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[TGS2023]コロナ禍でゲーム市場はどう変わった? Valve,カプコン,バンダイナムコが各社の視点で語った基調講演レポート
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ステージには,PCゲームファンにとってはお馴染みのゲーム配信サービス「Steam」を運営するValveのPierre-Loup Griffais氏と,Erik Peterson氏に加え,カプコンのWilliam Yagi-Bacon氏,バンダイナムコスタジオの原田勝弘氏が登壇。コロナ禍を経て生じたゲーム市場の変化など,それぞれの視点からゲーム業界の現状が語られた。
■出演者
●Steam Platform Engineering Team
Pierre-Loup Griffais氏
●Steam Business Team
Erik Peterson氏
●カプコン グローバル事業統括 デジタル推進部長
William Yagi-Bacon氏
●バンダイナムコスタジオ チーフプロデューサー / エグゼクティブゲームディレクター
原田勝弘氏
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「東京ゲームショウ2023」公式サイト
Valveでビジネス開発責任者を務めるErik Peterson氏は,Steamにおける日本市場は「過去5年で最も大きく成長している主要な市場の1つ」であると語った。それによると,2023年ではSteamでトップセールスを飾ったタイトルのうち20%が日本発のフランチャイズとのことで,日本のパブリッシャやデベロッパも大きな存在感を見せているようだ。
各地域のニーズを把握するための調査や施策も行われており,今回の基調講演における来日もそうした活動の1つとのこと。現在は,日本向けローカライズを取り入れる提案や支援など,より日本で多くのゲームを楽しめる後押しを行っているという。
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続いては,PCゲーム市場の拡大によってもたらされた,ゲーム販売ビジネスの変化について語られることに。4Gamer読者の中にも,最近になって多くのゲームをダウンロード版で買うようになった人も少なくないだろう。
カプコンのグローバル事業統括 デジタル推進部長のWilliam Yagi-Bacon氏は,データを用いてダウンロード版の販売比率が大幅に拡大していることを示した。それを見ると,2020年のコロナ禍が始まったタイミングから大幅にダウンロード版の比率が増えていることが分かる。
William氏はこの状況を,巣ごもり需要から高性能なPCが行き渡ることで“ダウンロード版の魅力”に気付いた人が増えたのではないか,と推測する。
順調なダウンロード版に対して,パッケージ版の市場はシュリンク(縮小)しているようにも見える。しかし,ダウンロード専売タイトルが増えたことで全体の割合が減ったものの,パッケージ版の需要が大きく減衰しているわけではないとWilliam氏は語る。コレクション目的などでパッケージを求めるゲームファンも多く,今後もパッケージ販売は継続していく予定とのことだ。
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販売だけでなく,開発の環境もPCゲーム市場の拡大にともなって大きく変化している。バンダイナムコスタジオで「鉄拳」シリーズを手掛ける原田勝弘氏によると,PC市場の拡大によって明確に変化した要素は,求められる対応言語の数だという。
コンシューマでは主要な市場となる5〜6か国の言語に対応していれば十分だったが,ダウンロード版が中心となるPC市場では販売地域が一気に広がるため,13〜15か国に向けたローカライズが必要になる。将来的には,22言語ほどへの対応が必要になると語った。
性能のばらつきが激しいPC市場に対応した開発を行う必要があるなど,さまざまな事情から開発のスパンは長くなっているとのこと。特にローカライズ要素は開発者だけでチェックするのが難しく,現在は「AI技術の進化待ち」といった部分もあるようだ。
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続いての話題は,昨今では各プラットフォームで常時行われているセールについてだ。ダウンロード版タイトルのセールを,各季節の大きなイベントとして定着させたプラットフォームといえば,やはりSteamだろう。
Erik Peterson氏は,セールは単なる安売りの手段ではなく,さまざまな効果が見込める「有効なツール」であると発言。シリーズ作品に新たなユーザーを呼び込んだり,マルチプレイを中心としたゲームのコミュニティの活性化を目指すなど,その効果はさまざまだ。
William氏によると,よく問題視される「セール待ち」による初動の鈍りについても,実際には棲み分けができているという。ゲームのコミュニティがもっとも盛り上がる瞬間は発売直後であり,ソーシャルな部分の付加価値がフルプライスの説得力につながっていると語られた。
原田氏は,セールの効果はセール中の商品以外にも影響を与えることを指摘。「ストリートファイター」シリーズのセールで「鉄拳」の売り上げが伸びるなど,近いユーザー層を持つ作品に注目が集まる機会にもなっているという。
また,長期的に遊ばれている作品では,ゲーム本体よりもシーズンパスやDLCが売上を牽引する形になることは少なくない。本体をセール価格で購入し,DLCなどは定価で購入するユーザーも多いとのことで,原田氏は「本体はほぼ無料でも良いくらいだと本気で思っています」とコメントした。
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ステージの最後には,各プラットフォームの市場と,日本全体のゲーム産業のこれからテーマに,各自の今後の展望が語られた。
Erik Peterson氏は「日本のPCゲーム市場の成長が止まる要素がまったく感じられません」とコメント。また,ポータブルゲーミング機のSteam Deckを開発するエンジニアチームのPierre-Loup Griffais氏は「日本市場に力を入れてきたのは正解だった」と,ポジティブな見方を示した。
William氏は,明確なハードウェアの世代交代を必要としないPC市場の拡大によって,各コンシューマ機の後方互換性を確保する動きの活性化し,さまざまなプラットフォームで同じゲームを楽しめるスタイルが一般化していくと語る。
続いて原田氏は,ゲーム別に存在するコミュニティをつなげる仕組みを作ることが,今後の市場拡大に寄与するだろうと指摘する。具体的な展開については語られなかったが,現在はコミュニティ同士の接続を意識した展開も考えているとのことだ。
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