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Yangtze(揚子江)
  • Piatonik
  • 発売日:2016/11/07
  • 価格:49ドル
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印刷2016/11/21 00:00

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クニツィア新作「Yangtze(揚子江)」と,宗教改革テーマの「Sola Fide」をSPIEL'16会場でプレイ。共に歴史がテーマの骨太な一作

 世界中から多くのボードゲームデザイナー達が集まり,数々の新作が発表されるSPIELだが,その中にはさまざまなテーマのタイトルが存在している。本稿ではその中から,Reiner Knizia(ライナー・クニツィア)氏の新作「Yangtze(揚子江)」(Piatonik)と,Jason Matthews(ジェイソン・マシューズ)氏&Christian Leonhard(クリスチャン・レオナルド)氏の新作「Sola Fide」(Stronghold Games)を紹介してみたい。アプローチは異なれど,ともに歴史をモチーフとした骨太なタイトルに仕上がっていた。


クニツィアジレンマがピリリと利いた「Yangtze(揚子江)」


 「モダンアート」「アメン・ラー」といったタイトルで知られるクニツィア氏は,日本のボードゲームファンの間でもよく知られたゲームデザイナーだ。その作品数は600以上にもおよび,今なお精力的に新作タイトルを生み出し続けている。
 氏が手がける今年の新作「Yangtze(揚子江)」は,タイトルどおり中国をテーマにした作品となっていた。清王朝期の揚子江を舞台に,商人となったプレイヤー達(2〜4人)が交易を行い,総資産を競うというのがその概要である。

「Yangtze(揚子江)」のプレイ風景。ちなみに2016年は,清朝成立400周年にあたる
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 各ターンでプレイヤーができるアクションは,以下の2つだ。

  • 場に出ている1つ以上の交易品チップを購入する。
  • 自分の手持ちの交易品チップを売却する。

 とてもシンプルなルールだが,その背後にはクニツィア作品に共通する奥深い駆け引き――いわゆるクニツィアジレンマが潜んでいる。揚子江を表現したボード上を流れてくる交易品の値段が刻一刻と変化するため,「どのタイミングで買うべきが」が,常に問われることになるのだ。
 詳しく説明しよう。
 場に並べられた交易品がプレイヤーによって購入されると,その全体が下流側にスライドし,新たな交易品が袋から取りだされて最上流に加えられる。交易品は上流であるほど高額に設定されるため,ターンが進んで交易が盛んになるほど,残った交易品は値下がりしていく仕掛けだ。

最初はコスト10だった交易品も,最終的には半額以下のコスト4にまで値下がりする。なお,交易品には奢侈品と日常品の2種類があり,奢侈品のほうが高く売却できる
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 とはいえ,単純に安くなるまで待っているわけにもいかない。プレイヤーは同じ種類,または同色の交易品を揃えて売却することで,通常よりも多額の資金を獲得できるので,多少高額で購入しても,条件さえ揃えば十分なお釣りが得られるほどの収支が得られる。もちろん値下がりしたタイミングで買えればベストだが,狙っている交易品をほかのプレイヤーが先に買ってしまう可能性だってあるわけで,どのタイミングで買えば良いのかで頭を悩まされる。

プレイヤーがどんな交易品を持っているかは非公開情報だが,購入時に見て覚えていれば,その意図を読むことは可能。相手の手を想像しながら,売買のタイミングを探るのが本作のキモなのだ
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 そのほかにも,使うことで有利な条件で売買できるようになる人物カードや,交易品チップと共に袋に入っている建物や皇帝のチップといった要素もあって,こうしたルールによって,ゲームボード上にはさまざまな局面が現れる。シンプルなルールではあれど,こうしたランダム要素が本作に奥深さを加え,交易ゲームのキモである売買の駆け引きを,より面白いものにしているわけだ。

建物チップは,獲得しておくとゲーム終了時に大きなボーナスとなって得点に追加される。獲得するには全プレイヤー参加のオークションに勝つ必要があり,ここでもクニツィアらしい駆け引きが展開される。ちなみに初値はチップをドローしたプレイヤーが決めるので,自分が引いた場合はほかのプレイヤーの足下を見て考えよう
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皇帝チップはイベントのような扱いで,引いたチップに応じてさまざまな効果が発生する。例えば所有する建物に応じて資金がもらえたり,資産額に応じて税金を徴収されたり,といった具合だ
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 SPIEL'16会場で実際に遊んでみたのだが,結果として筆者は大惨敗を喫してしまった。ルールの難度こそファミリーゲームのそれなのだが,先に説明したように,本作はプレイヤー間の駆け引きこそが勝利の鍵を握っている。この点を甘く見ていた故の敗北であって,至極納得の結果ではあったのだが。
 ただちょっと気になったのは,なぜ本作の舞台が揚子江なのか,という点だ。ゲーム的には,例えばヨーロッパのライン川やドナウ川が舞台であっても構わないはずで,そこは少し不思議ではある。まあ,先日紹介した「Kanagawa」しかり,欧米のボードゲーム業界はアジアブームの最中のようなので,単にその影響なのかもしれないが。

 いずれにせよ,こうしたプレイヤー間の駆け引きや,リソース配分を考えるのが好きな人にはうってつけの作品といえる本作。実にクニツィア氏らしいゲームでもあるので,氏のタイトルを遊んだことがないという人にも,オススメしたい一作といえる。


カトリック対プロテスタントの抗争を扱った「Sola Fide」


 ラテン語で「信仰のみ」という意味を持つ「Sola Fide」は,マルティン・ルターの宗教改革運動を題材としたタイトルの一つだ。SPIEL'16では,宗教改革運動500周年を記念して,同じテーマのタイトルが複数登場していたが,本作もまた,そうしたタイトルの1つである。

 このタイトルのユニークな点は,宗教改革がテーマだからといって,プロテスタント側の立場に偏ることなく,プロテスタントとカトリック双方の視点から対立に焦点を当てている点だ。またこの対立を,武力による闘争ではなく,それぞれの宗派が支持率を競い合う形で表現しているのも面白い。
 制作者のマシューズ氏は,東西冷戦を扱った傑作ボードゲーム「Twilight Struggle」の生みの親でもあり,またレオナルド氏も,マシューズ氏と共にアメリカ大統領選がテーマの「1960: The Making of the President」「Campaign Manager 2008」といったタイトルを以前に手がけた経緯があり,本作もまた,両氏ならではの着眼点によって生まれたタイトルと言える。

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 「Sola Fide」は大まかにいうと,エリアコントロールをベースに,カードデッキのメカニクスを加えた,2人プレイ専用の対戦ゲームだ。各プレイヤーは,プロテスタントあるいはカトリックのいずれかに陣営につき,場に並べられた神聖ローマ帝国の各地域を表した10枚のタイルの支配権をめぐって争う。
 このタイルには,貴族または平民のどちら側に権力があるか,そしてこの二つの身分がカトリックまたはプロテスタントをどのくらい支持しているかを示すコマが置かれている。
 プレイヤーは自身のデッキから引いてきたカードを使って宗派間のパワーバランスを動かし,支持を示すこのコマを増やしていく。タイルを支配している階級が自分達の宗派を支持していれば,そのタイルは自分達のものとなり,その逆であれば相手側のものになる,というわけだ。

例えばこの低地ザクセン地域では,平民(右側)が支配権を握り,プロテスタント(黒)がカトリック(赤)に対して優勢であることが分かる
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タイル獲得時には,各種のボーナスカードから1枚を選んでドローできる。自陣営を大きく有利に傾けられるさまざまな効果が揃っている
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 ここで特筆すべきは,プロテスタントだからといって,平民に支持されなければならないとは限らないという点。つまり,タイルの支配権を持つ階級を自らの宗派に改宗させるか,あるいは自らを支持している階級に,タイルの支配権を取らせるかは,プレイヤー次第なのだ。こうして10枚のタイルの帰属がすべて決定するまでゲームは続き,獲得したタイルに書かれたポイントの合計点が高いプレイヤーが勝者となる。

左がカトリック陣営のカードで,右がプロテスタント陣営のカード。両宗派のカードデッキはそれぞれまったく別のものが用意されていて,その効果もまちまちだ。なお,いずれも歴史的事件をモチーフにしたカード名になっている
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 実際にプレイしてみても,ルールはそこまで複雑ではなく,思っていたよりも手軽に遊べるタイトルと感じられたが,その一方で考えることは多く,宗派の影響力や階級間の力関係といったさまざまな要素を複数のタイルで調整する思考力が求められる。そのため長考を余儀なくされることもしばしばで,こうした複雑な状況から最善手を見つけ出すのが好きなゲーマーにとっては,実に楽しめるタイトルと感じられた。

ゲームが進むにつれて,新たなタイルがプレイ可能になっていく。それぞれの地域でどの宗派や身分が強いかは,史実の状況に基づいているようだ
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 さらに言えば,筆者のような歴史ファンにとっては,本作はかなり魅力的だ。カード名などにフレーバーとして出てくるキーワードは,同梱の小冊子に(英語だが)解説があり,宗教改革のマニアックな歴史をゲームを通じて知ることができ,キリスト教内の対立という重いテーマを楽しみながら学ぶことができる。もちろんフレーバーをまったく理解しなくても遊べるが,読み物としても面白いので,ゲーム後はつい小冊子を開きたくなる魅力がある。

 ともあれ,ガチガチの教育用ゲームというわけでもなく,さりとて,たかがゲームと手を抜くわけでもない。筆者としてはそうしたスタンスが非常に気に入ってしまった。16世紀のヨーロッパの歴史に興味がある人には,ぜひ一度プレイしてみてほしいタイトルだ。

こちらが付属の小冊子。ゲームのルールと歴史用語の解説が書かれている
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