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用意された選択肢はない。英単語を直接打ち込むクラシックな体験
「駅前のカフカ」は,ノスタルジックなピクセルアートと叙情的なサウンドが印象的なコマンド入力式アドベンチャーゲームだ。1980年代の国産PC向けテキストADVのシステムに強い影響を受けており,昨今のADVにおける主流である「画面上に表示された選択肢を選ぶ方式」を採用していない。
プレイヤーはキーボードを使い,主人公に行わせたい行動を「英単語」で直接打ち込んでいく。移動したいときは「right」「left」,周囲を観察したいときは「look」,近くの少女へ声をかけたいときは「talk girl」と,画面上の情景やテキストからやるべきことを読み解き,実行に移して物語を動かしていく。
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とはいえ,現代にあわせてゲームの難度自体はカジュアルに調整されているようで,必要になる名詞は地の文で英単語が併記されているのでキーワードは分かりやすいし,よく使われる英単語さえ押さえておけば,少なくともデモ版では問題なさそうだった。
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誰もいない駅のホーム。繰り返す日常と少女の影
あたりには誰もいなくて、どこか遠くで僕の名前を呼んでいる気がした。
繰り返し、繰り返し、考えた。
彼女とその周りの事柄について。
繰り返し、繰り返し、考えた。
僕とその周りの事柄について。
主人公である僕は,どことも知れない駅にいる。なんとなく夢のなかにいるような,曖昧な空間で周囲を見回すと,そこには1人の少女がうずくまっていた。
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彼女に「talk girl」で話すと,どうも体調が悪いらしく会話が続かない。そこで,周囲を「look」して,目についたもの,例えば改札口(gate)や,券売機(machine),ポスター(poster)などを「look ○○○」と指定して詳しく確認してみる。
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いくつかのギミックを解いて切符(ticket)を手に入れたものの,状況は変わらない。主人公は切符を持っていても改札口を通れない(通ってはいけない)ようで,用途は不明のまま。少女とも会話ができない。
ポスターには薬局が2階にあると書かれているのだが,そこに行く手段が分からない。まあ,行けたとして必要な薬も分からないのだが。
さらに周囲を観察すると,駅員用の通用口(door)が見える。駅員に助けを呼べないだろうか?
「look door」で調べてみると,どうやら数字のパスワードでロックされているらしい。ここが難所で,会場では答えを見つけられないプレイヤーも多かったらしい。ただ,1か所だけ気になっていた場所があった。若干メタになるのだが,何もないことに不自然さを感じていたのだ。なるほど,つまりあの数字を入れればいいのか。
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「push ○○……」はダメ,「push ○」の1桁ずつなら! ダメ。違った? いや,もしかして……と数字だけを入れたら難なく開いた。
そこは「push」も通してほしいかも,なんて独りごちながら奥に入っていくと,机の上にはスカーフ(scarf)が置かれていた。もしかして,少女は寒かったのだろうか?
そもそも入っていい場所だったのかも怪しいが,「take scarf」で手に入れて,少女に「give scarf」で手渡してみよう。
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少女はスカーフを受け取ると感謝してくれたが,帰りの定期券もないらしい。「ああ,そういうことか」と手持ちの“もの”を手渡すと……といったところで,デモ版は終了となった。
現代の洗練されたゲーム体験とは一線を画す,自分で実行すべきコマンドを入力するという操作は,人によっては難しいと感じられるだろう。しかし,見つけた言葉をどのように紡いでいくのか,それを考えるのがなんともパズル的で,ピッタリとハマったときの気持ちよさは,コマンド入力式ADVならではだ。
なぜ今,コマンド入力式なのか?
試遊を終えたあと,ブースにいたNeji. Gamesの開発者に話を聞けた。本作が生まれた経緯や独特な世界観の真相,そしてコマンド入力へのこだわりをお届けしよう。
そもそも,なぜ令和の今,あえて80年代を彷彿とさせるコマンド入力式アドベンチャーを作ろうと思ったのだろうか。返ってきたのは意外にも「ノベルゲームがちょっと苦手だった」という原体験だった。
「単調にテキストを読み進めるだけだと途中で眠くなってしまったり,物語に没入しづらかったりすることがありました。そんなとき,幼いころにPC-88などで遊んだテキスト入力ADVや,『STEINS;GATE』のファンディスクに収録されていたPC-88風ミニゲームの楽しさを思い出したんです。この形式なら,プレイヤーが飽きずに物語へ没入できるのではないかと考えました」。
なお,今回のデモ版をプレイした若い人からは「新しい」と言われ,往年のプレイヤーからは「懐かしい」という,面白い反応もあったそうだ。
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デモ版で描かれた「無人の駅にたたずむ僕と少女」という幻想的なシチュエーションだが,「主人公(僕)は,日々の生活に疲れた社会人」なのだという。未熟だった青春時代を回想し,つらい現実から逃避するように夢の世界に入り込んでいる……という,階層的な世界観になっているそうだ。
デモ版に当たる第1章と第2章は駅が舞台となるが,第3章は「職場のPCの前」から始まるのだという。そうして全5章を通じて,夢と現実を行き来しながら物語を体験する構成とのことだ。
ちなみに,タイトルにある「カフカ」は,村上春樹氏の「海辺のカフカ」からインスパイアされたものだという。「日常のなかに,いつの間にか非現実が入り込み,境界が曖昧になっていく文学的な世界観をリスペクト」しているのだとか。
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さて,筆者がプレイ中に頭を悩ませた「数字パスワードの入力(pushが通らなかった件)」について率直に聞いてみたところ,「実は今回のイベント中,ほかの方からもまったく同じように『push+数字』と入力したというフィードバックをいただきました。さっそく開発メモに追加しまして,次回の試遊版からは『push+数字』でも扉が開くよう修正しています(笑)」とのことだった。
往年のコマンド入力式ADVといえば,開発者の想定した単語以外を一切受け付けない理不尽さも特徴だったが,本作ではそうしたストレスを極力排除しているという。イベントに出展するたび,プレイヤーが思いついた言葉(「give」に対する「present」など)をエイリアス(別名コマンド)として地道に追加実装しているそうだ。
なお,コマンドを英語に統一している理由については,「現代ではPC-88時代のようなひらがな直接入力は難しく,ローマ字入力もハードルが高い。また,英語・中国語・韓国語といった海外展開も見据えているため」とのこと。帰国子女のプレイヤーから「enter」ではなく「go inside」という表現は使えないかと聞かれ,のちに追加するなど,誰もが直感的に言葉を紡げるようブラッシュアップを重ねているという。
画面を彩るピクセルアートについても,解像度こそ往年のPC風だが色数制限は設けず,無限のパレットから色を調整することでモダンな空気感を演出しているというこだわりが明かされた。
登場する少女も,萌えになりすぎない程度に,2000年代の美少女キャラを意識しているという。
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最後に,「本作は攻略情報やネタバレを一切見ずに,トライ&エラーを重ねて自分の力で解いていただきたいです。言葉がピッタリとハマった瞬間の気持ちよさを,ぜひ味わってください」とコメントしてくれた。
本作は,会場でプレイできたものと同じデモ版がSteamストアページで配信されている。興味がある人は,この不思議な世界へ飛び込んでみてほしい。


















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