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[Unite]Unityがプリキュアの制作現場を効率化する。「『魔法つかいプリキュア!』EDでのUnity映像表現の詳細解説」聴講レポート
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東映アニメーションが制作を手がけるTVアニメ「プリキュア」シリーズは,2004年から続いている長寿作品だ。2009〜2010年に放映された「フレッシュプリキュア!」以降,エンディングでは3DCGによるキャラクターがEDテーマに合わせてダンスを披露する内容になっている。
その映像は手描きのアニメーションである本編と比べても,まったく違和感のないもので話題を呼んでいる。映像制作にはAutodeskのMayaが使われてきたが,2016〜2017年放映の「魔法つかいプリキュア!」の後期エンディングではUnityも導入され,効率化を実現したという。
今回の講演では,東映アニメーションでアニメーションディレクターを務める小林真理氏,テクニカルディレクターの中谷純也氏,CGデザイナーの松本八希氏が登壇。Unityを導入したことで生まれた変化について語った。
制作コストのカット,多彩なバージョン,AR・VRコンテンツへの転用を実現
まずは小林氏から,ゲームエンジンであるUnityをTVアニメのエンディング制作に導入した理由と目標が明かされた。
「魔法つかいプリキュア!」の後期エンディングでは,前半がMayaによるプリレンダ,後半はUnityによるリアルタイムCGが使われている。小林氏によると,Unityの導入により,制作に要する時間とコストが軽減され,背景やエフェクトが異なるバージョンを制作したり,3DモデルをARやVRコンテンツに転用したりすることが可能になったという。
従来のエンディングでは,MayaとAfter Effectを組み合わせてカットごとに制作を行っていた。とくに時間がかかるのがレンダリングで,プリキュア1人あたりに12の素材が必要となる。これを合成するのに1フレームあたり12分,1カットの制作には1.8作業日を要していたという。もちろん,レンダリングサーバーを使ったうえでの数字だ。
一方,「魔法つかいプリキュア!」の後期エンディングにおいては,ルックデベロップメント(3DCGモデルの質感を作り上げていく作業)とライティングにUnityを導入。CGモデルをAR・VRコンテンツに転用することを見据えて,レンダリングではなくリアルタイムCGを採用し,Unityパートの最初から最後までを一つのシーケンスとして作成されている。
制作に使うツールが一つ増えたわけだが,要した時間は1フレームあたり15秒,1カットの制作に0.2作業日に短縮され,さらにワークステーションで作業できるようになったという。
こうした効率化により,背景やカメラアングルの異なるバリエーションを多数作ることが可能になった。映画の公開時期にはその内容とリンクしたバージョンを放映したり,ハロウィンにはカボチャ,クリスマスにはケーキを登場させたりして,長期にわたって話題を提供することに成功している。
小林氏は「Unityを使った効率化により,視聴者とのコミュニケーションが変化する可能性を感じた」と締めくくっている。
CGデザイナーがシェーダを自作するメリットと意義
CGデザイナーの松本氏は,Unity用自作シェーダー「Hakkinen Shader」の説明を行った。「魔法つかいプリキュア!」の後期エンディングを制作するにあたり,松本氏は「キャラクターや背景に対し,単一のシェーダでさまざまなマテリアル表現を行いたい」と考え,自作することにしたという。
松本氏がシェーダを手がけるのは初めてだったそうだが,その中身を変えるにしてもテキストエディタで記述を変更・保存すれば,すぐにUnityでの作業に反映されるという手軽さやレスポンスの良さが印象的だったと語る。
また,デザイナー自身がシェーダーを作る意義として,自身が欲しい機能を実装できること,プリレンダの際に使用される標準のマテリアル表現よりも絵作りの自由度が高いことを挙げていた。
松本氏は従来のプリレンダによるCG制作と,Unityを導入したリアルタイムCGの違いにも言及している。
UnityによるリアルタイムCGでは,シェーダやライトといったパラメータを変えるとプレビュー画像がリアルタイムで変化するため,ストレスなく作業できたという。一方,さまざまな素材を合成するコンポジットの工程をシェーダで行うため,細かなパラメータが必要であるとも感じられたとのこと。
「こうした手法を使うことにより,将来的に斬新な表現手法が誕生するのではないかと期待しています」と松本氏はまとめ,テクニカルディレクターの中谷氏にバトンタッチした。
MayaとUnityをSHOTGUNで連携させ,シーン構築を大幅に効率化
中谷氏のテーマは,Unityを導入した際のワークフローについて。CG制作にUnityを導入すると言っても,モデリングやアニメーションの作成には従来どおり,Mayaが使われている。Unityの導入後,シーンを仕上げるためにはデータをUnityにコンバートする必要が出てきた。
それには「ボーンのアニメーションデータをFBXファイルで出力する」「頂点キャッシュをAlembicファイルで移行する」という2つの手法がある。FBXファイルはサイズが小さく済むが,東映アニメーションの制作現場ではFBXファイルに対応していないデフォーマーが多く使われていることから,デフォーマーを問わないAlembicを使用することになったそうだ。
しかし,Alembicはファイルサイズが大きく,プロジェクトを開くのに10〜30分も待たされることになってしまった。その解決方法は「PCの記憶媒体をSSDにすること」であるが,判明したのはプロジェクト終了後だったとのこと。同じ轍を踏まないようにということか,中谷氏は「Alembicを使うときは,PCの環境に注意してほしい」と聴講者に呼びかけていた。
各データをコンバートした後はUnity上でシーンを構築する。だが,当初は手作業だったうえにカットごとのプロジェクトを作る必要があったため,かなりの時間がかかっていたという。
そこで中谷氏が考えたのが,プロジェクト管理ツールであるSHOTGUNとの連携だ。これにより,ワンクリックでUnityが起動し,データのインポートとシーン構築を全自動で行えるようになった。
それまでは手作業で20分もかかっていたところ,SHOTGUNを使えば1分間で済むうえ,自動化によってミスがなくなったというから,大幅に効率化が図れたと言えるだろう。
最後に中谷氏は「人的ミスが起こりやすい環境で手作業を繰り返すのであれば,ツールを作って最短かつ正確に作業を終えられるようにしたほうがいい」と,SHOTGUNを導入した理由を総括して講演を締めくくった。
「魔法つかいプリキュア!」のエンディングを背景の種類で大別すると,「宇宙」「海」「お菓子」「ハロウィン」「クリスマス」の5バージョンがある。中谷氏によると,手作業でシーン構築を行っていたのは宇宙バージョンとのこと。こうした点を意識してみると,また違った見方ができるかもしれない。
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