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日本デジタルゲーム学会 2021夏季研究発表大会セッション「研修ゲーミフィケーションの動向と事例」をレポート
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印刷2021/09/13 17:37

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日本デジタルゲーム学会 2021夏季研究発表大会セッション「研修ゲーミフィケーションの動向と事例」をレポート

 日本デジタルゲーム学会は2021年9月12日,「2021夏季研究発表大会」を福岡大学で開催した。本稿では,社員研修にゲーミフィケーションを活用し,社員の意欲を高める「研修ゲーミフィケーション」の動向と事例が発表されたセッションをレポートする。

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ゲーミフィケーションを取り入れた新入社員人材育成の実践事例


 日本ゲーミフィケーション協会の永井丈介氏は,自身の勤務する電機メーカーの新入社員研修にて,Nintendo Switch用アクションゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」(以下,スマブラ)を活用した事例を発表した。

 この電機メーカーでは,製品の品質管理(Quality Control,QC)や作業効率改善のために,製造現場にて小規模グループ「QCサークル」を作って活動しているとのこと。QCサークルにはチームで課題解決に挑み,ものづくりの品質向上や作業効率向上を達成するという側面があり,日本の産業発展に貢献してきた実績があるため,その活動について技術者や新入社員が学ぶことは有益だという。

 QCサークルの活動を効果的に進める手順には,「QCストーリー」がある。例えば問題解決型のQCストーリーは,まずどんな課題を解決するのかテーマを選定,次にデータに基づいて現状を把握し,目標を設定。さらに現状把握で得たデータをもとに原因を分析して,対策を立案選定して実行する。そして最後に歯止めと標準化を行い,反省や今後の方針の検討などをするという流れとなる。

 しかし,そうしたQCストーリーの教育には大きく2つの課題があるという。1つめの課題は,「人材育成を行う時間がない」こと。もう1つは,「どのようにして課題解決力研修を高品質化するか」ということだ。
 この電機メーカーでは,実際にQCサークルを作り,半年かけてQCストーリーを実践するOJT(On The Job Training)と,各自がセミナーや通信教育などで学習するOFF-JT(Off The Job Training)を通じてQCストーリー教育を実施しているとのこと。
 しかしOJTには時間がかかり,かつ新入社員は会社の現状を知らないため,テーマ選定や要因解析ができない。またOFF-JTにも,課題解決思考を十全的に行わないため,身に付きづらい,応用が利かないといった課題があるそうだ。

 永井氏は,新入社員の学習者4名のチームが,QCストーリーのテーマとしてスマブラのプレイスキルを採用した教育事例を紹介した。
 まず永井氏は,従来であれば「社内で改善すべき課題」を問うところを,この事例では「私生活で感じている課題や改善したいことは何か」をチームに問うたという。すると学習者の1人から「スマブラの対戦でなかなか勝てない」という意見が出て,その結果「スマブラのオンライン対戦プレイスキル向上」がチームのテーマに決まったとのこと。

 続いてQCストーリーの流れに沿って,「どれくらい対戦で勝てていないのか」を具体化・明確化する現状把握,その結果に応じた「何を」「いつまでに」「どのレベルまで」を明確にした目標設定,「特性要因図」を用いた要因解析,そして対策の検討と実施を行っていった。

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 永井氏によると,この事例の学習者は教育実施後に目標を達成したという。また2017年に行った同様の事例と比較して,教育中の学習者からの質問数が10件増加,学習者の居眠りが3件から0件になるという効果を得られたとのこと。加えて,学習者から「学んだことを自身で応用できるのではないか」という感想を得られたそうだ。
 これらの結果から,永井氏は「QCストーリーのテーマを馴染みのある(ワクワクする)ものにすることにより,学習者は当事者意識や関心をより強く持って学習に取り組むことができたのではないか」と考察した。

従来のOJTおよびOFF-JTとの比較
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解決すべき課題なども示された
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装備の変更によるキャラクターのステータス変化を計算するアプリの作成を通じた,プログラミングの教育事例も紹介された
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カードゲームがもたらす研修効果の増幅と講師スキルの向上効果について


 ADKホールディングスの加藤雄一郎氏は,新入社員の研修にカードゲームを採用した事例を紹介した。
 加藤氏はまず,研修には新入社員を育てるOJTと,新入社員自身によるOFF-JTの双方の研修が必要であると考えたという。しかし研修を実施する上では,「予算がない」「社内に研修のノウハウがない」「コンテンツを作る時間がない」という壁に突き当たったそうだ。
 また加藤氏自身の研修に対する認識を整理すると,「知識は本やeラーニングで得られる」「座学はつまらない」「一緒に受ける人がいると楽しい」という3点に集約されたという。

 それらの結果として加藤氏は,研修の面白さとは,他者との対話によって気づきを得られる「協働性」と,学んだことを活用して自分自身で意思決定する「発展性」にあり,それらは仕事をする上でも重要であると考えたそうだ。
 さらにそれらの要素を含むものを考えたとき,カードゲームが浮かび上がってきたと話す。

 具体的には,2種類のカードゲーム型研修ツールを使った。その1つ「キャリアトランプ」は,自己肯定感を高め「自信を持つ」ということを体感させることを目的に採用したという。
 ゲームの手順は,4人1組などのグループを組み,まず各自がカードを引いて自身の特徴に沿っていれば残し,そうでなければ捨てるというサイクルを繰り返す。そして最終的に残ったカードを使って自己紹介をしつつ,それらの特徴を活用することができた場面などを各自が語っていく。
 加藤氏は「心配性」という特徴を例に挙げ,「一見ネガティブだが,心配性だったからこそ事前に入念な準備をして乗り越えることができたという面もあるはず」とし,「したがって心配性を直す必要はない。このようにカードゲームを通じて,過去の自分への意味づけを変えることができる」と説明した。

 またキャリアトランプの効果としては,新入社員同士の交流に加え,目的である自信の体感および適切な自己理解に基づくキャリア形成が挙げられた。さらにゲーム内にさまざまなキャリア理論やNLP(Neuro Linguistic Programing,神経言語プログラミング)の要素があり,加藤氏ら講師自身も学ぶことが多かったという。

 もう1つの研修ツールは,「リフレクションカード」である。こちらは,対話を通して受講者自身の働きかけを客観的に振り返り,自身のノウハウにしていくことを目的に採用されたという。その内容は,デイビット・コルブ氏の提唱した経験学習モデルをベースとする対話用の質問カードを使ってお互いに問いかけることで,振り返りをしていくというものだ。

 加藤氏によると,当初は受講者同士で愚痴を言い合うような感じだったが,カードに記された強い問いかけにより自分を見つめ直すこととなるので,次第に相談のような形になっていったとのこと。また振り返りの中で,自身の自負に気づく受講者もいるそうだ。
 加えて,講師自身が経験学習モデルについて学ぶきっかけにもなったという。

事例の考察および今後の展開も示された
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「ゲーミフィケーション研修 〜自由な発想のヒント,仕事を神ゲーに〜」実践報告


 日本ゲーミフィケーション協会 代表 岸本好弘氏は,自身が講師を務めた社員研修「ゲーミフィケーション研修 〜自由な発想のヒント,仕事を神ゲーに〜」の事例を紹介した。
 この研修の目的は,「社員がゲーミフィケーションを学ぶことによって自由な発想を獲得し,より高度な目標にチャレンジをするようになること」にあったという。

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 研修では「ゲーミフィケーション6要素」などの話をするわけだが,研修自体にもゲーミフィケーションの仕掛けをいくつか施したとのこと。
 その1つが「クエスト1:ほめシャワー」だ。これはグループを作って,最初に各自が自己紹介をするときに,発言者に対してほかのメンバーが30秒間ほめ続けるというもの。ほめる対象は,「声が良い」「話が理論的」「服のセンスが良い」など,その発言者に関することであれば何でも構わない。こうやってゲーミフィケーション6要素の1つである「称賛の演出」をすることで,発言者は研修に参加したくなるわけである。同時に,この研修では「他者をほめることを推奨」していることも伝えたそうだ。

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 「クエスト2:身近なゲーミフィケーションを見つける」では,まず岸本氏が見つけたゲーミフィケーションを紹介。例えば「ラジオ体操のスタンプカード」や「お遍路」などがそうだ。続いて受講者が見つけたゲーミフケーションを発表してもらったところ,「スタンプカード」や「御朱印巡り」,「PayPayなどのスマホ決済システム」などが挙がったという。
 このクエストには,ワクワクする事例を探すことによる「能動的な参加」,身近なことから見つける「達成可能な目標設定」,発表に対するポジティブな反応という「称賛の演出」が含まれているとのこと。

 「ファイナルクエスト:職場の課題解決にチャレンジ」では,「職場で起こっている問題(ツマラナイ)」を「解決(ワクワク)」するアイデアを受講者に考えさせた。問題には「クエスト名」と「モンスター名」を付け,解決のアイデアは「必殺技」と位置付けたという。
 このセッションでは,「仲の悪い上司との関係を,ゲーミフィケーションで解決するアイデア」の事例が示された。

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最後は,受講者全員が笑顔で集合写真を撮影したという
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受講者の感想も紹介された
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 この研修は9月中にフォローアップが予定されており,グループごとの実践事例の発表に加え,思考および行動の変容や職場への貢献ができたかの確認などをするという。
 岸本氏は「“すべての人が働きがい”を感じられる社会の実現に,ゲーミフィケーションは貢献したい」と話していた。


社員教育のゲーミフィケーションの動向


 武蔵野学院大学 国際コミュニケーション学部 教授の坂井裕紀氏は,社員教育におけるゲーミフィケーションの動向を紹介した。それによると,研修ゲーミフィケーションは,必要な学習目標を達成するために,原理原則と主要なゲーム要素を融合させており,非常に魅力的なアプローチで研修を実施できることから,昨今のトレンドになっているという。

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 具体例としては,大手スーパーマーケットのウォルマートが,社員教育にゲーミフィケーションを採用し,スーパーのさまざまな業務を体験できるゲーム「Spark City」を開発・公開したことや,日本においても,ドミノ・ピザや松屋フードが社員教育にゲーミフィケーションを取り入れていることが紹介された。

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 これらの事例から坂井氏は,「ゲーミフィケーションが社員教育において一般的になってきている」「ゲーミフィケーションによる学習の科学的理解も深まってきている」とする一方,「社員教育におけるゲーミフィケーションの科学的根拠に基づいた具体的事項を提供するリソースはほとんどない」という指摘があることに言及した。
 そこで坂井氏は,国内における研修・社員教育のゲーミフィケーションに関する文献を調査し,社員教育のゲーミフィケーションの動向について考察することを目的とした研究を始めたという。

調査の具体的な方法も紹介された
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 調査の結果,「gamification」という英単語は,2010年4月から2014年4月まで上昇傾向であり,2020年に入ってからもピーク時の70%前後の人気度を保っていることから,一般的な語句として定着していると考えられるとのこと。
 一方,日本語の「ゲーミフィケーション」は2011年頃から2013年頃までに急増しており,主に日本で人気が高まったことを示している。しかし2014年には下降し,その後はピーク時の5%前後を推移していることから,現在は限られた機会または領域で使用される語句として定着していると考えられるという。

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 それでは文献から見た社員教育のゲーミフィケーションの動向はどうなっているかというと,データベース検索から特定した文献の件数は100件となった。そこからいくつかの条件で絞り込んでいくと,「社員教育におけるゲーミフィケーションの実施効果動向の検討に用いた文献」の件数は4件になったとのこと。

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 これらの結果から,坂井氏は「社員研修のゲーミフィケーションの実施効果はまだ十分に検討されていない」とする一方,「モチベーションの維持・向上の成果が期待されていることが示唆されている」との考察を示した。また今後は,海外における社員教育のゲーミフィケーションの効果検証に関する研究の動向を含めた研究を行うことなどを課題にしていくという。


ディスカッション「今後,研修ゲーミフィケーションを促進する方策は?」


 セッションの終盤では,研修ゲーミフィケーションを促進する方策についてのディスカッションが行われた。その中で岸本氏は,自身が紹介した研修の事例で,なぜフォローアップをするのかについて説明した。それによると,若い人達はゲーミフィケーションと相性が良いのは確かだが,1回の研修だけではそれが本当に効果的なのかどうか半信半疑だという。
 しかしフォローアップで実践の成果を発表し,上司に「いいね」と認められることで,ゲーミフィケーションによるモチベーションの維持・向上に対する効果を信じられるようになるそうだ。

 また昨今は高度経済成長期とは異なり,報酬を増やすことで仕事へのモチベーションを高めることが難しくなっていることから,ゲーミフィケーションによる内的モチベーションの向上は,新入社員のみならず多くの人にとって有効になるのではないかという意見も挙がった。この点について坂井氏は,最近はゲームに親しんだ世代が課長や係長といった社内の現場を率いるリーダーとなっており,ゲーミフィケーションを使った研修に抵抗がなくなっていると指摘していた。
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