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表面は一晩で真似できるが,独自データとUX,そして“第一想起”だけは買えない。AIで事業を作る実務家5人が語った勝ち筋[IVS2026]
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印刷2026/07/01 23:48

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表面は一晩で真似できるが,独自データとUX,そして“第一想起”だけは買えない。AIで事業を作る実務家5人が語った勝ち筋[IVS2026]

 AIコーディングやLLMのおかげで,「それっぽいサービス」を立ち上げるハードルは劇的に下がった。だが,簡単に作れるということは,簡単に真似されるということでもある。
 ならば,どこで独自性を出すのか。どんな組織を作り,どんな人を採るのか。そして,何につまずいたのか。事業会社側とスタートアップ側,両方の視点から,具体的な"現場の話"が飛び交うセッションになった。

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 2026年7月1日,京都で開催中の「IVS 2026 KYOTO」のパネル「事業開発のためのAI戦略:『AIを武器にした事業づくり』の最前線と独自性」では,事業会社とスタートアップの実務家5人が集い,独自性の作り方から組織づくり,しくじり談まで惜しみなく明かした。
 モデレーターは,DMMのAI戦略顧問でありAlgomatic創業者の大野 峻典氏。機械学習のバックグラウンドを持つ人物だ。

 登壇者は4名。情報戦略テクノロジー取締役の川原 翔太氏,PRIZMA AI推進室 室長の田中 健覚氏,VCスタートアップ健康保険組合 理事長の吉澤 美弥子氏,そしてFramer B.V. Japan Country Leadの菊地 史登氏という顔ぶれである。

 川原氏は金融系(ネット銀行やSBIホールディングス系)で約7年を過ごしたのち,情報戦略テクノロジーでIT/DX/AI領域に長く携わってきた。同社はAWSの活用で表彰も受けているといい,「AIの話でこんな場に呼ばれるようになったか」と感慨深げだ。

 田中氏は,フィールドセールスやIS/CSといった“THE MODEL”型の各部署を経て,昨年AI推進室長に就任。新プロダクトとして,認知科学に基づき意思決定プロセスを再現するAI生成人格「Altego」を立ち上げた。派生サービス「Altego Fit」は,適性検査をAI人格に置き換えたような採用支援で,面接での“本音と建前”を見分けるのが売りだという。

 吉澤氏は「堅苦しい健康保険の人間がなぜここに,と思われるでしょうが」と切り出しつつ,裏側ではかなりのDXを進めていると語る。オペレーションコストの圧縮から営業活用まで,自らサービス提供者として開発しているという立場だ。

 菊地氏は新卒でAdobeに入社し,約5年間SIエンジニアとして経験を積み,日本のスタートアップで事業立ち上げを2年半,昨年12月にFramerへ。日本第一号の社員として東アジアを担当する。
 「社内はみんなサッカー好きなので,日本が(オランダ戦で)勝たなくてよかったと思ってます」とジョークを飛ばしつつ,FramerがWebサイトビルダーにAIエージェントを内蔵した「キャンバス」を発表したこと,そして「このIVS 2026のサイトもFramerで作られている」ことを紹介した。

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 最初のテーマは,「AIサービスはすぐ模倣される。どこで独自性を出すのか」

 口火を切った川原氏は,むしろ逆張りの見方を示す。「AIエンジンの活用は,深掘りすれば死ぬほど深い。だからこそ,模倣できないものを作れる好機でもある」。
 コンセプトとスクリーンショットだけ渡せば,似たものは誰でも作れてしまう。「でも,そこからAIにしかできないところまで掘り下げ,いろんな技術を組み合わせれば,簡単には保護を破られないサービスになる」というわけだ。
 例に挙げたのは,SES領域の「案件×エンジニア人材」のマッチングだった。曖昧性の高い情報をAIでどう処理するか,PDCAを回してどこまで精度を追い込めるかが勝負だという。

 モデレーターの大野氏も「表面的な模倣はしやすくなった。でも“誰のどんな課題を解くか”までは真似できても,具体的な要件に落とし込むところで精度差がガッと出る。体験やアルゴリズムの練り込みは,そう簡単には追いつけない」と同意を示した。

 田中氏は「競合優位性」の観点から,認知と“第一想起”を挙げた。
 「第一想起はハードルが高いと思われがちですが,狭いカテゴリーを自分で打ち立てれば取れる。毎月プレスリリースを打ち,コンテンツを出し続ける。地道ですが,これがAI時代の競合優位につながる」。

 一方,PRIZMAの実践は“総研”戦略だ。「LLMO(LLM最適化)総研」を立ち上げ,noteで毎週,調査データを絡めたコンテンツを出し続ける。「それ自体がLLMO対策になりますし,講演や交流会で“あの記事見ました”と声がかかる。大企業がCoEを作るのに近い感覚です」。

 大野氏は「売るのは簡単になったが,ディストリビューションや認知は簡単になっていない。アセットになりやすいメディアや認知を地道に積む,というポイントですね」とまとめた。

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 吉澤氏は,事業会社ならではの立場から「我々には基幹事業(健康保険)があって,その中でAIを使う。基幹事業自体が優位性の前提なので,少し違う話になります」と語る。
 なぜ今AIなのか。理由はシンプルだ。医療費は上がり続けるため保険料を下げるのは難しい。「ならば,自分たちでコントロールできるオペレーションコストをひたすら圧縮する。ここは人件費が大きいレガシーな領域で,まだまだ改善の余地がある」。

 もう一つ面白いのが“与信”だ。加入企業にはスタートアップも多く,「今は小さくても2年後には従業員規模がこのくらいになるはず」とデータで見立ててリスクを取る。「他が取らなかったリスクをどこまで取れるか。そこにAIのデータ分析が効く」。
 大野氏は「AIそのものをサービスにするのではなく,AI以外のオペレーションや認可といったところに堀を築く発想ですね」と応じた。

 菊地氏は,Framerの立ち位置を説明する。もともとWebデザイナー向けのサイトビルダーとしてスケールしてきた同社は,「AIでブースト」ではなく,既存の“プロに愛されている”強みを軸に据える。
 「みんなが使える,というより,プロのクリエイターがより直感的に,エージェンティックにクリエイティブになれるには?という考え方です」。

 市場観も独特だ。「実は日本のWebサイトの約80%は今もWordPress製。Web制作のAIツールは激戦ですが,市場全体で見ればまだブルーオーシャンだと考えています」。
 「コーディングエージェントでサイト構築が簡単になり,こういうツールは要らないのでは?」という揶揄に対しては,こう返す。「Webサイトは生き物で,作って終わりじゃない。チームでコラボし,継続的に育て,マーケ活動まで考えると,SaaSとしての強みが効いてくる」。対ビッグテックの差は,手触りの良さ=“ハーネス(手綱)”に宿る,と語った。

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 ここで川原氏が“データ”の話を足す。「コワークが出てきた頃,SaaSの死が話題になった。あの時よく言われたのが,どれだけ独自データを持っているか,でした」
 自身が代表を務める子会社ホワイトボックスは,SESの案件と人材情報を数万件保有する。「どんな技術の案件が多いか,といったデータは公開情報からは拾えない。そこが強みになる」
 もう一つはUI/UXだ。「会計クラウド系のAIサービスなんて,うまく使えば大体作れてしまう。でも,みんな使い慣れた既存ソフトを使う。UI/UXと動線の分かりやすさが効くからです」

 大野氏も「AIで模倣や再生産ができるのは,結局“それっぽいインタフェース”まで。データやUXの練り込みは読めない。将来,機能が自由に生み出せるなら,今は使えなくても捨てずに残したデータをどれだけ持てるかも重要になりそうですね」と受けた。

 個人情報など“扱いの難しいデータ”の話にもなった。

 田中氏は「採用のAI人格は,個人情報そのものとしては扱わない。“20歳の人はこう考える”というように加工して集計し,届ける形なら問題ないと判断しています。ローデータをそのまま出すのではなく,受け取りやすい形に加工するのが重要」と説明する。

 川原氏はより踏み込む。「大企業は基本,こういうリスクを犯さない。だからベンチャーにしかできない。加工して“個人情報でない状態”を作る。見方によってはグレーな部分を,大企業はやらないんです」
 「逆に言えば,ベンチャーはそこをチャンスと捉えて取り組む。成果を出してある程度大きくなり,認められた状態を作ってしまえば,今度は大企業が欲しがる事業になる」

 大野氏は「リーガルの可否に加えて,世論が付いてくるか。YouTubeのように,後々認められそうなギリギリを攻めることが,スタートアップの一種のガードになる,という話ですね」と整理した。

 2つ目のテーマは「AI時代の組織づくりと,自社にフィットする人の見極め」

 川原氏の会社は社員の7割以上がエンジニアだ。「AIコーディングの精度がここまで上がると,ただ事務作業のようにコードを書く人の需要は,どんどんなくなる」
 そこで採用比率を中途中心から新卒中心へ大きくシフトしたという。「コード歴が1〜2年の新人は,AIをまっさらなキャンバスで叩くようなもので,使えるようになるのが圧倒的に速い」

 研修も独特で,「先にAIを触らせてからコードを書かせる」,AIだけだとコードが分からない人になるので,AI駆動開発を少しやらせ→コードに触れさせ→“これはこういう意味だったのか”と理解させ→またAIに戻す,という流れだ。文系出身者をエンジニアとして採ることも増えたという。

 一方で営業は別だ。「日本はまだ,人と人が結びつく昔ながらの営業が生きている。AIを片手間に使いつつ,従来型をやり続けられる人が強い」という。大野氏も「Anthropicが出した職種別のAI相性でも,プログラマーが上位で営業は最後のほう。まさにそれですね」と応じた。

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 「“これAIでやればいいじゃん”という業務が社内にまだ多い」と悩みを打ち明けた田中氏に対し,川原氏は明快だった。

 「大事なのは,投資する人を決めること。全員を底上げしよう,と言う人がいるけど,やる気のない人には僕は絶対やらせない」

 やる気があって成果を出しそうな人(どの会社にも1〜2割はいる)にまず渡し,経営陣が全力でフォローする。「成果が出て褒められているのを見て,周りが“あいつができるなら俺も”と変わっていく。全員でイベントをやれば何とかなる,にはならないんです」

 吉澤氏は,人の見極めの“方針転換”を明かした。

 「中途でスキルがある人の最低水準が,AIのおかげで上がってきた。だからスキルより,カルチャーフィットや行動指針を再現できるかを重視する。そう,先月の全社定例で宣言しました」

 50〜70人規模は組織が多様化し始める時期でもある。「優秀な人が多いと,合わないと思っても取りたくなる。今だからこそ,採用に関わる人ほど人柄を重視すべきだと思います」

 業務との相性については,川原氏が社内でMBTIを使っている話を披露。「うちのデータだと,ISTJの人が業務改善のAI活用にめちゃくちゃ向いている。手元をちゃんと見て(S),論理で考え(T),計画的に動ける(J)人ですね。あくまで社内で統計を取りながら試している段階ですが」

 田中氏はここぞと「Altego FitはMBTIの強化版」と切り込む。「MBTIはアンケート形式なので,“かっこいい方を選ぶ”自己認識のズレが出る。AI人格なら,その人の矛盾や,TPOによる回答の揺らぎまで検知して表現できます」

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 菊地氏は“全社ドッグフーディング”の取り組みを紹介した。
 AIエージェント(キャンバス)を出した際,「誰よりも自分たちが使い倒さないと」と号令。プロダクト以外のセールスやサクセスまで含め,グローバルで各自“500ドル分使え”,一番使った人がトップで賞品,という強制力を持たせた。
 「結果,デザイナーでない人から面白い作品がいっぱい出てきて,“これお客さんにも使えるじゃん”とセールストークになったり。使いにくい点も洗い出せた」

 「LLM活用プロダクトは要件定義やテストがしきれない分,無限のドッグフーディングが要る。触ったり,売ったり,マーケしたりする人が理解するには,結局触るしかないんですよね」と大野氏は共感した。

 最後のテーマは,「最大の失敗とジレンマ」。逆順で語られた。

 菊地氏は「既存の強みを活かすパターン」だと前置きしつつ,未来への葛藤を口にする。「イノベーションが速いので,Claudeがまた革新的なものを出してデザイナーの領域を取り込む未来も,ゼロではない。だからこそ,今受けているものをより洗練させるしかない」

 鍵はやはり“ハーネス”だ。「いかに良いコンテキストを与え,アウトプットをコントロールできるか。人は最終的に手でコントロールしたい欲求がある」という。ビジュアルエディターの開発を進め,自社モデルも水面下で検討しているという。“デザイナー版のCursor”のようなイメージだ。

 大野氏は「今の汎用モデルでは,イケてるデザイナーのフィードバックを学習に反映できていない気がする。それができるモデルがあれば,かなり良くなるはず」と展望した。

 吉澤氏の“失敗”は,思い切ったものだった。「一時的に,開発準備のないAIを完全禁止した時期があるんです」と明かした。
 扱うデータが機微情報で,周辺情報もクラウド管理。評価や対処の体制構築が間に合わない可能性が高いと判断し,エンジニアチーム以外は約4か月,触れない環境にしたという。

 「健康業界自体があまり進んでいないので,対競合では問題なかった。でも,顧客(加入企業)は最先端にいて便利な社会を知っている。自分たちが同じペースで改善できないのは大きな問題だ」

 そこで「今作ったリスク評価も来月には有効か分からない」という前提のもと,データと業務領域ごとにリスク評価し,新しいものを取り入れる際は評価,検証,監視のフローを社内体制に組み込む形へ見直した。「結果的に,従業員はむしろ安心して活用できるようになった。反省点は,もっと早く専門家にお金をかける意思決定をすべきだったこと」

 なお,禁止期間中はオペレーションチームが法令参照や過去事案の検索をAIから“手作業”に戻したため,意思決定スピードが一時的に落ちたという。「一度AIに慣れて戻されると,かなりのストレスなんです」

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 川原氏の失敗は,ひとことで言えば「ウォーターフォールでやってしまった」こと。

 SESの「案件×エンジニア人材」自動マッチングAIを,要件が決まったからとエンジニアとオペレーションに調整を任せた。ところが蓋を開けると,オペレーション側の検索の仕方が下手で,AIの精度はそこそこなのにマッチングしていなかった。
 「エンジニアは,オペレーターの下手な検索でも正しい結果が出るように頑張りすぎた。LLMの推論にルールベース整理を何度も重ね,1マッチングに5〜6回。結果,1件あたりLLM費用が100円超。サービス化するなら各社に月100万円以上もらわないとペイしない,という代物ができてしまった」
 早く手放しすぎた,という反省だ。「どんな機能を,どこまでの精度で,どれだけコストをかけて実装するか。このROI判断は,作って触ってみないと決められない。だからエンジニアとオペレーターに全部渡すのは良くなかった」

 では今ゼロからやるなら? 川原氏はAWSが推進する「AI DLC」を挙げた。AIにユーザーストーリーや要件をまず作らせ,それに人間が監視を入れ,ストーリーを作り直して……を繰り返す。「スクラム開発とAI駆動開発の掛け合わせのようなもの。うまく回せば,少ない工数でPM側がオペレーションを管理できる」と締めくくった。

 「AIを武器にする」とは,きらびやかな新機能の話ではなく,むしろ地味で泥くさい積み上げの話なのだろう。振り返れば,5人の入口はバラバラだったのに,出口は妙に重なっていた。AIが“作る”を安くした分,勝負どころは「何を,どこまで,誰に任せるか」という判断のほうへ移っている。カギを握るのは独自データ,UX,認知,そして一歩踏み込む胆力。どれも,一晩ではコピーできないものばかりだ。

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