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仮想ライブ空間「SHOWROOM」の事例が紹介された「Gm4u」聴講レポート。運営型プロジェクトの成長には,確固たるビジョンと“濃い”コミュニティが必須
このイベントでは,SHOWROOMの佐々木康伸氏と権 哲昊氏が同社が展開しているWebサービス「SHOWROOM」の成長を振り返り,そこから得た新規サービスをヒットさせるコツを語った。
SHOWROOM CTO 佐々木康伸氏 |
SHOWROOM 権 哲昊氏 |
エディアのゲームプロデューサー 波多紘幸氏がイベントのパーソナリティを務めた |
「SHOWROOM」とは,アイドルやアーティスト,声優といった配信者と視聴者がコミュニケーションを楽しめるインターネット上の仮想ライブ空間だ。最近ではゲームのプロモーションに活用される機会も増えている。
「SHOWROOM」の企画にあたっては仕様書などを一切作らず,SHOWROOMのCEO 前田裕二氏と佐々木氏がアイデアをホワイトボードに書きだし,議論していくペーパープロトタイピング形式でモックを作ったという。
また開発期間は3か月程度で,とにかく早期のローンチを目指し,足りない部分はアップデートで補ったり改善したりすることを考えていたそうだ。これは「模倣されやすい」というWebサービスの特徴を踏まえたもので,類似のサービスが登場する前にユーザーコミュニティを形成し,「SHOWROOM」の存在を確固たるものにするという狙いがあったという。
そうしたローンチを果たした「SHOWROOM」だが,まったく売上が上がらず,2日めには「いつサービスを止めるか」という話が持ち上がる。そこで佐々木氏らは「そもそも『SHOWROOM』というサービスで何をしたいのか」というコアバリューのブラッシュアップを図った。かつてプロのミュージシャンを目指していた佐々木氏と前田氏は,視聴者の応援によって配信者が報酬を得られる仕組みとして「SHOWROOM」を企画したとのこと。その原点に立ち返り,スマートフォンゲームなどの「イベント」に着目したという。
その結果,「SHOWROOM」のイベントでは,配信者に対してアニメの声優オーディションや雑誌のモデルオーディションといった目標を設定し,視聴者の応援によって,それを達成するという仕組みとなる。これがユーザーに評価され,「SHOWROOM」に多くの人が流入するきっかけになったとのことだ。
佐々木氏は,こうした「何をしたいのか」という最初のビジョンがしっかりしていないと,Webサービスはうまくいかないケースが多いと語る。実際,佐々木氏も市場規模だけをベースに「これとこれを組み合わせたら,儲かりそう」という数字上のロジックだけでプロジェクトを進めたところ,売上が思うように上がらず,さらに20名以上のスタッフから打開策のアイデアが一切出てこなかった経験があるという。
佐々木氏は「“これをやりたい”という熱い思いが最初にあれば,“何かに特化する”といったようなサービスの『ピボット』(事業転換)ができたのではないか」と振り返っていた。
「SHOWROOM」のローンチ後は,SNSの投稿や問い合わせを逐一チェックしたり,実際にヒアリングしたりと,ユーザーの声を聞きながらアップデートしていった。ユーザーに不評だった新機能を実装の翌日に取り下げたこともあったという。
ほかにも,サービス初期には配信者を呼んで新機能のテストを行い,常にユーザーファーストに努めたとのこと。
さらに,コアユーザーを盛り上げるためにリアルイベントを開催。配信者と視聴者の交流の場を設けることで,「SHOWROOM」が“自分達の場所”であるとユーザーに意識させたという。
そうしたリアルイベントの初期には,佐々木氏や前田氏も会場に顔を出し,実際にコミュニケーションを取っていたとのこと。そうすることで,“人”にファンが付き,ひいては「SHOWROOM」のスタッフを含めてサービス全体の評価が上がったそうだ。
以上の内容を踏まえ,佐々木氏は「Webサービスは,まずうまくいかない」とまとめる。「そのときに何とかできるように,ビジョンを最初にしっかり定義し,それを軸に方向転換できる状況を考えてから走り出す」「そうやって成長する火種が見えてきたら,『一緒に作り上げる』くらいの姿勢でコアユーザーの意見を積極的に取り入れる。そうすると加速度的に成長していく」と続け,「ここまでユーザーが滞留できる土台を作って,初めてプロモーションに入る。とくにSNSを使うマーケティングでは,量よりも質にこだわり,プロダクトに合ったユーザーを選ぶことが重要」と語った。
今後,「SHOWROOM」では昨今のバーチャルYouTuberの台頭を受け,バーチャルタレント事業を始めるという。さらに,佐々木氏はソーシャルVRアプリ「VRChat」の世界的なヒットを例に挙げ,「近い将来,皆がVRの世界で自由にコミュニケーションを取れるようになる。例えば,その世界の中でユーザーが1対1で戦い始めたら,それはもう格闘ゲーム。そういったシームレスな空間を楽しめる時代が来る」とし,それに取り残されるとWebサービス事業は生き残れないだろう,という見解を示した。
後半では「ゲームのプロモーションにおける『SHOWROOM』の活用法」がテーマになった。権氏は,ゲームのプロモーションとは,まず存在を知ってもらう「認知」,関心を持ってもらう「興味」,インストールしてもらう「行動」,そして続けて遊んでもらう「継続」というサイクルであると説明。とくに自らが経験した失敗例から,認知させるだけでなく,興味を持ってくれる「エンゲージメントの高いユーザー」を作り出すことの重要性を説いた。
それでは,どうすればエンゲージメントを高められるのか。例えば,ユーザーが動画配信サイトを視聴中に,割り込むようにして表示される広告は悪手であるという。権氏いわく,そうではなく,ゲーム好きな配信者にゲームの実況配信をしてもらうといった形にするとエンゲージメントが高まるのこと。
とくに「SHOWROOM」は,イベントで視聴者が配信者を応援するという仕組みがあるため,ドラマチックな展開が生じやすく,ひいては視聴者のエンゲージメントも高まりやすい。そうした「SHOWROOM」の特徴を活かしたスマホゲームのプロモーション事例も紹介されていた。
Gm4uは月1回,全10回の開催を予定しており,それぞれ異なるゲーム業界関係者が登壇する。ヒューマンアカデミーの学生でなくとも聴講可能なので,興味のある人は特設ページをチェックしてみよう
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「Gm4u」特設ページ
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