はやや経営難ながらも,売り上げが期待できる新作タイトルのリリースを予定しているTake 2 InteractiveやATARI,ディズニーとの協力で一層の飛躍を狙うTHQ,そしてイギリスに本拠を持つCodemastersやSCi Entertainmentなどが,今後,どのような動きを見せてくるのかにも注目したい。
今やゲームの開発費は高騰し,1本のゲームを1国で販売するだけでは,その費用を回収できなくなっている。そのため海外マーケットへの売り込みが必要となり,広報戦略もグローバル化している。大作といわれるゲームの多くは,マルチプラットフォームで発売されるため,パブリッシャ/デベロッパへの負担も大きい。つまり,ゲームを作るためにも,宣伝するためにも多額の資金が必要になってきており,中小のゲーム企業には太刀打ちできなくなっているのだ。このまま再編成が進めば,アメリカのゲーム業界も,映画産業やテレビネットワークのように,数社が支配する産業構造となっていくことだろう。
Electronic Artsの開発会社買収や,Activision Blizzardの誕生に端を発した業界再編成の波は,日本にも影響がおよぶことは間違いない。ここ数年,スクウェアとエニックス,ナムコとバンダイ,そしてサミーとセガなど,数々の合併が行われた日本のゲーム業界であるが,果たして欧米ゲーム業界の激しい動きに,どのように対応していくのだろうか。2008年は,日本のゲーム会社と欧米の会社との,大きな合併話がいつ出てきもおかしくない状況といえる。今年は数年後のゲーム業界を占う,重要な年になるかもしれない。しばらくは,ゲームの話題だけでなく,会社同士の大きな話にも注目しておいたほうがよさそうだ。
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