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Access Accepted第669回:学習型AIキャラクター達のサバイバルを見守るリアリティ番組風ゲームが誕生
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印刷2020/12/07 00:00

業界動向

Access Accepted第669回:学習型AIキャラクター達のサバイバルを見守るリアリティ番組風ゲームが誕生

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第669回:学習型AIキャラクター達のサバイバルを見守るリアリティ番組風ゲームが誕生

 北米時間の12月2日,Facebookのビデオ・オン・デマンドサービスFacebook Watchで,ユニークなゲームのストリーミング配信が始まった。「Rival Peak」と名付けられたこのリアリティ番組風ゲームは,メンテナンスタイムを除き,1日24時間,12週間にわたって放映される予定で,登場するのはすべて学習型のAIキャラクターだ。原野でサバイバルする彼らの様子を眺めつつ,視聴者の投票などによって1人ずつ番組から消えていき,最終的に残った1人が勝者になるという。今週は,そんな壮大な実験とも呼べる新感覚のゲームを紹介してみたい。


AIキャラクター達が学習しながらサバイバルに挑む


 テレビ番組のジャンルで「リアリティ番組」といえば,普通の人々が同じ家で共同生活をしたり,無人島や原野でサバイバル生活をしたりする様子をカメラがひたすら追うといったものを思い浮かべるだろう。視聴者は,そこで繰り広げられる予測不能で筋書きのないドラマを楽しむわけだ。
 一般の人がテレビに出演すること自体は,「NHK のど自慢大会」や「ウルトラクイズ」など,日本でも昔から数多くあるが,アメリカで視聴者が出演してクイズなどに挑むといった形式の番組が登場したのも古く,1940年代のことらしい。しかし,「ライフ系」とでも呼ぶべき現在のスタイルが主流になったのは,1992年にMTVが放映を開始した「ザ・リアル・ワールド」以降だという。同番組は,7人の男女がニューヨークのロフトで共同生活するという内容で,タイトルやディテールを変更しながら,現在もなお続いている。

 リアリティ番組の出演者の中には,ルックスや技能が評価されて人気者になる人もいるが,その一方で,視聴者の憎悪を集め,非難,中傷されたりすることで出演者が自殺してまうケースが以前からあったそうだ。とくに最近は,SNSの浸透によって心ない言葉がダイレクトに出演者に伝わってしまうことで,問題はより深刻化している。
 ドキュメンタリーを名乗らない以上,演出は施されているのだろうが,それがどの程度なのか,筆者には知る由もない。とはいえ,マンネリ化を避けようとして過激な方向に走ってしまうのは,十分に想像できそうだ。

AIキャラクターを主人公にしたリアリティ番組風の新感覚ゲーム,「Rival Peak」
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Facebook「Rival Peak」公式ページ


 そんなリアリティ番組にゲーム業界からアプローチをかけた実験的な企画が現在,アメリカで進行している。ゲームトーナメントのストリーミングなどに技術提供を行ってきた企業,Genvid Technologiesが,北米時間の12月2日,ビデオ・オン・デマンドサービスであるFacebook Watchを利用した視聴者参加型配信「Rival Peak」の公開を開始したのだ。

 「Rival Peak」に出演するのは本物の人間ではなく,AIによって制御された12人のキャラクターで,彼らはアメリカ北西部の森林地帯をイメージした土地に放り出され,そこでサバイバル生活をしていく。視聴者は彼らの暮らしぶりを眺めたりインタラクトしたりして楽しみ,最も人気のないキャラクターが毎週1人ずつ姿を消し,最後に残った1人が勝利するという流れだ。

それぞれのキャラクターには,背景や性格に加えてFacebookのページまで用意されている。みんな善良っぽく見えるが,何かのはずみに本性が出たりするのだろうか?
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第669回:学習型AIキャラクター達のサバイバルを見守るリアリティ番組風ゲームが誕生

 Genvid Technologiesは,3月までにNTTドコモなど複数のスポンサーから総額5300万ドルの資金を集めてクラウドベースのストリーミング技術とバックエンドサーバーの開発を行い,「Amazon Lumberyard」エンジンを使ったゲームのテストも重ねてきたという。
 ゲーム世界の構築やキャラクターのアニメーション,AIのシミュレーションなどには,「Devil May Cry HD Collection」の制作にも協力したことのあるPipeworks Studioが参加し,彼らの独自技術である「FORNAP AI」をベースにしたAIがキャラクターのコントロールを行っている。
 さらに,キャラクターデザインや基本的なストーリーを,映画「ソニック・ザ・ムービー」を共同プロデュースしたクリエイター集団dj2 Entertainment が担当するという,なかなかの規模を誇るプロジェクトで,開発と今後約3か月の運営のため,1000万ドル規模の費用を充てることになるそうだ。


12週間にわたるAIキャラクター達の成長を,大勢で見守っていく


 「Rival Peak」は,1999年から放映されているリアリティ番組「ビッグ・ブラザー」(Big Brother)のようなフォーマットになっており,主婦,看護師,コーチ,労働者,ヒッピーなどの個性的なキャラクターがサバイバルする様子を,さまざまな視点に切り替わるカメラで24時間眺めることができる。
 それぞれのキャラクターに自動的にカメラが切り替わるモードと,1人のキャラクターをフォローするモードが用意されており,視聴者は好きなときに彼らの生活を覗いて,何か面白いことが起きていないかをチェックするわけだ。Facebookの公式ページを見ると,各キャラクターの専用ページまで用意されているのが分かる。また,週1回ホストを迎え,1週間のダイジェストを紹介するライブ配信も行われる予定だ。

公開時点で視聴者は200人と,必ずしも明るい船出ではなかったようだが,この興味深い実験的作品をダラダラと見るFacebookユーザーは今後,増えていくだろう。日本語には対応していないが,絵文字や表情でどんな人間関係にあるのかは分かりやすい
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第669回:学習型AIキャラクター達のサバイバルを見守るリアリティ番組風ゲームが誕生

 興味深いのは,この作品があくまで「視聴者参加型のクラウドゲーム」である点だろう。リアリティ番組のようにAIキャラクター達が主役だと感じられるが,ストーリーを先に進めるのは視聴者達なのだ。
 視聴者は,Facebookの公式ページとは別に用意されたページにアクセスし,それぞれのキャラクターとインタラクションできる。各キャラクターの基本パラメータには「Nourishment」(食欲),「Hydration」(水分),「Warmth」(暖かさ),そして「Social」(社交)の4つがあり,ときおり画面に出現する「Goals」(目標),「Action」(行動),「Projects」(プロジェクト)などのアイコンをクリックして,彼らの次の行動を投票で決めたり,作業を手助けしたりできる。

 投票など,コミュニティの意見を聞くという機能はTwitchにも用意されており,ストリーマーが配信中のゲームに視聴者が介入できる作品も,「Destiny 2」「Hyper Scape」を皮切りに増えつつある。Genvid Technologiesによれば,「Rival Peak」はFacebookの登録者数である2億人のユーザーの参加にも耐えるとのことで,同社はこうしたタイプのゲームを「MILE」(Massive Interactive Live Event)と呼ぶことを提案している。

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 筆者も「Rival Peak」の公開時からときどき彼らの様子を眺めたり,投票に参加したりしているが,少なくとも本稿の執筆時点のAIキャラクターは,それほど学習していない無垢な状態に近く,じっと考え事をしたり,空腹になると木の実を集めたり,木を切って焚火を起こしたりといった行動を繰り返している。
 マップにはワイヤーフェンスで立ち入り禁止になっている場所があり,キャラクターの考えていることをチャット風の文章で読めるページを見ると,「近づくなって,どういうこと?」などと綴られている。「Rival Peak」には,キャラクターと視聴者が一緒に解き明かしていくゲーム世界のミステリーも用意されているとのことで,この立ち入り禁止区域もその1つなのだろう。

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 今のところ,キャラクター達が出会うとお互いに手を振ったりして愛想良くしているが,AIは,食欲や体温維持といった「短期的なニーズ」だけでなく,最後の1人になるという「長期的な目標」も理解しているという。Genvid Technologiesは公式サイトで本作を「ハンガーゲームとザ・シムズを合わせたような作品」と評しており,今後,キャラクター同士の仲違いや裏切りなどが発生することは十分にありそうだ。
 日本語化はされていないが,興味のある人は,Facebookの公式ページにアクセスして,キャラクターやゲーム世界がこれからどのように進化していくのかを見守ってほしい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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