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見えてきた次世代Tegra「Kal-El」のアーキテクチャとTegraロードマップ。CUDA Coreは2013年の「Logan」で統合へ
とくに,急成長を続けるタブレット市場は,どのベンダーも力を入れている分野であり,内輪話では次世代プロセッサに関する話題も事欠かなかったのだが,今回は,大手携帯端末ベンダー関係者の話から,NVIDIAの次期Tegra「Kal-El」(カルエル,開発コードネーム)の姿,そしてその先を追ってみたい。
クアッドコア化とGPU強化だけではないKal-El
待機状態ではTegra 2比で2倍のバッテリー駆動時間へ
NVIDIAでTegraビジネスを統括するMichael Rayfield(マイケル・レイフィールド)氏は,同社が3月8日に開催した投資家向けイベント「Financial Analyst Day 2011」で,Kal-Elベースのタブレット製品がクリスマス商戦までに市場投入されると断言。「最も早く登場する製品は,第3四半期中にも市場投入される」というRayfield氏によると,タブレットだけでなく,携帯電話でもKal-El搭載端末は登場する見込みだ。
さて,Mobile World Congress 2011の時点で公表されたKal-Elの特徴は,大別して下記の4点である。
- 世界初の携帯端末向けクアッドコアCPU
- 12コアのGPU搭載と3D立体視対応
- 2560×1600ピクセルの高解像度対応
- Tegra 2比5倍の性能
下に示したのは,OEMベンダーから得られた情報を基に,Kal-ElとTegra 2の主なスペックとブロックダイアグラムをそれぞれまとめたものである。
具体的に見てみよう。まず,Kal-Elに搭載されるCortex-A9コアは,ARMが「NEON」テクノロジと呼ぶ128bit SIMD(Single Instruction, Multiple Data)アーキテクチャ拡張を果たす。
Kal-Elで強化されるCortex-A9の128bit SIMD命令拡張,NEON |
Kal-ElのCPU性能をアピールするスライド |
合わせて,Kal-ElにおけるCortex-A9コアの動作クロックは最大1.5GHzへと引き上げられ,シングルコア性能も飛躍的に向上する見込みとなっている。
一方,GeForceコアの強化は,ピクセルパイプラインに割り当てられる。
現行のTegra 2が「GeForce 6/7世代の設計を踏襲した超低電圧グラフィックスコアを8基搭載する」というのは比較的よく知られているが,この8基は,4基がピクセルシェーダ,4基が頂点シェーダとしてそれぞれ機能する。
これに対してKal-Elでは,12コア化にあたって増えた4基がすべてピクセルシェーダへ割り当てられている。さらにNVIDIAは,頂点処理の一部やジオメトリ処理をCPUコアへ割り振って,総合的な3D性能の引き上げと3D立体視の対応を果たす計画である。
もう1つ,Kal-Elではプラットフォーム全体の強化も果たされる見込み。OEM関係者によれば,Kal-Elでは32bit幅のLPDDR2-800に加えて,DDR3L-1600のサポートも計画されているとのこと。さらに最大7.1chのHD AudioやSerial ATA 2も追加されるなど,より多機能なモバイル端末を実現できる方向での拡張が行われている印象だ。
Tegra 2の電力制御機構を説明スライド。Kal-Elでも,利用していないユニットに対する電源供給を遮断する仕組みに変わりはない |
デュアルコアCortex-A9仕様のTegra 2が,シングルコアよりも省電力性が高いとした説明。OEM関係者によれば,クアッドコアのKal-Elは同じ理由で,平均的な消費電力でTegra 2よりも低くなるという |
NVIDIAは,クアッドコア化とグラフィックスの強化を図りながら,Kal-Elで省電力性を向上させるために,Tegra 2よりも積極的な電力管理を施すだけでなく,同社独自の「Ultra Low Power」動作モードも追加する計画だ。
OEM関係者によれば,このUltra Low Powerモードでは,クアッドCPUコアのうち3基の完全な電源断が可能になり,さらに,残る1基のCortex-A9コアも動作クロックを500MHzに落とせるとのこと。Tegra 2でも,「Low Power」モードはあり,CPUコアクロックが550MHzにまで落ちるが,コア単位の電源断には対応しておらず,デュアルコア動作のままなので,この点で劇的な改善が図られるというわけである。
これにより,モデムと無線LANコントローラをオフにした機内モード(Flight Mode,飛行機モードともいう)の待機では,Tegra 2端末比で2倍というバッテリー駆動時間を実現するという。
Windows 8を見据え,CUDA対応を目指していくTegra
CUDA Coreの統合は“次次次”Tegraからの公算大
NVIDIAは,Microsoftから2012年後半にも市場投入されると噂される次期Windows,「Windows 8」(開発コードネーム)がARMアーキテクチャをサポートするのを受け,TegraファミリーをノートPC市場へも展開する計画を持っている。
「1WのCPUなら,完全なファンレスを実現したうえで,現行の『MacBook Air』よりも薄くできる。さらに,今日(こんにち)的なノートPCのバッテリーユニットと組み合わせれば,3〜4日は充電せずに使い続けられるようになるはずだ」と述べたHuang氏は,2012年にも,「パーソナルモバイルコンピュータ」の新しいカタチとして,TegraベースのモバイルPCが登場すると予言する。
ちなみにNVIDIAはいまのところ,Denverコアをどの世代のTegraに搭載するかを明らかにしていないが,そのヒントは,同社が示しているロードマップにありそうだ。
現行のTegra 2で搭載されるULP GeForceは,上で紹介したとおり,固定機能のシェーダユニットからなる。それに対して,GeForce 8以降で採用された統合型シェーダアーキテクチャに基づくシェーダプロセッサたるCUDA Coreを利用すれば,GeForceやQuadro,Teslaと同じようにCUDAアプリケーションを利用できるようになるわけだ。NVIDIAの目的は,サーバーからスマートフォンまで,あらゆる環境で(同社独自のプログラム規格である)CUDAが動くこと。Project Denverはあくまでも,その目的に向けた,「TegraにおけるCUDA」を前提とする動きというわけである。
「Tegraのロードマップで,WayneがTegra 2比10倍の性能なのに対し,Loganで一気に50倍となるのは,ここでCUDA Coreの統合が果たされるからだ」(同関係者)。
また,半導体業界関係者も,「NVIDIAが仮にCPUとGPUの両アーキテクチャを同じ世代で変更するというリスクを取る場合,2012年のWayne投入は難しいだろう」と述べ,OEM関係者の発言を裏付けている。
GPU性能にこだわるNVIDIAがなぜTegraでグラフィックスコアの世代交代を急がないのかについては,Play Station 3やXbox 360の後継となる次世代ゲームコンソール機のロードマップが不透明な状況も大きく関係していると,ゲーム業界関係者が指摘している点を紹介しておきたい。
実際,Huang氏は「現行のゲームコンソール機向けGPUは,おおむねGeForce 6世代と同等だ」とFinancial Analyst Day 2011で発言しており,CUDA Coreの省電力性を大きく向上させてからTegraに実装しても十分間に合うと認識しているように見える。
……まとめてみよう。関係者の話を総合すると,NVIDIAは,Wayne以降のTegraで,CPUとGPUとを交互に,下記のとおり進化させていくと見るのが自然だ。
- Wayne:2012年,28nm,Denverクアッドコア(Cortex-A15ベース)CPU,ULP GeForceコアGPU
- Logan:2013年,28nm,DenverオクタコアCPU,CUDA Core GPU
- Stark:2014年,20nm,次世代コアCPU,CUDA Core GPU
そして,NVIDIAがモバイルPC市場で大きく飛躍するとするならば,CUDA Coreを実装し,Windows 8のフル機能をグラフィックス面でもサポートできるLoganこそが起爆剤になると見るべきだろう。
タブレット端末向けCPUとして大成功を収めているTegraは,アメリカンヒーローの名をコードネームに取り入れたKal-El世代以降,「携帯端末向けプロセッサ」から,「パーソナルモバイルコンピュータ向けプロセッサ」へと舵を切ることになりそうだ。
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