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「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。
コーエーテクモゲームスの「三國志」といえば,いまさら説明するまでもない大人気歴史シミュレーションゲームシリーズだ。1985年の第1作から,君主だけでなく多数の配下武将が登場し,すぐれた人材を獲得することが天下統一へとつながっていく。
同シリーズは,以降に登場した無数の歴史シミュレーションに影響を与え,また影響を受けてきた。たとえば同じ会社の「信長の野望」シリーズに,配下武将が登場するようになったのも「三國志」の影響だろう※。
※「信長の野望」シリーズに配下武将が登場したのは,1988年の「信長の野望・戦国群雄伝」が最初だった。
それだけではない。「三國志」シリーズからは,多くのスピンオフ作品も生まれてきた。そのなかの一つがアクションゲームの「真・三國無双」シリーズだが,これまたいまさら説明の必要はないだろう。選択した武将を操作して,並み居る敵勢をバッタバッタとなぎ倒していく無双アクションはたいへん痛快。先の10月1日には,リマスターの「真・三國無双2 with 猛将伝 Remastered」も発売されたばかりである。
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さて,この「真・三國無双」シリーズ,「6」以降において,元の「三國志」シリーズでは薄かった要素がクローズアップされるようになる。魏王朝を乗っ取り,晋王朝を建てて中国を統一する司馬一族とその部下たち(作中では便宜上,晋王朝成立前も晋勢力と呼ばれる)にまつわる話が“盛られて”いくのである。
それは確かに,国ではなく人にフォーカスした「真・三國無双」シリーズでは,自然なことだったのだろう。その一方で,王朝の乗っ取りを軸に話を広げるのが,「真・三國無双」シリーズに合っていたかどうかは,意見が分かれるところではないだろうか。
たとえば史実では,司馬一族によって形ばかりの皇帝に据えられた魏の高貴郷公・曹髦(そうぼう)は,宮中で反乱を起こした結果として,多勢に無勢のなか,司馬一族の腹心・賈充(かじゅう)らによって,たちまち殺されてしまったとされる。
しかるに「6」では,司馬一族の司馬昭がただ1人で反乱を鎮圧し,手づから曹髦を斬ることになる。
さらに「7」以降では,司馬昭はもはや1人ですらない。彼の傍らには,新たに参戦した賈充が,「白服の司馬昭と黒服の賈充」というたいへん劇的な対比で付き従うようになり,司馬氏のためにあらゆる悪行を敢えてして被るのだ。
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いや,面白いアレンジだと思う。筆者などは司馬昭が曹髦を斬ったときに,帝王コナンの「不死鳥の剣」みたいだと笑ってしまったが,三国志の物語の結末に位置するこの部分がクローズアップされることは,あまりないのだし。
つまり「真・三國無双」シリーズは,少なからぬ人を晋代の入口へと立たせたのだ。「三國志」シリーズが多くの人の心を三国時代に誘ったように。
この「三国時代と晋代」――晋が魏を受け継いだのだから,魏晋時代といってもいい――を併せて扱った本は多くあるが,なかでも面白く,かつ最近出版されたのが,「魏晋清談集 『世説新語』を中心として」だ。
旧版は講談社刊で,文庫化にあたって法蔵館へと版元を変えたが,1986年に2200円だった本が2025年に1650円で買えるのは,このスタグフレーションの世にあってたいへんにありがたいことだと思う。
前置きが長くなってしまったが,今回は吉川忠夫氏の著によるこの1冊を紹介していこう。
「魏晋清談集 『世説新語』を中心として」
著者:吉川忠夫
版元:法蔵館
発行:2025年3月
定価:1650円(税込)
ISBN:978-4-8318-2692-3
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さてこの本,副題に「世説新語」とあるが,これは中国南北朝時代,晋を受け継いだ南朝宋で成立した逸話集である。
著者である吉川氏によれば,「漢代においては、儒教こそがすべての価値の源泉であった」が,魏晋の時代には「道家の思想の流行」がおこり,また「仏教の本格的な受容」も始まったという。儒教はもはやすべての価値の源泉とはなりえず,そのような時代には公式の歴史書と並んで,逸話集が人々の目を集め,心をひいたのだそうだ。
吉川氏の言に勝手に付け足すなら,南北朝時代の中国は人類史上,初めて紙が世間に流通した社会でもあった。この新しいテクノロジーを手に入れた人々は,すごい勢いでくだらないゴシップとくだらない怪談を書き飛ばしたのだ……という言い方もできる。
ともあれ本書は,この「世説新語」を中心に,たくさんの本から魏晋時代の面白いエピソードを集めたアンソロジーである。
二部構成で,第一部は年代順に魏晋の歴史を追い,第二部は人間社会のさまざまな様相を扱う。つまり,「史記」などと同じ紀伝体※を意識して全体が構成されているわけだ。
※中国の歴史書のスタイルの一つ。帝王を通して大きな歴史の流れを追う「本紀」を最初に置き,そのあとにさまざまな人物伝である「列伝」を配置した構成をとる。
第一部前半は曹操,劉備,孫権(とその兄・孫策)の逸話から始まって,司馬氏の台頭までが語られる。ここに先の高貴郷公にまつわる「世説新語」の有名エピソードがあるので,引用しておこう。
こうしたエピソードが342編も収められていて,適当に読み飛ばして面白く,熟読玩味しても面白い。三国時代と晋代に心ひかれる人は,ぜひ読むべきである。
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最後に断っておくと,本書は万人にとって最上の本というわけではなく,むしろ読者を選ぶ本である。
なにせ巻頭の解説に「魏晋時代の歴史が概観できるように第一部を設けた」とあるが,予備知識ゼロの人間がこれを読んでも,魏晋時代の歴史なんて概観できないのだ。
一方で,十分な予備知識のある人は「世説新語」の完訳版を読んだほうがいい。
筆者は最後まで読んで初めて気付いたのだが,これはおそらく
「おまえのように『三國志』や『真・三國無双』シリーズで中途半端な知識をつけた人間なら,高校世界史Bの教科書とか『魏晋南北朝』(川勝義雄/講談社)とか,『中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝』(川本芳昭/講談社)とかを脇に置いて読めば,魏晋時代の歴史が概観できる」
という意味なのだ。……いやそれはちょっと。ともあれ総評すると「いい本だ! 買ってよかった!」ということになる。筆者のように「真・三國無双」シリーズで魏晋時代に興味を持った人は,ぜひ挑戦してみてほしい一冊である。
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■■桂 令夫(著述・翻訳家)■■
著述・翻訳業。主要翻訳ゲームに「ダンジョンズ&ドラゴンズ」シリーズ(共訳,ウィザーズ・オブ・ザ・コースト),「サイバーパンクRED」シリーズ(共訳,ホビージャパン)など。なお「コマンドマガジン」(国際通信社)でも書評記事「ゲームから本へ、本からゲームへ」を連載中。最近の魏晋ものだと,ドラマ「三国志〜司馬懿 軍師連盟〜」が面白かった。


























