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東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた
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印刷2020/02/22 00:00

インタビュー

東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた

 東京藝術大学は,2019年4月より大学院映像研究科にゲームを中心とした制作・研究を行える2年間のコース(ゲームコース)を開設している。このコースは,ゲームを芸術の一分野として捉え,研究や作品制作を通してゲームの可能性や映像表現のフィールド拡大に貢献することを目指している。

 このゲームコースに講師としてさまざまな人材を派遣しているのが,スクウェア・エニックス・グループだ。同社グループと東京藝術大学は,以前から産学協同で“アニメーションから出発してゲームを作る「Animation to Game」プロジェクト”に取り組んでおり,東京藝術大学にゲーム学科を立ち上げたらという仮定のもとで,2017年度に「東京藝術大学ゲーム学科(仮)展」,2018年度に「東京藝術大学ゲーム学科(仮)『第0年次』展」を開催している。
 2019年の11月から年明けにかけては,「ファイナルファンタジーXIV」プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏をはじめ,同社のクリエイター達が講師としてゲームコースに派遣され,講演も行われた(関連記事)。

2017年と2018年に行われた「東京藝術大学ゲーム学科(仮)」の取り組みで配布された冊子
画像(001)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた

 4Gamerでは,こうした取り組みについて,東京藝術大学とスクウェア・エニックスの双方にインタビューを実施した。東京藝術大学 副学長(国際・ダイバーシティ推進担当)岡本美津子氏および大学院 映像研究科長 桐山孝司氏,そしてスクウェア・エニックス・ホールディングス 代表取締役社長 松田洋祐氏に,ゲームコース開設の経緯と狙い,今後の展望などを聞いてみた。


ゲームをメディア表現の場や,アニメーションの表現を広げるものとして捉えるゲームコース


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。さっそくですが,東京藝術大学に2019年度より開設された,大学院映像研究科のゲームコースについて教えてもらえますか。

東京藝術大学 副学長 岡本美津子氏
画像(002)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた
岡本美津子氏(以下,岡本氏):
 映像研究科には3つの専攻があるのですが,ゲームコースはその中の「メディア映像専攻」と「アニメーション専攻」の学生を対象としたものです。2年で,ゲームを中心とした制作・研究を行えるコースとなっています。
 このコースを足掛かりに,今後はゲーム専攻の開設を目指しています。

4Gamer:
 アニメーションは分かるのですが,メディア映像というのはどういった範囲を指しているのでしょう。

桐山孝司氏(以下,桐山氏):
 劇場のスクリーンで上映するようなものに限らない,さまざまなメディアで展開される映像のことです。例えばスマートフォンのアプリや,フィールドに出て観るARなど含まれます。

4Gamer:
 ゲームコースが設立される前から,2017年の「ゲーム学科(仮)展」といった展示がありましたよね。取材にうかがったので覚えています。

岡本氏:
 はい。以前からゲーム専攻を作りたいと考えていたんです。しかし我々にとって,ゲームはまったく未知数の分野ですし,我々はデジタルネイティブではありませんから,専攻を作ったとしても,本当に教えることができるのかという懸念もありました。
 一方で,ゲーム産業は日進月歩でダイナミックに変化しています。それらの状況を踏まえ,産業と学問を分けるべきではないだろうというコンセプトのもと,産学協同で教育を行うのが正しい在り方ではないかと考えました。

桐山氏:
 もともと,期間限定の展示を行う数年前から,「FINAL FANTASY XV」を開発したスクウェア・エニックスさんの第2ビジネス・ディビジョン(当時)の方々を中心としたクリエイターの皆さんに,映像研究科の展示などを観に来ていただいていたんです。
 そのつながりから,2015年くらいからゲーム専攻をどういう形にすればいいのか,スクウェア・エニックスさんと一緒に議論を始めました。そして2017年,学生がゲームを作るというプロジェクトを行い,スクウェア・エニックスのクリエイターの皆さんにメンターとして参加していただき,その成果を発表したのが「ゲーム学科(仮)展」になります。
 さらに2018年にも同様のプロジェクトを行い,「東京藝術大学ゲーム学科(仮)『第0年次』展」を開催しました。

4Gamer:
 スクウェア・エニックスさんとは長年交流があったようですが,どういった経緯で産学協同のパートナーとなったのでしょう。

岡本氏:
 産学協同で進めようと考えたとき,スクウェア・エニックスさんが同じ問題意識を持っていると画像情報教育振興協会(CG-ARTS)が教えてくれたんです。
 ゲームがハイエンドになり,CGやモデリング,アニメーションのクオリティが上がり,重力を踏まえた動きを表現できるようになり,世界も路地裏まで描けるようになっている。今後もそうしたハイエンド化は続き,ますますクリエイティブが必要になっていく。こうした状況の中で,スクウェア・エニックスさんも,東京藝術大学などの芸術系の大学で専門家を育てたいとおっしゃっていました。

4Gamer:
 スクウェア・エニックス側の認識としても,ちょうど芸術系の人材を求めていたタイミングだったんですね。

岡本氏:
 さらにゲーム開発では,世界観を構築するためにアナログでジオラマを作ったり,モンスターを造型する前に粘土で模型を作ったりしています。モンスターのアニメーションも,どう動くのか,背骨がどう入っているのかまで決めて,手付けで1つ1つ作っているんです。これはもう,東京藝術大学の学生達の作品作りと,何も変わりません。
 大学と産業の方向性が同じであるということで,ぜひ一緒にやりましょうという話になりました。

桐山氏:
 とはいえ,我々とスクウェア・エニックスさんのような大企業とでは開発の規模が違いますから,現在はゲームコースで試行錯誤しているところです。メンターとなるクリエイターの皆さんには,学生を温かく見守っていただいています。

4Gamer:
 メンターは具体的にどういった形で作品制作に関わっているのでしょうか。

岡本氏:
 ゼミの先生みたいな形です。制作の節目節目で,学生とかなりの頻度でディスカッションしていただいています。

東京藝術大学 大学院 映像研究科長 桐山孝司氏
画像(003)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた
桐山氏:
 例えばゲーム学科(仮)展で展示した「Z」という作品は,もともとは紙の世界に暮らす2次元の主人公が3次元の世界に脱出しようとするアニメーションでした。これをゲームにしようと考え,メンターとエンジニア,学生でディレクター役の瀬尾 宙がディスカッションした結果,「積木とプロジェクションマッピングを使えばいいんじゃないか」というアイデアが出ました。
 その結果,この作品は積木で正しい形に階段を作っていくと,プロジェクションマッピングで投影された主人公が,その階段を上ったり下りたりするという,3次元を使ったゲームになったんです。

4Gamer:
 学生のアイデアを,ゲーム化に持っていく後押しをしているわけですね。

岡本氏:
 ディスカッションの内容は我々も共有していて,ときには参加することもあります。
 ただ,我々にはゲーム開発に関するプロセス管理のノウハウがありません。メディア映像やアニメの制作とはプロセスが違うので,そのプロセス管理のアドバイスも,メンターが担っています。
 あとは「プロならここまで作り込むけれど,この作品ならここまででいいんじゃないか」といった,さまざまなアドバイスなどもしていただいています。

桐山氏:
 また,スクウェア・エニックスさんのQAチームに,小さいお子さんのユーザビリティテストをしていただいた作品もあります。これも産学協同のメリットの1つで,ありがたいことです。

4Gamer:
 ゲームコースの学生は普段,基本的に自分のゲーム開発に取り組んでいるのでしょうか。

桐山氏:
 そうです。2019年度は,5人の学生がそれぞれ1プロジェクトに取り組みました。最終的なアウトプットは,展示会への出展です。 また,スクウェア・エニックスのクリエイターを講師として招いた講義も行っています。2019年度は8名の皆さんが,CGや音楽,AI,ゲームデザインなどをテーマにした講義をしてくださいました。
 面白かったのは「FINAL FANTASY XIV」の吉田直樹さんがしていた,自身のチームと東京藝術大学の組織構成が同じというお話です。例えば大学で彫刻をやっている学生は,ゲーム開発だと3Dのスカルプティングをやっているスタッフに当たるといった,ゲームを作るにはいろいろな専門家がいるという内容です。学生達に対して,産業界で仕事をするということのイメージを作っていただきました。

岡本氏:
 ゲームコースは大学院のものですが,この講義に関しては,まだ進路を決めていない学部生や音楽を学んでいる学生も受けられるようにしています。講義を一とおり受けると,ゲーム開発の流れや,どんな工程があるのかが理解できます。

桐山氏:
 1講義につき,だいたい50人くらい,音楽系と美術系の学生が半々くらいで集まりました。

4Gamer:
 講義の内容や講師はどうやって決めているんですか?

岡本氏:
 最初にスクウェア・エニックスさんと話し合い,クリエイターの皆さんには,ゲームファンの前でするような個別のコンテンツの話ではなく,アートならアート,サウンドならサウンド,AIならAIの歴史的,体系的な話をしてほしいとお願いしました。また芸術大学なので,「作る」という視点を入れてほしいということも,強くお伝えしています。
 そのぶん,話も専門的になりますから,例えばライティングの講義などは学生達もすべてを理解はできていないと思います。ただ,「大学時代に現役クリエイターの講義を受けた」という体験が,のちに活きてくる,貴重な体験になっているでしょう。

4Gamer:
 講義の一覧を見て面白いと思ったのが,「ローカライズについて」です。アートやUIは分かるのですが,意外な分野の講義もされているんですね。

桐山氏:
 そのテーマは,スクウェア・エニックスさんからご提案いただいたものです。私も不思議に思っていたのですが,初回の吉田さんの講義で学生から「グローバルに向けてゲームを作る上で,国や地域による文化の違いや,表現の規制など配慮していることについて教えてほしい」という質問が実際に挙がっていて,納得しました。

岡本氏:
 アニメーションや映画でもローカライズは1つの課題になっているので,学生は意識せざるを得ないんです。例えば映画だと暴力表現と性的表現をどうするか。今のグローバルなアーティスト教育には,すごく必要な講義なんですけれども,それをスクウェア・エニックスさんから提案していただけたんです。本来は我々からお願いすべきことだったかもしれません。

4Gamer:
 講義に対する学生からの反響はいかがでしょう。

桐山氏:
 学生に感想を書いてもらったのですが,それぞれが学んでいることに近しい分野の講義については,やはり関心が高かったようです。また自分が何気なく遊んでいたゲームの開発が,こんなに大変なものだったのかという純粋な驚きや,仕事としてゲームを作るということがイメージできたという感想もありましたね。
 あとは専門性が高い講義なんですけれども,講師の皆さんがかなり分かりやすく説明してくださるので,学生も結構ついて行けているように感じます。例えば先ほどのローカライゼーションの話題では,文化によって表現の仕方もさまざまであることを具体例で話していただきましたが,表現に携わっている学生にも大いに実感を以って伝わったようです。

4Gamer:
 東京藝術大学さん側としては,正式に動き出したゲームコースの手ごたえはいかがですか?

桐山氏:
 産業の視点からゲーム開発を指導していただけて,大変ありがたく感じています。
 おそらくですが,スクウェア・エニックスさん側としても,商業的なものとは違った,自由度の高いゲーム開発に参加できる機会をクリエイターに与える機会になっているのではないでしょうか。

岡本氏:
 ゲーム産業はドラスティックに変化し続けていますから,今売れているものを作っているだけでは,2年後3年後のマーケットに追いつけません。スクウェア・エニックスさんにとっても,「何が出てくるか分からないけれども」という側面はあれど,先を見据えて種を蒔いておくメリットがあるのかな,と勝手に考えています。例えコンテンツにならなくとも,クリエイターのインスピレーションやアイデアの後押しになればいいなと思っています。

画像(004)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた

4Gamer:
 そもそもの話なんですが,東京藝術大学さんが専攻を作りたいと考えるほど,ゲームに着目した理由は何だったのでしょう。

桐山氏:
 アニメーションの応用分野の1つが,ゲームであると考えたからです。
 ゲームは今や美術館に展示されるものになっています。NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)では,2018年に「イン・ア・ゲームスケープ」というゲーム展を開催しましたし,金沢21世紀美術館にもゲームが展示されているんです。
 なぜそのような状況になっているかというと,ゲームエンジンが進化して,バーチャル空間に,実際にあり得るような世界を作り出せるようになったからです。それは美術的な観点からも大変興味深いことですし,現実+αのシミュレーションができるわけですから,現実を超えて面白いことができる分野でもあります。

4Gamer:
 東京藝術大学さん視点でも,ゲームは芸術分野に含まれるものとして認知できる存在になったと。

桐山氏:
 制作に使うツールもほぼ同じなんです。「ゲームだから」と分けることに意味はないと思います。
 それと,学校として現実的な話をすると,生徒の卒業後の生活を考えたときに,表現の幅を広げるような指導が必要というのもあります。

4Gamer:
 確かに,アートに長けた学生の卒業後を考えると,ゲーム業界も1つの道ですよね。

桐山氏:
 卒業後,アニメーション作家として活躍しつつ,プロデューサーと組んでゲームを作っているというケースも実際にありますからね。

4Gamer:
 インディーズゲームなんかだと,ゲームとしての面白さの前にまずアートのインパクトで目を惹くものも多いです。

岡本氏:
 今,インディーズゲームは市民権を得ていますし,それで生活が成り立つケースもあり得ます。発想とグラフィックスの美しさなどによって一発当てたら……なんてことが普通に考えられるようになったわけです。そんな時代ですから,ゲームにもいろんなタイプのアーティストが求められていると思いますね。
 そう考えているのは我々だけではなく,海外はもっと進んでいます。例えば南カリフォルニア大学(USC)では,映画芸術学部の中にゲーム学科があります。USCは,ゲームを映画やアニメーションなどの映画芸術の延長上にあるものと捉えているんですね。映像の基礎を学んだ人がゲーム開発に携わっていくんです。
 これと同様に,我々の教育もゲーム開発に大きく活かせるはずです。

4Gamer:
 今のところ,ゲームコースで名前が挙がっているのはスクウェア・エニックスさんのみですが,ほかのメーカーさんとの取り組みも予定されているのでしょうか。

桐山氏:
 いくつかコンタクトを取っており,実際に検討していただいている企業さんもあります。

岡本氏:
 2019年度は,ゲームフリークさんにキャラクターデザインに関する講義をしていただいたこともあります。企業さんによってカラーが異なりますので,今後も産学協同の形として広げていきたいですね。
 また,これは夢ではありますが,マサチューセッツ工科大学(MIT)のように産業系の人達が大学院で2年間研究開発をして,また産業に戻っていくようなプロジェクトがいくつかできてくると面白いと考えています。

4Gamer:
 それでは最後に,ゲームコースの今後の展望などをお願いします。

桐山氏:
 スクウェア・エニックスのサウンドディレクターの矢島友宏さんが講義をしてくださったときに「やっとゲームが学問になった」とおっしゃっていたんですが,それは我々の努力目標でもあります。我々は,「なぜゲームを面白く感じられるのか」「継続して遊べるとはどういうことなのか」といった,面白さの要素を学問として理解する努力をしようと考えています。それは教科書を読めば分かるものではなく,現場の知識や経験,大学でできる試行錯誤を経て,ようやく近づけるものです。芸術も「無駄だ」と言われながら発展しましたし,学問にもなりました。ぜひゲーム産業の方々と一緒に,「なぜゲームは魅力的なのか」ということを学問として深めていきたいです。

画像(005)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた
岡本氏:
 アートは0から1を生み出すものです。一方マーケットは,2を3にしたり5にしたり10にしたりするようなものです。もしかすると0から1を生み出すことの教育は少ないんじゃないかと考えています。
 芸術系の大学,とくに東京藝術大学では,学生に「あなたは何が作りたいのか」と問いかけ,世界観やキャラクターなど全部0から作ることを教えています。それは学生にとっては苦しみでもあるのですが,0から1を作るための教育は止めてはいけないと思うんです。結果,役に立たないものができあがるかもしれませんが,0から1を作ることを学んだ人がいれば企業の開発能力やイノベーション能力が上がるのではないかとも思っていますので,今後もゲームコースを発展させていければと思います。

4Gamer:
 ありがとうございました。


目標は,さまざまな大学でゲームについて体系的に学べるようにすること


4Gamer:
 スクウェア・エニックスさん側のお話もいただければと思います。まずは,東京藝術大学さんと産学協同でゲームコースに取り組むことになった経緯について教えてください。

スクウェア・エニックス・ホールディングス 代表取締役社長 松田洋祐氏
画像(007)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた
松田洋祐氏(以下,松田氏):
 スクウェア・エニックス・グループは,教育機関とのつながりを大切にし,次世代育成につながるさまざまな活動の支援や取り組みを行っています。しかし,専門学校などとはいろいろな形で関わっていますが,一方で,芸術系の教育機関とはあまり接触がありませんでした。
 そこで,学術・芸術分野との連携を強化していきたいと考え,東京藝術大学さんとお話をしまして,産学協同で「ゲーム学科を作る」ということにつながっていきました。

4Gamer:
 ゲームを学科にするというのは,スケールの大きなお話ですけれども。

松田氏:
 日本だと,プログラミングやグラフィックスを個別に学べる専門学校はあっても,体系的にゲームやゲーム開発について学べる学科を設けている4年制の大学はほぼありません。ところが海外,とくにアメリカのUSCやニューヨーク州立大学ではゲームを芸術の1つと捉え,学科が確立しています。そこで東京藝術大学のような国公立大学で総合的にゲームを学べるようにすれば,日本におけるゲームの認識も変わるのではないかと期待しました。
 また,これは社内で言っていることでもあるのですが,ゲームは確立されたカルチャーであり,アートとテクノロジーが融合した総合芸術・総合エンターテイメントですから,学術機関に良い研究材料を提供できると考えています。それを東京藝術大学と一緒に行えるわけですから,大変ありがたい話です。
 さらに東京藝術大学では絵や音楽,彫刻などをさまざまな視点で研究しています。そうしたアートの視点からゲーム開発に取り組むことも,我々にとって大きな刺激になると考えました。

4Gamer:
 東京藝術大学さんのゲーム学科は2017年に展覧会の形でスタートしましたが,当初から常設を考えていたんですね。

松田氏:
 ええ,常設を目標にしていました。東京藝術大学は国立ですから,学科の開設には国の予算が必要です。そこで予算を得るための実績を作るべく,試験的に期間限定でやってみましょうと。

4Gamer:
 一連の取り組みでは,スクウェア・エニックスさんのクリエイターがメンターとして学生をサポートしていますよね。メンターを経験したクリエイターは,どういった感想を抱いているのでしょうか。

松田氏:
 やはり普段とは違う環境で,異なる発想の人とゲーム開発に取り組むため,刺激になっているようです。学生はゲームがどのように作られているのかを学び,クリエイターは教えることによっていつもと違う発想を得る。双方良い影響があると思っています。

4Gamer:
 2019年11月から2020年1月にかけて,スクウェア・エニックスさんのクリエイターが講師を務める講義も行われています。とくにローカライズに関する講義については,スクウェア・エニックスさん側から提案したものとお聞きしたのですが,どういった基準で講師を決めたのでしょう?

松田氏:
 ローカライズは,各国の文化を理解し制作物を仕上げていくという点において,ゲーム開発の中で非常に重要なパートです。同じ日本語のセリフをプロの翻訳者が訳したとしても,ゲームに合っていなければダメですから。ゲームの雰囲気,文脈,プレイヤーが置かれている状況など,いろんなことを理解した上で翻訳しなければなりません。
 これはもう,アートですよね。例えば音楽でも,同じ楽曲なのに演奏者の解釈によって雰囲気が変わります。そのようにローカライズを認識してもらえれば,ゲーム開発に興味を持つ人も増えると考えているんです。

4Gamer:
 実際,東京藝術大学さんでは世界に向けて作品を作っており,各国の文化に配慮する必要もあるので,そういったローカライズやカルチャライズの必要性を採り上げてもらえるのはありがたいとおっしゃっていました。

松田氏:
 自分の作ったものを世界に届けたいという思いは,我々も同じなんです。届ける国の文化を理解した上で,ゲームや制作物にどう反映させるのか。そういった側面も講義に組み込めると,双方のためになるんじゃないかと考えています。
 大学向けの講義というと,グラフィックスや音楽などゲーム開発の特定の部分だけということになりがちですが,ローカライズを含めた全体を一度見てもらって,「ゲーム開発とはこういうもの」ということを理解してもらおうという狙いがあります。
 次の機会には,デバッグの講義も入れたいですね。重要なパートですから。

画像(008)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた

4Gamer:
 スクウェア・エニックスさんは,東京藝術大学さん以外のほかの教育機関とも連携されているというお話ですが,どういった取り組みを行っているのでしょうか。

松田氏:
 例えばAI関連では,テクノロジー推進部リード AI リサーチャーの三宅(陽一郎氏)が学生向けのAIアカデミーをやったり,講演をしたりしています。また,エンターテイメントビジネスとはどういったものかという経済系の取り組みもありますね。
 もはやゲームはビッグビジネスですから,研究対象として,今後も幅広く教育機関や学術機関と連携していきたいと考えています。その成果物がゲームに反映されることもあれば,別の分野に応用されることもあります。例えば現在は,オムロンさんと一緒に卓球ロボット「フォルフェウス」のAIの共同研究を発表しています

4Gamer:
 ゲームを通じて開発してきたAIが卓球ロボットに……というのは,言葉だけ聞くと本当に別の分野で面白いです。

松田氏:
 ゲーム開発は総合的なものなので,いろんな分野に応用できる知見があるんですよね。
 繰り返しですが,日本にはゲーム開発に関する個別の要素を採り上げる教育機関はあっても,総合的に研究対象にしているところは少ないです。もう少し大学などで研究してもらえるよう,我々のほうからもアプローチしていかなければなりません。

4Gamer:
 その一歩として,東京藝術大学さんにゲームコースが開設されましたが,今後,どんな人材が出てくることを期待していますか。

松田氏:
 今,ゲーム開発に関わっているクリエイターの中には,もともとゲーム専門ではない人達がたくさんいますし,ゲーム企業もまったく違う分野の事業を手がけているケースがあります。そのため,特定の人材を期待するということはあまりありません。
 今回のゲームコースの講義も,ほかの学科の学生が聴講に来ていたと聞いていますので,これをきっかけにいろんな人に「ゲーム開発を仕事にしてみるか」と考えてもらえるとありがたいですね。そうなると人材が豊かになりますから。同じタイプだけでなく,いろいろなタイプの人材がいると面白いと思っています。
 アートで勝負するゲームがあっても,ゲームデザインで勝負するゲームがあってもいい。いろんな人がいれば,いろんなゲームが出てくる可能性が高くなります。スクウェア・エニックスは,多彩な人材やゲームの発掘に努めています。

4Gamer:
 現在は大学院のゲームコースという位置付けですが,産学協同の取り組みの中で,目指しているところを教えてください。

松田氏:
 大学の学部の1学科にしたいですね。そしてほかの大学にも展開し,全国の大学や専門学校で,さまざまな形のゲームやゲーム開発に関する教育や研究ができるようにしたいと考えています。そうなると,ゲームに関する認識も変わってくるでしょう。
 もちろん現場で教えるOJT(On-the-Job Training)も重要ですが,体系的にゲームやゲーム開発について学べると,クリエイター育成の在り方も変わるでしょうね。実際,映画はそうなっていますし。

4Gamer:
 人材にも教育にも多様性が必要であるということですね。

松田氏:
 私も2018年の「東京藝術大学ゲーム学科(仮)『第0年次』展」を観に行ったんですが,やっぱり学生の作る作品は見ていて面白いんですよね。プロのクリエイターが作るゲームとは,ちょっと発想が違う。いわゆるゲームではなく,すごく尖っていて,そういった発想は大事だと思いました。ビジネスにつながるかどうかはまた別の話なのですが,「こういうのもアリなんだ」と大きな刺激になります。

4Gamer:
 そういった学生ならではの発想は,どこから生まれてきているものだとお考えでしょうか。

画像(006)東京藝術大学がスクウェア・エニックス・グループと協力してゲームコースを開設。その狙いや展望を,大学のキーパーソンと松田社長に聞いた
松田氏:
 引き出しの多さです。自分の得意分野だけに詳しかったり,あるいは「RPGとはかくあるもの」といった固定観念に縛られたりするのではなく,いろんなことに興味を持つ。むしろゲームにあまり興味がなくとも,引き出しの多い人がたまたまゲームを作ってみたらすごいものになった,なんてこともあります。人もチームも引き出しが多い,つまり多様性があるほうが面白いことができるんです。
 その意味では,大学で講義をやると,それまでゲームにあまり関心のなかった人達がたまたま聴講して興味を持ってくれる可能性もありますね。

4Gamer:
 そうした多様性をゲーム産業に持ち込もうというのが,今回の取り組みであると。

松田氏:
 そうですね。
 また,最近ではeスポーツを推進する人達がいる一方,「本当にスポーツと言えるのか」という議論もあります。とくに,日本はゲームに対して保守的な認識を持っている人が多いと感じます。今回の取り組みを,そういった状況を変える1歩にもしたいですね。

4Gamer:
 ゲーム産業に関わる者としても,いちゲーマーとしても,ゲームの社会的地位はもっと上がってほしいと考えていますので,今回の取り組みがより発展していくことを願っています。本日はありがとうございました。

2019年12月12日収録


東京藝術大学公式サイト

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