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「Radeon R9 Nano」レビュー。全長159mmのFijiは,ここ数年で最も魅力的なRadeonだった
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印刷2015/09/10 21:00

レビュー

全長159mmのFijiは,ここ数年で最も魅力的なRadeonだった

Radeon R9 Nano
(Radeon R9 Nanoリファレンスカード)

Text by 宮崎真一


R9 Nanoリファレンスカード。AMDの日本法人である日本AMDから入手した。正味の貸出期間は約2日である
画像集 No.002のサムネイル画像 / 「Radeon R9 Nano」レビュー。全長159mmのFijiは,ここ数年で最も魅力的なRadeonだった
 「Radeon R9 Nano」(以下,R9 Nano)が日本時間2015年8月27日21:00にペーパーローンチされて約2週間。4Gamerはこのタイミングで,短時間ながらR9 Nanoのリファレンスカードを試す機会を得た。

 積層メモリ(Stacked Memory)技術に基づく「HBM1」(HBM:High Bandwidth Memory)を,GPUダイと同じパッケージに搭載するRadeon R9 Furyシリーズにあって,R9 Nanoは,その製品名が示すとおり,公称カード長が約6インチ(約152.4mm)と,非常に短いのが最大の特徴だ。
 シリーズ最上位モデル「Radeon R9 Fury X」(以下,R9 Fury X)の場合,公称カード長自体は短いものの,外付けの簡易液冷ユニットを搭載していた。それに対してR9 Nanoは2スロット仕様の空冷クーラーを搭載して,さらに短くなっているわけだが,果たしてその性能,価格対性能比,そして冷却周りは,小型かつ高性能なゲームPCを望む人の期待に応えるものとなっているのか。テストを通じて確認してみよう。


R9 Fury Xとほとんど同じスペックながら

電圧と動作クロックを抑えることで低消費電力を実現


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Radeon R9 FuryシリーズのGPUである「Fiji」(フィジー)。大きなGPUダイ1基と,小さな積層メモリ4基が,1つのプロセッサパッケージ上に載っている
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Fijiのブロック図。R9 Nanoで,このフルスペックから削減された要素はない
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AMDが公開しているR9 Nanoの主なスペック
 約2週間前のニュース記事でもお伝えしているが,R9 Nanoのスペックで衝撃的なのは,GPUの規模が,R9 Fury Xとまったく同じであることだ。「Graphics Core Next」(以下,GCN)アーキテクチャに基づくため,AMDが「Stream Processor」と呼ぶシェーダプロセッサ16基がひとかたまりになった実行ユニットが4基と,キャッシュやレジスタファイル,スケジューラ,テクスチャユニットなどが集まって「Compute Unit」(「GCN Compute Unit」ともいう)を構成する点が同じなのは当然なのだが,Compute Unitを16基束ねて“ミニGPU”たる「Shader Engine」を成しているところ,そしてそのShader Engineを4基搭載するところまで,R9 NanoはR9 Fury Xと同じなのである。

 搭載するHBM1のメモリインタフェースが4096bitで,それを1000MHz相当で駆動させることによって512GB/sものメモリバス帯域幅を実現している点も変わりなし。スペック上の違いは,ブースト最大クロックが50MHz低いことと,公称典型消費電力が100W低いことだけである(表1)。

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 ここで,当然の疑問が出てくるだろう。R9 Fury XとGPUの規模がまったく同じで,GPUコアの最大動作クロックが50MHz下がっただけなのに,なぜ公称典型消費電力が100Wも下がり,簡易液冷クーラーも不要になるのだろうか。
 その理由を把握するため,ここではR9 NanoとR9 Fury Xを用意し,後述するテスト環境で,「3DMark」(Version 1.5.915)の「Fire Strike」を実行している最中のGPUコアクロックとコア電圧を「GPU-Z」(Version 0.8.5)で追ってみることにした。その結果がグラフ1,2だ。
 グラフ1はGPUのコアクロック,グラフ2はコア電圧を追ったものとなる。AMDが公式に「(未公開の)内製ツール以外で,動作クロックを正確に追うことはできない」としているため,結果はあくまでも参考程度となるが,それでも「R9 Nanoの動作クロックとコア電圧がR9 Fury Xよりも低めで推移している」ことは一目瞭然と述べていいように思う。R9 Fury Xだと最大動作クロックである1050MHzに張り付く局面があるのに対し,“GPU-Z読み”だと,R9 Nanoは一度も1000MHzに達していない。中心クロック帯は900MHz弱だ。
 また,コア電圧も,R9 Fury Xは1.2063Vまで上昇するのに対し,R9 Nanoは最大でも1.1688Vと,かなり低くなっている。

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 このテストを通じて,R9 NanoのGPUコア温度は71℃までしか上がっていないため,「温度上昇によって動作クロックが抑えられた」とは考えにくい。消費電力,つまり電流値を監視し,175Wを超えないように動作クロックとGPUコア電圧を制御するようになっていると判断するのが妥当だろう。


カードサイズは実測で約159mm

Mini-ITXの170mmよりも短いサイズを実現


ビデオ出力インタフェースはDisplayPort×3,HDMI(1.4)×1。DVIは用意されない
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 続いて,入手したR9 Nanoリファレンスカードを概観してみたい。
 まず,最も気になるカード長は実測で約159mm(※突起部含まず)。現行世代のGeForceでMini-ITXサイズに対応できる最上位GPUは「GeForce GTX 970」」ということで,今回はASUSTeK Computerの「GTX970-DCMOC-4GD5」と比較してみたが,いわゆるMini-ITXサイズのグラフィックスカードと比べても,R9 Nanoはさらに小さいわけである。

ASUSTeK Computer製の短尺GTX 970カードであるGTX970-DCMOC-4GD5と比較したところ(左)。見てのとおり,R9 Nanoのほうが短い。右は,手元にあったSapphire Technology製の「ATI Radeon HD 5450」カード「SAPPHIRE HD 5450 512M DDR3 PCIE」と並べたところだ。ローエンドカードよりも短いというのは,なかなか衝撃的といえる
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 PCI Express補助電源コネクタは8ピン×1で,試しに6ピンケーブルを差してみたところ,正常に動作しなかった。
 なお,R9 Fury Xと「Radeon R9 Fury」にあった,9個のLEDによってGPUコアの負荷状況を通知する「GPU Tach」は省略されている。一方で,2基のグラフィックスBIOS(VBIOS)を切り替えられる「Dual BIOS Toggle Switch」は健在だ。

カードの側面部にちらっと見えるスライドスイッチがDual BIOS Toggle Switchである
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AMDが公開した分解イメージ
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 GPUクーラーは2スロット仕様で,ファンは90mm角相当。今回も,日本AMDはGPUクーラーの取り外しを禁じているため,提供された製品画像を見ていくことになるが,それによれば,Fijiの熱は,二連構成とされるVapor Chamber(ヴェイパーチャンバー)仕様の枕で受けて,それと2本のヒートパイプによって放熱フィンへと運ぶ仕様だ。また,それとは別に,VRMの熱処理専用となるヒートパイプ&放熱フィンからなる小型パッシブクーラーも搭載されており,VRMの熱も,ファンを使って処理する仕様になっている。

GPUクーラー部の底面(左)と,それが置かれることになるグラフィックスカード側(右)。GPUパッケージ部の熱はVapor Chamberへ直接伝わる仕様になっている一方,GPUとコイル以外のコンポーネントは,ほぼすべてが補強板兼熱伝導板と思われる黒い金属カバーで覆われているのが分かる。VRM部用に専用の小型パッシブクーラーを搭載する点にも注目したい
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 クーラーを完全に取り外した画像も公開されているが,それを見る限り,電源部は4+2フェーズ構成ではないかと思われる。

GPUクーラーを取り払った基板面の画像。見る限りは4+2フェーズ電源部のようだ
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レビュワー向けドライバを用いてテスト

R9 Fury XやGTX 980&970などとの比較を実施


 テストのセットアップに入ろう。
 今回は,表1で挙げたGPU,具体的にはR9 Fury Xと「Radeon R9 290X」(以下,R9 290X),そして「GeForce GTX 980」(以下,GTX 980)とGTX 970を,比較対象として用意した。基本的にはリファレンスカードで揃えているが,GTX 970カードとして用意したGTX970-DCMOC-4GD5だけは,メーカーレベルで動作クロックが引き上げられたクロックアップモデルであるため,今回は,MSI製のオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.1.1)を用いて,リファレンスレベルにまで動作クロックを引き下げている。
 一方,R9 290Xでは,標準で2つの動作モードが用意されていることから,より高い性能を期待できる「Uber Mode」に設定した。

 R9 Nanoのテストに用いたグラフィックスドライバは,AMDが全世界のレビュワーに対して配布した「15.201.1102-150806a-188638C」。テスト開始時点の公式最新β版ドライバである「Catalyst 15.8 Beta」の「Display Driver」バージョンは「15.201.1151-150821a-188451E」なので,それより少し古いところから派生したものという理解でいいのではなかろうか。
 ちなみに今回のレビュワー向けドライバは,R9 Fury XおよびR9 290Xにも対応していたため,今回はこれでバージョンを揃えることにしている。

 GeForceのテストに用いたドライバは,テスト開始時点における公式最新版となる「GeForce 355.82 Driver」だ。そのほかテスト環境は表2を参考にしてほしい。

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 テスト内容は4Gamerのベンチマークレギュレーション17.0。ただし,64bit版Windows 10 Proでは,ディスク版を使ってアクティベートした「Crysis 3」が(セキュリティツールの問題で)起動しないため,テスト対象から省いていることをお断りしておきたい。
 テスト解像度の設定は,AMDが「4K」を謳っていることから悩んだのだが,最終的には,「R9 Fury Xでプレイアブルなフレームレートが出たのは,多くのテスト条件において2560×1600ドットまでだった」事実を踏まえ,1920×1080ドットおよび2560×1600ドットを選択している。

 なお,これは“いつものこと”だが,テストに用いたCPU「Core i7-6700K」の自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によって挙動が変わる可能性を排除すべく,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。


GTX 980と勝ったり負けたりで,GTX 970を圧倒

文句なしに史上最速のMini-ITXカードだ


 以下,性能検証のグラフでは,一番上をR9 Nanoとし,残りはRadeon,GeForceの順でそれぞれモデルナンバー順に並べてあるが,グラフ画像をクリックすると2560×1600ドット条件のスコアを基にしたグラフを表示するようにしてあると紹介しつつ,3DMarkの総合スコアから見ていくことにしよう。
 グラフ3がその結果となるが,R9 NanoのスコアはR9 Fury Xの約88%。本稿の序盤で示したコアクロックの推移を踏まえると,妥当な結果になっている印象だ。

 また,R9 290Xに対して16〜23%程度,GTX 980に対して6〜9%程度,GTX 970に対して26〜28%程度高いスコアを示しているのも目を引く。いずれの比較対象に対しても,描画負荷のより高いFire Strike Extremeでギャップを広げているあたりは,HBM1の持つメモリバス帯域幅の効果と述べていいように思う。

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 続いてグラフ4,5は「Far Cry 4」の結果だ。Far Cry 4では「MEDIUM」の1920×1080ドットで相対的なCPUボトルネックによるスコアの頭打ちが見られるが,解像度2560×1600ドットでのスコアに着目すると,R9 Nanoは,対R9 Fury Xで83〜84%程度のスコアであって,おおむね3DMarkを踏襲した印象である。
 ULTRAの2560×1600ドットでGTX 980に対して約22%,GTX 970に対して約42%というスコア差を付けているあたりは,大変景気がよい。このあたりはメモリバス帯域幅の優位性が如実に出ているといったところか。

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 さらに「EVOLVE」の結果がグラフ6,7となるが,EVOLVEではGeForceのスコアが伸び悩む傾向にあることもあって,Radeon R9 Fury シリーズの2製品が完全に抜け出している。R9 NanoとGTX 980のスコア差は25〜32%程度にまで広がり,さらに対GTX 970では42〜56%程度と,ほとんど勝負にならないところまで開いている。
 なお,R9 NanoとR9 Fury Xの力関係自体は,3DMarkとほぼ同じだ。

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 グラフ8,9は「Dragon Age: Inquisition」(以下,Inquisition)の結果だが,ここでのスコア傾向は全体的に3DMarkとよく似ている。R9 Nanoの対GTX 980は勝ったり負けたりだが,勝っているシーンが「高負荷設定」の2560×1600ドットであることからは,ここまで繰り返し指摘してきた,メモリ周りの優位性をあらためて確認できよう。
 R9 NanoとR9 Fury Xのスコア差は6〜10%で,ここまでと比べると若干詰まり気味である。

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 「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)テスト結果をまとめたものがグラフ10,11となる。FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチは,Radeonファミリーには分が悪いベンチマークなのだが,それでもR9 Nanoは1920×1080ドットで対GTX 980のスコアが92〜105%と,踏ん張りを見せている。
 「最高品質」の2560×1600ドットにおいて,スクウェア・エニックスが示しているベンチマークスコア指標の最上位「非常に快適」のラインであるスコア7000を上回っている点も評価できるところだ。

画像集 No.034のサムネイル画像 / 「Radeon R9 Nano」レビュー。全長159mmのFijiは,ここ数年で最も魅力的なRadeonだった
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 なおグラフ10’,11’は,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチにおけるフレームレートベースのスコアをまとめたものになる。興味のある人はこちらもチェックしてほしい。

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 性能検証の最後はグラフ12,13の「GRID Autosport」だ。
 GRID Autosportでは,Radeonのスコアが伸び悩む傾向になるのだが,案の定というかなんというか,R9 Nanoのスコアはパッとしない。1920×1080ドット条件ではGTX 970にすら大きく置いていかれてしまった。
 ただ,2560×1600ドットでは,メモリ周りの優位性から,GTX 980に届かないまでも,GTX 970は上回ってくる。

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消費電力はR9 Fury Xから100W以上も低減

GTX 980と戦えるレベルに


 前述のとおり,R9 Nanoの公称典型消費電力は175Wで,この数字はR9 Fury Xより100W低いわけだが,本当に,そんなにうまくいっているのか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみたい。
 テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。

 その結果はグラフ14のとおりだ。アイドル時は,R9 Fury Xのみ,簡易液冷ユニットのポンプの消費電力が加算されるため若干高いものの,基本的には横並びと見ていいだろう。ちなみに,アイドル状態が続いたとき,ディスプレイ出力が無効化されるよう設定したところ,R9 Nanoの消費電力は60Wにまで低下したが,ファンは停止しなかった。AMD独自の省電力機能「AMD ZeroCore Power Technology」はうまく動作していないように思われる。

公式には,R9 Nanoの消費電力はR9 290Xより30%少ないとアピールされている
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 さて,注目のアプリケーション実行時だが,結論からいうと,R9 Nanoの消費電力は,本当にR9 Fury Xより100W低い。正確を期すと,92〜121W低かった。しかも,GTX 980比で「同等」とまでは言わないものの,消費電力はプラス7〜21Wに抑えられている。前段で示した性能差も踏まえると,消費電力あたりの性能ではほぼ互角と述べていいのではなかろうか。最近のRadeonは,とにかく消費電力あたりの性能で第2世代MaxwellベースのGPUにまったく歯が立たなかったので,この結果は衝撃的だ。

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 本稿の序盤で,温度が低く抑えられていることはお伝えしているが,あらためて計測してみよう。ここでは,3DMarkの30分間連続実行時を「3DMark時」として,アイドル時ともども,GPU-ZからGPU温度を追った。その結果がグラフ15だ。テスト時の室温は24℃で,システムはPCケースに入れることなく,いわゆるバラックの状態でテストを行っている。

R9 Nanoのターゲット温度は75℃とのこと
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 注意してほしいのは,用意したグラフィックスカードでGPUクーラーも温度センサーの位置も異なること。横並びの比較には向かないので,あくまでもR9 Nanoの温度をチェックするための指標程度に留めてほしいと思うが,3DMark時でも74℃と,GTX 980やR9 290Xと比べて明らかに低い。
 なお,R9 Fury Xがずば抜けて低いのは,簡易液冷ユニットを搭載するためだ。

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AMDは,R9 Nanoの動作音が,図書館レベルの静かさを保つと主張している。実際,ファンの動作音自体は静かだった
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 カード自体が小型であるにもかかわらず,GPU温度が低いことで,動作音が気になる人もいると思うが,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,R9 Nanoの動作音は相当に静かだ。ただし,入手した個体はかなり大きめのコイル鳴きがあり,個人的にはこれが大幅な減点対象となった。
 コイル鳴きは個体差によるところが大きいので,すべてのR9 Nanoカードで同じ問題を抱えているわけではないだろうが,仮にコイル鳴きする個体を“引いて”しまった場合は,かなりがっかりすることになるのではなかろうか。


ここ数年で最も魅力的なRadeon

強気すぎる価格設定を許容できるかがカギ


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 以上のテスト結果から,R9 Nanoは,ざっくりGTX 980と同程度の性能,同程度の消費電力で,しかもMini-ITXプラットフォームで運用可能な製品だとまとめることができる。とくに印象的なのは,スペック面,性能面で妥協することなく,消費電力で第2世代Maxwellに太刀打ちできていること。ここ2〜3年の間に登場した中で,最も魅力的なRadeonとさえ言ってもいいように思う。

 ただ,そんなR9 Nanoにも弱点はある。それは価格だ。R9 Nanoの北米市場における想定売価は649ドル(税別)で,これはR9 Fury Xと同じ。ざっくりまとめるなら,AMDは,R9 Fury Xで「実測約196mmのカード長を実現し,さらに簡易液冷クーラーを搭載したこと」と,R9 Nanoで「実測約159mmのカード長を実現し,Mini-ITX仕様最速を実現したこと」を,ほぼ等価値と位置づけているわけだ。ハイエンドGPUを搭載しながらMini-ITX仕様を満たしたことに,そこまでの価値を見出せるかというのが,R9 Nanoを購入するにあたっての,最初のハードルとなる。

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 また,日本市場特有の問題もある。649ドルを単純に日本円換算すると約7万8200円。そこに消費税8%を載せると約8万4400円だが,日本市場において,R9 Nanoの初値は軽く10万円を超えてくる。R9 Nanoに性能面で大きく引き離されるとはいえ,それでも十分に高速なGPUといえるGTX 970を搭載したMini-ITXカードの税込実勢価格が4万〜5万2000円程度なので,R9 Nanoの価格は軽く2倍。「2倍の価格差を許容できるのか,10万円以上のコストをかけられるのか」というのが,2つめのハードルとなるはずだ。

 そもそもAMDの価格設定が相当に強気であって,これまでのMini-ITX対応グラフィックスカードとは異なる位置づけの製品なのは間違いない。なので,ごくごく限られたニーズに向けた,特殊な仕様のGPUという理解が,R9 Nanoに対しては,おそらく正解なのではないかと思う。
 予算に糸目をつけず,とにかく小さくて性能の高いゲームPCを作りたいユーザーにとってのR9 Nanoは,文句なしに最高の製品である。

R9 Nanoのタグラインは「Small Size, Giant Impact」(小さなサイズ,大きな衝撃)。確かにいろいろな意味で衝撃的なGPUだ
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AMDのRadeon R9シリーズ製品情報ページ

  • 関連タイトル:

    Radeon R9 Fury

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