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バンダイナムコのVR施設が「VR ZONE」から「MAZARIA」に変わった理由とは? コヤ所長とタミヤ室長によるセッションをレポート
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印刷2019/08/22 13:00

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バンダイナムコのVR施設が「VR ZONE」から「MAZARIA」に変わった理由とは? コヤ所長とタミヤ室長によるセッションをレポート

 2019年8月4日,Unreal Engine 4専門のゲームデベロッパ・ヒストリアは,ゲーム開発勉強会「出張ヒストリア!」を東京都内で開催した。
 この勉強会は,Unreal Engine 4の技術セッションを筆頭に,さまざまなゲーム開発の事例を紹介していくというものだ。本稿では,バンダイナムコアミューズメントの“コヤ所長”こと小山順一朗氏と,“タミヤ室長”こと田宮幸春氏によるセッション「VR ZONEがMAZARIAになったワケ」の模様をレポートしよう。

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 バンダイナムコアミューズメントが7月12日,東京・池袋にVR施設「MAZARIA」をオープンしたのは既報のとおりだ。同社は3月まで,同じ東京都内にて大規模ロケーションVR施設「VR ZONE SHINJUKU」を運営しており,また今なお国内および海外の各都市で「VR ZONE」を展開しているが,なぜ新ブランドを立ち上げる必要があったのだろうか。

左から小山順一朗氏,田宮幸春氏
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「VR ZONE」の運営で感じた手ごたえと,見えてきたVRコンテンツの課題


 話は2016年に遡る。“VR元年”と言われていたこの年,バンダイナムコアミューズメントは,お台場にVRエンターテインメント施設「VR ZONE Project i Can」を展開し,VRアクティビティ9タイトルを公開した。

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 2016年4月から10月にかけて「VR ZONE Project i Can」を展開した中で得られたのは,“クルマや電車を運転するようなものよりも,多人数でワイワイ遊べるようなアクティビティのほうが人気が高い”といった知見や,半年で来場者が3万7000人に上るなどの実績だったという。そうした結果が良好だったことから,「VR ZONE」は次のステップに進むこととなった。

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 2017年7月には「VR ZONE SHINJUKU」がオープン。この施設では,お台場で公開していたものに加え,新たに開発したVRアクティビティや,プロジェクションマッピングを使った非VRのアクティビティを展開した。

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 そして契約期間満了により,「VR ZONE SHINJUKU」は当初の予定どおり2019年3月31日にクローズ。結果として,来場者の男女比率が4:6で女性のほうが多いという,ゲーム界隈ではあまり例のない実績を残したことについて,小山氏は「ゲームと言うよりも,テーマパークと捉えた人が多かった」と分析していた。

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 一方,「VR ZONE SHINJUKU」が残した課題もあった。その1つは,「事前にどんな体験ができるのか伝わりづらい」というもの。これはVRコンテンツ全般が今なお抱えている課題で,つまり実際に体験してもらわないと分からない部分が多いというわけである。そして,伝わらなければ客は来ないのだ。

 また2018年頃から,VRというだけでは話題性に乏しくなっていったという背景もある。マーケティングリサーチ企業・マクロミルの調査によれば,VRの認知度は90%に達しているにもかかわらず,ロケーションVRを体験したのはわずか6%という数字が出ている。これについて,小山氏と田宮氏は「ほとんどの人はテレビの情報番組などで見て,『こんな感じなんでしょ。私は結構です』と判断を終えてしまっている。知っているけれど,選ばない」と解説した。

 さらにVR体験が暗い場所で行われたり,VRゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)を被っている姿が代わり映えしなかったりと,“映える”写真が撮れないことも大きな課題だ。体験だけでなく,承認欲求まで満たせる演出がないと,昨今の客は満足しないというわけである。

 そうした課題を解決するべく小山氏らは,あえて「VR ZONEを知っているが,来ない人達」を集めてグループインタビューを行った。
 まず,それぞれのグループが週末にどんな行動をしているかを聞いて傾向を見ると,30代男性は金曜は飲み,土曜は昼まで寝て午後から出かける。30代女性は土曜にまとめて家事をこなし,日曜は夫婦で外食。20代女性は友達や彼氏と遊びに出かけるといった感じで,まとめると「普段は近所や自宅で気分転換,まれに遠出している」という結果が出た。

 次にアミューズメント施設について話し合い,カテゴリー分けしていくグループワークを行った。すると,各グループともユニバーサル・スタジオ・ジャパンや遊園地のカテゴリーでは話が盛り上がる一方,VRのカテゴリーは一切話題に上らない傾向が見られたという。

 以上をまとめて,小山氏は「VR ZONEを知っているが,来ない人達」は「教科書どおりの“A but B”」だとする。つまり,「行ってみたい」としつつも,「生活圏にない」「料金が高い」といったさまざまな理由を付けて「行かない」と断言しているのである。
 さらに小山氏と田宮氏は,「生活圏にない」「料金が高い」というのは言い訳に過ぎず,例え解消してもその人達が「VR ZONE」に来るわけではないことを指摘。なぜなら,さまざまな言い訳を付けて来ない人達は,「VR ZONE」に対して,テレビなどから得た「VR体験ができる施設」という情報以上の興味を持っていないからだというのである。

 それではなぜ「VR ZONE」に興味が沸かないのか。30代男性の場合は,VR体験よりも飲みに行ったり配信サービスで動画を鑑賞したりといったことが優先される傾向にある。
 一方,女性は夫や恋人,友達と一緒に遊びに行きたいという気持ちはあるものの,ゲームとなると苦手意識があったり,男性がやるものという先入観から抵抗があるそうだ。


「MAZARIA」は,VRの素晴らしさを伝えるために“VR”という言葉を使わない


 ところがこうした人達も,VRアクティビティを多人数で一緒に遊ぶ様子を映したプロモーション動画を見せると,「やってみたい」と興味を示すのだという。また「ドラゴンクエストVR」や「マリオカート アーケードグランプリ VR」など,かつて自分が親しんだIPのVRアクティビティに対する反響も大きかった一方で,最新のグラフィックスを使ったVRアクティビティに対しては反応が薄かったのだそうだ。

 以上を分析した結果,小山氏らは「VR ZONEを知っているが,来ない人達」を呼ぶためには,「親しい人達と一緒に遊べること」「たくさんアトラクションがあり,1日中遊べること」「“VR”と名乗らないこと」が必要であるとした。
 とくに“遊園地”については,得手不得手という概念がないことが重要であるという。これをゲームにしてしまうと得手不得手が出てしまい,“ゲームセンターの進化版”であるかぎり,ゲームが不得手な人にとっては行く理由がなくなってしまうからである。

 さらに遊園地には,1つのテーマに沿って設計された“テーマパーク”がある。このテーマが身近なものだったり,何かピンと来るものがあったりすると,人はそこに行ってみたいという気持ちが強くなる。

 小山氏と田宮氏は「テーマパークとは何か」ということを検証したという。例えば,よく“非日常”という表現があるけれども,それはどういうことなのか。日常では年齢や性別,価値観など属性がバラバラの人達が集まっており,それが警戒心や敵対心などを生んでいる。
 しかしある境目をくぐり,スクリーニングされると同じ属性となり,安心して一緒に非日常を楽しめるようになる。小山氏らは,この境目をきちんと用意し,非日常を演出するのがテーマパークであると定義づけたという。

 例えばディズニーランドでは,ディズニーのアニメや絵本を通じて語られる倫理観やトーン,マナーなどが楽しさを提供するテーマであるとともに,来場者がそこから逸脱しないよう制限するルールでもある。ディズニーランドを訪れる人達は,そのテーマとルールに則って童心に返り楽しむわけだ。

 そこで「MAZARIA」では,“アニメとゲームに入る装置”と言い切ってストーリーと世界観を作り上げることにした。「MAZARIA」自体も“アニメとゲームに入る場所”で,「ロールプレイこそ正義」という哲学を掲げたテーマパークであるとし,2次元(アニメとゲーム)と3次元(リアル社会)の狭間にある2.5次元の場所と定義づけた。

 さらに小山氏らは,外観で人々を引きつけ,入場ゲート手前のモニターで施設の魅力を伝えるというアクティビティを遊ぶ前の段階にも力を入れることにした。
 「はじまりの部屋」で驚きを持ってテーマとストーリーを納得させて,年齢や性別,価値観などに基づく「心のヨロイ」を脱がせて2.5次元の世界へ誘うという仕組みを設計していったのだ。

 とくに外観に表示される映像については,多くの人に親しみを持ってもらうべく最新のグラフィックスを避けたとのこと。またグラフィックスを最新のものにしてしまうと,パチンコ屋のようになってしまうという懸念もあったのだそうだ。
 加えて,映像に興味を持った人が施設に足を踏み入れやすくなるよう,スクリーンを外部から内部につなげたり,入場ゲート前にフリースペースを設けたりといった配慮もしているという。

スクリーンに投影される映像は,「パックマン」を筆頭にさまざまなゲームのキャラクターが登場するストーリー仕立てとなっている
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 そうやって施設内に入った人達は,「ここは,こういう場所です」という内容の「魅力伝達映像」を目にすることとなる。
 その映像を観て「遊んでみたい」と思った人は料金を払って入場ゲートを通り,「はじまりの部屋」にて「MAZARIA」のストーリーと世界観の中に入り込んでいく。
 「MAZARIA」のストーリーと世界観に入り込んだ人達が最初に目にするのは,2.5次元の世界に入るための巨大なVRゴーグルだ。その存在はストーリーに沿ったものなので,もはや疑問を抱く人はいない(はず)。

 そしてVRゴーグルを抜けた先には,遊園地の象徴であるメリーゴーランド・「PAC-MAN GO-ROUND」があって……といったように,立て続けに非日常的な体験が来場者に迫ってくる。
 また施設内のスタッフには,「MAZARIA」の世界観や価値観に沿って行動できるようルールブックが与えられている。

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施設内は写真映えするよう装飾されており,「VR ZONE」にはなかったライティングやBGMによる演出が施されている
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 セッションの最後には,田宮氏が「正しいと思ったら舵を切り直そう」というフレーズを挙げた。これは,ゲーム開発においてプロジェクトが進んでいく中,「これは違うかもしれない」「実はこういうことだったのか」と気づき,「正しいのはこっちだ」と判明した場合に,きちんと舵を切り直し修正していくことの重要性を説いたものだ。
 このとき大事なのは,目的と課題,そして手段の因果関係をきちんと捉えることだという。プロジェクトの進行中,課題と手段はコロコロ変わるが,基本的に目的は変わらないので,ゲーム開発で言えば「客に何を味わわせたいのか」という目的まで立ち返り,ブレないように課題と手段を改めて設定していくのである。

 例えばアーケードゲーム「機動戦士ガンダム 戦場の絆」で言えば,最初に「プレイヤーにモビルスーツの操縦をさせたい」という目的があり,そのために「モビルスーツのコクピットを再現する」という課題があり,それを実現するために「ドームスクリーンを使う」という手段を取った。
 仮にこの流れがうまく行かなかった場合に,手段であるはずのドームスクリーンにこだわり,目的化してしまうとプロジェクトが崩壊すると小山氏は語っていた。

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 一方,目的に沿ってさえいれば,スタッフ各自の試行錯誤は歓迎したほうがいいと小山氏は語る。
 ただし気をつけなければならないのは,手段ベースで「面白くない」という理由から変更や修正を加えてしまうことだという。目的や課題を踏まえない変更や修正は迷走を招き,いわゆるデスマーチへとつながりかねないのである。
 ちなみに「MAZARIA」のアクティビティは,「アニメとゲームに入る場所」という目的に沿っていれば,VRを使わなくても構わないそうだ。

 関連して小山氏は,「MAZARIA」を企画するにあたって,「VR ZONE」というブランドを使わなかったことに改めて言及した。それによると,「VRの素晴らしさを伝える」という目的のためには,「皆で一緒に遊べない」などの「ある意味ネガティブな印象を与える恐れのある“VR”という言葉を使わない」という手段を選んだというわけである。

 当初は別の名称で企画が進んでいたため,相当バタバタしたが,目的が明確だったのでスタッフ全員が手段の変更に対応できたそうだ。田宮氏は「目的と手段をきちんと意識していれば,プロジェクトに幸せな未来が待っています」として,セッションを締めくくった。

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「MAZARIA」公式サイト

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