レビュー
X-Fiサウンドカードの多機能カスタムモデルは買いか
Auzen X-Fi HomeTheater HD
さて,Auzentechは,フルスクラッチで製品を作るのではなく,既存の製品をベースにしつつ,高品質化を図ったり,独自技術を搭載したりして,それを自社ブランドで販売するという,日本ではあまり馴染みのないタイプのメーカーである。誤解を恐れずに例えるなら,メルセデス・ベンツをカスタマイズするAMGのような存在だが,そんなAuzentechが投入してきたAuzen HTHDは,製品名に「X-Fi」の文字があることからも推測できるように,Creative Technology(以下,Creative)のX-Fiテクノロジを採用した製品だ。
もう少し厳密に区分すると,Creative製サウンドチップ「X-Fi Xtreme Fidelity」(型番:CA20L2-2AG HF)を搭載しつつ,アナログ段のチューニングを図り,さらにはHDMI 1.3aに対応したHDMI入出力機能を搭載したサウンドカード,といったところ。2010年2月時点におけるAuzentechの製品ラインナップではフラグシップとなるが,今回は,そんな本製品の実力をじっくりと検証していきたい。
PCIe X-Fi Titaniumの仕様をベースに
大規模なカスタマイズを実施
- アナログ7.1ch出力対応
- 2chステレオ出力時は24bit/192kHzフォーマット対応,マルチチャネル出力時は24bit/96kHzフォーマット対応
- EAX ADVANCED HD 5.0ハードウェア対応
- CMSS-3D対応
HDMI端子×2とブレイクアウトケーブル端子に挟まれる形で用意されているのは,ミニピンのヘッドフォン出力端子,光TOSLINK&同軸RCA両対応のS/PDIF出力端子となっている。
HDMI入出力端子が機能する仕組みは,先に市場投入されたASUSTeK Computerの「Xonar HDAV 1.3 Deluxe」と同じ。グラフィックスカードのHDMIビデオ出力をいったんAuzen HTHDへ入力し,Auzen HTHD上で処理したサウンドデータとマージし,あらためて“ビデオ+サウンド”データを,HDMI入力に対応したAVレシーバへ向けて送出するという流れになる。
ただ,HDMIによるサウンド出力は,基本的にBlu-ray Discベースのビデオ用である。付け加えるなら,サウンドストリーム出力後の音質は,AVレシーバ側の性能によって左右され,Auzen HTHDのレビューにはならなくなってしまうため,本稿で「HDMI入出力は,確かに機能する」ということ以上の内容を語ることはしない※。
※海外の一部情報サイトで,通称「DENON Issue」と呼ばれる,AVアンプとの相性問題が報告されている。どうやらEDID(Extended display identification data)周りの互換性に起因するトラブルのようだが,今回試した限り,そういった現象には当たっていない。
カード側の入力仕様は最大サンプリングレート96kHzなので,WM8782を搭載する理由はよく分からない。X-Fi Titaniumだと,入力端子はモノラルマイクとライン入力の兼用端子を一つ持つだけ――5インチベイへと各種インタフェースを引き出すCreative製のオプションデバイス「X-Fi I/O Drive」を利用した場合にはもう一つ増えるが――であるのに対し,Auzen HTHDでは,先ほど紹介したように,標準でマイク(※ステレオ/バランス/アンバランス対応)入力とライン入力端子の2系統入力をサポートするので,このあたりの機能強化に用いられているのであろう。入力品質(=S/N比)を少しでもよくするためにこの仕様を採用しているという可能性も,もちろん考えられる。
アナログ出力はコンシューマ向け製品でトップクラス
ブレイクアウトケーブルのマイナスはなし
テスト方法は,大枠で筆者のヘッドセットレビューと同じ。全体の出力波形をチェックしつつ,「iTunes」による2chステレオ音楽再生の試聴と,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,CoD4)を用いたマルチチャネル再生の試聴を行っていく。比較対象としてはX-Fi Titaniumを用意した。
出力波形のテストには,表に示したスペックのPCにセットアップしたSony Creative Software製の波形編集ソフト「Sound Forge Pro 10」を利用。本ソフトはアナログ5.1ch出力およびデジタル2ch PCM出力の検証が可能だ(※アナログ7.1chのサイドリア出力は,Sound Forge Pro 10側の仕様制限で計測不可)。
出力する信号は,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号。カードから出力させず,ソフトウェア上で完結させたデータを「リファレンス」として,出力した波形がどれだけリファレンスと近い形状を示せるかチェックしていくわけである。
なお,出力した波形は,RME製4chプリアンプ「Quad Pre」に入力。そこでレベルマッチングを行ってから,筆者が音楽制作においてメインに使っているAvid「Pro Tools|HD」用インタフェースで,業務用の「192 I/O」に入力し,Pro Tools|HDのコントロールソフト「Pro Tools|HD Software 8.0.1」上にアサインされたWaves Audio製のソフトウェアアナライザ「PAZ Psychoacoustic Analyzer」で表示させる。グラフ画像の見方は後ほど説明したいと思うが,今回,マルチチャネル出力の計測を行ったところ,チャネル間でダイナミックレンジの違いが生じたため,グラフごとにリファレンスの平均音圧レベルを変更し,できる限り,テスト対象となるサウンドカードの波形を,リファレンス波形と揃えることにしている。
これにより,「平均音圧レベルがほぼ同じ場合に,グラフがどの程度リファレンスを踏襲したものになるのか」分かるようになるはずだ。
さて,Auzen HTHDというカードの出力波形テスト結果について,まず全体的な印象を述べておくと,信号レベルで0dBに達するコンテンツを再生したり,ドライバソフトウェアからボリュームを大きくし過ぎたりすると,簡単に位相がズレてしまう。一言でいえば,位相がセンシティブなカードだ。実際,今回のテストではスイープ信号を約0.1dB下げ,システムボリュームを48%で出力している。
もちろん,その分はアンプで増幅するのだが,S/N比は109dBなので,ノイズが乗るということもなく,とくに不便には感じない。むしろS/N比がよいため,このボリュームレベルでも比較的大きな出力が得られる点を評価すべきだろう。
実際に読者が利用するに当たっても,システムボリュームは50%くらいに設定すべきなので,この点だけは押さえておくことを勧めたい。
●2chステレオ出力
というわけで,下に示したのは,WDM(=Microsoftサウンドマッパー)を使用した2chステレオ出力結果だ。
グラフ画像は,上段が周波数特性,下が位相特性を示す。上段は,縦が音圧レベル(dB),横が周波数(Hz)を示し,人間の耳が聞き取れる範囲と言われる20Hz〜20kHzを中心に,周波数ごとの音圧レベルを波形として表示するようになっている。基本,測定波形は,リファレンスに近い形状をしていればしているほど,オーディオ機器として優秀だと考えてほしい。
一方の位相は,難しい概念なのでざっくり説明することになるが,下段にあるグラフの下部中央にある半円から,オレンジ色の波形がまっすぐ真上に伸びていれば,正確なステレオ再生を行えている,という解釈でいい。
筆者のヘッドセットレビューにおけるマイクの検証時だと,「青い斜め線の枠内にあれば合格」としているが,今回はステレオ再生装置の検証なので,一般に,まっすぐな状態からずれるほど,左右ステレオの音がズレ,オーディオ機器としての品質低下につながるという解釈になる。
さて,以上を踏まえつつよく見ると,40〜450Hzでちょこちょことリファレンスからの乖離は見られるほか,1.6kHz付近の谷が消えているのも気になるが,全体として大きな破綻はなく,とくに2kHz以上はほとんど同形状である。
実際の試聴に移ろう。
2chステレオの試聴に当たっては,サウンドカードからのアナログ出力は,音楽制作用の12chミキサーであるMackie Design「Onyx 1220」に入力。Onyx 1220は,パワードスピーカーとアナログ接続されている。スピーカーユニットには,ADAM製のパワードモニター,「S3A」を用いた。
この環境下で,筆者が音楽制作においてメインに使っている192 I/Oと聞き比べると,Auzen HTHDは,中低域が多少前に出る代わりに,高域が少し遠く感じられる。若干くすんだ印象,とも言い換えられるだろう。上に示したグラフをを見る限り,高域が落ち込んでいたりはしないので,やや高めに振れている低域〜中低域が高域をマスキングして,結果,高域が多少甘くなっているのではなかろうか。
また,同じ理由だと思われるが,バスドラムの低い胴鳴りが引っ込むなど,重低域も多少失われ気味で,いきおい,周波数帯域が多少狭まって聞こえる。ダイナミクスも192 I/Oと比較すると少なく,より平面的で「ぺたん」とした音だ。よく言えば「まとまりがいい」,悪く言えば「音の粒立ちに欠ける」といったところか。
一方,X-Fi Titaniumとの比較では,ずいぶんとキャラクターの違いが感じられた。
下に示したのが,同条件でテストしたX-Fi Titaniumの出力波形だ。周波数特性を見ると,全体的にはAuzen HTHDよりもリファレンスに近いのだが,80Hz付近における落ち込みが大きいため,そうは見えづらいかもしれない。
試聴してみると,波形がやや乱れ気味だからかどうか,低域のアタックが多少遅い印象を受ける。さらに,Auzen HTHD(や,もちろん192 I/O)にはない,ちょっと嫌らしいというか,PCっぽい,ギラギラした中高域が感じられる。
192 I/Oと比べるとダイナミクスをやや欠き,周波数帯域が少し狭まって聞こえるのは,Auzen HTHDと同じだ。
お次は,Auzen HTHDで,同軸端子を使用したPCM出力の波形を見てみよう。全体的にはアナログ出力時よりもリファレンスに近くなるものの,70〜300Hzがやや乱れるところと,リファレンスだと30Hz付近にある山のピークが,Auzen HTHDでは50Hz付近へ移動しているのが気になる。
デジタルPCMのD/A変換には,パイオニアの中級クラスAVアンプ「VSA-AX4AVi」を利用。プリアンプ出力(=内蔵パワーアンプを不使用)をミキサーに接続し,最終的には,アナログ接続時と同様,S3Aで再生しているが,率直に述べて,試聴印象はアナログ出力時とは比較にならない。アナログ出力時にあった,周波数帯域が狭い感覚は完全に消え,192 I/Oと同等になり,さらに,高域は192 I/O以上に聞きやすくなる。
これはもちろん,「192 I/Oは,音楽制作に当たって,音を聞き分けるのに用いるモニタリング向けなのに対し,VSA-AX4AViが,音を心地よく楽しむためのリスニング向けである」という,用途の決定的な違いによるものだろう。
そもそもデジタル出力は,結局のところ,外部のD/Aコンバータや,その後のアナログ段によって音質が決定される。実際,テストに使用したクラスのAVアンプなどは,一般ユーザー向けサウンドカードの「アナログ音質を追求しました」というレベルとは,投入されている部品の品質も価格もまったく異なるのだ。搭載するD/A・A/Dコンバータチップが同じでも,その周辺の設計が異なれば,音質は劇的に変わってくるため,こういう結果を迎えるのは自明である。
●マルチチャネル出力
続いてマルチチャネル出力である。
波形出力に当たっては,Sound Forge Pro 10から「Direct Surround Map」を使用しているが,要するにこれはDirectSound 3D(DirectX Audio)のこと。CoD4をはじめ,多くのFPSで採用されているAPIを使ったテストになる。
さっそく,チャネルごとに見ていこう。まず下に示したのはフロント2chの特性だが,WDM出力時と同じ物理チャネルを利用しているにもかかわらず,平均音圧レベルは約2dB高い。ボリューム設定が完全に同一で,出力波形のレベルも同じでありながら,出力に用いるAPIを変更するだけで,2dbも音圧レベル――音量感が変わるのである。DirectSoundの頃は物議を醸したが,現在はDirect Surround Mapを用いたほうが音量が大きく,S/N比で有利,というわけだ。
周波数特性を見てみると,30Hz付近の一番高い山と,60Hz付近の谷が,それぞれ大きさを増している。また,120Hz〜1kHz付近が,リファレンスからやや乖離気味である。
お次はリアチャネル。リファレンス波形はフロントと同じものを使用しているが,この状態で比較すると,リア出力は,フロントと比べて3dB程度低いことがはっきりと分かる。D/Aコンバータは同じなので,CreativeのコントロールパネルかWindows 7上で音量調整されている可能性もありそうだ。
周波数特性で気になるのは,500Hz〜2kHzの間で,リファレンスからの乖離が目立つところ。位相は気にならない。
さらに,センター&サブウーファ出力の特性をチェックした結果が,下のグラフになる。テスト時,サブウーファのリダイレクトなどは行っていない。
リファレンス波形は,ここでもフロントと同じものを使用しているが,リアチャネル以上にはっきりと,4dB以上,平均音圧レベルは下がっている。特性はリアチャネルに近い印象で,ここでも,500Hz〜2kHz間におけるリファレンスからの乖離が大きい。サンプルが少ないので断言はできないものの,DirectSound 3D(DirectX Audio)そのものが,こういう特性を持っている可能性はありそうだ。
左寄りになっていて,何か大きな問題があるのではと思う人が出てきてもおかしくない位相波形だが,これは異常ではない。
アナログのセンター&サブウーファ出力において,通常,左はセンター,右がサブウーファになるのだが,左右チャネル間でレベル差が生じ,純粋に左に傾いている(=サブウーファーを担当する右チャネルのレベルが小さい)だけだ。つまり、「デフォルトで,サブウーファ出力レベルが抑えられている」という事実を示しているわけであり,問題にはならないのである。
参考までに,X-Fi TitaniumのDirect Surround Map出力結果も,ざっと下のとおり示しておきたい。詳細は解説しないが,興味のある人はチェックしてほしい。なお,テストに当たって,システムボリューム設定は,Auzen HTHDの出力レベルに揃えるべく,67%を指定している。
アナログ5.1chサラウンドサウンド出力の試聴には,S3Aをフロント2chとして,Dynaudio Acoustic製モニタースピーカー「BM6A」をリア2ch+センター,同じくDynaudio Acoustic製「BM-10S」をサブウーファとして組み合わせた。
今回,X-Fi CrystalizerやCMSS-3Dは無効化。また,仕様なのか,筆者の環境固有の問題なのか,Auzen HTHDでは,何をどうやってもDolby Digital LiveやDTS Connectのリアルタイムエンコード+ビットストリーム出力を行えなかった(※AVアンプは認識するのだが,CoD4のサウンドが出ない。X-Fi Titaniumでは問題なし)ため,今回はアナログ出力テストのみとなる。
で,結果をズバリ述べると,Auzen HTHDとX-Fi Titaniumで,サラウンド出力時の聴感に,顕著な違いはない。低域の出方や,高域の落ち方も同じくらい。全体的に「ブラインドテストしても,筆者の環境では,まずもって聞き分けられないだろう」と思える程度の違いだ。
●マイク入力
テストの最後は,アナログ入力品質である。ここではAuzen HTHDのみ,マイク入力の結果を下のとおりまとめてみた。
ゲームプレイ時のボイスチャットを想定し,ここではDirect Surround Mapを使用して波形を入力しているが,30Hzのピークが欠けていることを除くと,まずまず良好な結果だといえるだろう。ステレオ入力だと位相は多少ズレるものの,マイク入力は通常,モノラルなので,このズレを気にする必要はない。
X-Fiとの顕著な違いはHDMI出力のみ
サウンド周りを1枚に統合したい人向けか
マルチチャネル出力のテストを始めると,どうしてもグラフの本数が多くなってしまうのだが,“ブラッシュアップ版X-Fiカード”を試して感じたのは,サウンドカードレベルで可能な音質対策は相当なレベルに達し,製品間の違いは,確実に小さくなっているということである。
波形を見ての比較や,音楽の試聴で,Auzen HTHDのX-Fi Titaniumに対する優位性は多少ある。だが,ゲームプレイにおけるアナログ出力で比較する限り,Auzen HTHDとX-Fi Titaniumの間にある音質の違いを聞き分けるのは極めて困難だ。むしろ,スピーカーやアンプなど,最終出力デバイスか,それに近いデバイスによる変化のほうが遙かに大きい※。言ってしまえば,実使用環境におけるAuzen HTHDとX-Fi Titaniumの違いは,HDMI入出力を利用できるかどうかの一点に尽きる。
※例えば,「HDMIは音が悪い」という意見を聞くことがたまにあるのだが,筆者の意見では,民生レベルのデジタル出力を行う限り,HDMI/同軸/光という端子に,違いはあるにせよ,致命的なものはない。とくに,Auzen HTHDやX-Fi Titaniumクラスのサウンドカードを用いる限り,デジタル出力の音質を左右する要因は,第一にスピーカー,第二がアンプやD/A処理を行うデバイスで,第三がサウンドカードだと断言していいレベルだ。
結局のところ,人間の耳に一番近いデバイスを交換するほうが,インパクトというか,“音が変わった感”は大きいのである。世間では,なぜかこの順番が逆になることが往々にしてあり,スピーカーそっちのけで,ケーブルとか,再生装置に大金を突っ込んでいる人が散見されるが,そんな余裕があるなら,さっさとスピーカー(やヘッドフォン,ヘッドセット)をよりよいモノに買い換えることを強くお勧めしたい。その効果は抜群だ。
さらに,身も蓋もないことを言えば,「PCをAVアンプにデジタル接続して,Dolby TrueHDやDTS-HD Master Audio対応の高解像度ビデオをがんがん観たい」という人がどれだけいるのかというと,相当に疑問である。
その意味でAuzen HTHDは,CMSS-3D機能や,必要十分なアナログマルチチャネル出力などを,HDMI 1.3対応とセットで手に入れ,一元管理したい人向け,ということになるはずだ。
「欲しい機能がここにまとまっている」と感じる人にとって,高いレベルの出力品質を持ったAuzen HTHDは,意義深い存在といえるだろう。ただ,そんな人がどれだけいるのか想像する限り,日本国内では,微妙な立ち位置にならざるを得ないのではないかとも思う。
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