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[CEDEC+KYUSHU]雑談もできる。「NLPアドベンチャー」が解決したコマンド入力式アドベンチャーゲームの宿題
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印刷2022/11/13 15:54

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[CEDEC+KYUSHU]雑談もできる。「NLPアドベンチャー」が解決したコマンド入力式アドベンチャーゲームの宿題

 2022年11月12日に九州産業大学で開催された,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2022」で,「自然言語処理技術による新世代コマンド入力式アドベンチャーゲームの制作手法」と題した講演が行われた。コマンド入力式アドベンチャーゲームに,最新の技術を取り入れて長年の“宿題”を解決するというもので,スクウェア・エニックスのAI部 AIリサーチャーである森 友亮氏が,その手法を解説した。

スクウェア・エニックスのAI部 AIリサーチャーである森 友亮氏
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コマンド入力式の“宿題”が長年を経て解決

 森氏がデモンストレーションを行った「NLPアドベンチャー」は,コマンド入力式アドベンチャーゲームだ。プレイヤーは,相棒の「ヤス」に対し,行動指示を文章の形で入力し,物語を進めていく。以下は,プレイヤーとヤスのやりとりだ。プレイヤーの言葉は,文章の形で入力されている。

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プレイヤー:「聞き込みをしてくれ」
ヤス:「では,この辺りの人に聞き込みを進めて行きます」


プレイヤー:「俊行について分かっていることは?」
ヤス:「無職です」
プレイヤー:「俊行は仕事していなかった?」
ヤス:「無職です。港近くのコーポなぎさに一人で住んでいます」


プレイヤー:「潮風が気持ちいいな」
ヤス:「天気がよいのは気持ちいいですね」
プレイヤー:「今日は良いことがありそうだ」
ヤス:「どんな一日でしたか?」


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 コマンド入力式アドベンチャーゲームを知っている人なら,このやり取りがいかに画期的なことであるかが分かるだろう。「俊行は仕事していなかった?」など,プレイヤーが入力したくだけた日本語に対してヤスが反応。「潮風が気持ちいいな」といった,ゲームと無関係の雑談にも付き合ってくれている。コマンド入力式アドベンチャーゲーム長年の“宿題”が解決しているのである。

 では,コマンド入力式アドベンチャーゲームとはどういうものだろう? 現在一般的な,コマンド選択式アドベンチャーゲームとどう違うのだろうか? 講演で語られた内容に,実例や補足を入れつつ説明していこう。

 コマンド選択式アドベンチャーゲームのご先祖が,コマンド入力式アドベンチャーゲームである。1970年代後半に生まれたコマンド入力式アドベンチャーゲームは,文字通りにコマンドを1文字ずつ手打ちすることで主人公を操作していた。例えば,落ちている本を取りたいなら「ホン トル」というように入力しなければならないのである。ここで問題になるのが,入力の正確性だ。コマンド入力式アドベンチャーゲームは,正確な入力でなければ反応してくれない。

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 先の例だと,本を取るにしても「トル ホン」や「ホン テニイレル(手に入れる)」では,意味は同じながらも,ゲームは反応してくれず,“モウ一度入力シテクダサイ”的なリアクションが返ってくるばかりだ。当時のパソコンのスペックを考えると仕方がないことではあるが,自然な日本語に対応していないのである。

 こうした事態が起こるゲームとしてよく知られているのが「デゼニランド」だ。目の前にある棺桶には十字架状の凹みがあり,持ち物の中には十字架(CROSS)がある。十字架をはめ込むことは予想できるのだが,コマンドの単語が分からない。本作のコマンドは英語なので,「SET CROSS」「PUT CROSS」など,いろいろな英単語を試してみるがまったく反応がない。正解は「ATTACH CROSS」だ。SETでもPUTでも意味合い的には同じなのだが,プログラムで定められた正解はATTACHなので,それ以外の単語を入れても決して先には進めないのである。

 さまざまなコマンドを試す試行錯誤に,作り手との知恵比べ的な喜びがはあった。時には本筋に関係ないコマンドを入力すると小粋な隠しリアクションを見つけられることもあったりして楽しい。しかし,前述のように,やりたい行動ができないストレスがあるのも事実であり,「アドベンチャーどころか言葉探しだ」という批判がなされている。受け付ける単語の数を多くする,日本語と英語の両方に対応するなどの取り組みがなされたものの,根本的な解決には至らなかった。

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 この「言葉探し」の現状を打破したのが,後に「ドラゴンクエスト」で一世を風靡する堀井雄二氏が手がけた「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ」だ。プログラムが受け付けるコマンドは画面に選択肢として表示されており,その中から自分がやりたい行動を選ぶ。コマンド“選択”式アドベンチャーゲームの誕生である。ゲーム側で対策しない限り,選択肢を総当たりすることで進めてしまうといった問題はあったが(「オホーツクに消ゆ」の時点で対策はされていた),言葉探しでなく謎解きやストーリーに集中できる作りが支持され,その後のアドベンチャーゲームの主流となった。
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 ちなみに堀井氏の「ポートピア連続殺人事件」もオリジナルのパソコン版はコマンド入力式アドベンチャーゲームだったが,ファミコン版でコマンド選択式アドベンチャーゲームとなり,同機種でのアドベンチャーゲームの先駆けとなっている。

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 コマンド入力式アドベンチャーゲームの進化は長らく止まっていたが,「大筋の意味さえあっていればコマンドを受け付ける,柔軟な対応ができないか」「ゲームに無関係のコマンドにも反応を返し,味気ない“モウ一度入力シテクダサイ”を表示させない」という,同ジャンルが長年抱えてきた“宿題”に答えを出したのが森氏のいう新世代コマンド入力式であり,これを実装したのが「NLPアドベンチャー」である。

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 タイトルにもなっているNLPとは,自然な言語をコンピューターに理解させる「自然言語処理(Natural Language Processing)」のこと。学習用のテキストデータや高性能のPC,ディープラーニングといった環境が必要になるが,近年はテキストデータをインターネットから収集したり,データセットが公開されたりと環境が整ってきている。未来ではなく,現在の技術を使うことで,新世代コマンド入力式は十分に実現可能であるそうだ。講演冒頭で行われた「NLPアドベンチャー」のデモンストレーションこそが,その答えといえるだろう。

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 プログラム側に“正解”が用意されていること自体はこれまでのコマンド入力式と同じだが,「大筋の意味さえあっていればコマンドを受け付ける柔軟な対応」=テキストの類似度を計算(プレイヤーが入力した文章と,用意された正解がどれ位似ているかを調べる),「“モウ一度入力シテクダサイ”を表示させない」=雑談対話の生成モデルを応用する,という形で実装が進められていった。

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 ゲーム部分に加え,テキストの類似度を計算する自然言語理解モジュールと雑談対話を生成する自然言語生成モジュールからなる自然言語処理アプリケーションを用意。両者を連携させることでゲームが進んでいく。プレイヤーが入力した日本語は,意味ベクトルに変換され,“正解”との類似度がチェックされる。まったく同じ文字列でなくても,意味として似ていれば“正解”と同様に扱われるわけだ。

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 意味ベクトルとは,言葉の意味をベクトルで表現するというもので,同じような意味の言葉を意味ベクトルに変換すると,類似したベクトルを示すそうだ。単語レベルでの意味ベクトルと,センテンスレベルでの意味ベクトルを得る手法がそれぞれ存在するが,NLPアドベンチャーでは後者が使用されている。

 そして,意味ベクトルと“正解”との類似度が低い場合は雑談として扱われ,日本語学習済みの自然言語生成モデルをチューンナップしたものによって,雑談が作られる。「NLPアドベンチャー」は,プレイヤーが入力した類似した意味のコマンドに対応,雑談も自動生成され,ゲームのエンディングまで進行できるそうだ。なお,ゲーム部分と自然言語処理アプリケーションは同一のPC上で,外部との通信なしに動作しているという。

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 「NLPアドベンチャー」を遊ぶプレイヤーは,雑談の自動生成によって高い自由度を体験できるが,これはリスクも内在していると森氏は指摘する。非倫理的だったり権利的に問題のある雑談が生成されてしまったりする可能性があり,すべてのテキストをコントロールできるわけではない。また,シナリオには無関係の情報で雑談が広がってしまい,プレイヤーがこれを手がかりと勘違いする可能性もある。こちらは自動生成側のコントロールで対処はできるが,そうしたところまでもゲーム体験であると考えているのだという。最後に森氏は,皆が安心して遊べる「NLPアドベンチャー」を実現するための研究を進めていく,と今後の方針を示した。

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 コマンド入力式アドベンチャーゲームが主流から外れたことで棚上げになっていた“宿題”に,長い長い時を経て解決の道筋が見えた。そして,その取り組みをしているのが,「ポートピア連続殺人事件」で家庭用ゲーム機にコマンド選択式アドベンチャーゲームの魅力を紹介し,アドベンチャーゲームの歴史に大きな影響を及ぼしたエニックスの系譜を継ぐ,スクウェア・エニックスであるのが感慨深い。「NLPアドベンチャー」の今後の発展に期待したい。

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