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肝炎は“ならないことを知る時代”に。人生系ボードゲーム「肝炎すごろく」を生み出した医療前線のトップランナーたち
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印刷2023/11/08 08:00

企画記事

肝炎は“ならないことを知る時代”に。人生系ボードゲーム「肝炎すごろく」を生み出した医療前線のトップランナーたち

 先日,“肝を自分ゴト化”する人生系ボードゲーム「肝炎すごろく」なる存在を見つけ,実際に遊んでみた。その様子が以下である。

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 ゲームといったら酒。酒といったらゲーム。そんな温かな方程式に頼って日々を生き抜いてきた人がいないとは言わせない。でも,ちょっぴり怖くなっちゃうよね? そんなあなたにお届けする「肝炎すごろく」プレイ企画がこちら。

[2023/11/07 08:00]

 そもそも肝炎とはなんなのか? 前回は素人判断で医学的見地に踏み入るのは危ういと考え,あえて触れないようにしていたが。

 後日,NCGM(※1)肝炎情報センターの企画者と,肝炎すごろくを手がけたYCU-CDC(※2)の制作者らに打診し,インタビューした。

 医者と学者が作ったゲーム。昨今で言うところのゲーミフィケーション(※3)そのものだが,彼らが目指していることはシンプル。
 最近はどうも,肝炎に“ならないことを知る時代”らしい。

※1:国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター
※2:横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター
※3:(ゲーム外の)さまざまな事柄にゲーム要素を加える概念・手段


写真左から,国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター
上級研究員の竹内泰江氏
研究センター長の考藤達哉氏

横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター
研究補助員の藤森晶子氏
助教の西井正造氏
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取材現場:肝炎情報センターを構える,千葉県・市川市の国府台病院。明治初期から存在する由緒ある病院で,2008年に国立国際医療研究センターに組織編入された。なお,読み方はこくふだい,ではなく“こうのだい”である
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国府台病院の一角にある「肝炎・免疫研究センター」。関係者のみの研究所
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主題の「肝炎すごろく」。詳しいゲーム内容はプレイレポートで
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知らないうちに,なってるやも?


4Gamer:
 まずは啓発のため。「肝炎」とはどのような病気でしょう。

考藤達哉氏(以下,考藤氏):
 肝炎とは文字通り,肝臓が炎症を起こした状態を指します。
 最も多い原因は“ウイルス性肝炎”であり,「B型肝炎」「C型肝炎」の名で知られます。日本では急性・慢性のB型/C型肝炎の感染者が200万人以上いると推計されており,その数は非常に多いです。
 ウイルス性肝炎は“感染初期は症状があまり出ない”ことが多く,とくに慢性症状の場合,何十年もの間に肝臓が傷んでいき,結果として肝臓病の終末像である「肝硬変」「肝臓がん」を引き起こします。
 つまり,知らないうちに病状が悪化し,気付くと命に関わる状態になっている。そういうタチの悪い病気なのです。そのため“無自覚な人”をできるだけ減らすのが,肝炎医療の最大のポイントです。

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4Gamer:
 なるほど。分かりやすくありがとうございます。
 では遅ればせながら,それぞれ自己紹介をお願いします。

考藤氏:
 考藤達哉です。私は肝炎・免疫研究センター(※)研究センター長で,ウイルス性肝炎対策 政策研究班の代表も兼任しており,肝炎に対する知識をより多くの人たちに分かりやすく伝える手段として,ゲームの遊びを取り入れた「肝炎すごろく」の企画を推進しました。

※肝炎・免疫研究センターは,国立国際医療研究センター研究所の部門として2008年に設立。肝炎情報センターは同センター内の機関の一つ

竹内泰江氏(以下,竹内氏):
 同じく肝炎・免疫研究センター内の「肝炎情報センター」で上級研究員をやっております,竹内泰江と申します。
 私は2021年度まで厚生労働省の肝炎対策推進室に所属していて,考藤先生に政策ごとの相談をする立場にいました。そこで肝炎のことを幅広い世代に伝える新しいツールとして,肝炎すごろくをご提案いただき,厚労省としても「ぜひ進めてください」となりました。
 現在は,私自身も啓発活動を担う現場に身を置きたいと考え,ここにいる皆さんと一緒に調査・研究をさせていただいております。

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西井正造氏(以下,西井氏):
 横浜市立大学 先端医科学研究センター内の「コミュニケーション・デザイン・センター」で助教をやっています,西井正造です。
 私はもともと教育学の研究者で,ひょんなことから医学生の医学教育に携わるようになり,教壇で医療のことを伝えるお仕事を長らくやってきました。肝炎すごろくの実際の制作は,我々が担当しました。

藤森晶子氏(以下,藤森氏):
 同じく,コミュニケーション・デザイン・センターで研究補助員としてデザイナーをしています,藤森晶子です。
 私はもともと社会人専門のデザイン学校に通っていて,医療や看護の知識もぜんぜんないところから飛び込んだ身です。

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4Gamer:
 まず,それぞれどのような組織なのでしょう。

考藤氏:
 肝炎情報センターは,厚労省と連携してウイルス性肝炎対策を推進する,いわば“日本の肝炎医療の旗振り役”です。
 最初に話したとおり,肝炎の感染者は日本に200万人以上いるとされ,放っておくと命の危険につながります。そのため厚労省や保健所とともに「検査・治療を受けましょう」「治療後も病院で見てもらいましょう」と,基本でいて大事なことを各所に伝えてきました。

4Gamer:
 端的に,肝炎のことなら日本の組織でNo.1くらいの?

考藤氏:
 完全にNo.1です。国全体を見据え,国とともにウイルス性肝炎対策を推進する立場にしても,うち以外にはないくらいです。

西井氏:
 私たちコミュニケーション・デザイン・センターのほうは,横浜市立大学が母体にあり,大学の付属病院や医学部などと並列して,ゲノムや再生医学などを研究する「先端医科学研究センター」内の一部門です。

4Gamer:
 その,具体的には日々どんなお仕事をするのでしょう。

西井氏:
 基本は研究機関らしく,病院や企業からの持ち込みも含め,さまざまな医療課題の解決策を医学的見地のみならず,“コミュニケーションとデザインの観点”から模索し,効果検証を繰り返しています。

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4Gamer:
 そういう。大枠は理解できました。では本題に入る前に,肝炎についてさらなる事前情報を知っておきたいのですが。
 よく耳にするB型/C型肝炎は,それ自体が苦しい病気というより,肝硬変や肝がんなどの“大病に至りかねない過程の病状”といった捉え方でもいいのでしょうか?

考藤氏:
 そうですね。正式名称は「B型肝炎ウイルス」「C型肝炎ウイルス」と呼びますが,これらのウイルスはそれ自体が炎症を引き起こす原因であり,感染時は肝臓に非常に効率的に広がってしまいます。
 そして肝炎が発生すると,いろいろな免疫反応が起き,炎症細胞によって肝臓が徐々に壊されていきます。ウイルス性肝炎は“20年ほど”かけてゆっくりと進行し,やがて肝硬変や肝がんにつながります。
 もちろん病状には個人差がありますが,なかでもウイルス性肝炎でありながらお酒をたくさん飲む人は進行が早まりがちです。

4Gamer:
 B型とC型で,症状に重さや違いはあるのでしょうか。

考藤氏:
 いえ。症状的にはほとんど変わりません。

4Gamer:
 けれど,最終的にはどちらも生死に関わると。

考藤氏:
 それも自身が気がつかないうちに進行している可能性があるところが,肝炎の恐ろしいポイントです。
 仮に急性症状の場合,肺炎などの呼吸器の感染症なども引き起こされると,明らかな体調不良を自覚できます。
 しかし慢性症状の場合,感染後も無症状であることが多いため,自主的に検査しないと気付けず,知らないうちに悪化するわけです。

4Gamer:
 例えば,毎年の健康診断で発覚したりするのでしょうか。

考藤氏:
 感染後も検査値が正常の範囲内だったり,「γ-GTPが高いのでお酒を控えましょう」と言われても経過観察中に忘れられたりもするので,健康診断時に“ウイルス性肝炎の血液検査”をしないと発覚しづらいです。
 そうした専門的な検査をしないと分かりづらいのに,自ら検査しようと思える人が多くない。そこが長年の課題ですね。

Copyright c National Cancer Center All Rights Reserved.(参考:国立がん研究センター がん対策情報センター
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4Gamer:
 代表的な感染ルートというのは。

考藤氏:
 B型肝炎は昔から「母子感染」が主流で,母親がB型肝炎のとき,生まれてきた子どももB型肝炎になることが常でした。
 1986年から母子感染予防の政策としてB型肝炎ワクチン接種が行われるようになり,そこから患者数は飛躍的に減っています。けれど,それ以前に生まれた現在の高齢者は,B型肝炎の方々がまだ多いとされます。
 一方,C型肝炎は血液を介して感染しますが,それ以外の感染ルートも考えられています。C型肝炎も“高齢になって発覚”することが多く,そのような方々は若いころに感染しているのだろうと推測されます。

4Gamer:
 子どもへの予防ワクチンの効果はどれほどでしょう。

考藤氏:
 母子感染した子どもにワクチンを打って抗体ができると,「その後はまず感染しない」と言われています。B型肝炎の予防ワクチンは極めて優秀で,その効果も体内で何十年と継続するためです。
 実際,赤ちゃんが大きくなったときに予防効果があったかどうかのデータは海外では取られており,一定の効果が認められています。
 しかし,B型肝炎はワクチンで予防が可能ですが,C型肝炎はまだ予防ワクチンが存在せず,防ぐには正しい知識を持つことや,早期発見のための検査が必要となります。

4Gamer:
 なるほど。すごろくにもありましたが,最初の「スタートカード」のワクチン接種の有無は,B型肝炎対策の現状だったわけですね。

考藤氏:
 そうです。とくに2016年からはB型肝炎のお母さんから生まれた子だけでなく,すべての出生児に“B型肝炎ワクチンの定期接種”が行われているため,同年以降に生まれた子供全員が接種すれば,B型肝炎はいずれ減少します。これから20年,30年後にその効果が現れるでしょう。

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4Gamer:
 一例として,私は今まで肝炎のことをほぼ知りませんでしたが,皆さんは普段,世間の肝炎に対する認知はどれほどだと感じていますか。

竹内氏:
 私は大学が医学部で,卒業後もずっと医学に関わり,なかでも消化器内科を専門にしてきたため,肝炎が長らく身近なものではありました。そのうえでちょっとビックリしたことだと,医療とは関わりのない,お産を終えた友人のことです。
 彼女に「今まで肝炎の検査したことがあるか」と聞くと「したことがない」と返ってきました。ですが妊婦健診では必ず,肝炎の検査をしています。つまり彼女は検査したのにその意識がまるでなかったわけです。
 このように現代では,ウイルス性肝炎の検査をしていても,「母子手帳になにか書いてある」くらいにしか思わない意識の人も,やはり半分くらいいるのではないかと思っています。

4Gamer:
 感染しても分からないから検査しないだけでなく,検査したことに気付かないパターンもあると。私もどっちなのやら……。
 肝炎の存在も,「風邪」と同じくらい病気の代名詞的として知ってはいましたが,病状についてはフワッとしていましたし。

考藤氏:
 多くの人はそうじゃないですかね。知らずに感染している人も,知らずに検査している人も含めて,そもそも“知られていない”ので。

4Gamer:
 不調の実感でもないと,必死になれないですし。

考藤氏:
 それも普通だと思います。やはり,体がしんどくならないと誰もアクションを取らないんですよ。そこを飛び越えてもらうべく,我々もこれまでポスターや動画などで啓発してきましたが,そうした通り一遍のやり方では効果も出づらく,限界がありました。


肝炎は日常生活では“感染しない”


4Gamer:
 肝炎の前提情報は把握できました。
 それでは本題ですが,「肝炎すごろく」とはなんなのでしょう。

考藤氏:
 あらためて,ウイルス性肝炎の怖さは感染しても自覚できないことで,検査を受けてもらうほかない。それを知ってもらうのが重要です。
 また対象としても「自分が病気だと思っていない人」。とくに若い世代の方々にも知識を持ってもらいたいと考えたのがきっかけでした。といっても,最初から「すごろくを作ろう」と動いたわけではないです。

4Gamer:
 となると,動きはじめは?

考藤氏:
 厚労省との話が済んだあと,まずは協力を仰げることになった西井先生に,どのような形であれば目的を達成できるかご相談しました。
 以降のアイデアの多くも,主に西井先生のチームに出していただいたもので,そこで“遊びながら学ぶ”という観点をご指摘くださり,方法を探るなかで「すごろくではどうか?」との案をいただきました。
 すごろくなら,いろんなマスに肝炎知識を盛り込みつつ,遊びながら学べます。それからどんな情報を入れるかを私が精査したり,具体化する手段をご提案いただいたりと双方で進めていったんです。

4Gamer:
 肝炎の知識は,どのようにまとめていったのでしょう。

考藤氏:
 知識自体の重要さもそうですが,伝え方,いわゆる言葉が肝心でした。ただ単にマスに書き込んでいくだけだと,いろいろな受け止め方をされる可能性があります。その点に注意を払うにも我々の観点だけではいけないだろうと考え,外部の人たちに意見を仰ぎました。
 多くは医療従事者ですが,例えば医者というのは,患者さんとは診療を通じての関係性になりがちで,率直な意見を拾いにくい側面がどうしてもあります。そこで,診察室以外でも患者さんをサポートしている看護師さんや肝炎医療コーディネーターの方々の意見も集めました。
 それとやっぱり,肝炎患者さんたちの実際の声が大事でしたね。

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4Gamer:
 患者さんにも聞いたんですね。

考藤氏:
 はい。ウイルス性肝炎の患者さんというのは,これまでさまざまな差別・偏見を受けた方々がけっこういらっしゃいます。
 ですから,このゲームをプレイしたとき,あらゆる人たちに悪い感情を与えないかどうかを聞くことは,非常に大切でした。

4Gamer:
 ……すみません。偏見の内容が想像しづらいのですが,どういう?

考藤氏:
 B型肝炎の患者だと聞き,「同じプールに入るのを拒否された」「親が肝炎だからと幼稚園に入園できなかった」「特定の医療機関で診療を拒まれた」「職場で避けられるようになった」などです。

4Gamer:
 ああそういう。確かに,知らないと,こう……。

考藤氏:
 ウイルス性肝炎は感染症ですが,他者への感染は実態として,日常生活においては“まず感染しない”と思ってください。
 ウイルス性肝炎は血液あるいは体液を介さないと感染が成立しません。代表例は性交渉や輸血ですが,輸血に関しては血液のウイルス性肝炎検査の体制が整っていなかった時代の事故で,今はまず起きません。
 日常生活において,肝炎の人と一緒にご飯を食べても,同じお風呂を共有しても,感染することはまずないんです。
 こうした知識がないと,感染者を避けるという行為につながるんですよね。病気の系統は違いますが,昨今は新型コロナウイルス感染症によって生じた混乱がいくつもあったように。

4Gamer:
 まさに。コロナに置き換えると分かりやすい。

考藤氏:
 みんな知らないことは怖いから避ける。それはウイルス性肝炎も同じで,そういった差別や偏見をなくしていくためにはやはり,できるだけ正しい知識を分かりやすく伝えることが必要になります。

4Gamer:
 なら,横浜市大のほうはこうした話を受けてどうでしたか。

西井氏:
 私たちも当初,考藤先生に「肝炎ってなんですか?」と尋ね,これまでお話しいただいたような内容をお聞きするところからスタートしました。そのうえで先生から,既存のキャンペーンやプロモーションとは一線を画す,啓発ツールを作りたいと頼まれたんです。
 実際,医療現場からも「誰かに肝炎のことを分かりやすく伝える道具などはありませんか」と問い合わせがあったと聞いています。
 そして要素はいろいろあれど,伝えるべきメッセージは「肝炎の検査を一生に一回は受けてほしい」だろうと考えました。

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4Gamer:
 実際にプレイした身だと,合点がいきます。

西井氏:
 ゲームのポイントは「沈黙の臓器と呼ばれる肝臓の健康を守る」というものです。それを表現するには,自身の生活や選択が後々の影響を生み,結果的に肝臓がどうなってしまうのかを体験してもらうべきだと考えたところ,「人生ゲーム」(タカラトミー)が思い浮かびました。
 同作では,ルーレットの偶発性によってお金を稼いだり,憧れの職業に就けたりします。それはつまり,自分の意思とは関係なく状況がひっくり返る,人それぞれの“もしかしたら”の体験です。

4Gamer:
 言語化すると,そうですね。

西井氏:
 その後は仮説のもと,チームメンバーと案を膨らませ,パワーポイントで簡単な盤面を作っていきました。しばらくして藤森が参加してくれたため,あとはデザイナーの彼女にデザインを一任しました。
 なので,大本のコンセプトは考藤先生や私やチームメンバーのものですが,以降のゲームデザインはほぼ藤森が行っています。

4Gamer:
 藤森さんはもともと,ゲーム方面も専攻していたんですか?

藤森氏:
 いえ。私はもともとグラフィックデザイン志望で,過去に遊具メーカーの企画職などをやっていました。それに仕事の大半は,考えたもののアウトプットのためにデザインを起こすといったもので,ゲームデザインを一日中考えて作り上げていくだなんて経験はまるでなかったです。

4Gamer:
 でも,目をつけられるなにかがあったと。

西井氏:
 コミュニケーション・デザイン・センターでは,医療従事者とデザイナーが一緒になって医療課題などを解決する,任意参加の無料学校も開いていたのですが,彼女はその一期生なんですよ。
 そのころから優秀で,「あの子は絶対いいぞ」と確信していたため,前の仕事をやめてもらってまで参加してほしいと言ったくらいです。
 最初から即戦力になることが分かっていたので,来てくれた暁には肝炎すごろくの設計を任せようとあらかじめ考えていました。

4Gamer:
 目をつけられていましたね。
 藤森さんは実際,どのようにゲームを作っていきましたか。

藤森氏:
 私が参加したころには,ゲームに用いるテキスト素材もだいたい集まっていたので,それをもとにデザインしていきました。
 そのうえで,とくに精査したのは「テキストの量」です。各コマになにを書くかの文言もそうでしたが,単純に“各方面から受けたアドバイスの量”がものすごくて,素材がたくさんあったんです。
 だから,仮置きしては先生方に見てもらい,少しずつ情報量を削ってを繰り返し,情報の核を発信できるギリギリのデザインを目指しました。もちろん,遊びやすさの調整も並行しながらです。

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西井氏:
 制作段階では,いろいろな方々からアドバイスをもらいました。厚労省,肝疾患診療連携拠点病院(以下,拠点病院),患者会の方々などもすごく興味を持ってくださったため,意見もたくさん出ました。
 そのどれを打ち返し,どれを盤面に反映するか。やりすぎるとゲーム性が損なわれるし,「最後にみんな救ってほしい」などの意見もあって,なかなか悩まされましたね。
 その間,考藤先生にはよく間に入っていただき,最終的にはエンタメ性を保つべく,「これはゲームだと言い切りましょう」のスタンスで固まりました。それでも,遊ぶ側も啓発側も納得感のある形にし,かつおもしろいと思ってもらえるギリギリを狙うのは難しかったです。
 これまでも大きなデザイン変更が4回,細かい改訂となると30回以上ありましたが,意見をくださった皆さまには大変感謝しています。

4Gamer:
 おもしろさはやはり大切でしたか。

考藤氏:
 絶対大切ですよね。おもしろくないと印象に残りませんので。
 そのうえで,病気に対してネガティブなイメージを増幅させてしまうのは本意ではなかったので,そこは気を配りました。

4Gamer:
 ああ,病気をネガティブに感じないようなゲームにするというのは,制作目標としてもいいゴールに聞こえます。
 ちなみに,関係者らにゲームに精通した人はいたんですか。

藤森氏:
 いなかった? と思いますね。

4Gamer:
 なるほど。こうした“なにかの概念をゲーム化すること”を,ゲーム業界では近年「ゲーミフィケーション」と呼んでいます。
 ファミレスのサイゼリヤが社員教育用に「オリジナル店舗運営のボードゲーム」を制作するなど,類例もさまざまです。
 肝炎すごろくもまた,手段としてゲームが最善だったのでしょうか。

考藤氏:
 私はゲーム関係もメディア関係も素人ですが,従来型のポスターなどによる啓発は,見ても記憶に残らないことが多いんですよね。
 ですから,人の体験として残るものをと考えたとき,「触れる」といった動作があるほうがいいだろうと思いました。
 結果的に,ゲームという形に昇華されたのは西井先生や藤森さんのおかげですが,目指していた新たな取り組みはできたかなと。

4Gamer:
 お話を聞いていて思ったんです。皆さんはおそらく,ゲームを作りたかったのではなく,作るものがゲームだったんだろうなと。
 そして業界的なゲームデザインの野心とはまた違えど,異分野の専門家たちだからこそ集められた素材で,知性を絞って枠組みを用意し,情報の取捨選択とブラッシュアップを主な作業として,最終的にゲームを生み出した。それがとてもおもしろいと思えました。
 そうしたゲーム作りは専門畑だとやはり珍しい部類ですが,そういった作り方もあり,そういったアプローチができるなら,究極的には誰でもゲームが作れる……かもしれない。そう思わせてくれるので。

考藤氏:
 ありがとうございます(笑)。


病気は勝ち負けじゃない


4Gamer:
 先日,実際に「初版」と「改訂版」(※)を遊ばせてもらいましたが,体感として思ったのが“ホラー”でした。
 遊ぶ年齢層,自覚する物事によって感想は変わるでしょうが,私はもう,中盤くらいからホラーゲームを遊んでいるように感じて,コマを進めるのが怖くなりました(笑)。

※「肝炎すごろく」は2022年3月に配布開始。2023年に内容を刷新

考藤氏:
 そうでしたか(笑)。

4Gamer:
 例えば人生ゲームのように「プロ野球選手になった」みたいなのは,うれしさはあれど実感は乏しいのですが,肝炎すごろくの場合,“自分もこうなるかもしれない”と思うと,終盤は祈りましたよね。
 その点,実際に配布を開始してからどんな感想が出てきましたか。

西井氏:
 原則は全国の拠点病院への配布が主でしたが,大きなものでは「日本科学未来館」で体験会を実施させていただきました。
 そこで現地にやってきた親子や若いカップルの方々に遊んでもらったところ,お子さんからは「知ってよかった」という感想が多く,大人からは「生活改善します……」といった意見が多かったですね。

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4Gamer:
 似た感想に着地できていて安心しました(笑)。個人的には,初版のゲーム進行がサイコロではなくカードだったのが気にかかったものの。

西井氏:
 まさに,配布後にとくに意見を受けたのがそこです。
 肝炎すごろくでサイコロの出目が“1〜4まで”なのは,5〜6が出て盤面をササッと駆け抜けられないようにしたかったからです。しかし,初版の制作時は根本的な課題として「1〜4しか出ない物体状のサイコロ」が思いつかなかったんですよね。
 そこでカード化した結果,初版では無駄な動作も多かったことでプレイ時間が長くなりがちで,カードの管理がわずらわしいと言われました。そうした声に応えるべく,今ならもっとスッキリ仕上げられるだろうと,昨年度の終わりから改訂版の制作をはじめたわけです。

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4Gamer:
 改訂版では物体のサイコロになって遊びやすかったです。
 やはり,こうしたゲームではルーレットなどがあると便利かなと。

西井氏:
 おっしゃるとおりで。ただ,当時は「ルーレット付きの盤面」にしろ予算とノウハウもなかったために……(笑)。

4Gamer:
 あと,クイズカードも充実していますよね。

西井氏:
 クイズカードはもともと,関係各所からいただいた大量のコメントを盤面にだけ集約させるのが難しかったため,大事な情報を活用させてもらう要素として導入したんです。これもまた一工夫でした。


■クイズカードの一例。画像クリックで,正解表示
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4Gamer:
 ウイルスリスクカードを裏面で持つようになったのも,肝炎の潜伏性を表している感じで,「コワー……」って思えてよかったです。

西井氏:
 あれは学会でポスター発表したとき,見てくださった人に「現実は知らないで検査を受けるんだから,陰性・陽性は検査時まで隠したほうが面白いよ」と言われたのをインスパイアした改善ですね。

4Gamer:
 ついでに肝炎検査のルートには「検査はしても,その後は受診しない」といった脇道があり,そこは“医療現場の実態を反映したから”と資料にありましたが。実際,そういうことがあるのですか。

考藤氏:
 検査で陽性と診断されても,なにも症状がないからいいやとその後の治療をせず,忘れちゃう人も多いですから。それこそがまさに,ウイルス性肝炎の自覚症状のなさが生んでいる弊害です。

4Gamer:
 あー,なるほど。検査まで進んでも,無症状ゆえの関門はまだあると。正直,その気持ちが分からないとも断言できず……。
 それと,初版では「アルコールと脂肪を一気に清算できる救済マス」が最終盤にありましたが,改訂版ではなくなりましたね。

藤森氏:
 そこは悩みました。もともとゲーム的なエンタメ性を考慮して入れたマスでしたが,実際に遊ばれている様子を見たところ,最後にそこを踏んで喜ばれる反面,あれ一つで「道中の教訓が身に染みしみなくなってしまうのでは……」と考えられたため,今回は削ろうと。

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4Gamer:
 あと単純な話,勝利の概念でしょうか。
 ゴール後は「レバーコインの量」で勝敗をつけますが,小中学生なら分かりやすく燃えられる反面,年齢が上がると変に見方が増えると言いますか……極論「コイン大量でもC型肝炎」などの結末もあるわけで。現実に置き換えるなら,お金持ちだけど病気にかかった,ですかね。
 その場合,勝ち負けをつけるにもなんとも言いがたい後味があり,そもそも病気に対して勝敗をつけていいものなのか,などとも。

考藤氏:
 病気になる,ならないはおっしゃるとおり,勝ち負けではありません。そこは我々も伝えたいことの一つです。
 人生,誰もが病気になる可能性があり,それを避けるための道筋もあるが,自分だけではコントロールできないこともある。リアルでもゲームでも病気を患ってしまった方々が不安になるのは当然です。
 そのうえで,人生のどこかしらで病気にかかっても,ゲームで肝炎になったとしても,「ちゃんとしていれば,それでいいんだ」って。病気との前向きな付き合い方があると知ってほしいんですよね。

4Gamer:
 付き合い方。確かに。資産や病気の有無に関わらず,そうやって折り合いをつけられる生き方があると知るのは大切そうです。
 それでももう一言ですが,ゴールした直後,「んー,で?」となってしまったんですよね。いろいろ波乱なイベントをこなしてゴールに到着しても,計測されるのはコインだけ。そこで「多かった勝ち」「負けたあ」となっても「んー,それだけ?」となってしまい。
 個人的にはゴール後,初版の道中にあった「肝炎体操の動画を視聴してみよう」といった,勝敗とは別のアドバイスと言いますか。おみくじの運勢説明のような知識もほしいというか,あれです。
 ゴール後にありがたいお説教とかで引き締まりたかったなと(笑)。

考藤氏:
 ああ,そのご意見は興味深いですね。
 手持ちの札の組み合わせを数パターンほど用意して,「こういうゴールのときは,こういう状態なので,今後こうしましょう」といったところまで補足で踏み込むというのは,いいかもしれませんね。

4Gamer:
 「こういう人はもう病院に行きましょう」までいくと気が重いものの,用紙の裏面にでもそうした豆知識があると,感想戦もしやすい的な。

考藤氏:
 なるほど。そういうのもアリですね。

西井氏:
 レバーコインは「人生ゲーム的なお金の要素」を,肝臓の健康度を表すものとして単純に置き換えただけだったので,最後に残ったコインなどにさらなる意味づけをするのは検討の余地がありますね。

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4Gamer:
 反対に,あえてやらなかったことはありましたか。

西井氏:
 それで言うと「手術」のマスを入れなかったことですかね。肝硬変になったから移植手術をする,といったマスは症例としてちょっとハードですし,日本におけるドナーの話などもまた別の問題ですし。
 それに,手術は立派な医療の手段ですが,もともと“そこまでいってほしくないから啓発したい”というのが肝炎すごろくですので。

4Gamer:
 ちなみに,こちらの制作中,ほかの病気の専門医から「こっちの病気題材のすごろくも作りたい」などと言われたことは?

考藤氏:
 今のところはないですねえ。

4Gamer:
 このデザインなら,いろんな題材で応用できそうだなあと。

西井氏:
 確かに,シリーズ化みたいな方向性も可能性は考えられますね。

4Gamer:
 それらとおもしろさで切磋琢磨するかは別として,種類があること自体で認知が広がるといったパターンもありえますし。
 それと「肝炎医療コーディネーター」。彼らがそもそもどんな存在なのかなと。認定試験を受ければなれる,とまでは調べたのですが。

竹内氏:
 肝炎医療コーディネーターは,厚労省が設けた“肝炎医療の支援者”であり,適切な肝炎医療や支援を受けられるように,医療や行政,そのほかの地域や職域の関係者間の橋渡しを行う存在です。
 2022年度時点では,全国2万8434名の認定者がいます。
 例えば,肝炎の検査をし,結果が陽性だったとき,手紙や結果用紙でご案内するだけだと当事者も実感を持てず,人によっては病院に行かないケースもあります。その際,私たちが話してきたような肝炎の説明,検査の必要性,陽性時のその後のフローや手続きなどをコーディネーターが案内することで,本人に正しい認知をしてもらえるようになるのです。

4Gamer:
 現実問題,1人の医師が全患者に説明するのは労力的に難しいなどの課題もありそうですしね。試験を受けるのは医療従事者が多いですか。

竹内氏:
 そうですね。現状はお医者さん,看護師さん,保健師さん,薬剤師さんといった医療従事者が大半です。けれど,試験をとおれば誰でもなれて,患者さんご自身であれば実体験に基づいた助言もできます。
 自治体職員さんが職場での接点を通じて,肝炎検査を勧めることなども可能ですし,肝炎医療コーディネーターはそれぞれの職種の強みを生かして,自らができる患者さんへのサポートをしていくのが基本となりますので,やれることに大きな制限はありません。

Copyright(C)Ministry of Health, Labour and Welfare, All Rights reserved.(参考:肝炎医療コーディネーターについて|厚生労働省
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4Gamer:
 肝炎医療コーディネーターの肩書があると,助言の信用も増しそうです。その際,資格保持者にお給金や補助金があったりは?

竹内氏:
 残念ながら,まだそこまでは至っておりません。試験通過時は各都道府県の知事さんらに任命される形式にはなっているものの,現時点では国家資格のようにきちんと整備されたものではなくて。

考藤氏:
 都道府県ごとの拠点病院が講習会をやっていたりで,認定者数は年々増えてはいるんですけどね。
 資格関係がもっと整備されて,「資格の有無で賃金のベースアップ」などにつながれば,医療従事者の意識も変わっていくはずなので,肝炎情報センターとしてはもう少し働きかけていきたいところです。


治療法はもはや高精度&低負担


4Gamer:
 肝炎すごろくの取り扱いは現状,どうなっているのでしょう。

考藤氏:
 現在は全国72か所の拠点病院に配布済みです。地域ごとに数は異なるものの,各都道府県で少なくとも一つは有しています。
 現場では,肝炎医療コーディネーターたちが患者家族への説明用途や講習会などで使用し,それを見た保健所や医療施設の方々からも「ぜひ使いたい」とお声がけいただけて,配布先が広がっています。
 ただし,基本は医療業界内での口コミと言いますか,積極的に頒布するといった扱い方はしていません。

4Gamer:
 端的に,一般販売も難しいんですかね。

考藤氏:
 そうですね。このプロダクト自体が厚労省の補助金,つまり税金で作られているものなので,肝炎すごろくで商売をするなどは原則できません。仮に,権利をどこかに委譲して,そこが第三者的に販売するなどは可能かもしれませんが,それもまだ考えていないのが実情です。

4Gamer:
 この記事を読んだ一般の方々が「私も使ってみたい」と問い合わせしたとき,貸与や譲渡は可能なんでしょうか。

考藤氏:
 ご使用したい個数など,まずはご連絡ください。せっかくいただいたご要望ですので,柔軟に対応していきたいと考えております。
 また,広く使っていただくための次の段階として,例えばアプリ化するなどの将来像も検討していきたいです。そうすればより気軽に触れられるようになり,利用者層も広がるはずですので。
 あとは先にご協力いただけた日本科学未来館など,関心の高い人たちに触れていただける場所や機会も模索していきたいかなと。

配布紙だけでできるジュニア用「肝臓ライフすごろく」も拠点病院で配布
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4Gamer:
 例えばゲーム業界だと,こうしたボードゲームないしアナログゲームを取り扱う「展示会・即売会イベント」や「ボードゲームカフェ」で,医療啓発イベントを打診するといった動きはありかもしれません。

考藤氏:
 へえ,ボードゲームカフェなんてあるんですね。

4Gamer:
 「病院がゲーム持ってきた」ってだけで話題としておもしろいですし。ボードゲーム畑の人たちからさらなるブラッシュアップにつながる意見も聞けるのではないかなと。まあ,こうした非商用プロダクトが参加・提供するときにどのような障害があるのかは存じていないものの。

西井氏:
 これまでは研究費のなかで制作・配布をしてきましたが,次のフェーズとして医療外にアプローチするのはありかもしれません。まさに場所や配布をどのような予算組でやれるのか次第ですが,ゲーム好きな方々に触れてもらうというタッチポイントは一案だなと,今思いました。

4Gamer:
 それと肝炎すごろくとは別に,肝炎医療自体は近年,新たな治療法が編み出されたなどの業界動向はあるのでしょうか。

考藤氏:
 肝炎医療は現時点でかなりいいところまできています。ウイルス性肝炎の話に絞ると,まずC型肝炎は「飲み薬でほとんどのウイルスが消える」時代で,国の助成制度もあり,金銭面の負担も軽くなっています。
 B型肝炎も同じように低負担で治療が受けられて,90%近くの患者さんでウイルスをコントロールできますが,こちらは「ウイルスを完全に消せる方法はまだ確立していない」という課題があります。
 そのため肝硬変や肝がんが起こる可能性は減りますが,肝がんリスクはゼロにならないため,発症者がいまだ一定数いるわけです。だからB型肝炎の新たな治療薬の開発が,目下の研究事案の一つです。

4Gamer:
 それでも治療自体はかなり高水準に達しているんですね。
 ああ,だから今はもう,その情報を広めるターンにあると。

考藤氏:
 そうなんです。ウイルス性肝炎の多くは安全に治療できるようになっているので,必要な人はできるだけ治療してください。

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4Gamer:
 ならば最後はこの質問に。「私,実は肝炎かも?」などと不安になったとき,我々はどうすればいいのでしょう。

考藤氏:
 まずは繰り返し言ってきたように,肝炎にかかっているかどうかを調べるため,お近くの医療施設に足を運びましょう。
 B型/C型肝炎の検査結果はすぐに出ますので,もし陽性だったときは専門医に診てもらいましょう。全国の拠点病院に必ずいる専門医は,肝炎情報センターのホームページ内の「肝炎医療ナビゲーションシステム」ですぐに調べることができます。
 診察時はいくつかの精密検査があり,そこで治療が必要かどうかなども相談できます。もし治療が必要になっても,先に言ったように現代の治療法は格段に向上しているのでご安心ください。
 それと肝炎以外の肝臓の病気って,だいたい肥満に伴う「脂肪肝」やアルコールが原因の「生活習慣病」であることが大半なので,指摘された際は生活習慣を整え,適正体重や適量飲酒を保ちましょう。

4Gamer:
 まさに,肝炎すごろくのワンプレイがその説明の流れそのものですが,ゴール後に振り返ってみる着地点として,あらためて補足してくれていたら,ここに来る前の私よりも知識が深まっていたのかなと(笑)。

考藤氏:
 ああ,なるほど(笑)。

4Gamer:
 さて,本日は長々とお時間いただき,ありがとうございました。今後とも肝炎すごろくのひそかなる普及と,日本の肝炎医療を支える最前線でのご活躍を大いに期待しております。

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「肝炎すごろく」資料(PDFが開きます)

「肝炎すごろく」YCU-CDC紹介ページ


「肝炎情報センター」公式サイト

肝炎医療ナビゲーションシステム

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