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ゲームが人と人とをつなぐ,国境を越えた相互理解。外交と暴力的過激主義対策から考えるゲームの社会的価値
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印刷2026/04/30 18:00

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ゲームが人と人とをつなぐ,国境を越えた相互理解。外交と暴力的過激主義対策から考えるゲームの社会的価値

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 NPO法人 国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)は,2026年4月17日,18日の2日間にわたり「東京シリアスゲームサミット」を開催し,延べ200名を超える参加者を迎え,イベントは盛況のうちに閉幕した。

 本サミットは,教育,医療,企業研修,社会問題解決など,ゲームの知見を実社会の課題解決に活用する「シリアスゲーム」に特化したイベントだ。
 2025年7月の京都開催に続く第2回となった今回は,東京・中野と本郷の2会場にて,国内外の第一線で活躍する専門家による講演やクロストークが行われた。

 その2日間の締めくくりとして行われたのが,IGDA日本の佐藤 翔氏によるセッション「外交手段としてのゲームと暴力過激主義防止」だ。

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 佐藤氏は,シリアスゲームサミットの主催側としてイベント全体の進行や各登壇者のセッション運営にも携わりながら,当日のスケジュール変更もあってイベント全体の最後の講演に登壇。ゲームが国際協力や外交,さらには安全保障上の課題とどのように関わり始めているのかを語った。

 佐藤氏はこれまで,東南アジア,アフリカ,ラテンアメリカなどのゲーム市場を調査し,各地の開発者や支援機関と交流してきた人物だ。また,日本初のゲームインキュベーションプログラム「iGi indie Game incubator」や,経済産業省によるゲームアクセラレーション施策にも関わっている。

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 本セッションで佐藤氏は,ゲームには経済的価値や文化的価値だけでなく,社会的価値があることを強調した。
 日本政府でも近年,ゲームをクールジャパン戦略やコンテンツ産業支援の文脈で位置づける動きが強まっている。経済産業省や文化庁による支援,人材育成,海外展開施策も進み始めており,ゲームは日本の文化や産業を海外へ届ける重要なコンテンツとしてあらためて注目されている。

 しかし佐藤氏が本セッションで示したのは,ゲームの価値はそうした輸出産業や文化発信としての側面だけにとどまらない,という視点だ。
 シリアスゲームサミット全体を通じても語られてきたように,ゲームは教育や啓発,社会課題の解決,そして国や文化を越えた相互理解にも関わり得るメディアであり,その社会的な力にあらためて目を向ける必要がある。

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 講演ではまず,外交活動においてゲームがどのように活用されているのか,海外の具体的な事例を交えながら紹介された。

 たとえばアメリカでは,かつて国務省が,ゲーム開発を通じてアメリカと中東地域の若者の交流プログラムを実施していた。ゲーム開発を学ぶ場が,そのまま外交的な関係構築の場にもなっていたわけだ。
 フランスは,文化・クリエイティブ産業支援の一環として,ゲーム産業を国を挙げて後押ししている。大使館,総領事館,外務省本省,関連文化機関が連携し,フランスのゲームを海外へ広げる体制があるという。
 またドイツ連邦外務省の事例として,ゲームと外交政策の関係を扱うプロジェクトも取り上げられた。

 さらに印象的な例として,イタリア外務省によるゲームパブリッシングも紹介された。
 イタリアの文化や観光を伝えるモバイルゲームを制作・配信し,国の魅力発信にゲームを活用しているという。佐藤氏はこの事例を挙げ,外務省はゲームと無関係な存在ではなく,ゲームのパブリッシングすら行い得る存在だと語った。

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 ゲーム活用は外務省本省に限らない。大使館や総領事館の活動でも,ゲームやeスポーツは外交的な接点を生み出している。
 韓国とフィンランドの大使館によるeスポーツイベントでは,両国のタイトルを相互にプレイする形で交流が行われた。アメリカ総領事館はナイジェリアで,民主主義の価値をテーマにしたゲームジャムを実施。日本でも,チェコ大使館によるチェコのゲーム展示イベントや,ドイツ大使館のeスポーツを通じた外交イベントが開催されている。

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 ポーランドに並ぶ東欧のゲーム大国であるチェコだが,ゲームの評判や知名度に比較し,いささか認知度が低いのが現状だ。そんな「チェコのゲーム」あるいは「ゲームのチェコ」というイメージを高めてくれるイベントが,チェコ大使館のチェコセンター東京で開かれていることをご存じだろうか。

[2021/10/06 18:00]

 佐藤氏は,文化発信機関の役割にも注目する。
 日本でいえば国際交流基金にあたるような機関が,海外ではゲームイベントのスポンサーになったり,自国のゲーム企業を国際イベントに送り出したりしている。特に欧州では,文化外交の一部としてゲーム産業を支援することが自然な流れになりつつあるという。

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 日本においても,外務省,JICA,国際交流基金などがゲーム産業と連携する余地は大きい。
 佐藤氏は,日本のクリエイターが海外に出る際に直面しがちな言語や習慣,文化的障壁を乗り越えるうえで,大使館や文化機関が持つ国際ネットワークは大きな助けになると指摘した。

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 セッション後半では,国連によるゲーム関連の取り組みに話題が移った。
 国連環境計画,WFP,UNDP,UNESCOなど,さまざまな国連機関がゲームを活用している。食糧援助の啓発,環境問題への関心喚起,中東でのゲーム開発者育成,アフリカでのゲーム開発支援など,その活動領域は広い。

 佐藤氏は,国連がケニア・ナイロビで開催した,ゲームとSDGsがテーマのサミット「Games & SDG Summit」についても触れた。国連環境計画や国連ハビタットなどが関わり,ゲームによる社会課題解決,アフリカのeスポーツ・ゲーム開発,投資や国際協力を議論する場が生まれているという。

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 ゲームはすでに,国際機関にとっても無視できないメディアとなっている。啓発や教育,産業育成,社会課題解決の手段として,国連機関がゲームに関心を寄せていることは,シリアスゲームの可能性が国際的にも広がっていることを示している。

 一方で,ゲームが社会的に重要なメディアとなるほど,悪用のリスクも無視できなくなる。佐藤氏が強く警鐘を鳴らしたのが,オンラインゲーム上での犯罪勧誘や暴力的過激主義の拡散だ。

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 日本でも,オンラインゲームで知り合った相手に誘われ,海外へ渡航した結果,犯罪に巻き込まれるようなケースが報じられている。海外では,犯罪組織にゲームがリクルート用のツールとして利用されることもあり,その事例も紹介された。

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 同じく深刻な問題となっているのが,テロ組織や過激派によるプロパガンダの流布だ。
 Europolなどの国際機関は,ゲーム上で発信されるテロ関連情報への対策を進めており,国連のカウンターテロ関連部門もこの問題に取り組んでいる。
 佐藤氏によれば,国連テロ対策事務所(UNOCT)や国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)といった国連機関は,オンラインゲームにおける暴力的過激主義対策に関する専門家会合や調査,地域プロジェクトを進めているという。ゲームユーザーが過激派の情報に接触するリスクが大きな課題になっている東南アジアでは,オーストラリア政府なども連携して対策に乗り出している。

 佐藤氏は,日本のゲーム業界もこの問題に積極的に向き合う必要があると語った。
 ゲームにおける暴力的過激主義対策は,日本や日本人にとっても重要な課題であることはもちろんのこと,日本のゲーム産業は海外市場で大きな収益を上げる輸出産業でもある。だからこそ,日本の業界が国際的な議論に参加しないまま,海外の政府機関や国際機関だけでルールが形成されていくことは将来的なリスクになり得る。

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 ゲームはもはや,娯楽や産業政策の範囲だけで語れる存在ではない。外交,教育,国際協力,安全保障,社会課題解決など,さまざまな領域と接続し始めている。
 佐藤氏は,ゲーム開発者や関係者に向けて「目の前にあるものが,どのようにゲームと関係しているのかを常に考えてほしい」と呼びかけ,講演を締めくくった。

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 ゲームの面白さに多く触れて,その価値を知るゲーマーやゲーム開発者たち。その視点を持つ人々が,外交や国際協力,安全保障といった一見遠く思える議論にも参加し,ゲームに関する知見を共有していくことには大きな意味がある。
 ゲームが特定の思想や分断,偏見に利用されるのではなく,人種や文化,国境を越えて楽しめるものであり,相互理解を育むためのメディアであり続けるために,ゲームが好きでその力を信じているゲーマーだからこそ,こうした議論にも関わっていく姿勢を持ちたいと感じさせられた。

 ゲームは本来,遊びであり,楽しみであり,人と人をつなぐ文化でもある。だからこそ,その楽しさを守り,より豊かな形で広げていくためには,ゲームそのものが持つ力や,社会に与える影響についても知っておきたい。
 ゲームが世界とどう関わるのか。本セッションは外交や国際協力という国や地域をめぐるテーマを扱うものだったが,その内容は,より根本にある人と人の相互理解についてもあらためて考えさせられるものだった。
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