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日本における現状のWeb3に関する問題点や課題を指摘する「日本のWeb3はココがズレている」をレポート
ステージには,JPYCの創設者・CEOである岡部典孝氏,Slash FintechのCEOである佐藤伸介氏,そしてモデレーターとしてBuzzBridge Capital/BuzzOneの共同創業者である,たぬきち氏が登壇した。
Web3を押したい思惑と,価値の交換が規制されることによるズレ
「日本のWeb3はどこがズレているのか」というテーマについて,佐藤氏はWeb3に関連した言葉は,自身も含めてすごく抽象的な部分があると思っているそうだ。そもそもWeb3は,中央集権型ではないトラストレス(信用不要)の形で交換されることに根幹のアイデンティティがあると思っており,その部分が日本では実現しづらいと感じているという。
具体的には,価値の交換というところに交換業規制がかかることで,それをうまく使えていないのがズレているポイントだと思っているとのことだ。
それもあって,Web3を押していこうという政府の言葉に対して,立ち上げようとしても価値の交換ができないので,どうやって立ち上げればいいのかといった状況になっているのだという。佐藤氏は,そうした状況に対して交換業者がスタートアップ起業を支援するといった仕組みがあると,Web3が伸びるのではないかと提案した。
佐藤氏自身も日本で決済サービスを展開するときに,日本円で受け取りたいというニーズが強かったものの交換できる環境がなく,取引所と業務提携して課題を解決しようとしているそうだ。そのような課題に寄り添ってくれる交換業者もいるので,ネットワーキングをして,出会って,こういうことがしたいと相談すれば意外と聞いてくれたりするのだとか。スタートアップ起業したい人は,話しかけていけばいいと佐藤氏は述べた。
こうした佐藤氏の発言を受けて,「そういう話をよく聞くのでは?」と振られた岡部氏は,日本はスタートアップ起業が非常に大事な立ち位置にも関わらず,決済という領域は資本が大きくないとなかなかチャレンジできないと話す。そういった意味で,イノベーションを阻害しないで,どういう風に立ち上げるかが重要だとした。
言葉の定義が日本とグローバルで異なることによるズレ
岡部氏がズレているなと感じるのは,日本における言葉の定義がグローバルとはだいぶ違っていることだという。
例えばステーブルコインという言葉にしても,グローバルで言うステーブルコインと,法律用語で“電子決済手段”と定義されたステーブルコインは,同じものなのか,違うものなのかが専門的な記者でも分からないのではないかと話す。それに対して佐藤氏が「同じじゃないんですか!?」と反応すると,「違います」と回答。
ほかにも,暗号資産を外国の言葉でクリプトアセットと訳す人がいるが,法令用語の暗号資産と外国の文献で見るクリプトは違っており,外国の言葉の定義をそのまま日本語で訳してしまうと,みんなが誤解するといったことが起こるそうだ。ちなみに,法律で暗号資産とステーブルコインは原則別だと整理されており,それもすでに施行されているらしい。
それもあって,暗号資産やステーブルコインといった言葉を当たり前に使っているものの,誰も何の話をしているのか正確に分かっていないことがズレの原因になっているのではないかと岡部氏は指摘する。
そして,これがスタートアップ起業にとっても大きなハードルになってしまうという。当局やほかの交換業者と話をするとして,ステーブルコインでこんなことをやりたい,暗号資産を使いたいと話しても,それぞれが違う話をしているといったことが起こるからだ。これが初心者にとっても,大企業にとっても,参入障壁を高くする原因になるとした。
これに対して佐藤氏は,パブリックコメントも分かりづらく,解読しなければならないと話し,もっとシンプルに言ってくれたほうがスタートアップ起業が指定しやすいと指摘する。岡部氏によれば,“霞が関文学”と言えるような,「日本語でこう書いてあるからこのはずだと思っていると,全然違う」ことが法律用語ではありえるそうで,それに一般の議論も引っ張られてしまうのだとか。
岡部氏は,いまもステーブルコインを検索すると9割9分くらいは暗号資産の一種と書いてあるため,誤解したまま初心者がどんどん拡大再生産されてしまうと話す。それを防ぐために,そうしたところを書き変え,アップデートしてズレを直す努力が必要だとした。
ズレはどのように解決していくのか
テーマも締めに入ったといったところで,たぬきち氏から,今後どういうふうにしていけば,ズレを解決していけるのかという話題に。
岡部氏は,基本的にズレはなくならないと思っているそうで,そのズレが大きな問題にならないように,用語集の時代に合わないところを直すなど,細かなところで情報をアップデートし,発信していくことが大事だと語った。
また,邪魔をするような人はどうしてもいるもので,そういう人と対話を避けるとズレが大きくなり,トラブルに発展するリスクがあるという。そのため,責任あるイノベーションの担い手だからこそ,オープンな姿勢は閉ざしてはいけないと思っているそうだ。最近は,金融庁もそんな姿勢を取っていて,スタートアップ企業と対話をするスピードと深度を深めているという。
続いて佐藤氏は,ズレがあるから逆にビジネスチャンスもあり,ダメだと思ったことでも,やってみると意外とダメじゃなかったりするので,面白いと思うならやったほうがいいと語った。
これに対して岡部氏も,正面から行くと道が開けるパターンは,JPYCがまさにそうだったと同意する。何十年も誰もやっていなくても,最近になって事例ができたりして限界が変わることもあるそうだ。法律上でできると書いていることは,どうやったらできるのかにアプローチすれば,金融庁もできる可能性を考えてくれるだろうと話す。
そうは言っても,理論武装は必要だ。ある程度勉強しないと共通言語で話せないかもしれないので,用語の違いなどを確認したうえで,(金融庁などと)話したほうが,より効果はあると述べていた。
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