連載
【西川善司】HDMI接続,最後の手段
西川善司 / グラフィックス技術と大画面とMAZDA RX-7を愛するジャーナリスト
(善)後不覚 |
HDMI接続は,なんというか,まだまだユーザーも,機器メーカーも,不慣れな部分が多くて,見ようによっては奥が深いテーマです。
映像と音声が1本のケーブルで伝送できるようになったおかけで,物理的な接続は簡単になりましたが,中を伝っていく情報は多様性を極めているため,HDMIというインタフェースをちゃんと使いこなすのは,結構大変なんですよね。
今回で5回目のHDMI関連の話題。担当編集がLynnfieldだなんだで多忙を窮め,結果,間が空いてしまったので,おさらいはバックナンバーを参照してほしいと思いますが,今度こそHDMI編は最終回です(笑)。
→HDMI編第1回:あなたのHDMIが正しく接続されていない可能性
→HDMI編第2回:間違いだらけのHDMI接続
→HDMI編第3回:「正しいHDMI接続」の確認方法
→HDMI編第4回:間違ったHDMI接続だとこう見える
HDMI階調レベル設定を持たないテレビと
HDMI階調レベル設定を持つ機器との接続
しかし,PS3側のHDMI階調レベル設定を「リミテッド」(RGB 16〜235階調)に指定しても,「フル」(RGB 0〜255階調)に指定しても,DLA-HD350は,HDMI階調レベル設定を「オート」に指定すると,「エンハンス」(RGB 0〜255階調)と同じ挙動を取りました。つまり,“「オート」で「エンハンス」が選択された”ということなのでしょう。
これはDLA-HD350が特別にバグ持ちだったというわけではありません。ほかのディスプレイ機器でも,かなり高い割合で起こり得る不具合です。HDMI編第1回でも言いましたが,ディスプレイ機器側に用意された,HDMI階調レベルの「オート」設定は誤認確率が高く,あまりアテにならないんです。
ただ,自動設定がアテにならないとしても,ディスプレイ機器側で任意のHDMI階調レベル指定を行えるなら,まだ救いがあります。ここまで説明してきた「見極め」のテクニックさえ修得していれば,調整ができるわけですから。
問題はむしろ,液晶テレビやプラズマテレビといった高解像度テレビ製品や,PC用ディスプレイ製品の多くが,こうしたHDMI階調レベル設定自体を持っていない点にあります。
例えば,筆者が所有している液晶テレビ,「REGZA 46ZH500」(※2008年春モデル,以下46ZH500)では,HDMI階調レベル設定が用意されていません。そのため,PS3と46ZH500とをHDMIで接続した場合には,HDMI編第3回で紹介したテスト画像を用いるなどして,表示の傾向を確認しつつ,PS3側の設定を変更しなければなりません。
もう少し具体的に説明すると,まず最初に,テレビやディスプレイの画調モードを固定化し,その後で,PS3側の設定を変更する必要があるわけです。
ちなみにこの「画調モード」,各社で呼び名が違いますので,マニュアルで確認してください。例えばパナソニックのVIERAだと「映像メニュー」,シャープのAQUOSだと「AVポジション」,ソニーのBRAVIAは「(シネマ)画質モード」,東芝のREGZAは「おまかせ映像」となっています。
というわけで,今回は46ZH500を使うので,「おまかせ映像」メニューを見てみますが,ここには,表示遅延を低減させた「ゲーム」モードがあるので,PS3を接続したときは,通常,これを選びます。
さて,この状態で,PS3の階調レベル設定である「RGBフルレンジ(HDMI)」を,「フル」(0〜255),「リミテッド」(16〜235)と切り替えながら表示させてみましょう。
下に示したのが,46ZH500で表示させたテスト画像をデジタルカメラで撮影したものです。
なお,HDMI編では繰り返し断っていますが,デジタルカメラで撮影した画像は,筆者の目で見ているものとはかなり違ったものになっています。ただし,相対的な比較を行うデータとしては利用できるため,参考用に示している次第です。
ご覧のとおり,上下段とも左の2枚は,黒が沈み,明部の階調が明るく怪しいため,右の2枚が正しい表示といえそうです。つまり,AV機器たる46ZH500では,「ゲーム」モードであっても,HDMI階調レベルは16〜235で固定化されている,というわけですね。
これはREGZAに限ったことではなく,PS3のHDMI階調レベル設定をリミテッド(16〜235)にしないと正しい表示が得られない高解像度テレビは少なくありません。
ちなみに,REGZAの名誉のために述べておくと,2009年モデルの8000シリーズからは,HDMI階調レベル設定の機能が新設されています。
HDMI階調レベル設定を持たない機器同士の
接続はどうすればいいのか
PCについても考えてみましょう。HDMIコネクタを標準で搭載するPCは出てきましたし,(変換アダプタを利用するかどうかはさておき)HDMI出力を標準でサポートするグラフィックスカードも珍しくなくなりました。PC用ディスプレイ側にも,HDMI入力を持つものが増えてきたりして,今やPCとディスプレイ機器とをHDMI接続するのは,特殊な例ではなくなってきています。
で,どうするかですが,まず,PCに搭載されているGPUは,基本的にRGB色体系で,しかも,出力階調レベルはほぼ間違いなく0〜255です。HDMI入力を持つPC用ディスプレイも,ほぼ0〜255ですし,HDMI階調レベル設定が用意されているテレビ製品なら,0〜255を設定してやればいいでしょう。ただ,それこそ46ZH500のような,HDMI階調レベル設定を持たないテレビと接続した場合には,残念ながら,テレビ側の適応能力に頼るほかありません。
46ZH500の場合,PC接続に特化した画調モードとして,「PCファイン」というものが用意されています。本機の場合,この「PCファイン」モードを選択すると,HDMI階調レベルを0〜255か,それに近い階調で表示してくれるようになるのです。
下に示したのは,PCと46ZH500をHDMI接続して,テスト画像を,「標準」画調モードと「PCファイン」モードとで表示し,これをデジタルカメラで撮影した写真です。
上下段とも左では,46ZH500が,入力された映像を階調レベル16〜235に割り当てて表示しているため,暗部が沈み明部が飛び気味になっています。これに対して右では,両者の階調レベル設定が合致しているのでしょう,安定した暗部/明部バランスで描き出されています。
このように,高解像度テレビでは,HDMI階調レベル設定の機能がなくても,画調モードを切り換えることで適切な階調レベルが得られることがあるのです。ブライトネスやコントラストの画調パラメータを調整し始める前に――とても基本的なことではあるのですが――画調モードを切り換えて試してみるのも重要だったりします。
ところで,テレビを買ってきて,そのまま接続して見ている人はいませんよね? 買ってきたばかりのテレビは,“店頭デモ用”ともいえる「ダイナミック」画調モードに設定されていることが多いんです。これは暗部沈下,明部飛ばしが行われた,コントラスト重視の画調モードなので,基本的に,まともな階調特性の表示になっていません。
もっというと,仮にHDMI階調レベル設定が正しかったとしても,画調モードが「ダイナミック」系になっていたら,正しい階調表現は行えません。テレビを買ってきてから設定をいじったことがないという人は,まずは,画調モードの確認を行いましょうね。
以上,5回続いたHDMI編はここまで。次回はちょっとゲーム関連の話題を取り扱ってみたいと思います。
■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。4Gamerの連載「3Dゲームエクスタシー」をはじめ,オンライン/オフラインのさまざまなメディアに寄稿したり,バカゲーを好んでプレイしたり,大画面にときめいたり,観切れないほどBlu-rayビデオを買ったり,オヤジギャグを炸裂させたりして毎日を過ごしている。 |
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