2019年の終わりから,世界全体を巻き込んで広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。2020年初頭における同ウイルスの感染拡大や2020年4月の緊急事態宣言を受けて,さまざまな業界が変化を強いられることとなった。
当然,ゲーム開発も例外ではなく,コロナ禍の初期では,
在宅ワークへの移行を中心とした開発体制の見直しと,それに伴う発売スケジュールやアップデートの延期が各社から発表されたことも記憶に新しい。
今回4Gamerは,1年余りでコロナ禍によって同社のゲーム開発現場がどう変わったのかを聞くべく,
バンダイナムコスタジオの経営企画・管理部門全体を管理する本部長,開発スタジオの責任者,ITインフラ整備の責任者の3名に話を聞いた。
コロナ禍以前と現在で開発の現場がどう変わったのかや,在宅ワークの実施による新たな発見や課題,今後の展望などを語ってもらった。
左から,
石井 雄大氏(バンダイナムコスタジオ 第2スタジオ スタジオテクニカルマネージャー)
磯部 剛氏(同 コーポレート統括本部 コーポレート本部 総務ITサービス部 ITサービス企画課 マネージャー)
池田 準氏(同 コーポレート統括本部 コーポレート本部 本部長)
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最初の緊急事態宣言後の在宅ワーク。スタッフの大半はポジティブな反応
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,皆さんがバンダイナムコスタジオでどんな業務にあたっているのか教えてください。
池田 準氏(以下,池田氏):
私は,総務や人事など会社自体に関わるさまざまな業務を担当しているコーポレート本部の本部長を務めています。
石井 雄大氏(以下,石井氏):
弊社には,3つの製品開発スタジオとゲームエンジンなどを手がける技術スタジオの計4つのスタジオがあります。私は第2スタジオのエンジニアのマネジメントと,各スタジオのエンジニアの連携を担当しています。
コロナ禍に伴ってゲーム開発が在宅ワークへ移行した際には,各プロジェクトの状況を把握し問題解決に努めました。
磯部 剛氏(以下,磯部氏):
私は各拠点のためのITサービスを提供する部署のマネージャーをしています。東京以外にシンガポールとマレーシアの拠点がありまして,そちらともやり取りをしています。
4Gamer:
コロナ禍以前の勤務体制は,どういった形をとっていたのでしょうか。
池田氏:
基本的には,スタッフが出社して業務にあたる体制です。
一方で,1〜2年ほど前から裁量労働制の社員を対象に,週2回を上限とした在宅勤務やシェアオフィスを利用可能な制度を用意し,新しい働き方の研究を会社の取り組みとして進めていました。その一環として,横浜に実験的ですがサテライトスタジオを作ったりもしていましたね。
磯部氏:
2017年に政府から働き方改革が提唱され,テレワーク・デイズが打ち出されたこともあり,我々もどうすれば在宅ワークでゲームを開発できるかという研究を始めていました。最初は年1回だったのが月1回,週1回,週2回と拡大していました。
池田氏:
ただこの時点では,社員たちの本気度もあまり高くはなく,なかなか浸透していなかったというのが実態でしたし,制度の利用者も限定的でしたね。
4Gamer:
新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化して,本格的に在宅ワークに移行しなければならないと判断したのはいつごろでしたか。
池田氏:
2020年2月中旬ごろに,まず現状の制度における週2回制限を取り払いました。続いて3月から順次在宅ワークに切り替えていき,3月末には社員全員が自宅で作業するようになりました。
4Gamer:
東京では2020年4月7日に最初の緊急事態宣言が出て,首都圏を含む全国では5月25日に解除されました。その間は,ずっと在宅だったということですよね。
池田氏:
はい。基本的には出社禁止で,出社するとしても不可欠な場合に限定し,上長の許可が必要でした。
4Gamer:
緊急事態宣言の解除後はどうなったのでしょう。
池田氏:
出社と在宅ワークを選択できる体制になりました。ただ,緊急事態宣言の期間中に自宅で業務ができる環境を整えた人が多く,解除直後に出社してくるスタッフはまばらという感じでしたね。
4Gamer:
現在の出社状況はどうなっているのでしょうか。
池田氏:
最初の緊急事態宣言解除後から大きな変化はありません。社内で「自分の業務やプロジェクトにとって,どういった働き方が適しているのか」というアンケートを取ってみたところ,「チームが環境を整備してくれたので,在宅でも快適に働けるようになった」「自分で工夫することで,在宅でも生産的に働けるようになった」という回答が多数寄せられました。
4Gamer:
在宅ワークに対して前向きな意見が多かったということですね。
池田氏:
今後出社したいかという質問についても,
「コロナ禍が終息したら完全出社に戻したい」という回答は全体の5%未満で,「基本は在宅で,必要のあるときだけ出社したい」という回答が多かったですね。「基本は出社で,必要のあるときに在宅を活用したい」という人もいましたが,いずれにせよ,どちらかに限定する働き方を理想とする人は少数派でした。
その結果を受けて,今後は,出社と在宅それぞれの利点を活かしていく方針を会社として定め,その整備を進めていくことになりました。スタッフに向けても
「今後は出社と在宅のハイブリッドが基本的な働き方になる」という経営メッセージを出しました。これが2020年9月のことです。
ゲーム開発における在宅ワークのメリットとデメリットについて改めて聞いてみる
石井氏:
アンケート調査で一番大きかったのは,
「通勤のストレスがなくなったこと」でした。通勤時間はもちろん,通勤そのものをストレスに感じていたスタッフが多かったようです。
ゲーム開発の面では,「自分のペースで仕事ができる」といったことや、業務内容によっては「自宅で整えた環境が作業しやすい」ということがポジティブな点として挙げられていました。
池田氏:
バンダイナムコスタジオのスタッフは,旧ナムコの出身者が多く,現在も神奈川県在住(
※)という人が多いんです。現在のオフィスは東京の江東区(門前仲町)ですから,多くのスタッフが1時間以上かけて出社しなければなりません。往復で1日2時間以上も通勤に時間を取られるわけですから,そのストレスは大きいですよね。
※旧ナムコの開発拠点は,神奈川県の横浜未来研究所だった
4Gamer:
通勤から解放されることについては一般的にもポジティブに受け止められていますよね。そのほかはいかがでしょう。
池田氏:
ほかには
「ミーティングが効率的になったこと」も,メリットとして挙げられていました。以前までは大人数のミーティングが集中すると,時間調整や会議室のセッティングが大変だったんですが,オンラインミーティングによってそれもやりやすくなりました。なので,意思決定にかかる時間も速くなった印象を受けますね。
石井氏:
自宅のネット環境が良くなかったりと,最初は混乱が見られました。各自が自宅のネット環境を見直したり,オンライン環境に慣れたりしたことで,2020年の夏前くらいまでには,かなりスムーズにミーティングが進行するようになりましたね。
池田氏:
あとは
「仕事と生活の距離が近くなったことで,融通が利きやすくなった」という声もありました。例えば,少しの用事で有給休暇を取る必要がなくなったり。
石井氏:
在宅ワークは,スタッフのパーソナルな課題解決にすごく効果があるんですね。まさに「ワーク・ライフ・バランスの実現」や「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上」が起きているということだと思います。
池田氏:
そのせいもあるのか,有給休暇の取得率は下がっているので,管理側としては「きちんと取ってください」とお願いする手間が増えましたけれど(笑)。
石井氏:
ゲーム開発はさまざまな人が集まったチームで動かなければなりませんから,各個人のパフォーマンスを発揮するための仕組みやツールを選択できることは極めて重要になります。在宅ワークも柔軟に選べるようにすることで,スタッフ各自のパフォーマンスもより発揮できるようになっています。
4Gamer:
逆に「生活と仕事の距離が近くなって辛い」というような意見はありましたか。
池田氏:
我々も最初はそういう懸念や,働き過ぎになったりしないかという心配もありましたが,アンケートの結果を見たり1 on 1ミーティングでの感触を聞いたりする限りでは,あまりないですね。
石井氏:
チャットを見ていると「ちょっと子どもを迎えに行ってきます」「今,戻りました」みたいなやり取りもあって,スタッフたちが生活と仕事の双方をバランス良くこなしている印象を受けています。
以前なら子どもを迎えに行く時間に合わせて帰宅しなければなりませんでしたが,今は仕事をしながらタイミング良くプライベートの用事を済ませている感じですね。
池田氏:
最初は,子どもが背後で騒いだりして大変でしたけどね(笑)。
磯部氏:
学校が休校になった時期は,とくに大変でした。
4Gamer:
それでは在宅ワークで感じた問題点はどうでしょう。今出た,お子さんの話もその1つだと思いますが。
池田氏:
出社しているとスタッフとリアルに顔を合わせますから,「体調が悪いんじゃないか」「何かで困っているんじゃないか」など,そのときどきで相手の雰囲気が分かりますよね。在宅ワークで皆が各自の作業に集中していると,それが見えなくなることは問題点としてあげられます。この点は今までと違った形でフォローする必要が出てきました。
石井氏:
作業の進捗も見えにくくなりましたね。どうしてもコミュニケーションの機会が減るので,部下の管理という点でマネージャーやリーダーの負担が増えています。“上がってきた成果を見たら,思っていたのと違う”というケースが若干増えている印象を受けますね。
そうなると改めてコミュニケーションを取ったり,リテイクしてもらったりという余計な手間が生じますから,それを防ぐためにリーダーが試行錯誤しなければなりません。現状は,チームごとに工夫していろいろな対策を講じています。
池田氏:
ほかには会社としての文化形成や,各プロジェクトの一体感みたいなものを生み出すのが今までよりも難しくなっています。
石井氏:
例えば,チームに新しいメンバーをどう馴染ませていくかという部分が挙げられます。あるプロジェクトでは,チーム全員に出社してもらってキックオフ的なことを最初にやり,そのあともコミュニケーション担当を置いて新メンバーが慣れるまでケアをするといったことをやっています。
池田氏:
ヒアリングしてみると,新卒や中途に関わらず,新たに入社した人からは「出社したい」「ほかのメンバーと直接顔を合わせて,もう少し人となりを知ったうえでチームに馴染みたい」という回答はあります。
4Gamer:
そういったニーズに,どのように答えているのでしょうか。
池田氏:
現状は社内の新型コロナ対策を万全にし,かつ人数を可能な限り絞って新しく入った人に接しています。あとは1 on 1ミーティングをしっかりやったり,組織診断でコンディションを確認したりしています。感染拡大が収まれば,もっといろいろ手段を取れるんですが……。
石井氏:
また,弊社はアクション性の高いゲームを開発することが多いのですが,アクションは直接機材に触れてプレイしてみないと感覚が分からない部分や,プレイ感覚についてのコミュニケーションが取りづらい部分があります。そこでアクション担当のスタッフが期日を決めて出社し,皆でプレイし調整しているケースもあります。
コミュニケーションの取り方やデータの持ち出しが在宅ワークの課題
池田氏:
もうひとつ在宅ワークの弊害として,
業務上のコミュニケーションばかりになってしまうことが挙げられますね。出社していれば,ほかのプロジェクトのスタッフとも顔を合わせますし,雑談の中で気づいたり進んだりしていたものもあったのですが,それがなくなりました。
石井氏:
確かに,自分の仕事以外の話はわかりづらくなりましたね。以前なら違うプロジェクトのスタッフ同士がフロアで顔を合わせたときに何気ない会話でお互いの状況を共有していたのですが。
現場では,「雑談をどうやって発生させるか」「偶発的なコミュニケーションをオンラインで実現させるには」のようなディスカッションが行われています。
4Gamer:
チャットのやり取りだと,相手の言葉のニュアンスが分かりづらいので,思いもしない捉え方をされてしまうことがありますよね。例えば上司から対面で作業の進捗を問われたら,軽いやり取りをして終わるのに,チャットだとまるで責められてるように感じられたり。ゲーム開発でも,そういった気持ちのすれ違いみたいなものはあるのでしょうか。
石井氏:
テキストだけのやり取りだと「相手のこの発言の真意は何だろう?」とお互いに読み合ってしまい,深みにはまっていくケースはたまにあります。その深みにはまっていくチャットを見ながら,周囲も頭を抱え込んでしまう(笑)。それで,当事者同士がボイスチャットに移行するなんてこともありますね。
また,プロジェクトごとに色があるので,在宅ワークに移行したときの課題にも違いがありました。
緊急事態宣言以前から日常的にチャットを介してやり取りをしていて,在宅ワークに移行しても何も変わらずにコミュニケーションを取ることができたプロジェクトがある一方で,対面でのコミュニケーションを重視して開発を進めていたプロジェクトほど,本当に苦労していましたね。出社が解禁になった途端に,そのプロジェクトのメンバーの大半が出社するという状況も見られました。
4Gamer:
企画がある程度固まってプロダクション作業に入ったプロジェクトは,在宅ワークでも比較的順調に進行できるのに対し,新企画の立ち上げやアイデアをまとめ上げなどは在宅ワークではうまくできないという話を聞きました。これは内山社長も東京ゲームショウの講演で言及していましたが,その点はいかがでしょうか。
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石井氏:
そうですね。コンセプトや仕様がある程度固まって,あとは作りきるだけというプロジェクトはほぼ順調に進んでいます。
一方,立ち上げ時期でコンセプトを決めたり,プロトタイプで試行錯誤したりする段階にあるプロジェクトは,出社してすり合わせないと難しいですね。先ほどのチャットの話と同じで,オンラインだと真意がきちんと伝わらないことが多いんですよ。
「これ確認してやっておいてください」「OKです!」とチャットでは言っていたのに,2週間後に顔を合わせて確認してみたら全然違うものだった,なんてケースもありました。以前ならその場で解決できたことで,今は2週間無駄にしてしまう。今でも似たようなケースはまだありますね。
4Gamer:
それに対してどのような対策を講じているのでしょう。
石井氏:
プロジェクトにもよりますがプロデューサーやリーダーが「こういうときだけはチームで出社」といったような判断を下しています。仮に全員出社が厳しいような状況なら,限られた人だけが出社して,それを在宅スタッフに共有しています。
池田氏:
実際,プロトタイプやプリプロダクションのフェーズにあるプロジェクトにおける出社ニーズは高いです。それらのフェーズでは,トラブルが発生しがちですから。
4Gamer:
在宅ワークが難しい職種もあると思います。データが大きすぎてダウンロードに何時間もかかるという理由で,アート担当のスタッフが出社しているような会社もあるという話を聞きました。
磯部氏:
実際,データが大きくなるほど動かすのが困難になるので,リモートで対応できる仕組みを用意しました。自宅の回線状況が良くないケースでも,パフォーマンスは落ちるかもしれませんが,完全に作業ができなくなることはない状況になっています。
4Gamer:
中には住んでいるところの環境で回線を変えられないという方もいると思いますが,そういった場合はどうしているのでしょう。
磯部氏:
そういったスタッフに対しては,なかなかケアが行き届いていないというのが現実です。会社としてもモバイルWi-Fiを貸し出したりしていますが,結局,データ転送量の制限はありますから。大きなデータをどうやって自宅で扱うかという部分が,やはり在宅ワークの一番のネックになっています。
池田氏:
当然,会社側ではVPNの拡張をするなど対応を図っていますが,最終的に個人の環境がネックになってしまうんですよね。
今は一時金に加え,在宅勤務手当を恒常的に支給することで,個人の環境面の改善をサポートしています。また,在宅と出社のハイブリッドで業務をすすめることは会社方針として決めましたから,2021年4月からはワークスタイルを変えるための必要な手当も支給しています。
石井氏:
プロジェクトやスタッフによっては,全部ではなく,そのときの作業に必要なぶんのデータを切り出せるような工夫をしています。
4Gamer:
データの漏洩の危険性などセキュリティの話も非常に気になるところです。
磯部氏:
自宅から会社へのリモート接続はVPNの中で行っているので,外部にデータが漏洩することはありません。また社内から自宅につなげることはできないようになっています。
2017年の時点で,在宅ワークによるゲーム開発の研究を始めるにあたり,バンダイナムコグループ全体で定められたセキュリティポリシーを担保しつつ,運用しようと決めていました。現在もその範疇にあるのですが,それだけではゲーム開発に必要な部分が許可されないものがあるので,そこは我々でポリシーを決めて運用しています。
この施策を新しい働き方の開発環境へ
4Gamer:
これまでのお話を聞いていると,現場スタッフへのアンケートやヒアリングを頻繁に行っている印象を受けました。
池田氏:
そうですね。アンケートは定期的に,そのほかに会社の動向について動画で経営側のメッセージを配信したりもしています。
磯部氏:
「実態はどうなのか」「どういう課題があるのか」「何が望まれているのか」という点をアンケートの回答から抽出することを意識し,それに対して設備や制度を整えています。
最初のうちは皆が良かれと思って問題提起をしてくれたのですが,それをちゃんとコントロールできず,実態が見えないような状態で上のレイヤーに上がって行った問題に,取締役クラスが言及するようなことも起こりました。そこまで行くと問題の大小や本質がおざなりになったまま,会社全体の問題のような認識になってしまいます。
池田氏:
物事の捉え方は個人や職種,プロジェクトの色,開発フェーズなどによっても違います。例えば在宅ワークの生産性についてスタッフが「メチャクチャ良い!」と言っている一方で,プロデューサーが困っていたりしていることもありますからね。
4Gamer:
もし,緊急事態宣言がなかったらどうだったのでしょう。
池田氏:
もともと,離れた場所でもプロジェクトを止めることなく開発を続けられる環境を整備することは研究していましたが,こんなに素早く在宅ワークに移行はできていなかったと思います。今回のコロナ禍で打った施策は,そのノウハウを活用するきっかけだったという感じですね。
石井氏:
オンライン会議が増えたことで,ファシリテーションのスキルが目に見えるようにもなりました。
池田氏:
今まで,いかにダラダラ会議をやっていたかに気づかされる(笑)。
「こんなに司会進行がうまかったの?」と思うような人もいます。
4Gamer:
今後についてもう少し踏み込んで聞かせてください。会社の方針としては,在宅ワークにシフトするのではなく,あくまでも出社とのハイブリッドが前提なんですよね。
池田氏:
開発フェーズにもよりますが,チーム内で熱量を伝播させたり,ファジーな情報を互いにぶつけ合ったりするときは,対面でやったほうが良いケースが多いですからね。
石井氏:
我々が作っている「ゲーム」は,ユーザーの方に直に触っていただくものです。その手触り感を作るところだけは,対面でないと作りきれないのではないかと思います。ユーザーと同じ環境でキャラクターの動きや音を確認する。この時の手触り感を開発メンバーが共有して,「これは良い」「これはダメ」とディスカッションしながら作っていく部分は,結局残ると思います。
池田氏:
今回の出来事で良かった点は“ずっと出社し続ける必要はない”と分かったことですよね。在宅ワークの良さを肌で確認できたので,生産性を上げるための大きな選択肢が生まれました。
磯部氏:
これからは,業務のパートごとに「合理的な理由があって人が集まる」ということになっていくでしょう。会社はそのニーズに合わせたオフィスや設備を用意していくことになると思います。
池田氏:
もちろん,そういった目的に合わせたオフィスのレイアウトを実現することは,社内で年内の目標として掲げています。
石井氏:
せっかく集まるのだから,意識を共有できる場所にしたいですよね。
4Gamer:
遠方にいるスタッフでも気兼ねなく参加できて,会って意識を共有するときはそれだけの合理性をキッチリ発揮できるような環境を整えると。
池田氏:
繰り返しになりますが,出社できないとプロジェクトに参画できないような体制には戻したくありません。出社したほうが良いケースもたくさんありますが,それは可能な限り限定して,離れた場所にいる人──例えばバンダイナムコスタジオの海外拠点のスタッフが普通にプロジェクトに参画していけるようにはしたいですね。ゆくゆくは世界中のクリエイターが自由にプロジェクトに参画できるような形を目指していきたいです。
4Gamer:
ということは今後,東京の近郊に在住していない人でも,バンダイナムコスタジオのクリエイターとして活躍できるチャンスが増えると考えていいのでしょうか。
池田氏:
はい。経営陣ではあらゆる角度で検討を進めています。
石井氏:
遠方在住のとても能力の高い方がバンダイナムコスタジオで働ける環境が実現すれば,我々にとってもその方にとっても可能性が広がると思っています。会社の事情もいろいろな部分にありますから,そこはこれからすり合わせていく,といったところです。
磯部氏:
現在の社会において,育児や介護といった
“家族サポートと仕事の両立”は共通の課題だと認識しています。例えば,地方に住む親を介護するために仕事を辞めなければならない,といった状況を変えたいと考えています。遠方に住みながら働く仕事の形がきちんと実現できれば,課題解決の糸口が見えてきます。また,身体的な理由などで会社に通えないという方に能力を発揮してもらう機会にもなるかなと思います。
4Gamer:
これからは個々人に合った多様な働き方の選択肢が生まれそうですね。
磯部氏:
遠方での勤務と併せて,
副業の活用も視野に入れています。そう遠くない未来には,「地方在住でバンダイナムコスタジオの仕事をしつつ,在住地域でプログラミング教室の講師をやるプログラマー」といった働き方も実現できるのではないかと思います。
池田氏:
実際,月に数回の出社なら,東京近郊に住んでいる必要もないかもしれませんし。
磯部氏:
もちろん,みんながみんなそうすべきという話ではなく,そういう選択肢があっても良いという話です。そういう動きが活発になると,面白くなりそうですよね。
4Gamer:
ゲーム業界に先がけて,バンダイナムコスタジオの働き方改革が実現することに期待しています。本日はありがとうございました。
――インタビュー収録日:2021年4月20日