業界動向
Access Accepted第350回:新たな業界用語「エンドゲーム」を考える
欧米ゲーム業界で耳にするようになった「エンドゲーム」(Endgame:日本ではエンドコンテンツとも呼ばれる)という言葉。辞書をひくと,チェスの試合などの「大詰め」を意味しているのが分かるが,ゲーム,とくにMMORPGなどのオンラインゲームでは本来とは異なる意味合いで使われており,さらにそれがゲーム開発者にとって重要視されているという。今回は「Diablo III」を例にしつつ,この新しい業界用語について考える。
オンラインゲームにとって不可欠な要素となった
「エンドゲーム」
しかし,発売直後からさまざまな問題に悩まされ,現在,アクティブプレイヤーの数は大幅に減っているらしい。北米や中国で2100万人のユーザーがいるインスタントメッセージサービス「Xfire」の統計では,リリースから1か月ほどで,プレイヤー数が5分の3に減少したという。
その理由はいろいろあるかもしれないが,Blizzard Entertainmentのコミュニティマネージャーで,“Bashiok”というタグで知られるMicah Whipple氏は最近,Diablo IIIの公式フォーラムに寄せられたファンの質問に対して,以下のように答えている。
「Blizzardは,Diablo IIIのアイテムハンティングが長期的に持続できるエンドゲームではなかったことを認識しています。今でも,毎日,毎週のようにDiablo IIIで楽しんでいる方もいますが,いずれ,ゲーム内でやるべきことがなくなってしまいます(もう,なくなったと感じている人もいることでしょう)。多くのモンスターを狩り,アイテムを探し出すのは非常に楽しいことですし,我々はそのゲームシステムをさらに改善できると考えています。
しかし,Diablo IIIは『World of Warcraft』ではありません。毎月のように新しいシステムやコンテンツをアップデートできる仕組みを持ったゲームではないのです。Diablo IIIには,プレイヤーを楽しませ続けるための別の方法が必要であり,我々は,まだそれを見つけられていないことを認識しています」
これだけのヒット作を生み出したBlizzard Entertainmentにしては,ずいぶん弱気――別の言い方をすれば,真摯――な発言だが,この発言に続いてWhipple氏は,アップデート「v1.1」で,BlizzCon 2011で公開された4人対4人のPvPアリーナモードを実装することにより,再びファンが熱狂するだろうとしており,必ずしも悲観的な態度に終始しているわけではない。
ともあれ,Whipple氏の書き込みにある「エンドゲーム※」とは,どういう意味なのだろうか。Diablo IIIのゲームディレクターであるJay Wilson氏は,Gamescom 2011の講演で「エンドゲームについて考えていると,夜が明けてしまう」と話していたこともあり(関連記事),ゲームデザインにとっても非常に重要なことらしいことは分かる。
※日本では「エンドコンテンツ」という呼ばれることもある
辞書を引くと,エンドゲームとは「チェスの試合で,詰むことが分かってから最後までの数手のことを指す」言葉であることが分かる。2009年には「エンドゲーム 大統領最後の日」という映画が公開されており,ここでは「大詰め」や「クライマックス」といった意味で使われていた。「Battlefield 3」でリリースされる予定のDLC,「Battlefield 3: Endgame」も,そういった意味合いのようだ。
エンドゲームとリプレイアビリティ
ところが,欧米ゲーム業界におけるエンドゲームの用法は,本来のものとは異なっている。この言葉が業界で使われた,最も古い例として見つけたのは,筆者が取材した2008年のAustin Game Developers Conferenceの講演において,BioWare Austinで「Star Wars: The Old Republic」の開発に参加していたDamien Schubert氏が,「エルダー・ゲームプレイ」(Elder Gameplay)の同義語として,エンドゲームという言葉を使っていたのだ(関連記事)。
ここで語られたのは,MMORPGでプレイヤーキャラクターのレベルが最高に達してしまったあと,どのようにしてプレイヤーの興味を持続させていくかというゲームデザイン学についてだ。World of Warcraftはもちろん,「EverQuest」や「Dark Age of Camelot」など,2008年に成功していたMMORPGを参考に,ファンが熱中するレイドや,数か月は楽しめる追加パック,さらにゲーム世界を根本から変えてしまうような追加や変更といったことが,今後のMMORPGでは行き当たりばったりではなく,事前に深く考慮されておくべきだとSchubert氏は講演で主張していたのだ。
前述したWhipple氏の「トレジャーハンティングがエンドゲームとしてうまく機能しなかった」という書き込みで使われている言葉の意味も,この趣旨に沿ったものだ。最高レベルに達してしまったプレイヤーをゲームに留めるエンドゲームが,PvPというわけだ。
MMORPG以外のジャンルでこの言葉が使われるケースも増えてきたが,コンセプトそのものは言葉以上にゲーム開発現場に広まっている。「Fallout 3」や「Call of Duty」シリーズなどの大作タイトルを見ると,ゲーム本編が終わっても,DLCや新モードの投入などにより長くファンを引き止めておく手段が,あらかじめ入念に設計されていることが分かる。
Diablo IIIのPvPモード実装が同作の再活性の引き金になるかどうか現時点では不明だが,その可能性はあるだろう。とはいえ,前作Diablo IIがあれだけの長期にわたってファンに愛されてきたのは,エンドゲームのおかげだろうか? 個人的な意見になるが,筆者には,何度新しいキャラクターを作り直して再挑戦しても飽きない,「リプレイアビリティ」がDiablo IIのヒットの大きな要素だったように思える。リプレイアビリティは,高レベルキャラクターでトレジャーハントを繰り返すという,エンドゲームとは異なる考え方だ。
エンドゲームというデザインコンセプトは比較的新しく登場したものだが,必ずしもすべてのゲームやジャンルに当てはまるものというわけでもないだろう。DLCを意識しすぎたり,アップデートを安易に前提にして中途半端とも思える状態で発売し,不評を買ってしまったタイトルも少なくなく,ゲーム開発者にとって難しいコンセプトであることは間違いない。今回は,Diablo IIIを例にエンドゲームについて考えてみたが,Diablo IIIにおけるエンドゲームの向上を図るという,PvPモードが実装されるアップデートv1.1のリリースまでにはまだ時間がかかりそうであり,ファンの不満はしばらく収まらないだろう。
著者紹介:奥谷海人
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載であり,バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるだろう。
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