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「黒川塾 五十四(54)」聴講レポート。アーケード,コンシューマ,スマホでヒットを飛ばした三冠王・岡本吉起氏が掲げるゲーム開発理論とは
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印刷2017/10/20 16:39

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「黒川塾 五十四(54)」聴講レポート。アーケード,コンシューマ,スマホでヒットを飛ばした三冠王・岡本吉起氏が掲げるゲーム開発理論とは

※2017年10月26日追記:ミクシィからの依頼に基づき,記事の一部を修正しました。

 トークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾 五十四(54)」が2017年10月19日に東京都内で開催された。同イベントは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏がゲストを招いて,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというものである。

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メディアコンテンツ研究家 黒川文雄氏
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 今回の黒川塾のテーマは,「ゲーム三冠王! 岡本吉起 かく語りき」。アーケードで「ストリートファイターII」,コンシューマで「バイオハザード」,そしてスマートフォンで「モンスターストライク」(以下,モンスト)と,3つの異なるフォーマットで革新的なヒット作を手がけた岡本吉起氏が,自身のゲーム開発に対する考え方などを披露した。

オカキチ 代表取締役 岡本吉起氏
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 トークは,岡本氏の幼少期を振り返るところからスタート。当時,「他人にまったく興味がなかった」という岡本氏だが,その一方で“物”に対する関心は強く,気に入った何かについて極めようとする傾向があったという。会場では,ボードゲームの「モノポリー」(ただし,ルールだけを模倣したコピー品だったとのこと)に奥の深さを感じ,極めようとしていたエピソードが紹介された。
 ほかにも「昆虫や鳥などをいかにして捕まえるか」に凝っていたが,自分が使う道具にしか興味がなく,一緒に行く人は誰でも構わなかったのだとか。

 ちなみに,岡本氏がかつて「ゲームを好きではない」という旨の発言をしたというエピソードが一部に広まっているが,実際には「ゲームにハマりすぎることを避けるため,あえて距離を置いている」「多くの人がいる層に自分を留めておきたい」という意味だったとのこと。
 例えば「ストリートファイターII」の開発中,かつてのように強い興味を抱いてしまったら,「誰もついて来られない世界一のプレイヤーを目指してしまうのではないか」というような恐怖心があったそうだ。

 岡本氏が最初に熱中したゲームは,アーケードゲームの「スペースインベーダー」。所持金をすべて両替し,筐体の上に積んでプレイするほどだったが,まったくうまくならなかったため冷めるのが早く,またゲームへの関心も薄れていったという。

 そのあと専門学校でデザインを学んだ岡本氏は,40倍以上の倍率をくぐり抜けコナミにイラストレーターとして入社。会場では,岡本氏自身がコナミをゲーム会社だと知らずに応募したことや,クルマの教習所をモチーフにしたゲームの企画を,勝手にシューティングゲーム「タイムパイロット」に作り替えてしまったという有名なエピソードが披露された。

 そんな経緯がありつつも「タイムパイロット」と,その次に手がけたタイトルはいずれも大ヒット。しかし2作続けて会社に大きな利益をもたらしたにもかかわらず,会社の待遇が良くならないことに不満を抱いた岡本氏は,辞職を決意する。

 実際,岡本氏の辞職を知った外資系企業からは年俸5000万円のオファーもあったそうだが,岡本氏が移籍を決めたのはカプコンだった。その決め手は,当時のカプコンの社長だった辻本憲三氏の「開発を全部任せる」という言葉だったという。
 ただし創業間もなかったカプコンに,まだ開発部門がないことを岡本氏が知るのは入社後のことだった……。

 周知のとおり,岡本氏はカプコンで次々にアーケードゲームとコンシューマゲームのヒット作をリリースしていく。その背景には,岡本氏がゲームをひととおり完成させたのち,プレイヤーや市場に合わせてバランスをチューニングしていくという理論があったという。
 氏によると,「自分に自信がないから,(ゲーム開発の)すべてを明文化している」とのことで,新しい知見を得たら追加したり修正したりをずっと続けているそうだ。

 会場では,岡本氏の部署が,通常の開発スケジュールとは別に他社名義の麻雀ゲームを勝手に作り,それが大ヒットしてカプコンに大きな利益をもたらしたというエピソードも明かされた。そして,その麻雀ゲームのために開発したAIが,のちの「ファイナルファイト」や「ストリートファイターII」などに応用されたという。

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 2003年にカプコンを退社した岡本氏は,ゲームリパブリックを設立。しかし資金繰りなどに苦しみ,個人で17億円もの借金を背負ってしまう。当時は銀行からも「破産しないのか」と尋ねられたが,一貫して「絶対返す」「ボードゲームを作って一発当てる」と言い張っていたとのこと。

 この時期の岡本氏はうつ病になっていたそうだが,その原因はゲームリパブリックの社員ほぼ全員から,持ち株や給与の未払いについて責められたことにあったという。さらに,SNSなどであることないことを書かれるのも,相当にキツかったそうだ。

 そんなどん底にあって,岡本氏はミクシィのスマホゲームの新規開発に携わる。ミクシィの関係者とともに注力したテーマは「皆で集まってワイワイガヤガヤ遊べるもの」で,岡本氏はわずか2週間でモンストの3ステージ分のモックアップを作り,プロデューサーの木村弘毅氏に見せたという。

 わずかな時間でモックアップを作成できたのは,モンスターのイラストやBGMを,大ヒットした有名RPGのもので代用したからだ。しかし,ただ早く仕上げることだけが目的だったのではなく,弾いた人気ゲームのキャラクターが画面内を動き回って敵を倒すシーンを見れば,プレゼン時に心踊るものを感じられるという狙いもあったという。

 そうしてサービスに至った「モンスターストライク」を運営するうえでは,モンスターのインフレ率には徹底的にこだわり,プレイヤーに長く愛されるゲーム設定を心がけたと語った。

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 岡本氏によると,プロデューサーの木村氏のマーケティング理論も非常に優れているという。とくに感心したのは,「産廃を出さない」という考え方とのこと。つまりインフレの結果使えなくなったキャラクターに神化や獣神化によって二度三度と脚光を当てるというアイデアは,本当に素晴らしいと思ったそうだ。

 逆にモンストの開発において,木村氏の判断を疑ったのは,初期のイラストについてだったという。いうまでもなくスマートフォンゲームの売上(=存続)にとってイラストは重要な部分だが,岡本氏を含む多くの関係者は,初期のイラストをクオリティの低いものと感じていた。
 しかし木村氏は「これならギリギリ耐えられるはず」と,周囲の猛烈な反対を押し切ってしまったそうである。結局,木村氏のいうとおり,モンストは初期イラストのままリリース直後の時期を乗り切ったからこそ現在があるわけで,岡本氏は「あのときの木村さんの判断は正しかった。木村さんには何が見えていたんだろう」「過去に戻れるなら謝りたい」と話していた。

 最後の話題は,岡本氏が以前のトークショーで発した「日本に生まれて良かった。日本に還元したい」という言葉について。具体的には,岡本氏の会社・オカキチとして「こども食堂ネットワーク」に寄付をしているという。
 それについて岡本氏は,「僕らの祖父が戦争から帰ってきたとき,日本は焼け野原だった。そこから高度成長期を経て,経済大国と呼ばれるまでになり,僕は幸せだと思っていた」「でも僕らは今,経済大国としての順位を落としてしまっている。それをもう一度1位が狙えるところまで持っていきたい」とし,「それなのに日本の将来を担う子どもが少ないとか,満足に食事を取れない子どもがいるなんてあり得ない」と説明。「僕にできることは限られているが,全力でバックアップしていきたい」と意気込みを語った。

 その一方で,そうした寄付のためには,「まず自分が幸せにならなければならない」という持論があるとのこと。岡本氏は「自分が幸せになり,自分の会社の幹部が幸せになり,社員が幸せになり,そこから溢れた分で寄付をする」とし,「自分が足りてないのに他人にあげようとするから惜しい気持ちが生まれる。余ってるものなら,全部あげても構わないという気持ちになる」「僕は神様みたいに『自分の分は要らない』といっているわけではなく,もう自分の分は十分に取ったから将来の日本を支える子ども達をサポートしたい」と話していた。

 トークでは岡本氏の次回作にも話が及んだのだが,「作らないと怒られるから……」という言葉のみの回答となった。すでに何か企画が進んでいるのか,開発に着手しているのか,それともまったく手を付けていないのか,皆目分からないのが残念だが,注目していきたい。

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