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リアルスポーツとの共通点,そして選手のキャリアパスなどへの取り組みなどが語られた「eスポーツはリアルスポーツを 超えるのか?」レポート
「スポーツビジネスジャパン2018 together with スタジアム&アリーナ2018」は,スポーツビジネスによる地方創生を掲げ,これに関する最新技術やサービスを集めたイベントで,8月30日と31日にかけて開催された。
基本的にゲームとは関係ないイベントなのだが,eスポーツが注目を集めつつある今年,パソコンショップ「ドスパラ」やゲーミングパソコン「ガレリア」で知られ,eスポーツ施設LFSを運営する,サードウェーブがブースを出展した。
会場ではスポーツビジネス関連のカンファレンスがいくつか行われたが,その中の一つが本稿で取り上げる「eスポーツはリアルスポーツを 超えるのか?」だ。日本eスポーツ連合(JeSU)専務理事の平方 彰氏をはじめとしたeスポーツ関係者らが登壇し,eスポーツの現状などについて語るというもので,カンファレンスはスポーツビジネスの関係者でほぼ満席となり,eスポーツに対する注目度の高さを改めて認識した。なお,本稿では,カンファレンスの登壇者たちの表現に従い,一般的なスポーツを「リアルスポーツ」と表記する。
モデレーター:
日本政策投資銀行 地域企画部 課長
坂本広顕氏
パネリスト:
日本eスポーツ連合 専務理事
平方 彰氏
ビットキャッシュ 代表取締役社長 CEO/eスポーツコネクト 代表取締役社長/JCG 代表取締役社長
伊草雅幸氏
サードウェーブ 取締役副社長
榎本一郎氏
スポーツブランディングジャパン アカウントアクティベーションディレクター
醍醐辰彦氏
※Plan(計画),Do(実行),Check(評価),Action(改善)の略で,計画し実行した内容を評価・改善し,また計画・実行していく,という一連のサイクルのこと。
選手がいて,彼らが属するチームや活躍するリーグがあり,ファンやスポンサーが支え,情報をメディアが報道し,競技の放映権が売買される,という構図もリアルスポーツと同じだと醍醐氏は語る。また,氏はハースストーンのパブリッシャであるBlizzard Entertainmentが提唱するフェアプレイの精神もスポーツ的であると感銘を受けたという。
Blizzard Entertainmentはハースストーンの他にも「オーバーウォッチ」で大規模なeスポーツ大会を展開しているが,同社にはUFCやNBAといったリアルスポーツの運営に携わっていたスタッフが多数流入しているそうで,リアルスポーツとeスポーツがボーダーレスになりつつあることも明かされた。一方,ネットを通じて国際的な大会を簡単に開けるのはeスポーツの優れた特徴である,と醍醐氏は評価した。
※別々に活動しているグループの連携を図る組織のことだが,今回の場合は日本におけるNFLのビジネスを調整する窓口
また,WHOが「ゲーム依存症」を精神疾病と認定した(関連記事)件について,榎本氏は「リアルスポーツでも,やり過ぎは技能向上にネガティブな影響を及ぼすこともある。そうした意味では,eスポーツでも技能を高めるためのレギュレーションや,ゲームを楽しむためのエデュケーションなど,整えなければならないところはあるが,ポジティブに取り組んで解決していけばいい問題だと捉えている」と語った。
伊草氏は,ゲームへのネガティブなイメージはすぐに払拭できないだろうと考えているという。その理由の一つは,eスポーツ選手の引退後のキャリアパスが整っていないから,とのことだ。それに関して伊草氏は「プロのeスポーツ選手を辞めた後にスポンサーの会社へ就職を斡旋する」「自社が持つeスポーツ媒体のライターとして活動してもらう」といった解決方法を提示したが,これは氏が持つバックボーンがあるからこそできることとも言える。いずれにせよ,eスポーツ業界全体として考えていく必要がある問題だろう。
最後のテーマは「eスポーツの未来」だ。平方氏は「JeSUとしてはeスポーツを文化として広げていきたい。かつてはダンスも不良っぽい人がやるものというイメージがあったが,今は必修科目の一つとなっているなど,文化になっている。eスポーツも地道にやっていけば文化として認められるのではないか」と継続した取り組みの重要性を強調した。また,醍醐氏は「スポーツエンターテインメントの要素を加えることが大事ではないか。現地の熱や試合会場の一体感を高め,ステージセットやカメラアングルまでこだわることが,配信コンテンツとしての価値を上げることに直結するし,そうすればeスポーツを見られる場が増え,選手も成長し,憧れの対象にもなる。これはリアルスポーツと同じ」とリアルスポーツの観点から提言を行った。
また,会場では「世界のeスポーツの潮流と日本の最新のeスポーツビジネストレンド」と題し,サードウェーブ上席執行委員の松原昭博氏によるプレゼンテーションも行われた。
松原氏は,eスポーツの人口が増える中,デジタルネイティブでeスポーツ観戦との相性も良いミレニアル世代へのアプローチが大事であると指摘する。また,eスポーツを楽しむ高校生を支援するべく,毎日新聞社と「全国高校eスポーツ選手権」を開催,ゲーミングパソコンを3年間無料レンタルするという取り組みについての説明も行われた。
カンファレンス終了後,榎本氏への合同インタビューが行われたので,興味深い質問をピックアップして本稿の締めくくりとしたい。
――eスポーツに関する中長期的取り組みをどのように考えていますか。
榎本氏:
中長期的な目標は「全国高校eスポーツ選手権」における,高校の部活動支援と考えています。eスポーツは欧米で草の根から発達してきたボトムアップ文化で,日本はこれまでのメーカーがゲームを与えてきたトップダウン的なゲーム文化のなかでパラダイムシフトが起きている最中です。
欧米との差を埋めるためにやらなければならないことは多く,事業なので売上がなければなりませんが,部活動の支援としてゲーミングパソコンの配布も続けたいです。
――サードウェーブからはeスポーツに対する熱い気持ちを感じますが,そうした思いはスタッフとも共有しているのでしょうか。
榎本氏:
オーナーから現場まで,eスポーツへの思いは強いです。2002年から会社の生き残りをかけて,ゲーミングパソコンを販売してきたので,ユーザーの声を聞いてきたという自負があります。池袋にLFSというeスポーツ施設をオープンし,運営していますが,これも自分たちでやるしかないという考えのもとです。
自治体などからeスポーツ施設を運営したいがどうすればいいかという問い合わせも多く,「全国高校eスポーツ選手権」のオフライン決勝の開催に名乗りを上げてくれるところもあります。
商売というよりは,eスポーツを若い人の将来の選択肢の1つとしたいですね。
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