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ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち
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印刷2018/11/24 12:00

インタビュー

ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

 上海で行われた,少女前線(日本語タイトル「ドールズフロントライン」)のオーケストラコンサート“Girls Frontline ORCHESTRA 人形×彼岸花”の主催欄には,大元のゲームを手がけるサンボーン(上海散爆网络科技有限公司)のほかに,Vanguard Sound@vanguard_sound)という名前が記載されている。

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[2018/10/24 00:00]
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[2018/11/21 12:00]

Vanguard Sound チーフディレクター G.K氏
画像(001)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち
 同社は,2008年に中華人民共和国・上海で設立されたゲーム音楽の制作会社である。

 主な業務はゲーム/アニメで使用されるサウンド関連の制作で,エレクトロニックミュージック(以下,エレクトロ),オーケストラ,ジャズのスタイルを中心に,独自の音楽を追求してきたという。もちろん,少女前線もそのひとつである。

 今回はコンサート公演の前日,彼らのスタジオに足を運び,少女前線のサウンドディレクターであり,同社の共同設立者でもあるG.K氏@GreyKni9ht)に話を聞いてきた。大陸の個性あふれるサウンドコンポーザは,一体どのような想いを胸に,海の向こうでゲームサウンドを作っているのだろう。

画像(002)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

「Vanguard Sound」ホームページ


「ドルフロ」4Gamer内サテライトサイト



楽しく仕事しよう


4Gamer:
 今回はお忙しいところご対応いただき,ありがとうございます。

G.K氏:
 こちらこそ,いろいろと取材をしてもらえるそうでありがたいです。

4Gamer:
 遊ぶ目的だけでイベントに来られないのが,この仕事ですから……(笑)。

G.K氏:
 あー,なるほど(笑)。

4Gamer:
 しかし,G.Kさんは日本語もペラペラのようで安心しました。ここからはドルフロ,いや,少女前線と呼んでいきましょう。「ショウジョゼンセン」で通じますか?

G.K氏:
 大丈夫ですよ,ショウジョゼンセンで。

(※現地の発音は,少女前線=シャオニュチィェンシェン)

画像(003)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 なら,お言葉に甘えて。ここからはG.Kさんに少女前線のサウンドディレクション,そしてVanguard Soundの話を聞かせてもらいます。話せる範囲で結構ですので。

G.K氏:
 とくに言えないことはないので,なんでも聞いてください(笑)。

4Gamer:
 かしこまりました(笑)。まず最初に触れておきたいのは,ここのユニークな環境についてです。皆さんはこの「閑静な住宅街の一軒家で仕事しながら共同生活」しているそうで,これって中国では一般的なんでしょうか。

G.K氏:
 いえ,一般的ではないですね。日本のベイシスケイプさんにこれと近い環境があるのは知っていますが,ほかの会社ではあまり聞きません。

4Gamer:
 ということは,この環境にはなにか“秘策”があるとか?

G.K氏:
 いやまあ,効率的と言えば効率的ですが,どちらかと言うと“お金的な問題”からはじまっていることでして(笑)。

4Gamer:
 ああ,それなら分かりやすい(笑)。

画像(004)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち
3階建ての一軒家。スタジオ,レコーディング室,スタッフの個人部屋などがあり。周囲も軽井沢の別荘地のように閑静で解放感があり,過ごしやすそう
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G.K氏:
 それにここに住んでるのはスタッフ全員じゃなくて,そのうちの7名ほどです。彼らにはここで生活してもらいながら,各々に用意した個別のスタジオで音楽制作をしてもらっています。なので,生活リズムもそれぞれバラバラですね。

4Gamer:
 先ほどチラッと耳にしましたが,「深夜0時をすぎても仕事が飛んでくる」とのことで。

G.K氏:
 多発ですね。夜中から仕事をはじめる人も,朝から寝る人もいたりします。

4Gamer:
 それだと管理がいろいろ大変なのでは。

G.K氏:
 そうでもないですよ。ウチはそもそも出勤する制度みたいなものを緩く設けていますから。今は上海だけでなく,北京にも支社がありますし,ここに住んでいない人たちも各々の好きなタイミングで仕事をしています。もちろん,締め切りは付きものですけどね。

4Gamer:
 仕事とプライベートの切り分けといった部分はいかがでしょう。

G.K氏:
 それもとくにありません。ほとんどの人にとって問題がない,という意味で。

4Gamer:
 つまり,皆さんはここで生活しながら仕事するのを楽しんでやれていると。

G.K氏:
 ええ,みんなで共同生活しながら,仕事があったら好きな時間にやる。ウチの人たちは全員,そういうやり方を自覚的にやれています。

4Gamer:
 すごい。G.Kさんも含めて皆さん,自由と自制がかみ合っているんですね。

G.K氏:
 あっ,僕はここに住んでないですよ。いつも実家に帰ってます。

4Gamer:
 えっ,そうなんですか。嫌なんですか?

G.K氏:
 嫌じゃないです(笑)。それほど近くではありませんが,単純に実家のほうが効率的に仕事できるんですよね。なので,そこで音楽を作りつつ,ネットを介して指示を出すのが基本スタイルです。実家には小さなスタジオもあって,そっちのほうがなんでもできたりするので。

4Gamer:
 見てみたいですね,自慢のスタジオ。

G.K氏:
 覚えてたら,写真を送りますよ(笑)。

G.K氏の自宅のスタジオ。陸よりも,海が目立つじゃないか!
画像(024)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 さて,このVanguard Soundはなにをする会社なんでしょう。

G.K氏:
 会社の業務としては“音に関係すること”を全般的に引き受けています。コンテンツに使用するインストや歌もの,効果音や擬音などですね。最近はCRI Middlewareさんと連携して,ミドルウェア関連にも手を広げています。

4Gamer:
 エンタメ以外もやるんですか。

G.K氏:
 前はエンタメ以外もやっていたんですけど,全員そこまで興味が湧かなかったみたいで,今はエンタメだけです。ウチの方針は「なに系をやる」ではなく,「その人がなにをやりたいか」ですから,自分の得意分野でモノ作りをしてもらっています。

4Gamer:
 興味関心って大事ですもんね。おそらく,この家の存在も含めて,建前じゃなくて「本当にそう」なんでしょうね。ちなみに社名の由来はなんでしょうか。直訳すると“前衛的な音楽”ですが。

G.K氏:
 業界の先頭に立つ,みたいな意味合いで付けました。設立前は“中国最強”とかも考えていたんですけど,さすがに悪目立ちがすぎると思って(笑)。Vanguardって言葉に落ち着きました。

4Gamer:
 名前を付けた,ってことは……失礼ですが,G.Kさんはこの会社のどのようなお立場で? 少女前線のサウンドディレクターだとは聞いているんですけど。

G.K氏:
 ああ,僕は一応,設立者なんです。

Vanguard Sound 代表取締役社長 楊 一永氏(Zelphar Yang)
画像(009)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち
4Gamer:
 聞いてない……。じゃあ,先ほどいた社長さんは?(※代表取締役社長の楊 一永氏を指して)

G.K氏:
 楊と一緒に作ったんですよ。共同設立者と言うんでしょうか。僕は「音楽を作る人」で,彼は「音楽を作れないけれど,人をまとめられる人」なので,今みたいな人事に。

4Gamer:
 そういうことでしたか。なら,もっと突っ込んで聞けそうですので,会社設立の流れも聞かせてもらいましょう。雰囲気的にはビジネス目的ってより,サンボーンのように“同人的な流れ”だろうと推測していますが。

G.K氏:
 そのとおりです。最初は根っからの音楽好きだった楊が,中国で“音楽制作の同人サークル”を作りました。その人集めをしていたころ,大学生だった僕に「一緒にやらないか?」と声をかけてきたんです。そうしてサークル活動をすることになって,いくつか作品を制作していき,僕が卒業したあとの2008年に僕と楊,それから3名のサークルメンバーとこの会社を設立しました。

4Gamer:
 そこから10年経ったと。現在は会社全体で何名ほど在籍しているんでしょう。

G.K氏:
 どうだろう,30名くらいかな? そのうち25名くらいがサウンドクリエイターです。

4Gamer:
 それ,会社的な営業とかは大丈夫なんですか……?

G.K氏:
 いやあ,今でこそbless4さんや4Gamerさんに話を持ちかけられる優秀な担当が入ってきたので,ちょっとずつ会社らしい動きをできるようになりましたが,それまでは壊滅的でしたね(笑)。今日みたいなことができているのも,すこし不思議な感じがしますし。

(※この日のスタジオには,日本から来たbless4や筆者のほか,「bless4のドキュメンタリー映像」を撮影する中国側の制作チームも訪れていた)

4Gamer:
 すると,一昔前は「俺らはクリエイター集団。すべては作品で勝負する」みたいな。

G.K氏:
 そういう風潮でしたね。

4Gamer:
 サウンドクリエイターを25名も抱えている音楽会社って,この規模ではかなり珍しいのではないでしょうか。ここに集まっている人たちだって当然,「個性的で前衛的な人」ばかりでしょうし。

G.K氏:
 そうですねえ。ひとりひとり全然違います。いくつも学位を取っている人や,まったく音楽と関係なかった人や,ほかにも――。

スタジオのスタッフ:
 (ガチャ!)「〜〜〜〜〜〜!」

G.K氏:
 「〜〜〜〜〜〜!」

スタジオのスタッフ:
 「〜〜〜〜〜〜!」(バタン!)

G.K氏:
 ……こんな感じの個性派が多いです(笑)。

4Gamer:
 ……お忙しいところ申し訳ありません(笑)。それで,彼らはどのように集まってきたんですか。

G.K氏:
 友人からの紹介で入社した人が多かったです。

4Gamer:
 競合他社へのヘッドハンティングをしたりは。

G.K氏:
 やってないことはないんですけど,ヘッドハンティングをするには会社の規模も知名度も,まだまだなんですよね。ゲーム業界のゴールをTencentやNetEaseなどの大手と見ている人も少なくないので,ウチみたいな中小規模で経験を積んで,それから大企業を目指す人も結構いたりしますし。

4Gamer:
 へー。日本でもその類のキャリア構築はよく聞きますが,こちらの大手もクリエイターの目指すところとして魅力的なんですね。中国のゲームクリエイターの方々はてっきり,“少数精鋭の集団”であることに魅力を感じているものなのかと。

G.K氏:
 世界的に名前が挙がる大企業ともなると,間違いなく“平均以上の開発現場”を期待していいでしょうしね。どんな業界でもやっぱり,大企業は強いですよ。

画像(010)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 なら,Vanguard Soundのような“中国のゲーム音楽の制作会社”はどうなんでしょう。こちらのゲーム業界はここ数年でさまざまな大変動がありましたが,中でもスマホゲームの爆発力は半端ではありません。ゲームに音楽は必須ですから,それを作る会社の需要も高まっているのではないですか。

G.K氏:
 うーん,どうだろう。微妙かもしれないです。

4Gamer:
 微妙ですか。

G.K氏:
 10年前と比べたら音楽の制作会社が増えているのは確かですが,言うほど乱立しているわけではないです。こっちはまだまだ「音楽はあればいいゲーム」も多くて,制作依頼も「あればいいってだけの音楽」が多いんです。そんな中で“ほんの少しでもクオリティの高い音楽”を求めている会社は,ウチのようなところに仕事を頼んでくれます。けれど,そういう会社もそういう依頼もそうそうないもので。

4Gamer:
 ホームページの理念を見るに,量産的な音楽はそれほど好きじゃなさそうですね。

G.K氏:
 ですね。やるからには,一歩先の音楽を目指します。ですが,これまでも他社には名前を教えられないタイトルの音楽であったり,ここで話に挙げる必要もない音楽を作っていたりと,決して好きな仕事ばかりをしてこられたわけではありません。

4Gamer:
 その情勢下で,どうやって頭ひとつ飛び出せたんですか。

G.K氏:
 頭ひとつ飛び出せているかは分かりませんが(笑),依頼された曲の中に「自分たちの渾身の楽曲」を混ぜていきました。すると,関係者から徐々に「この作品の,この曲を作る,この会社いいね」と言われるようになってきたんです。

4Gamer:
 何気ない依頼で,渾身の作品を見せて,結果として仕事も増えていったと。わりとストレートな理想形じゃないですか。

G.K氏:
 もちろん,言うほど簡単ではなかったですよ(笑)。

4Gamer:
 それとなんでも,Vanguard Soundは日本のベイシスケイプと業務提携をしているんですよね。こちらはどのようなつながりから?

G.K氏:
 まずはなにより,僕らがベイシスケイプさんの音楽が好きだったからです。「朧村正」や「オーディンスフィア」の曲なんかはとくに大好きで,サントラも購入したりして。

4Gamer:
 その音を乗せるヴァニラウェアのゲームも,ビジュアルが強烈な魅力を放っていますもんね。

G.K氏:
 そうなんですよ! あっ,それで提携についてですが,CRIさんと仕事をしていたところ,CRIさんとベイシスケイプさんに強いつながりがあると知って,そこを経由してコンタクトを取ったんです。そのうち,どちらも新しい仕事の販路を探っていると分かって,「日本の仕事をVanguard Soundに,中国の仕事をベイシスケイプに」といった業務提携をすることに決まりました。

4Gamer:
 ベイシスケイプとは温度感が似ているんですかね。

G.K氏:
 そうだと思っています。僕は実際,ベイシスケイプの社屋がある中野の鷺宮というところまで足を運んで,崎元さん(ベイシスケイプ 代表取締役社長の崎元 仁氏)と話して,そこで「よしやろう!」と思えましたから。音楽作りに対する共通点も,それに感じ合える部分も多かったので,これからも満足いく連携ができるだろうと確信しています。

画像(022)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち


2018年から“新しい少女前線の音楽”へ


4Gamer:
 具体的なところで,Vanguard Soundはどのような音楽を得意とするのでしょう。

G.K氏:
 ここまでの仕事で目立つのは,やはりエレクトロ系です。僕としては,みんなにフュージョン系やシネマティック系と呼ばれるような音楽を作っていくようになってほしい……と思っていますが。エレクトロ系にしても,最近はオーケストラの管弦楽器を取り入れるようになりました。国際的に評価されている映画で使われるようなBGM,とでも言うのでしょうか。そういう音楽を目指して。

4Gamer:
 なるほど。でも25名もいると,各々の領域だけで相当数のジャンルをカバーできませんか。

G.K氏:
 実際そうですね。例えば,ゲームのBGMの制作依頼をされたとして,そのゲームにどんな楽曲を合わせるのかを考えて,「こういう感じならこの人にしよう」と僕が仕事を回しますが,そのときも手広い判断をしやすいのは事実です。

4Gamer:
 「その人に回す」とおっしゃったように,音楽制作は個人で完結させるものが多いのでしょうか。

G.K氏:
 制作体制はいろいろですが,作品内の音楽の統一性や,担当者の芸術性を重視したいときは,ひとりのクリエイターに任せています。そうでなければどうしてもバラつきが出てきてしまいますから。でも,少女前線は現在,ウチの面子やベイシスケイプさんの楽曲提供も含めて,複数人で制作するようになりました。

4Gamer:
 たしかに「Girls Frontline Original Soundtrack」の制作者欄を見ると,G.Kさん以外の名前もチラホラありました。

G.K氏:
 今もメインは僕なんですが,最近だと“3人で作ったひとつの曲”とかもあります。

4Gamer:
 それの実作業はどのような流れに。

G.K氏:
 曲全体の構成を僕が考えて,ギターやシンセサイザーは専門家にやってもらって,最後に僕が調整して完成,といった感じです。

画像(011)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 仮に「作曲の分業制」と呼びますが,そうしたほうが完成度を高めやすいなどの実感があるんでしょうか。

G.K氏:
 得意な人に得意な部分をお願いするのは効率的に仕事ができて,かつクオリティを出しやすいですから,前回はわりといい感じでした。まあ,こうやるようになったのは最近の話ですが。

4Gamer:
 じゃあ,今後は分業するのが当たり前になる可能性も。

G.K氏:
 ジャンル外の人を無理に頼んで,頑張って平均点を出してもらうより,それぞれの担当部分に専門化してもらうのも悪くないと思ってきている,といったところです。そうだ,ちょうど後ろの画面に映っているのが,そうやって作った少女前線の8月のイベント楽曲です(※2018夏季イベント「有序紊流」,英名:CONTINUUM TURBULENCE)。

4Gamer:
 見てもさっぱり分からないのはいいとして,こちらはまだキューブ作戦(魔方行动)が終わったばかりなので(笑)。

画像(012)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

G.K氏:
 あー,そうでしたね(笑)。そういえば,キューブのBGMはこのゲームで初めて「オーケストラを導入した曲」でした。

4Gamer:
 素人からするとオーケストラって響きだけで,グレードが上がると言うか,壮大さが増すと言うか,そういう“フワフワしたすごみ”を感じます。

G.K氏:
 そういう効果もありますね。まあ,当時は楽団に演奏してもらうというより,担当パートごとに収録をさせてもらっただけでしたが。

4Gamer:
 オーケストラのような管弦楽を取り入れることに,どのようなメリットを求めたのでしょう。

G.K氏:
 オーケストラだからいい,といった考え方ではないです。長く音楽を作っていたら,気づいたらそういうシフトが起きると言いますか,決められたジャンルを決められた楽器だけで構成するのではなく,「今回はこういう曲だけど,ここに管弦楽器を取り入れてみよう」といった考えが生まれてくると言いますか。

4Gamer:
 インスピレーション,あるいはミューテーションみたいな。

G.K氏:
 そういうニュアンスが近いかもしれません。とにかく,あのジャンルだから,この楽器だから,どう演奏するからではなく,最終的に生まれる作品にとって――。

スタジオのスタッフ:
 (ガチャ!)「〜〜〜〜〜〜!」

G.K氏:
 「〜〜〜〜〜〜!」

スタジオのスタッフ:
 「〜〜〜〜〜〜!」(バタン!)

G.K氏:
 ……いかに良い手法を取り入れていけるか,といった考え方です(笑)。

4Gamer:
 なるほど(笑)。

G.K氏:
 それで言うと,少女前線の音楽は2018年から“新しい挑戦”をはじめています。昨年までの2年間はあえて言うのなら,独自性のある楽曲を目指しつつも,「日本のスマホゲームで流れてきそうな曲」という枠から外れない音楽でしたので。

4Gamer:
 けれども。

G.K氏:
 ええ,けれども「フュージョン系やシネマティック系を作っていってほしい」と宣言したように,今年からは音楽の構造も異なる,これまでになかった少女前線のサウンドを目指すようになりました。

(※この場では語られなかったが,最たる例がbless4が歌う,少女前線の新曲「シラカバの光」であるようだった)

4Gamer:
 ちょっといいですか? その先に進む前に「少女前線とVanguard Soundの関係性」を聞いておきたいです。少女前線の音楽制作は今では大きな看板になっているかと思いますが,事の発端がどこにあったのかを。

G.K氏:
 それはあれですね。僕が少女前線よりも前から,羽中さん(サンボーン 代表取締役社長/「少女前線」プロデューサーの羽中氏)と「パン屋少女」(面包房少女。少女前線と世界観を同じくするオリジナル作品。現在リメイクも発表されている)を作っていて,そのころからの知り合いだったからです。

■4Gamer掲載の「ドルフロ」配信前インタビューより抜粋

羽中氏:
「雲母組(mica team)」というサークルを立ち上げ,「面包房少女」を制作した時代は3人だけですね。当時は音楽を作ったり,プログラムを組んだりする人がいなかったので,協力関係にあったほかのサークルの皆さんにも手伝ってもらいました。でも主要メンバーは,当初から同じ志を抱いていた仲間たちでしたね。

記事URL
https://www.4gamer.net/games/405/G040593/20180622068/

4Gamer:
 おっと,それも知りませんでした。

G.K氏:
 その流れもあって「少女前線の音楽を作ってくれない?」と言われ,「じゃあやるか」と(笑)。

4Gamer:
 同人サークルの企業化に関するエピソードを聞いていると大体出てくる,同じ世界で肩を並べていた者同士ならではのつながりって感じですね。なら,一緒にやろうとなって,少女前線の情報を共有して,どのようなサウンドを仕立てようとしたんでしょう。

G.K氏:
 そのあたりはですね,いろいろありましたねー。

4Gamer:
 いろいろ。

G.K氏:
 最初はサンボーンさんから「新作の音楽をお願いします!」と話がきて,制作中のゲーム画面を見せてもらいました。そしたら,パン屋少女のようなシミュレーションゲームに見えたので,SLG風のBGMにしようと考えました。でも,そのあと羽中さんから「少女前線はシリアスな内容だから,音楽もそんな感じがいいです」って言われたんですよ。

4Gamer:
 んん,そこまでの流れだと,とくに違和感ないような。

G.K氏:
 いや,当初の少女前線はビジュアルだけ取って見ると,可愛い女の子たちが,可愛らしいSDで銃を撃ってるゲームに見えたんです。パン屋少女の前例があったとはいえ,「これでシリアス系って,どういうこと……?」となっている最中,さらに「かなりブラックなストーリーが展開するから!」と言われ,うまく想像できずにいて。

4Gamer:
 あー,言われてみれば。私は最初から“ドルフロの人気要素”を知っていたクチなので,そういうギャップとは無縁だったんですよね。

G.K氏:
 今のようなイメージもない,世に出る前の少女前線でしたからね。

4Gamer:
 個人的な感想で構いませんが,G.Kさんは少女前線の「苛烈な世界で,悲惨な境遇の女の子たちが,非情な敵と戦わなければいけない」といった世界観をどう感じますか? 好き,嫌い,悶える,辛いとか。

G.K氏:
 序盤はそこまで気にせず,単純に物語を楽しく読めていました。しかし,ここ最近は「この子たち,このあとどうなっちゃうの……」と緊張するようになりました(笑)。

4Gamer:
 早く見たいような,見たくないような(笑)。

画像(013)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

G.K氏:
 まあ,そんなこんながあって,世界観を共有してもらったりするうちに導き出した結論が,未来感のある音色で“感情が出ないような楽曲”でした。

4Gamer:
 感情が出ないような。うーむ,分かる気はしますが,表現するための言葉が乏しいので続きをお願いします。

G.K氏:
 一番最初に作った楽曲は,ストーリーのチャプター1で使用するBGMでした。そして当時は,マップ1とマップ2が「グリフィン側を表現するBGM」,マップ3とマップ4が「鉄血側を表現するBGM」と,マップごとにテーマを切り替える設計だったんです。

4Gamer:
 へー。

G.K氏:
 でも,音楽の制作開始から2か月後に「グリフィンと鉄血でBGMを分けるのはやっぱなしにしましょう」となって,そもそものサウンド自体が,グリフィン側を表現するBGMだけになりました。

4Gamer:
 仕様変更はゲーム開発の常ですしね……。

G.K氏:
 それからどうにか少女前線らしい音楽を追求し,1年,2年,3年とゲーム内の楽曲を作ってきましたが,最近はストーリーで使用するBGMを“シナリオの雰囲気に合わせて制作”するようになっています。

4Gamer:
 ゲーム音楽ですし,元からそういう考えも含まれていたのでは?

G.K氏:
 考えてはいましたが,当初はゲーム性を優先し,イベントなら「マップ1は前哨戦のイメージ」「マップ2は緊張感を出すような」といった想定で作っていました。しかし,これだと物語に沿っているようで,根本の考え方は別物だったので,今は「敵地に潜入する」「敵と遭遇する」「ボスが現れる」「ボスはどの勢力のどんな敵で」などのストーリーラインを共有してもらい,シーンごとの感情を膨らませるようにしているんです。

4Gamer:
 そちらのほうが,シナジーがより高まりそうです。

G.K氏:
 羽中さんからも「今回のボスはこういった思想の敵だから,こういう感じの音楽にしてもらえませんか」と,新しい提案を受けるようになりましたしね。まだ完璧に合わせられているとは言えませんが,これからもっと詰めていけるよう努力するつもりです。

画像(014)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 ちなみに私もここに来るうえで,OSTをたくさん聴いてきました。

G.K氏:
 そうなんですか。ありがとうございます。

4Gamer:
 ただ,ドルフロをはじめて約2か月半。音を出さないでプレイすることもあるので,こういったタイミングで聴き込むと,耳に馴染みはするんですが,「どこで使われているのか分からないが知ってる曲」になってしまって。未実装のイベント楽曲も多数ありましたし。

G.K氏:
 まあ,日本の方々にはまだまだ楽しみが用意されているので,ゲームも音楽も自分たちのスピードで楽しんでもらえるといいですね。ただ,僕のほうは少女前線の音楽を2年も作り続けてきたことで,ネタの枯渇に苦しむようになってきたかも(笑)。

4Gamer:
 そりゃそうですよね……。

G.K氏:
 だから,バリエーションの乏しさを払拭するためにも,これまでの2年間を一区切りとし,3年めから新たなチャレンジをはじめたわけです。それと,当面の方向性は「1つのジャンルに絞った音楽」としています。

4Gamer:
 ん? そう聞くと,音楽の幅が狭くなっているような。

G.K氏:
 ああいえ,ジャンルと言ってもジャズやクラシックなどのカテゴリ分けではなく,最初に伝えた「映画のような雰囲気の」みたいな,もっと大きな括りのアイデアです。この表現を保ちながら,フュージョン系やシネマティック系の音楽を構成したいんです。

4Gamer:
 そういうことでしたか。じゃあ,それがマクロな話としたとき,ミクロな音楽作りはどうなんでしょう。

G.K氏:
 ミクロなですか?

4Gamer:
 私のように「楽しい音」「悲しい音」みたいなものも分からない人向けに,作曲の基礎を教えてもらえればと。

G.K氏:
 音楽作りはですね,意外と参考にできるものが多いので,ちょっと学ぶだけでも「楽しい雰囲気の音楽」や「悲しい雰囲気の音楽」といった構成にたどり着けます。そのうえで,楽しいひとつ取っても「ノれる」「笑える」「感激する」など,さまざま感情に分かれていくので,そこを明確化したうえで,それらを適切な音に置き換えて表現する感じでしょうか。さらに参考と経験と個性なども混ざ合わせていければいいですね。

4Gamer:
 なるほど。やらなきゃ分からないですね(笑)。

G.K氏:
 そうですよね(笑)。

画像(015)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち


とりあえずやってみよっか


4Gamer:
 明日のコンサートについてもお聞きしたいのですが,そもそもの発端はなんだったのでしょう。

G.K氏:
 知り合いのオーケストラと話をしていたら,意外とできそうだったので,ウチのメンバーと話し合って「やろうぜ」と動いたら,やることになりました。

4Gamer:
 フットワークが軽い。

G.K氏:
 羽中さんに伝えたら彼も乗り気で,「どうせやるならガチでやろう!」となって,想定よりもディテールを詰めようと頑張ってきたのが,ここまでの流れです。しかし,これほどの規模のイベント運営は初めてでして,選曲も楽譜の起こしも初めてのことだらけでした。

4Gamer:
 これは多数派の見解だと思いますが,「このゲームのBGMでオーケストラ?」って思われませんでしたか。

G.K氏:
 たくさんの人が疑問視したと思います(笑)。補足しておくと明日の公演の選曲は,ゴリゴリのエレクトロ系は除き,BGMの中でもなるべく管弦楽に向いているものを並べて,さらに演奏の出来が期待できる曲から選出しています。

4Gamer:
 浅識で申し訳ありませんが,「ロックな曲を管弦楽に置き換える」のって簡単なことなんでしょうか。

G.K氏:
 いや,相当難しかったです。

4Gamer:
 「このギターはバイオリンにして」くらいの考えじゃできないと。

G.K氏:
 できないことはないんですけど,それでもウチのクラシック担当と知恵を振り絞り,どうにかするのは本当に大変でした。今回は「オーケストラによる演奏曲」と「PCMを流しつつオーケストラも演奏する曲」の2種類があるので,それぞれのバランスにも気を配りましたし。

4Gamer:
 そういう感じでしたか。では明日の公演にも出演しますが,日本の音楽グループ「AKINO with bless4」を,少女前線のイベントテーマソングに起用した理由も教えてください。

G.K氏:
 そりゃもう,ウチのメンバーは大体アニメが好きで,中でもAKINO with bless4さんが歌う「創聖のアクエリオン」が素晴らしかったからです! つまり,みんな大好きだからです(笑)。

4Gamer:
 分かりやすい(笑)。bless4はなんでも,日本以外のアジア圏でも非常に人気があると聞きました。

G.K氏:
 ええ。中国のオタクのほとんどは,アクエリオンと聞いたら「ああ,あの歌か!」と分かるくらいですよ。

画像(016)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 彼らが歌った「What am I Fighting for」はいかがでしたか。

G.K氏:
 この曲は僕じゃなく,ウチのHALOWEAKというスタッフが作曲したもので,ゲームでは今年最初のイベント“特異点”のエンディングで使用されました。歌詞はAKINOさんのお姉さんであるKANASAさんに作ってもらいましたが,少女前線のシリアスな世界観を余すところなく表現されていて,本当に素晴らしかったです。

4Gamer:
 私も同じ感想です。

G.K氏:
 それと楽曲の方針ですが,僕もHALOWEAKも想いは同じで,「少女前線の2年間の集大成である,エレクトロ音楽時代の最後の曲」として制作しました。

4Gamer:
 時代の節目の1曲であると。

G.K氏:
 それに相応しい曲になっている自信もあります。

4Gamer:
 なら,ファンからの反響はどうでした。

G.K氏:
 すごかったです。ほんとすごかったです(笑)。

4Gamer:
 納得しました(笑)。あと,会場の「上海東方芸術センター」も格調高い場所みたいですね。調べた感じ,ゲームとは縁がそれほどなさそうな,アカデミックな音楽を取り上げる場所,といった印象を受けましたが。

上海東方芸術センター
画像(017)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

G.K氏:
 こういった公演の前例はあるのですが,ゲームと縁がないというイメージ自体はそのとおりです。場所だけじゃなく,中国ではゲーム音楽の公演をバンドやオーケストラに持ちかけたとしても,好き嫌い以前の話で「それがどういうものなのか想像つかない」と断られるケースが多いですから。

4Gamer:
 それは要するに,ゲームの社会的な地位が低い,といった話ですか?

G.K氏:
 はい。近年はスマホゲームの盛り上がりや,コンシューマゲームの解禁などもあって,「ゲームの正当性」が認められてきたのか,徐々に意識が変わってきていると実感しています。でも,中年以降の年代の方々が未だに「ゲームは悪いもの」と考えていても,まったく不思議に思わないですね。

4Gamer:
 「ゲームと勉強とお母さん」は,人類永遠の課題ですからね……。

G.K氏:
 僕も中学生のころ,ゲームをやりたすぎて学校から逃亡しました。

4Gamer:
 生粋のタイプじゃないですか(笑)。

G.K氏:
 どうしてもやりたくて(笑)。

4Gamer:
 最近はわりとマンネリな質疑なんですが,G.Kさんのゲームやアニメの原点はやはり,日本の作品ですか。

G.K氏:
 やっぱり,日本のゲームやアニメですね。

4Gamer:
 そこでもうひと声なんですけど,中国のコンテンツでは本当の本当に「これがあったから,俺は今ここにいる」みたいな作品はなかったんですか。

G.K氏:
 うーん,難しいな。ないというわけじゃないんだけど。

4Gamer:
 数がなかった?

G.K氏:
 いや,クオリティかな。深く記憶に残るほどのレベルのものは本当になくて。

4Gamer:
 うーむ,そうですか。この手の質問は大体「日本リスペクト」に帰結してしまうので,そろそろカウンターに期待していたのですが。

G.K氏:
 こちらで市場規模が拡大してきたスマホゲームだけとっても,作品の骨格はいまだ“日本リスペクトの構造”のものが多いですしね。それこそ少女前線にしても,そこがスタートでしたし。

4Gamer:
 少女前線のこちらでの反響って,どのような温度感なんでしょう。

G.K氏:
 「かなり」でしょうか。2年前は一部で噂になっていた期待作といった感じでスタートしましたが,日数を重ねるにつれ,ゲームコミュニティへも徐々に浸透していき,人気の高まりを体感できるほどの熱量になっています。なにより,今回のようなコンサートが実現できること自体が人気の高さの現れですよ。

4Gamer:
 こちらではどういう層の人たちが遊んでいるんですか。

G.K氏:
 数や傾向となると難しいのですが,とくに「日本リスペクトのゲーム好き」に好まれていますね。

4Gamer:
 そういった層もいるんですね。では,Vanguard Soundにかぎった話でも構いませんが,中国のゲーム会社は日本リスペクトから脱却する意思はあるのでしょうか。いろいろ複雑に入り組んでいるでしょうから,一口には語れないかもしれませんが。

G.K氏:
 これは学生時代から日本のゲームを楽しんできたプレイヤーとしての意見ですが,日本のスマホゲームはアジア圏において,強い影響力を持っています。現実問題として,システムもビジュアルも優れた要素を数多く備えていますから。まあ,海外のプレイヤーとしては,最近はスマホゲームの印象だけが強いとも言えますが。

4Gamer:
 否定しづらい話です。

G.K氏:
 ですから,中国のスマホゲームは日本のスマホゲームの優れた要素を取り入れながら,アジア圏のカルチャーに合わせて調整してきました。しかし,そういう成り立ちのせいか“どこかで見たことあるゲーム”が蔓延しています。「実はオリジナルは海外のものだった」の例もだんだんと少なくなり,中国ならではと言えるような作品も増えてきていますが,それでもまだ当分は抜け出せないんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 とはいえ,もう何年か続けていればリスペクトの意味合いも風化して,中国ならではのオリジナルと言われるようになるのでは? 「日本の中華料理」みたいに。

G.K氏:
 ないとは言いきれませんね。

4Gamer:
 こちらの10代が触れやすいのも,きっと「少女前線などの中国で生まれた新しいコンテンツ」のはずですし。誰しも身近で触れたことのあるものをオリジナルと感じますから,今ある作品が多少なりとも類似性を持っていても,そこにオリジナリティも込めている作品から順に“中国ならではのゲーム”と認知されていく気がします。

G.K氏:
 中国のゲーム業界は,海賊版を筆頭に“コンテンツを大事にしない時代”が長かったので,お金を払って遊ぶ価値観が育ってきたのは最近になってからの話です。それでも,これから先の10年なら,そうやってオリジナルとして認知されやすい土壌ができていくのかもしれません。それこそ,少女前線もそのための実験作と言えますから。

4Gamer:
 ですよね。すでに“オリジナルIP化した作品”と呼べるはずです。

G.K氏:
 そうであると認知されていくのなら,音楽で携わっている僕としても嬉しいです。

画像(018)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 ちなみに,サンボーンもVanguard Soundも同人サークル出身とのことですが,中国における同人活動ってどうなんでしょう。近年は個人サークル由来の会社も多く,界隈では「魔都同人祭・コミックアップ」なるイベントも育ってきたと調べていますが,それでも捉えきれずで。G.Kさんの現役から数えると,時間は経っているかと思いますが。

G.K氏:
 着実に成長してきたと言えますが,日本における同人活動の規模感と比べると,まだ10分の1,いえ5分の1くらいなんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 人口比は置いとくとしても,土地面積で考えると,足を運んで集まるのは簡単じゃなさそうですもんね。しかも,要するに,「エッチなのはダメ」なんですよね。

G.K氏:
 ええ,当然です(笑)。

4Gamer:
 同人作品を取り扱うお店などは。

G.K氏:
 大体はネット販売のみですね。

4Gamer:
 販売自体は大丈夫なんですね。

G.K氏:
 いや,なんでしょう,当時は「管理のための規制法はあるけど,管理するのが面倒だったから放置されてて,こっそりやっていた」というのか,まあそんな感じで(笑)。

4Gamer:
 そういう感じで(笑)。

G.K氏:
 僕の学生時代にも同人サークルはそれなりに存在していましたが,フィールドそのものは活発だったとは言い難いです。日本と比較したら,未だにジャンルとしての厚みや,商業としての活気もまだまだですよ。

4Gamer:
 G.Kさんはどのような学生生活を過ごしたんですか。

G.K氏:
 音楽大学に通いつつ,サークル活動をしていました。一応,音大っていう環境の特殊性もあって,ほかの学校種よりは理解があったほうだと思います。「どこどこのこういうジャンルで,どういう音楽が流行ってるか」という会話も自然としやすかったですし。

4Gamer:
 勉強熱心や方向性の違いで片付きそうですね。ならば「同人活動の第一歩」はどのような例が多いのでしょう。学生時代に同人作品に触れて,それがサークルにつながって,自分も作品制作に勤しむ,みたいな。

G.K氏:
 高校生や大学生のときに同人に触れたから,という人が大半だと思います。しかし,こちらの学生はそもそも“地獄のように多忙な道を進んでエリートを目指す”のが一般的な観念ですので,芸術活動とはまた違う(ように思われてしまう),勉学とも程遠い同人活動に力を入れること自体が異端なんですよね。

4Gamer:
 やはりそこですか……。でも,中国にもゲームの専門学校などはあるんですよね?

G.K氏:
 あるにはありますが,ご存じのとおり「中国では過酷な受験戦争で生き残らなければ充実した生活を送れない」といった意識が根強いので,最初からそういった専門学校に進もうと決める人は多くないと言われています。

4Gamer:
 学生としても選びづらいと。

G.K氏:
 意義のあるなしは各々で考えればいいのですが,周囲には「レールから落っこちた」と見られても仕方ないんですよ。みんなが志望する,一本道の競争こそが華なので。

4Gamer:
 日本も遠からずなので分かります。私は完全なるドロップ側でしたが。

G.K氏:
 僕も大学に入れなかったら「英語が分かるし,通訳にでもなろう」と考えていましたね。ただ,音大に入れて,サークル活動をして,Vanguard Soundを設立して,一番最初の給料をもらったとき,「ああもうこれでいいや」と思ってしまったので今はこうです(笑)。

4Gamer:
 「最初の給料」には魔力がありますから。なるほど,なんとなく理解してきました。日本では同人サークルが企業化する例が,2000年代から先にチラホラと生まれてきて,今はそれほど珍しくなくなってきました。代表例はTYPE-MOON(有限会社ノーツのブランド)でしょうか。

G.K氏:
 はい,知ってます!

4Gamer:
 しかし,サンボーンとVanguard Soundの場合は,そもそもが不毛な場所で活動し,企業化まで至ったわけですよね。同人活動に関しては「環境内の競争により磨かれる」といった考え方は不毛というか,ジャンルの本意に反すると思うので,日本と中国で持ち前の創作力に差はないものとしても――両社は支持者のベースの厳しさを考えると,ちょっと失礼な話,その実はベンチャー寄りなのかもしれませんね。

G.K氏:
 ええ,正直に言ってしまうと,僕の当時の作品はそれほど人気がありませんでしたから。どうすれば人気になれるのかを考え,とくに盛り上がっていた「東方Project」の音楽を参考にしたりもしましたが,目指すのはあっちではないなと。そうして「自分たちのオリジナルでいきたい」で意見が合致し,「とりあえずやってみよっか」で会社を立ち上げた,これが真相です。一応,今のウチみたいな会社がないことは調べておきましたが。

4Gamer:
 起業して10年も軌道に乗せている,それだけですごいことですよ。

G.K氏:
 運がよかっただけですよ。


最前線を目指して


4Gamer:
 これは「ゲームのサントラを買わない人」としての質問ですが,私の場合ゲームはシステムやビジュアルから入り,音楽はどうしてもその先,ハマったあとに触れる奥側の部分となります。おそらく共感する人も多い,仕方のないことかなと。

G.K氏:
 ええ,そういうものですもんね。

4Gamer:
 そのうえで,G.Kさんはゲームサウンドをどのようなものと考えていますか。ゲームサウンドの特殊性は,いろいろなシーンで論じられていることですが。

G.K氏:
 ゲームはシステムやグラフィックスが注目されやすいので,そこでサウンドが目立ちすぎるとプレイの邪魔になると考えています。そのうえで,僕にとってのゲームサウンドは,単品の音楽として主張するものではなく,“ゲームのシステムやグラフィックスと一体化して雰囲気を引き立てる”ことを第一としています。さらにその先で,聴いている人たちの耳に個性が引っかかるようにできるといい――これが僕の考えです。

4Gamer:
 音楽の個性を発揮するのではなく,ゲームの個性を引き立てるものだと。

G.K氏:
 そう考えています。最近は大手ゲーム会社の作品を散々遊んでいますが,とくにPS4の「Detroit: Become Human」は画面も音楽も両立していて,理想的でハイレベルな融合を感じさせてくれました。

画像(019)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 やってますねえ。じゃあ,これまでの人生でハッとさせられたゲームサウンドとかはありますか。

G.K氏:
 それなら「鉄拳」シリーズですね! もともとエレクトロ系の音楽が好きだったのもあり,鉄拳の音楽にはかなり影響を受けました。あと「エースコンバット」や「アーマード・コア」,ほかには「ファンタシースターオンライン」シリーズでしょうか。正直,PSO2は当初は関心を抱いていなかったのですが,勉強の題材にとあらためて見直したら「なにこれ,めっちゃすごい!」と大変驚きまして。

4Gamer:
 ん,今なんとなくキューブ作戦のBGMを脳内再生しましたが,クッキリではありませんが“その感じ”は出てますね。

G.K氏:
 コードまで全部覚えていましたし,影響を受けてたんですよね(笑)。当初の少女前線は日本リスペクトの雰囲気も求められていましたから,「日本のゲームで聞いているような音楽」に寄っていこうと考えて,だったら印象に残っているPSO2の感じがマッチするかなと。当然,参考にしすぎないように注意しましたが。

4Gamer:
 そうなると,今年は「少女前線の新しい音楽」を目指すと同時に,「日本リスペクトからの脱却」でもあるんですね。

G.K氏:
 たしかに。そうとも言えますね。

4Gamer:
 なら,ごく最近の興味はどんな感じでしょう。

G.K氏:
 最近だと,スマホゲームの作りという観点から「プリコネR」(プリンセスコネクト!Re:Dive)に注目しています。日本のスマホゲームは“ボタンを押したときの効果音”がいいですよね。押していて気持ちいいです。

4Gamer:
 シャン,シャカ,ピコンと粒揃いかもしれません。

G.K氏:
 でも,近年最も影響された効果音は,Bungieが開発した「Destiny 2」のものですね。この作品はゲームデザインやグラフィックスも素晴らしいのですが,なんといっても効果音の出来が最高なんです。銃弾が飛んでいくときの残響音とか。

4Gamer:
 そこに注目して遊んでなかったなぁ……。

G.K氏:
 あれ,ほんとにすごいですから(笑)! あと音楽としては,アメリカの映画やドラマに感心を寄せています。

4Gamer:
 そちらはどんな理由で?

G.K氏:
 まず,音楽がBGMに徹しているところです。音が1個,2個くらいしかない「タタタッタタ」などの簡単なメロディの曲なんですが,その中にちょっとしたアナログチックな変化を取り入れていたりと,「簡単そうだけど簡単には作れなさそうな音楽」であるところに惹かれています。派手ではないので,普通の人は感銘を受けないかもしれませんが。

4Gamer:
 少し前に,とある音楽プロデューサーに「難しそうな音楽を作るのは簡単だけど,簡単そうな音楽を作るのは難しい」と聞きましたが,そういう感じでしょうか。

G.K氏:
 うーん,そうですねえ。言い方はすこし異なりますが,今の日本のスマホゲームは「簡単な方法で,複雑な旋律を表現しようとする音楽」が増えている気がします。いくつもメロディを重ねて,重厚な雰囲気を出そうとするタイプですね。

4Gamer:
 すごそうだから,すごいんだろう,と思ってしまいそう。

G.K氏:
 悪いことではありませんよ。簡単な方法でと言いましたが,本当に簡単に作れるかは別の話ですから。

4Gamer:
 そうなると,アメリカの例が真逆になるんですか。

G.K氏:
 はい。「複雑な方法で,簡単な旋律を表現しようとする音楽」と言えます。音をただ並べているだけに聴こえるのに,その奥に緻密な狙いがある音楽です。ゲームで言えば,ここ数年で一番お気に入りの「DOOM(2016)」のBGMが近いです。同作に使われているメインテーマは,初代DOOMのBGMをアレンジした簡単な旋律のものですが,リズムのテンポがよく,アレンジャーの個性も出ていて,とても簡単とは言えない出来栄えでした。

4Gamer:
 一言で評すると。

G.K氏:
 「イイ感じ」でした。

画像(020)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 とはいえ,専門家の感性ではなく,一般人の「わかるー」に合わせると,煌びやかなほうに意識を傾ける人が多そうなもんですが。

G.K氏:
 そうですね。少女前線の音楽にしても,プレイヤーから「パン屋少女のBGMのほうがよかった!」と言われることがありますし。

4Gamer:
 ゲームの場合は体験が紐づいていますし,音楽自体の良し悪しではないのでは?

G.K氏:
 いえ,パン屋少女の音楽の傾向は,今話題にしていた“メロディを重ねる方向性のサウンド”なので。

4Gamer:
 なるほど。難しい。

G.K氏:
 あれは僕が学生時代に制作したものなんですが,今の僕が聴くとメロディなんか「こいつ,あんま深いとこまで考えてないな」って作りなんです(笑)。もちろん,当時の僕の音楽の良さを感じ取ってくれているのだとしたら嬉しい話ですが,今の僕ならもっと深く考えて,もっと良い音楽を作れる自負があります。

4Gamer:
 確実に成長してきたと。

G.K氏:
 はい。

4Gamer:
 力強い。

G.K氏:
 もちろん,あくまで好みの違いですから,人それぞれの受け取り方で構いません。羽中さんにも「パン屋少女の楽曲が好きだった」と言われたことありましたし。ただですね,パン屋少女のBGMもそうですが,世界で一番初めに公開された少女前線のPVのBGMって,当時のその流れで作った音源なんですが,今の僕にとっては「やめて!! 流さないで!!」ってなる代表曲になっています(笑)。

4Gamer:
 音楽は難しいですねえ(笑)。

G.K氏:
 きっと絵だって同じですよ。これも「Destiny 2」の話になりますが,あのゲームはインタフェースが美しいんですよね。

4Gamer:
 シンプルでオシャレで使いやすい。個人的な意見ながら,現代のゲームインタフェースの究極形じゃないかと疑っています。

G.K氏:
 ○,□,△とか,記号のデザインも単純でいいですよね。つまるところ,音楽もそういうのは同じなんだと思います。

4Gamer:
 シンプルなほど印象に残ると?

G.K氏:
 “簡単で覚えやすい”と思われるのって,最強じゃないですか。“複雑だと印象に残らない”と言うと語弊ですし,複雑であればあるほど「すごい」と思われるかもしれませんが,口ずさんだりできるほど「簡単じゃない」とも思われます。当然,世の中には複雑にしたからこそできる表現もありますが。

4Gamer:
 現代の音楽家は誰しも,その均衡に悩んでいそうですね。

G.K氏:
 悩みどころですね。まあ,こういった考えも踏まえて,あらためて「少女前線のこれからのBGM」を宣言しておくと,今後は簡単さと複雑さを加味しながら,シナリオの雰囲気に合わせて感情を膨らませつつ,静かに入り,サビで高めて,クライマックスで盛り上げるなど,シネマティックな表現の音楽作りを心がけていきます。分かりやすい例だとあれです。「UNICORN」(「機動戦士ガンダムUC」メインテーマ)です。

4Gamer:
 分かりやすい(笑)。

G.K氏:
 中国のネットユーザーも,あれが流れたらサビで盛り上がる文化が定着していますし(笑)。

4Gamer:
 この家の中も,そこかしこに“日本のネットカルチャーで目にするアレ”がありますよね。スオミの後ろとか。

G.K氏:
 みんな好きなので(笑)。

4Gamer:
 それでは,明日に大一番を控えているところでお時間をくださり,ありがとうございました。最後に,Vanguard Soundの今後の意気込みを聞かせてください。

G.K氏:
 僕もみんなも,もっと個性的な音楽を作っていけるように頑張ります。先ほど例に出した“ヴァニラウェアの作品”のように,パッと見でも個性が伝わるような,そういうインパクトのある音楽を目指したいと思っています。

画像(021)ドルフロの音楽は“Vanguard Sound”が作ってる。ゲームサウンドで生きる上海の男たち

4Gamer:
 期待しております。ちなみにヴァニラウェアはどの作品がお好きで?

G.K氏:
 やっぱり朧村正です! “死狂”もクリアしました(※一撃死亡の最高難度)。

4Gamer:
 ガチじゃないですか……。

G.K氏:
 あとアーマード・コアなら「ARMORED CORE V」です。

4Gamer:
 フォーアンサーですかねぇ。未だにPVのホワイト・グリントがカッコよすぎて。

G.K氏:
 最初アリーヤで全然うまく飛べなくて,敵にやられて海に沈んで,「これ本当にPVと同じゲームか?」ってなりました(笑)。

4Gamer:
 そういえば,少女前線はどれほどのお手前なんでしょう。

G.K氏:
 少女前線ですか? これまでのスキンをすべて持ってるくらいです。

4Gamer:
 明らかにずっと最前線じゃないですか(笑)。


「Vanguard Sound」ホームページ


「ドルフロ」4Gamer内サテライトサイト


「ドールズフロントライン(旧名:少女前線)」公式サイト

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