開発元のCCP Gamesは2026年5月に社名をFenris Creationsへと変更しており,この種の場で自社の内側を語るのは,同社にとってほぼ初めてのことだという。
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アルナソン氏は2007年にCCP Games(現Fenris Creations)へ入社し,データアナリスト,プロダクトオーナー,プロデューサー,ゲームディレクターと肩書を変えながら,経済シミュレーションやマネタイズ,バランス調整といった領域を担当してきた。ゲームを作る側というより,回す側を長く務めてきた人物といえるだろう。
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話は,新型コロナウイルス感染症が流行した時期にさかのぼる。当時「EVE Online」が停滞期にあったことは,あまり知られていない。プレイヤーも開発者も不満を募らせていたものの,家に閉じこもるほかなくなった人々が一時的に押し寄せたことで,それが見えにくくなっていたという。数字が上を向いていたぶん,問題は隠れてしまったということだろう。
そこで起きていたのが,意思決定の麻痺だった。判断のための良いフレームワークがなかった,とアルナソン氏は振り返る。戦略は抽象度が高すぎて実際には戦略ですらなく,新規プレイヤーをもっと増やそう,といった目標は開発の現場では何の助けにもならない。そのうえチームは,プレイヤーが何を言うかを恐れ,社内のベテランが何を言うかも恐れていたというから,信頼が全面的に崩壊していたということだ。
EVEは長寿ゲームであり,社内Wikiは5世代を経ていて,いま最も信用できるドキュメントはプレイヤーが作ったもののほうだという。機能を実際に作った人間の大半はすでに会社を去っており,元のアイデアは何だったのかと聞ける相手が基本的にいない。同社の歴史のどの時点を切っても,開発者の30%は在籍3年以下だったという。知識が抜けていく速度に,蓄える速度が追いついていなかったということでもある。
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自分たちの状態を言い当てていたのが,上のスライドにある4象限だったという。信頼が低くスピードも遅い左下の象限,ほとんど何も進まない「避けられない衰退」に,同社はかなり長いあいだ留まっていた。そして同氏が2020年に「EVE」へ合流したのは,同社が右下の「無謀な破壊」に当てはまることをやっていた時期だった。その代表例が,ヌルセック宙域のローカルチャットを無効化して同じ星系に誰がいるか分からなくした「Blackout」である。
狙いはひとつ,プレイヤーを停滞から揺さぶり出すことだった。ゲームでの日々を良くするのではなく,ただこれまでと違うものにする。それだけが目的だったという。だが信頼がないところでそれをやったため,プレイヤーはさらに怒った。信頼がないときのスピードは,ただの混沌でしかないというわけだ。
気づけば,もっと伸ばそう,もっと良くしようという話は消え,残った話題は生き残りだけになっていた。信頼を作り直すやり方そのものは単純で,何をやるかを言い,なぜやるかを説明し,そのとおりに実行する。うまくいかなければ,もう一度やり直す。ただしこれを成立させるには,そもそも「何をやるか」を語れなければならない。
ところが同社は,6か月より先の話をすることにずっと及び腰だった。かつて大きなことを言って,そのとおりに届けられなかったことがあり,すっかり懲りていたのだという。
現場から飛んでくる質問はこうだ。プロダクトロードマップを見せてくれないか。次は何を作るのか。その次は何を作るのか。だが,バックログ(未着手の案件リスト)に1500件のアイデアが積まれていることは,ロードマップの代わりにはならない。アイデアなら足りているのだ。足りないのは数ではなく,そこから何を先にやるかを決める手立てのほうだった。
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その答えとして提示されたのが,戦略的意思決定のためのフレームワークだ。3つの取り組みと,3社のパートナーとコンサルタント,そして複数回の社内ワークショップを経て,ここに落ち着いたという。掲げられたのは,3つの言葉を1本につないだ短い文である。目的のある共同作業(Purposeful Collaboration)が,影響力のある活動(Impactful Activities)を生み,それがダイナミックな宇宙(Dynamic Universe)を変えていく,というものだ。
分かりやすいのがタイタン(最大級の艦船)や宇宙ステーションの建造だろう。サーバー全体のプレイヤーが力を合わせ,その間もほかの勢力から攻撃を受け続けながら作り上げていく。それだけの人手を動員するに値するのは,完成すれば宇宙の勢力図が実際に変わるからである。それこそが「EVE」なのだ,というのが同氏の説明だった。
この3原則があれば,どんな機能も優先順位づけできる。その機能は共同作業を促すか。遊び方に影響を与えるか。宇宙を変えるか。どれにも当てはまらないなら,当てはまるように変えられないか。手応えを感じたのは最初の発表のあとで,エンジニアの1人が,戦略が腑に落ちたのは初めてで,自分が取り組んでいる機能をこのどれかに結びつけられる,と言ってきたそうだ。
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新しい戦略のもとで,同社はすでに8本の拡張をリリースし,成長に戻っているという。その根拠として示されたのが,PCU(ピーク同時接続数)の推移グラフである。同社は社内の数値を一切公開しないため,第三者サイトのEVE-Offline.netのデータを使っているそうだ。
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グラフを追うと,拡張ごとに段階的な変化が現れる。2歩進んで1歩下がることもあるが,成長は明確だ。2016年の基本無料化以前,そしてコロナ禍以前の水準に戻り,いまは軌道に乗っている。そしてグラフの中ほどにぽっかりと空いた谷が「Blackout」だ。
そして久しぶりに,3本の拡張,つまり18か月分のロードマップを立てられるようになった。6か月より先を語れなかった会社が18か月先を描けるようになったのだから,変化は小さくない。
同社は別のことでも知られている。ほかのゲームを作ろうとし,さまざまな技術を試そうとすることだ。そしてここでアルナソン氏が持ち出したのが,カンファレンスなどで受けるもうひとつの質問だった。なぜシューターを作ろうとするのか。「EVE」をより大きく良くすることに集中しないのか。
理由の一端は,「EVE」がニッチな層に向けたゲームだからだ。このゲームを遊ぶと思われる人数には限りがある一方で,「EVE Online」とつながったシューターへの需要は業界にあると同社は見ている。しかも「EVE Forever」という約束は,つねに新規プレイヤーを必要とする。プレイヤーが物を壊し,そこから予期しない出来事が次々に生まれることで,世界全体の需給はひとりでに釣り合っていく。この循環を回し続けるには,新しい人の流入が欠かせないからだ。
その関心は惑星の上,つまり地上戦にある,と同氏は続けた。その原点が,2013年にPlayStation 3向けにリリースされた「DUST 514」だ。FPSとMMOという2つのゲームを接続する最初の試みであり,PSNにおける最初期の基本無料シューターのひとつでもあった。だが同作は苦境のうちにサービスを終えた。同社はその後もさまざまなFPSプロジェクトで解法を探り,やがて新しい何かを作るため,ロンドンにスタジオを設立する。
こうして開発が本格化したのが,現在準備が進むFPS「EVE Vanguard」である。同じ3原則が,今度は「EVE Online」単体ではなく,シリーズ全体を貫くものとして当てはめられた。もっとも,IPについての会話を十分早い段階でやらなかったせいで1年を失った,と同氏は認めている。ロンドンのメンバーには,「EVE」のIPを受け入れることが後退に映る者もいたのだという。
突破口になったのが,GDCで行われた「Ghost of Yōtei」の講演だった。同作の開発チームも,同じ状況を通り抜けていたからである。続編とは何か。前作が70%,新要素が30%。この整理をずっと前に知っていれば助かった,と同氏は振り返る。
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そして戦略が分かり,IPが分かったことで,作業ははるかに進めやすくなった。「DUST」の武器をそのまま持ち込んでも,自分たちが焼き直しをしているとは感じずに済む。同じ世界の続きを作っているのだから当然だ。そして「DUST」でやり残したこと,こうすればよかったと悔やんだ点は,今度こそ作り直せる。
もっとも,今回はMMORPGでもありたいので,採掘をはじめさまざまな要素を入れたい。つまりMMORPGのようなFPSを作ろうとしているわけで,エクストラクションシューターとしては筋が通らない。
だが,そこで話の辻褄が合った。「EVE」自体が,すでにエクストラクション体験だったことに気がついたからだ。
宇宙ステーションに帰投して船に装備を積み,手に入れた物を売り,依頼をこなして,また外へ出ていく。宇宙にはNPCがいて,資源があり,こちらを殺そうとするプレイヤーがいる。殺されれば積荷は剥ぎ取られ,死ねば失うものは大きい。だから生き延びたければ,仲間と連れ立って出港する。拠点で支度をして危険地帯へ出向き,生きて帰れたぶんだけ持ち帰る――エクストラクションシューターの骨組みは,そのまま「EVE」の遊び方だった。
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もっとも,自分たちの仕事をライブサービスと呼ぶのは好きではないともいう。その言い方では,中身が痩せて聞こえるからだ。実際,同社には数年ほど,まさにSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)的に振る舞っていた時期があった。拡張パックという単位をやめ,できあがったものから順に,決まった日程で出していく。だがそれは遊びの中身の話ではなく,届け方の話でしかなかった。
誰もがライブサービスの夢を追いかけているが,それは出発点にはできない,というのが同氏の主なメッセージだ。ライブサービスゲームです,というところから始めるなら,その時点ですでに問題を抱えている。それは価格戦略でありビジネスモデルであって,その意味ではゲームではない。同氏が身を置きたいのはエンターテイメントの事業であり,エンターテイメントは計算式には落とし込めない。そこに要るのは直感であり,芸術性であり,洞察だ,というわけである。
講演は最後,AIの話題に移った。業界を揺さぶる新しい存在に対しても,例の3原則を当てはめれば責任ある形で取り込める,というのが同社の考えだ。とりわけ変化し続ける宇宙をより良くする点で,AIが役立つのは明らかだという。人の手で見張り,聞き取り,原因を突き止めるといった手間を減らし,遊びを邪魔するのではなく広げ,始めたばかりのプレイヤーを助けてくれる。
何があっても「EVE Forever」を目指し続ける。それは変えないという意味ではなく,世界とともに進化し適応するという意味だ。生きた世界を維持しなければならないが,自分たちは管理人であって,召使いではない。そしてそれをやるのは,株主のために価値を生むからではなく,誰かにとって意味のあるものを作ることが自分たちにとって意味があるからだ。そう述べて,アルナソン氏は講演を締めくくった。
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