テストレポート
ASUSTeKのゲーマー向けノートPC「G1S」を使ってみた
この数年,ゲーマー向けと称されるノートPCのリリースされる頻度が上がっている。このこと自体は大いに歓迎すべきなのだが,どうしても同じようなデザインになることが多い。これは,「PCメーカーからの依頼に基づいてPCを製造」したり,「スペックを簡単に変更できるPCを製造して,スペックを少しずつ変えながら各国のPCメーカーに販売」したりするビジネスが,PC業界では慣例化しているためだ。“あのメーカー”と“そのメーカー”で,PCのデザインがよく似ていたりするのに気づいたことがあるかもしれないが,そういうことなのである。
この結果として,著名なPCメーカーの主力ブランド以外は,PCの価格が大幅に下がるというメリットが得られるが,その代わりに,外観は特徴のない,無難なものになってしまう。その点G1Sはどうかというと,Dellの「XPS」ブランドなどと同じように,独自のデザインを採用するのが最大の特徴だ。もっといえば,既製品観のない,ゲーマー向けに独自にトータルコーディネートされたモデルというわけである。
今回は,そんなG1SをASUSTeKから借用できたので,果たしてこれは誰のためのPCなのか,考えてみることにしたい。
なお,G1Sは2007年9月下旬の発売が予定されていたが,「ソフトウェア関連の品質向上のため」(ASUSTeK)発売が延期されている。ハードウェア的には何の問題もないが,ソフトウェアの最適化によってパフォーマンスが向上する可能性はあるそうなので,今回はそのあたりを踏まえて,プレビュー的に読み進めてもらえれば幸いだ。
詰めの甘さが残るものの
基本スペックとユニークさは好印象
液晶ディスプレイは15.4インチのワイドタイプで,解像度1440×900ドット。注目したいのは,8msという応答速度が公開情報として用意されている点だ。もちろん,高い反応速度を謳ったデスクトップ用液晶ディスプレイとは比べるべくもないが,“数字”を出せるあたりには自信が窺える。
なお,目視でも確かに残像感は少ない。また,パネルは光沢(グレア)タイプだが,蛍光灯など外光の映り込みはあまり気にならないので,何らかの配慮がなされているようだ。
このほか主なスペックは表のとおり。スペック面で気になるのは,発表時にも指摘したメインメモリ容量だ。32bit版Windows Vista Home Premiumを採用しながら1GBというのは少々心許ないが,ゲームにおいてどれくらいの影響があるのかは後述したい。
その最たる例が,液晶ディスプレイの両側面に用意され,DirectXタイトルをプレイすると点滅する「Direct Flash」(日本語では「サイドフラッシュライト」)だ。ディスプレイを正面から見ている限りは目に入らず,プレイ中に気になったりはしないので,むしろほかの人に「G1Sを使っている」ことをアピールするためのギミックといえるだろう。海外で盛んなLANパーティ向けの機能と断じても,おそらく誤りではないと思われる。
また,W/A/S/Dキーのハイライトについても特筆しておきたい。使うまでは“ただ色がついているだけ”だと思っていたのだが,FPSなど,W/A/S/Dキーを使うゲームをプレイしようと思ったときには,意外と便利。指の位置のズレを目視してすぐ補正できるのは,「ノートPCのキーボードに慣れる」観点からアリと感じた。
とくに指摘しておかなければならないのは,サウンド周りだ。2ch仕様のスピーカーは本体底面に用意されており,音が机(など)に反射してしまう。お世辞にもいい音とは紹介できないレベルである。一般的なノートPC,言ってしまえば,冒頭で述べたような,よくある“ゲーマー向けノートPC”と同じといえばそれまでだが,せっかく一からデザインした製品なのだから,もう少し考えてほしかった。
また,アナログのミニピン端子が本体右側にあるため,アナログ接続タイプのヘッドセットを使おうとすると,G1Sに付属するゲーマー向けマウス「G3 Optical Mouse」(のカスタムモデル)と,設置場所によっては干渉する可能性もある。もちろん,ワイヤレスやUSB接続の製品を使えばいい」と言われたらそれまでなのだが……。
Webカメラにについては,使いこなすためのユーティリティソフト「ASUS LifeFrame」が付属している。静止画撮影時に液晶ディスプレイを一瞬だけ真っ白に表示させることでフラッシュのように使えたり,何か動きがあったときだけ録画/撮影したりできるのは便利だ。しかし,これもゲームで積極的に活用できるかというと,少々疑問が残る。
やはりメインメモリ容量が鬼門のG1S
+1GBでかなり快適に
精密プラスドライバー1本で,CPUにメインメモリ,HDD,無線LANカードにアクセスできる |
SM-N1G48NP-6E エルピーダメモリ製チップを搭載 メーカー:サンマックス・テクノロジーズ 問い合わせ先:パソコンショップ アーク 03-5298-7051 パソコンショップ アーク通販価格:5780円(2007年10月5日現在) |
SM-N1G48NP-6EをG1SのSO-DIMMスロットに増設した状態で「EVEREST Cache & Memory Benchmark」を実行したところ。シングルチャネルメモリアクセスと認識されている |
今回は,4Gamerのベンチマークレギュレーションから何タイトルかピックアップしつつ,「標準設定」でテストを行う。レギュレーションがあまりにも“重い”場合には,ゲームをインストールしたときのデフォルト設定や,それよりも低い設定を選択することにした。そのためグラフ中,ベンチマークレギュレーション準拠のテストには「BR4.1」と付記する。それ以外は適宜説明したい。
ディスプレイ解像度は,G1Sの液晶ディスプレイ仕様に合わせて,1024×768/1152×864/1440×900ドットの3パターンを利用する。
また,メインメモリ容量1GBと2GBの違いを見るため,パソコンショップ アークの協力で,サンマックス・テクノロジーズ製のPC2-5300 DDR2 SO-DIMMの1GBモデル「SM-N1G48NP-6E」を入手し,増設した状態でもテストを行った。
なおこのとき,「Mobile Intel PM965 Express」チップセットを搭載するG1Sは「デュアルチャネルメモリアクセスをサポートする」(ASUSTeK)のだが,SM-N1G48NP-6Eを差した状態ではシングルチャネルの2GBと認識されてしまった。どうやらプリインストールの1GBモジュールと相性問題が発生したようだ。こういった事情のため,今回はメインメモリ2GB時もシングルチャネルでテストを行うことにする。
以上を踏まえて,まずは「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)のテスト結果から見ていきたい(グラフ1)。
メインメモリ1GBで1024×768ドットのスコアは4731。誤解を恐れずざっくり言うなら,GeForce 7世代のGPUを搭載したミドルハイクラスPCと,ほぼ同じスコアである。もっとも。GeForce 8シリーズは3DMark06で高めのスコアが出やすいため,このあたりは参考程度に捉えておくべきだろう。
さて,むしろ気になるのは,メインメモリを2GB搭載するとスコアが下がっていることだが,これについての考察はひとまず保留して,ゲームでのスコアを見ていきたい。
というわけでまずは「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下ロスト プラネット)から。ロスト プラネットではDirectX 10/9の両方でテストしたところ,ベンチマークレギュレーション4.1準拠ではほとんどゲームにならない。そこで,G1Sにゲームをインストールした直後のデフォルト設定(※グラフでは「デフォルト」と表記)でテストを行うと,1024×768ドット時にSnowで20fps強,Caveで30fps前後といったスコアを取得できた(グラフ2,3)。
興味深いのは,3DMark06 Build 1.1.0と同じく,メインメモリ容量を2GBにするとスコアが低下すること。ただし,ゲーム中にスワップが発生している気配は感じられない――これは3DMark06も同じ――ので,むしろシングルチャネルアクセスゆえに,メモリの増設でレイテンシが上がってしまった可能性を指摘できそうだ。
ところで,ロスト プラネットはDirectX 10に最適化されているのだが,今回はDirectX 9版のほうがスコアは高い。おそらく原因はRelease 151世代のForceWareと思われ,ASUSTeKからRelease 160以降のドライバがリリースされれば,状況は変わるのではなかろうか。
次に「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」だが,こちらもベンチマークレギュレーション4.1準拠では,まるでゲームにならなかった。とくに標準のメインメモリ1GBでは,セーブデータを選んでゲームが始まるまで5分以上かかるという状態。この間,HDDへのアクセスが猛烈に発生し,ゲームが始まってもHDDへのスワップが発生し続け,平均フレームレートは1fps台という有様だった。
そこで,ゲームのオプションから,グラフィックス設定を「Minimum」にして計測した結果を,今回はグラフ4にまとめた。この状態でもゲーム開始まで4分以上かかるが,平均フレームレートはご覧のとおりで,とりあえずゲームプレイは可能になる。
また,メインメモリを2GBにすると,スコアはわずかながら向上した……程度だが,体感上は劇的に変わる。とくにロード時間は3分を切り,デスクトップPCでプレイする感覚と変わらないといっていい。Minimum設定ゆえ,画面はやや寂しくなってしまうが,「ノートPCで最新のFPSをプレイする」目的は達せられるはずだ。
最後に,似た傾向を示した「Company of Heroes」と「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)のスコアを並べてみる(グラフ5,6)。ここで決定的なのは,メインメモリ容量1GBと2GBでスコアに決定的な差がついていることだ。メインメモリ容量1GBではHDDへのスワップが発生したり,GTR2では起動すらできない場合があったりするのに対し,同2GBでは,一気にフレームレートが向上する。「快適に」プレイするならデフォルト設定にまでグラフィックスオプションを落とすことを勧めたいが,いずれにせよ,メインメモリ2GBの搭載は必須といっていい結果である。
むしろライトゲーマー向け?
コンセプトを生かした後継製品に期待
もちろん,価格的に20万円を割るような設定になっていればいいのだが,予想実売価格は25万円前後。いくらギミックが豊富で,G1Sにしかない特徴が多いといっても,さすがにこの価格でこのスペックでは,納得できない人のほうが多いと思われる。ゲーム用を謳いながらなぜかプリインストールされる「Microsoft Office 2007 Personal」や,ゲーム用途では使い途のない専用ソフトなどを削って,少しでもコストを下げ,その分をメインメモリに回すべきだったと思われてならない。
総じて,コンセプトは間違っていないと思う。この路線で,より幅広い層のゲーマーを満足させる製品の登場を期待したいところだ。
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