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[CEDEC 2016]「自衛隊コレクション」はどのように生まれたのか? 政府広報ゲームの開発ノウハウと,その未来が語られたセッションをレポート
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印刷2016/08/26 18:24

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[CEDEC 2016]「自衛隊コレクション」はどのように生まれたのか? 政府広報ゲームの開発ノウハウと,その未来が語られたセッションをレポート

東京電機大学非常勤講師の蔵原 大氏。共同発表者としてジャーナリストの小野憲史氏もクレジットされていたが,登壇したのは蔵原氏のみだった
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 CEDEC 2016の2日目となる2016年8月25日,「行政、広報、ゲームの『今』」と題した講演が東京電機大学の非常勤講師を務める蔵原 大氏によって行われた。

 その難度の高さで話題となった「自衛隊コレクション」iOS / Android)がどのような狙いで開発されたか,また,このような政府や地方自治体が展開するプロジェクトの受注におけるノウハウが紹介されたので,レポートしよう。

 本題に入る前に,自衛隊コレクションをご存じない人のために,ざっくりと説明しておこう。本作は,防衛省がリリースしている自衛隊の陸海空三幕公認のスマートフォン向けゲームで,非常にシンプルながらも高難度な作りが話題となり,少なからぬ中毒者を出した。アプリはApp StoreやGoogle Playで無料配信中だ。


1500万円で作られた「自衛隊コレクション」


 講演ではまず,自衛隊コレクションのようなゲームが含まれる「政府広報ゲーム」というジャンルの定義が語られた。
 政府広報ゲームはシリアスゲームの一種であり,特に「政府機関が制作した広報という社会的目的を持つ」とされる。この「広報という社会的目的」というのは,本講演におけるひとつの大きなキーワードである。

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 自衛隊コレクションは2015年3月にリリースされ,関係者の想像以上の大反響を得たという。実際,同作はさまざまなWebメディアに取り上げられている。
 このため2016年の8月から9月を目標として,追加バージョン(低難度版)のリリースも予定しているそうだ。これは政府広報ゲームとしてはかなり異例と言っていい。

 かように大成功を収めている自衛隊コレクションの制作費用は1485万6000円。控えめに表現しても「格安」と言わざるを得ない金額だ。しかもこの費用には「自衛隊コレクション」用Webサイトの制作費も含まれている。本当ですか,と聞きたくなるような予算だが,この数値は資料開示を通じて誰でもアクセスできる書類に明記されている。

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政府広報ゲームを調査するには


 さて,自衛隊コレクションのような政府広報ゲームは,相当な数が存在する。
 世界的な先行事例としては,米陸軍が開発した「America's Army」や,WFP(国際連合世界食糧計画)とKONAMIによる「Food Force」などが挙げられる。
 日本国内でも,少し前に話題になった財務省の予算編成ゲームや,JAXAの人工衛星製作ゲームなど,多数の政府広報ゲームが存在する。日本の官公庁および多くの地方自治体が「シミュレーション」や「キッズコーナー」などに,このようなコンテンツを置いているとのことだ。

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 このようにサンプルが多い政府広報ゲームだが,実際の調査には意外な困難が待ち構えている。
 取材調査そのものは,行政文書の開示請求で詳細を把握し,担当者にアポを取ってインタビューすればいい。しかしながら政府広報ゲーム制作に関する資料は「広報コンテンツ向け」で,保存期間が短ければ1年,長くて5年程度となっており,保存期間終了後は破棄されてしまう。

 また担当者に話を聞こうにも,相手は官公庁であるため,定期的な異動がある。担当が変わってしまったあとでインタビューを申し込んでも「前の人がやったことなのでよくわからない」という事態が発生するのだ。

 蔵原氏は,開発受注などのために調査をするのであれば,「事前準備はもちろん必要だが,短期決戦で挑む必要もある」と指摘する。具体的には,ゲームがリリースされてから1年以内に調査を開始しなくては,資料ないし担当者を追跡できなくなるというわけだ。

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自衛隊コレクションはどのようにして作られたのか


 自衛隊コレクションの制作には,主に3つの組織と企業が関わっている。

・防衛省陸上幕僚監部(以下,陸幕)
・大広
・BBmedia

 陸幕が発注元となり,大広がこれを受注,BBmediaが制作を行うという構図である。

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 さて,ではまず陸幕はどういう意図で発注したのだろうか。
 陸幕はそもそもこの企画を「ゲーム制作の企画」としてスタートさせたわけではない。これは広報事業であり,大広が提出した「ゲームコンテンツ」という案がコンペを通ったため,結果的にゲームとなったのである。

 この「広報コンテンツの一部としてのゲーム」という視点は,政府広報ゲームを考える上では重要だ。ゲームとしての完成度はもちろん高いほうが望ましいが,自衛隊の広報コンテンツとして,あまりにふざけているような印象を与えたり,プレイヤーに不安を与えたりするような内容は望ましくないというわけだ。

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 実際,陸幕の担当者からは「プレゼンで細かな技術に関する話をされることがあるが,それはこちらが求めるものとズレている」という話があったという。
 陸幕として求めているのは「広報コンテンツとしてどのような成果を予測できるか」という点であり,特に話題性や拡散性といった点について具体的な数値目標が示されているほうが,評価しやすいのである。

 なので,「政府広報ゲームを作るぞ!」と意気込んで「ゲームのプレゼン」をすると,すれ違いの原因となり得る。政府や地方自治体が求めているのは,あくまで「広報のプロ」なのである。

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 続いて,受注した大広側を見てみよう。
 大広としては,「みんなが簡単にできるゲーム」でありつつも,すぐに消費し尽くされてしまうようなゲームは避けたいという意図があったという。結果,簡単操作の高難度ゲームとなった。

 この「すぐに消費し尽くされるゲームを避ける」という目標には,政府広報ゲームならではの理由がある。というのも,政府広報ゲームでは,パッチや追加コンテンツの配信といった「運営」がほぼあり得ないからだ。よって,遊び尽くされたらそこで終わりなのである。

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 もう1つ難しい(あるいは普通のゲームと違う)ところとして,政府広報ゲームの企画を通す場合,役所内で多くの稟議を通さねばならないという点がある。このため自衛隊コレクションでは,防衛省内部を巡回させやすい企画書を用意したという。つまり,ゲームに詳しくない人であっても,その企画書を読めば全貌が理解できる企画書を作ったというわけだ。

 このあたりは,発注元となる省庁や役場の内部事情にある程度まで詳しいほうが「有利」だ。事情が把握できていないと,上のほうで企画が止まりかねないのである。

 このように普通でない苦労を伴う政府広報ゲーム(しかも低予算)だが,大広としてはメリットも感じているという。
 まず,未収金が発生しないこと。そして最初に提示された金額が突如下がったりしないこと。このあたりは,“お役所”相手ならではだろう。

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 最後に,開発を担当したBB media側を見てみよう。
 BB mediaとしてはまず,キャラクターデザインなどが「可愛くなりすぎない」ことを意識したという。これはターゲットユーザーに配慮するというより,発注元に対する配慮という面が大きいとのこと。あまりに可愛すぎるデザインの場合,発注元が「馬鹿にされているような印象を受けることがある」というのである。

 また政府広報ゲームならではの困難として,当然ながら発注元がゲームのプロではない,という点が挙げられる。資料をもらおうとしても,「ゲームを作るためにどんな資料が必要か」を理解していないため,ピントのズレた資料ばかり出てくることがあるとのことだ。

 このため制作側としては必要な資料を自分で調べておく必要が発生する。機密性の高い資料を参照する必要がある政府広報ゲームを手がける場合,発注元とは事前に念入りな打ち合わせが必要になるだろう,と蔵原氏は語った。

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 さて,このようにして三者三様に苦労しながら制作されリリースされた自衛隊コレクションは無事,大きな反響を得ることとなったわけだが,ここにおいて最も興味深いのは,発注元の陸幕がWebでの反響をしっかりとチェックしている,ということである。広報事業としては当たり前だが,きちんと効果測定を行っているのである。


政府広報ゲームの未来


 以上の取材と調査から,政府広報ゲームを巡るさまざまなノウハウが見えてくる。

 最も重要なのは,政府広報ゲームが「広報である」ということの理解だろう。ただゲームを作るのではなく,「広報コンテンツ」としてデザインしなくてはならない。
 加えて,一言で言えば「真面目でマメな仕事ができること」も重要だ。このあたりの「普通のことを普通にきちんとできる」という能力は,政府広報ゲームの開発においては,ゲーム開発経験よりも重視される側面があるという。

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 また,発注側の事情や,組織の文化に対する理解と敬意も欠かせない。例えば米陸軍における大きな成功事例である「America's Army」は,日本から見ると「派手すぎ・不安を煽り過ぎ」という問題がある。
 こういった文化や風土の違いをきちんと理解し,それを企画として反映させられれば,コンペなどにおいても有利になるかもしれない。

 これは質疑応答での内容となるが,官報に「ゲームを作ってほしい」という依頼が掲載されることはまずなく,「広報コンテンツ制作」「子供に馴染みのあるコンテンツの制作」といった文言になっていることが多いという。
 このあたり,「ゲーム」という言葉を迂闊に出せないお役所の事情(「ゲーム」という文字が入った途端に稟議が通らなくなるというケースは珍しくない)も透けて見えるが,ともあれ政府広報ゲームの受注を目指す企業においては,発注の把握にもノウハウが必要だと言えるだろう。

 蔵原氏は最後に,「政府広報ゲームは,公共事業や社会インフラのプロである政府,メディアコンテンツ企画制作のプロである企業,そして情報拡散や二次創作の“プロ”であるプレイヤーという,『プロの集合知』として成立する側面がある」と指摘した。

 プレイヤーを一種のプロと見なすことには抵抗があるかもしれないが,シチズン・サイエンスにおける成果(ゲーマーがゲームとして提示される科学プロジェクトに参加し,大きな成果を挙げる事例は多い)を見れば,政府広報ゲームにはまだまだ大きな可能性があるのだ。

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