ファンに売れる作品だけでなく
子供達が最初に見るアニメを整備しなければ(田中氏)
4Gamer:
ところで,田中さんは4年前から歌手活動をスタートしていますが,何か理由があったんでしょうか?
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私は,デモテープは自分で歌ってきたんですよ。以前,オペラ歌手の錦織 健さんに曲を書いたとき,デモテープを聴いた錦織さんが「先生がご自分で歌ったほうがいい」なんて言ってくれましたけど,そんなの私が歌って売れるわけがないことぐらい分かってます。最初から歌手としてやっていたら,今頃この業界にはいないでしょう(笑)。
ただ,作曲家としてとりあえず形にはなったので,違うこともやろうかなと。で,歌手をやってみたら,コンサートやライブができるようになって,それが嬉しいんですよね。
前山田氏:
分かります。それは大きいですよね。
田中氏:
いろんな人とコラボもできますからね。去年はスウェーデンとドイツでライブをしてきたんですが,今年もあちこちに行く予定です。
4Gamer:
世界を股にかけての活躍ですねぇ。
田中氏:
海外にはまだまだビジネスチャンスがあるんです。例えばブラジルなんて,JAM Projectが大人気だし,串田アキラさんだってサンパウロ空港に着いたら2000人ぐらいのファンが待ち構えていて,「ダイレオン! ダイレオン!」って叫んでたそうなんです。それ,「巨獣特捜ジャスピオン」の戦艦の名前ですからね。何でそんなの知ってるんだって。
4Gamer:
意外なものが意外な場所で受けているという。
田中氏:
そういうのはほかの国でもいろいろありますからね。ドイツのコンベンションに呼ばれたときも,私一人のピアノリサイタルに2000人来てくれましたし。もちろん,コンベンションがあるからついでに来てくれた人も多いんでしょうけど,「サクラ大戦」メドレーを弾いていたらずっとシーンとしてて,最後に終わったらもの凄い歓声でね。みんな咳一つせずに真剣に聴いてくれていたんですよ。
4Gamer:
音楽家が真剣に演奏していれば,聴衆も真剣に受け止めようとする,そういう文化がきちんと根付いていますよね。
田中氏:
そうです。それと,ゲームとアニメの地位が日本より高いというのもあるでしょう。
日本だと,「オタク」という言葉が流行りすぎて,ゲームやアニメをバカにするような空気が蔓延しているんですよね。世界ではリスペクトされているのに。だからいまだに,「なんでアニメの音楽をやってるんですか?」って言われますもん。
4Gamer:
なんでアニメ「なんかを」という扱いですよね。
田中氏:
年配の方はとくにね。若い人は,そういう偏見がだいぶなくなっていて,私がワンピースの曲を書いてるなんていうと,騒いでくれるんですけど(笑)。
前山田氏:
最近は,アニメや声優,あとはアイドルなんかもそうなんですけど,わりと近い過去や現在にブームになっているからなのか,オタク文化に対する偏見はだいぶ少なくなってきたような気はします。
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田中氏:
でもアニメでDVDが売れるのは,“萌え”か“スタイリッシュ”のどっちかでしょ。全体的につまらなくはなってますよ。それもあるから,地位が向上しないというのもあると思います。
4Gamer:
DVDやBlu-rayが売れる作品と,テレビで見ればいい作品って,本来は別の軸で評価していいものだと思うんですが,パッケージが売れるものが圧倒的に正しいみたいな雰囲気はありますね。
田中氏:
「日常」も面白かったのに,パッケージでは売れなかったですし。
4Gamer:
NHKでも放送されるなど,別の形の広がり方は見せたんですけど。
結局,作品のジャンルや特性ごとに, パッケージの販売というだけではなく,適切な売り方を考える必要があるということなのかもしれません。
田中氏:
そのとおりでしょうね。「サザエさん」をDVDで見ようとは,ほとんどの人が思わないじゃないですか。
4Gamer:
凄く古いサザエさんと最近のサザエさんを見比べられるような商品だったら,ちょっと興味はありますけど。
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確かにそれなら見たいですね。それで,サザエさんを第1話から見る回とかやったら……どんだけ時間かかるのかな(笑)。
でもやっぱり本当はね,ファンに売れるだけのアニメじゃなくて,無垢なままの子供達が最初に見る作品とか,そういうものをちゃんと整備してあげないといけないんですよ。だから名作劇場なんかは絶対に続けるべきだったんですよね。
4Gamer:
一度終わらせてしまうと,再開は難しいですから。
田中氏:
そう。あとは,「まんが日本昔話」。あれも必要なんですよ。どこの放送局でもいいから,ちゃんとやってほしいですね。
いや,本当は僕らがやらなきゃいけないことなんです。これだけアニメ業界で仕事をさせていただいたんだから,恩返ししないと。そういうつもりで,「怪傑ゾロリ」の音楽は担当したんですけど,3年間いい視聴率だったのに終わってしまってね。
前山田氏:
あれはいい作品ですよね。僕も怪傑ゾロリを読んで育ちました。でも確かに,ああいう作品は最近,少ないかもしれないですね。
「先生に全部お任せします」と言われたのに
「何か違う」と言われるのが一番困る(田中氏)
4Gamer:
がらっと話題を変えさせてください。
田中さんは,これまでたくさんの劇伴を手がけられてきていますが,その都度,具体的なイメージを共有してから作曲に取りかかるんですか?
田中氏:
「以前の○○みたいな感じでお願いします」みたいなこともありますし,「先生に全部お任せしますよ!」と言われることもあります。ただ,ある程度,具体的なイメージを持って発注してくれたほうが,やりやすいのは確かですね。お任せしますと言っていたのに,作った曲に対して「何か違うなぁ」みたいに言われてしまうのが一番怖いです。何が違うのか,分からないんですから。
前山田氏:
ありますね。お任せしますって言われたのに,「これは何か違う」っていうダメ出しって。
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田中氏:
初めに言ってくれれば,こっちもそれに合わせられるんですけどねぇ。
それに私は劇伴の場合,めったにデモテープを提出しないので,そういうトラブルになる可能性も高いんですが,打ち合わせにはちゃんと時間をかけるんです。こういうの書きますけどいいですね? ここはちゃんと任せてください。これは遊びますからいいですね? ここはあなたの言ったような感じのものを作ります。みたいに。
それでいて,少しだけ裏切るんです。そうすると先方は,発注したものと違うから「あれ?」って一瞬驚くんですよ。だけどそこで,「いや,確かにこっちのほうが面白い」って言わせるのが,作曲家冥利に尽きるんです。
前山田氏:
常にサプライズを用意するわけですね。
田中氏:
そう。だから,全然メニューにないものも書きます。で,これを使わなかったら怒るよ? って(笑)。
前山田氏:
僕もそういうところがあるんですよ。一番最初に聴いてくれるのはクライアントですから,そこをまず驚かせたくて。
田中氏:
そうそう。それをやらないとダメですよ。
作曲家になったばかりの頃,2年ぐらいCM音楽の仕事もやっていたんですけど,そのときにそれを痛感しましたね。クライアントが「これ凄く面白い」って言わないと通らないんです。だけど,向こうの言ったとおりに書いていくと,「いいけど何か足りない」って言われる。
前山田氏:
言ったとおりなのに(笑)。
田中氏:
でもそういうときってね,一番偉い人が「いい」って言うまで,クライアントや広告代理店は「いい」とも「悪い」とも言わないんですよ。もし自分が「いい」って言っちゃっても,偉い人が「ダメ,やり直し」と言い出したら,そっちに従わないといけないでしょう。だから,ずっと様子を見て自分の意見を保留するんです。
4Gamer:
いろんな仕事の現場で,頻繁に目撃できる事例ですね。
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だからね,そういうときにミキサーを味方に付けるといいってことを覚えたんですよ。クライアントから「もうちょっと派手にしてよ」って言われたら,「分かりました―」って,ミキサーが一回ボリュームを下げるんです。
そうすると,「なんか違うなぁ」って言われるから,「じゃあ今度は,これで」ってボリュームを上げるんです。そうすると「あ,派手になったからOK」って。何も変わってないのにね。一回下げるのがコツなんですよ(笑)。
4Gamer:
ひどい(笑)。
前山田氏:
いやぁ,具体的で勉強になります!
4Gamer:
でもそれ,最終的に一般のリスナーが納得するようなものを作っている自信があるからこそ,できる芸当ですよね。
若い人を大事に育てることは
自分を育てることでもある(田中氏)
田中氏:
じゃあもう一つ,具体的なことを伝授しましょう。劇伴は,クライアントが最初から全員揃っているならば,一番最初にこれぞという決め曲を聴かせるといいんです。そうすれば,大体それでOKが出て,そのあとはスムーズにいきます。
……でも,たいていクライアントの中でも偉い人が遅れて来るんですよ。で,よりによってコミカルな曲を聴かせているときなんかにやって来て,「こんな曲か〜」なんて言われるんです。本当にね,素人は怖いですよ(笑)。
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あ,でもクライアントが音楽に関して素人だからこそ,そこに向けてトゥーマッチでお送りするぐらいじゃないと,一般のリスナーにも刺さらないということですよね。
田中氏:
そういうことです。
あとはね,あんまり謙虚になりすぎないほうがいいんです。前山田君は腰が低いけれど,クライアントは「本当にこの人に頼んで大丈夫かな?」という不安も抱えているんです。だから少しぐらい,大物ぶったほうが,かえって安心してもらえることもあるんですよ。
前山田氏:
最近思うんですけど,プロとして仕事をしていく以上は,純然たるクリエイターであればいいということじゃなくて,同時にビジネスマンとしてのコミュニケーション術も必要なんですよね。
4Gamer:
それも含めてのセルフプロデュースということですね。
田中氏:
めちゃくちゃそのとおりです。
僕はレコード会社に3年いたことで,営業も宣伝も全部知ってる。営業マンの売りやすいようなトークとかも,すぐに考えられるんです。で,よく編成会議とかで「これ売りやすいやろ」「通しやすいやろ」って。
前山田氏:
同じぐらいの実力がある人が何人かいたら,結局はみんな,使いやすい人,付き合いやすい人を使いますもんね。
田中氏:
そう。あとはね,若い人を大事にしたほうがいいですよ。年取った奴はすぐにいなくなりますから。同じ場所にプロデューサーやディレクターがいても,アシスタントを大事にしたほうがいい。
飲みに行ったら,そういう人にビールを注いであげるんです。上のほうとは,普通に付き合っていればいいんです。
4Gamer:
若手がそういう風に接してもらったら,「自分が偉くなったら絶対にこの人と仕事をしたい」みたいに思いますよね。
田中氏:
そういうことです。長くやってるとね,「20年前はお世話になりました。今,監督です」みたいなことになってたりするし。
まあ,具体的な処世術はもっともっとありますから,追々教えていきましょう。
前山田氏:
僕自身,まだまだぺーぺーですけど,ちょっとだけ実績ができてきて,自分より年下の人と仕事をすることも増えてきたんで,今度はそういう人達を育てるということにも挑戦していかないといけないですね。
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そのとおり。言ってみれば育てゲーですから。そういう心持ちでいれば,自分も育てていけるんですよ。
前山田氏:
つまり,下を育てるときに,自分でも学ぶことがあるということですか?
田中氏:
絶対にそうですよ。自分の技術なんかも「誰にも教えない」みたいなこだわりは,どうでもいいんです。全部教えればいいんです。私なんか,譜面だって全部見せますよ。すべての秘密がココに詰まっています,どうぞ! って。
4Gamer:
そこから何を学べるかはその人次第なんですよね。
田中氏:
そう。それにね,譜面を見たからって同じもの書けないですから。そのまま書いたら,ただの盗作だし(笑)。
だいたい私だって,ワグナーやベートーベンの譜面は,全部見させていただいているし,彼らが遺してくれなかったら,私はこういう仕事もできていないんです。
4Gamer:
確かにそういえばそうですよね。
田中氏:
最近だと,ジョン・ウィリアムズの譜面がちょっと残ってるぐらいで,あとは耳コピするしかなかったりでね。そんなの,細部まで全部は採れないですからね。でも別に,それをそのままコピーできるわけじゃないんだから,譜面は見せるべきだと思うんです。だからミュージカルも,もっと譜面を出版してほしいですね。
4Gamer:
ミュージカルだと,せいぜい代表的な数曲のピアノ譜ぐらいですよね。あったとしても。
田中氏:
そうそう。だから島 健さんがある時期,島田歌穂さんのミュージカルの音楽監督なんかをよくやっていたことがあって,理由を聞いたら「オリジナルスコアが見れるから」だって。羨ましいなぁって言ったら,「公平君もやってみたら?」って言われて,やりたいって即答したんだけど……まだその話は来ません(笑)。
4Gamer:
残念ですね(笑)。
田中氏:
まあ,そういうこともあって,誰かの弟子になって師匠の譜面を見るといいんですよ。うちの事務所の大谷 幸君は,「猿の惑星」の音楽を書いていたジェリー・ゴールドスミスの下に一時期ついていて,譜面も見せてもらっていたんですね。
でもそれを見た大谷君は,「腹立ちますよ,あの人の譜面。ほとんど書いてないんです」って。音符を書いてないのにあれだけの音が鳴るということは,それだけ凄いオーケストラを使っているということでもあるんですよ。
結局ね,オーケストレーションというのは,どれだけ間引くかだからね。五線紙が真っ黒になるぐらいまで楽譜を書いたからって,それだけ鳴るかっていうとそういうわけじゃないんです。
前山田氏:
引き算をしないといけないんですよね。
田中氏:
そう。だけど,マキシマムを書けないと,引き算もできないから,若いうちは死ぬほど書けと言ってるんです。手数がめちゃくちゃ多くなるほど書けと。それから少し経ったら,どんどん間引けるようになるから。詰め込めない人は,初めからダメですね。
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