お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名

LINEで4Gamerアカウントを登録
「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のインタビュー

メディアパートナー

印刷2026/07/01 22:01

イベント

「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 「日本は戻ってきた。でも,簡単じゃない」,タイトルからして直球だが,中身も終始,きれいごと抜きの本音トークだった。
 日本を“先進的で入りやすい市場”と見て飛び込む海外スタートアップは多い。だが,そこで実際に揉まれてきた日韓の投資家・起業家が壇上に並び,意思決定の遅さ,信頼関係の重さ,独特の商習慣など「入ってみて初めて分かる現実」を,笑いも交えつつかなり踏み込んで語り合った。

画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 モデレーターを務めたのは,Z Venture Capitalのインベストメントマネージャー,ジュリー・ソ(Julie Seo)氏。冒頭,氏はマクロな地合いから話を起こした。

 韓国と台湾の株式市場が大きく伸びる一方で,構造的な違いが見えてきたという。韓国株の外国人保有はAI半導体に偏り,テック銘柄のリバランスに弱い。対して日本は,より分散したセクターに資金が入り,調整局面での落ち込みも穏やかだ。
 Bloombergのデータでも,韓国・台湾では外国資本がネットで流出に転じた一方,日本は5月下旬までに約736億ドルもの資金を集めたとされる。

 そしてこの公開市場の勢いが,いまスタートアップ・エコシステムへと直接流れ込み始めている。2024年末以降,世界のスタートアップと投資家が日本に殺到しているというのだ。巨大な国内市場,手つかずのDX・AX(AIトランスフォーメーション)の余地や低いSaaS導入率,そしてゲームやアニメIPが牽引するコンテンツ市場が日本の魅力だ。

画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 「ただし,創業者への我々のメッセージはいつも同じです」とソ氏。
 “日本に参入する”ことと“日本で生き残る”ことの間には,大きな隔たりがある。そしていま,単に海外スタートアップが日本市場に入るという話を超えて,日韓の投資エコシステム同士の相互関心が高まっている,とりわけAIロボティクス分野で,と氏は指摘する。

 パネリストの顔ぶれを見ると,まずはバンダイナムコエンターテインメントの丸山 夏大氏。バンダイナムコグループのCVC「Bandai Namco 021 Fund」の一員だ。

 同ファンドはエンタメ領域のスタートアップに投資し,協業を通じてファンへ新しい体験を届けることを目的とする。バンダイナムコは玩具・ゲーム会社として知られるが,音楽事業やロケーションベースエンターテインメント,さらには自前のバスケットボールチームまで持つ多面的なエンタメ企業だという。

画像ギャラリー No.004のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 現在のポートフォリオは16〜17社ほどで,日本と海外のスタートアップがほぼ半々。丸山氏自身はバンダイナムコに約4年在籍し,それ以前は体験型エンタメ(リアル脱出ゲームなどの没入型体験)を手がける「SCRAP」でグローバル向け体験の設計に携わった,クリエイティブ制作出身の人物だ。

 続いて,RLWRLD 日本代表取締役のイ・フン(Hoon Lee)氏。日本法人とチームを立ち上げている最中だという。
 RLWRLDはフィジカルAIで知られ,独自の“ローカル基盤モデル”をスクラッチから開発している。モデルを作り,現場に展開し,産業データを集め,日本のクライアント向けに専用モデルを磨き込む「モデル→データ→展開」のループを回す。

 「LLMの世界では米国モデル(ChatGPT,Claude,Geminiなど)が支配的だが,フィジカルAIの世界ではどうか。なぜアジア企業が自分たちの手でグローバル基盤モデルを作れないのか,我々はそれをやっている」とイ氏。
 経歴はボストンコンサルティンググループ(BCG)に6年超。2024年後半に自らのキャリアを問い直し,助言する側ではなく自ら事業を率いる道を選んだという。

画像ギャラリー No.005のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 そして,dcampのグローバル事業開発部の部長,ハ・ヘリム(Hyelim Ha)氏
 dcampは2012年に韓国の19銀行が設立した非営利のスタートアップ支援財団だ。三本柱は「投資」「アクセラレーション」「グローバル展開」。日本のベンチャーファンドへのLP出資も行い,単なるプログラム運営者ではなく,日韓エコシステムの“真のステークホルダー”として関わるという。

 2024年からはオープンイノベーションプログラムを運営し,TBSやJR東日本などと協業。米国ではスタンフォード大学や500 Globalとも組んでいて,ディープテックにも注力する。「スタートアップ支援をフルカバーしているのが我々の独自性」と氏は語った。

 ここから本題へ。まずは「日本の大企業と組む実際」について,dcampのハ氏が事例を語った。

 「日本企業との協業は実りが大きいが,2つのマインドセットが要る」とハ氏は語る。第一に,相手企業を深く理解すること。TBSと組んだ際はそのビジネスモデルを丹念にマッピングし,コンビニ大手と組んだ際は日韓のコンビニの違い(ビジネスモデルや顧客動線)を分析したうえでスタートアップを当てにいった。

 第二に,適切な人物を見つけること。「強い技術も,正しい人がいなければ意味がない」。どの部署が予算を持ち,どの部署にオープンイノベーションの権限があるのか。その下調べが不可欠だという。
 そして,日本企業とやるなら“忍耐”は前提だ。「最初の会議から,実際にプログラムを一緒に立ち上げるまで2年かかりました」とハ氏が言うと,会場からは苦笑まじりのどよめきが漏れた。「日本の相手と組みたいなら,時間をかける覚悟が要る。さもなければ,結局その席は他の誰かが取っていくだけです」

 韓国スタートアップが日本の大企業とうまく組むには何が要るのか。ハ氏は「韓国企業は韓国市場で良いトラクションと売上を持つが,日本では話が違う。2年は最低ライン。そして必ず“意思決定者”に当たること。決裁権のない人と会っても,会議は起きるが何も変わらない」と釘を刺した。

画像ギャラリー No.006のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 韓国の“供給”と日本の“需要”のミスマッチについては,投資家である丸山氏が踏み込んだ。

 「製品の品質が,ネットワークや信頼を開く鍵とは限らない。日本の大企業のエコシステムは,製品品質やロジック以上に,信頼と関係性で成り立っている。非常に属人的で,感情的で,正直に言えば社内政治的でもある,特に大企業ほど」

 だからこそ,韓国スタートアップが日本に食い込むには「まず時間がかかると認めること」。そして最初は適切なパートナーやアドバイザー,話すべき人を見つけ,キーパーソンと信頼関係を築くことが重要だという。

 さらに丸山氏は「韓国のスタートアップは自国市場の視点で事業や市場を理解しがち。だが韓国はグローバルに見れば最大の市場ではない。日本の投資家・大企業は海外企業を等しく見るので,韓国国内で築いたトラクションが,西側の大きな市場で基盤を築いたスタートアップほどには魅力的に映らないことがある」と指摘した。

 では,グローバルなスタートアップを見るとき,丸山氏は何を最も重視するのか。

 「一般化はしたくないが」と前置きしつつ,「バンダイナムコには地域マンデートがなく,特定市場に絞らない。だからどのスタートアップも等しく,客観的に見る。出身地域で下駄を履かせることはしない」と説明。

 そのうえで重視するのは強い戦略的整合性と,投資する“理由”だ。「日本のCVCの多くは,たとえマイノリティ出資でも,投資を長期的なコミットメント=関係と捉える。
 だから“とりあえず試そう”では動けない。強い理由が要る。そして,通常の商業提携を超えた,双方に意味のあるものを提供し合えるかを見る」と語った。

 一方でRLWRLDは,日本の地元投資家を口説くだけでなく,日本企業との提携ファンドにも踏み込んでいる。ではなぜ,堅実なトラクションを持つスタートアップでさえ日本のファンドから資金を得るのに苦労するなか,同社は日本(および韓国)の投資家から出資を得られたのか。

 イ氏は「2つ。ビジョンと市場だ」と答える。

 ビジョンは「アジア発でSOTA(最先端)のグローバル基盤モデルを作る」こと。LLMの世界は巨大資本を持つ米国勢が支配し,アジアには難所だが,それが同社のビジョンだ。
 ある日本の大手投資家の会長が「日本で,グローバル基盤モデルをスクラッチから開発している会社は他にあるか?」と問い,答えは“ノー”,RLWRLDが唯一だった。それが日本での資金調達の鍵だったと聞いている。ビジョンと現実のバランスは難しいが,ビジョンは決定的に重要だ。

 もう一つは市場。米国・日本・韓国の3拠点を持ち,韓国VC界の格言「韓国で始め,日本でユニコーンになり,米国で本拠を構える」を地でいく。
 日本は高齢化と労働力不足でフィジカルAIに好適な市場であり,昨年から事業を始めて既に7〜8件の契約を獲得。NVIDIAやAWSともエコシステムを組み,米国へも広げているという。

 日本での展開戦略について,イ氏はまず「日本企業の特性を理解することが重要」と語る。

 「端的に言って,とても難しい」。内部プロセスは多層かつボトムアップで,一つの部署が反対すれば止まる。トップがフィジカルAIをやりたくても現場が抵抗すれば頓挫する。
 さらに日本企業はエビデンス駆動で,複数の実証やROIを見てから大型契約に至るが,フィジカルAIはLLM同様まだ黎明期だ。

 そこでRLWRLDは,まず信頼の土台づくりとして多数のPOC(実証)を回す。「それができるのは,SOTAの基盤モデルを持つから。
 そして日本で“5本指のハンド”でフィジカルAIのPOCができるのは我々だけ」だという。悲観的な日本企業も「今は自動化できなくても,2〜3年後には大きなインパクトになる」と見ており,良好な関係を築きつつ複数のPOCを積み上げている。「いま日本の現場でエビデンスを集めている。来年,そのエビデンスが大きなインパクトを生むはずだ」

画像ギャラリー No.007のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 韓国企業と日本企業の違いについては,丸山氏がイ氏へ逆質問する一幕も。「日韓は階層や年功を重んじる共通点があるのに,韓国の意思決定は速く,日本の大組織は遅い。構造は何が違うのか」

 イ氏(BCG時代に韓国財閥と密に働いた経験を持つ)は「韓国はトップダウン。多くの大企業は財閥系で,トップが指示すれば組織全体が従う。だからフィジカルAIでも韓国企業は非常に速く,多くの提携を結ぶ」と語る。

 「だが日本は100%違う文化だ」。最も重要なのは,日本企業の“担当者の情熱とパフォーマンス”。担当者はC-levelへ膨大なレポートを重ねて契約にこぎ着ける。
 「当初はベテランの日本人営業が重要だと思ったが,1年経って分かったのは,最も重要なのは信頼だということ。クライアントと我々の信頼があってこそ,一緒に資料を作り,契約に至れる」

 ハ氏も「スタートアップと大企業は“違う言語”を話すと言われるが,これは日韓の差というより,仕事のスピードの差から来る。日本では最低1年かかると分かっていないと,かみ合わない」と補足した。

 イ氏は象徴的なエピソードも披露した。あるTV系企業のCEOと会食し「フィジカルAIで倉庫を自動化しよう」と合意したが,そこからが本番。使用するGPU,PC,ネットワークまで詳細仕様を一つずつ詰め,契約締結までさらに3〜4か月かかったという。
 「もし中国なら,CEOが“契約前でもいいから,下に行ってロボットを置いてこい”と言う。東アジアの中でも文化差がある。要は,会社ごとにどう最適化するかだ」

 エンタメコンテンツ領域の丸山氏は「エンタメはヒット依存で,投資判断の拠り所となる硬いKPIが乏しい。数十年のプロでも迷う」と率直に語る。スタートアップは旬を逃すまいと“今すぐ”を望むが,投資側は成果の確度を求める。

 「一つ言えるのは,トラクションを積むと同時に,話すべき人を見つけること。エンタメCVCの最初の窓口はビジネスサイドの人かもしれないが,たいてい意思決定層の一人にクリエイティブ出身の“ビジョナリー”がいて,直感で決める。その人に辿り着くこと」。加えて,日本のエンタメ業界に強い人脈を持つシニアアドバイザーを“ゲートウェイ”に据えると物事が速く動く,と助言した。

画像ギャラリー No.008のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

 ハ氏はB2B向けに具体策を挙げた。

 「まずCVC(多くはオープンイノベーション部門)と良い関係を作る。彼らは大企業の事業部門とスタートアップの橋渡しをする鍵だ」
 さらに日本特有のビジネスマナー,まず資料を用意し,明確なアジェンダとともに丁寧に共有することが非常に重要で,イベントでのピッチやパネル登壇も,新規事業を探すCVCや事業担当に出会う好機だという。「“正しい人”を見つけるにはガイド役を使うこと。我々のような存在が,双方の期待を翻訳できる」

 モデレーターのソ氏も,自社ポートフォリオのSaaS企業(データセキュリティ)がCEO自ら日韓を往復し,日本企業が頼る“地元のソフトウェアベンダー/販売網”を押さえた例を紹介。「正しいディストリビューター,正しいCVCを見つけることが本当に重要」とまとめた。

 ここで丸山氏が「本当に正直に話していいなら」と切り出すと,会場が少し前のめりになった。CVCの“建前と本音”に踏み込んだのだ。

 「一般化はしないが,個人的経験として,CVCは“戦略的投資家”と名乗る。でもそれは多くの場合,“財務投資家ではない”という意味でしかなくて,戦略的支援を約束するものではないんです」

 見分け方として,「その投資家のポートフォリオを調べ,投資先企業に“どんな戦略的支援を受けたか”を直接聞くとよい。良いスタートアップには我々も投資したいので,将来できることをよく言いがちだが,社内合意形成には時間がかかり,初回の口約束と投資後の現実にはギャップが出る。そこを織り込んでおくべきだ」と,あえて厳しい現実も共有した。

 会場との質疑も活発だった。「“日本スタイル”とは具体的に何か。抽象的で分からない」という率直な質問に対してイ氏は「主に会議の進め方だ。資料もアジェンダもなく会議に臨むのは,日本の相手には不適切とされる。会議は互いの貴重な時間を使う行為なので,価値あるものにする必要がある。アジェンダを明確にし,要点をまとめ,丁寧に話す。それが日本スタイルだ」と答えた。

 続く「若い世代の採用・世代交代の問題」への問いには,「日本のスタートアップ市場は韓国より厳しい面がある」と回答。日本では大学卒業後に大手・安定企業へ進むのが一般的で,長時間・週末労働を強いる“ブラック企業”のレッテルもあり,スタートアップの人材採用が難しい,と自身の観察を語った。

 日本人の起業家からは「他国で始めたほうが楽そうにも聞こえる。それでも日本(の企業・投資家)にとって,日本のスタートアップの魅力は何か」との質問が出た。
 丸山氏は「まず言語の優位性が非常に大きい」と回答。「西側に超先端技術があり,日本に(少し劣っても)似た技術があれば,言語の壁を気にせず日本のソリューションから始めがちだ。日本企業の文化的機微も分かっているので初期の信頼も築きやすい。ボトムアップの合意形成でも,日本語の資料で上層部に説明できればコミュニケーションコストが下がる」と述べた。

 「変わるべきはスタートアップだけか。日本企業のほうこそ変わるべきでは?」の問いに,3人の答えは「イエス」で揃った。

 丸山氏はバンダイナムコにも根強い“自前主義(build vs buy)”があり,4年かけて少しずつ崩している最中だと認める。イ氏は「AIはエビデンス駆動と相性が悪い。学習とファインチューニングで育つもので,最初から証拠はない。だからこそ未来への信念と信頼が要る」
 ハ氏も「海外勢と組むなら,専用の意思決定プロセスと“速く動く権限”を用意すべき。ただ2年前より,日本企業は確実に変わった」と畳みかけた。

 最後に「では,変わるために具体的に何をすべきか」と問われた丸山氏は,「自分の組織に関して言えば,社内の信頼と関係を築くこと。我々はゲームも玩具も作らず,外から会社を連れてくる“バンダイナムコ内のよそ者”で,本業から見れば時にノイズにもなる。だからこそ信頼を積み,他の事業部や意思決定者の心を開いてもらう必要がある」と締めくくり,セッションは幕を閉じた。

画像ギャラリー No.003のサムネイル画像 / 「日本は戻ってきた。でも簡単じゃない」,日韓の投資家・起業家が語るクロスボーダー展開の本音[IVS2026]

  • 関連タイトル:

    展示会/見本市

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:07月01日〜07月02日