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[プレイレポ]「ご応募ありがとうございます」が描く就活ディストピア。人間の勘と機械のような正確さを求められる近未来の人材採用
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印刷2026/06/25 12:00

プレイレポート

[プレイレポ]「ご応募ありがとうございます」が描く就活ディストピア。人間の勘と機械のような正確さを求められる近未来の人材採用

 就職活動を経験した人は幾度となく受け取ったかもしれない,「ご応募ありがとうございます」から始まる不採用通知――いわゆる“お祈りメール”。定型文で突きつけられるその宣告は,過酷な事実を表面的な優しさで包む「社会のルール」そのものだ。

 だが,もし自分がその定型文を送りつける,システム側の末端になったとしたらどうだろう。そこに罪悪感を覚えるのか,あるいは単なるタスクとして淡々と処理できるのだろうか。

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 2026年6月19日にSteamでリリースされた「ご応募ありがとうございます」(原題:Thank You for Your Application)は,そんなあまりにも世知辛い「選別」の現場を,面接官側の視点で体験できるゲームだ。
 開発は中国に拠点を置くデベロッパIceLemonTea Studio,パブリッシングはイギリスのマンチェスターに本社を置くNo More Robotsが手掛けている。

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 舞台となるのは,徹底した効率主義と格差がはびこる空中都市「空島」。プレイヤーの分身となる主人公は,巨大企業「空島グループ」のジュニア面接官として配属され,応募者たちの書類審査に臨むことになる。
 本作はそのプレイフィールも含めて,名作「Papers, Please」の系譜にある作品といえるだろう。本稿では,その業務内容を,なるべくネタバレに配慮しつつお届けしよう。


終わらない間違い探しと,めまぐるしく変わる社の方針


 プレイヤーの1日は,ニュースや会社からの連絡をチェックすることから始まる。

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 やるべき仕事は,応募者から提出されたエントリーシート,卒業証明書,身分証,さらには精神鑑定書にいたるまで山のような書類を精査し,会社側の示した条件に合う人材を「採用」,合わない人材を「不採用」へと仕分けていくことだ。

 厄介なのは,この採用基準が募集する職種や,社会情勢などによって二転三転することだ。効率至上主義に基づく極端なルールや,特定の地域出身者のみ基準を厳しくするなど,社の都合で毎日のように採用条件が書き換えられる。

条件に合わない,あるいは書類が足りない場合は指摘しつつ「お祈りラベル」を貼る
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 書類審査は,まさに神経をすり減らすような「間違い探し」だ。「この大学のエンブレム,何か形が違わないか?」「存在しないはずの学部が記載されているぞ」といった矛盾を,手元の資料と照らし合わせながら暴いていく。

提出し忘れた書類が新たに出てきたりもする
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 このもどかしさは,現実世界で誰もが一度は直面する「事務処理の遅さ」の理由を,実感を伴って教えてくれる。
 確定申告の手続きなどで「なぜこんなに時間がかかるのか」と苛立つことがあるが,あれは担当者が怠けているわけではない。本作のプレイヤーと同じく,各種書類の整合性を確かめ,分からないときは膨大な資料を確認しているからなのだろう。慣れていない担当者にあたったら,期限ギリギリまで「後回し」にされても不思議はない。

 だが,人間とはよくできているもので,何度も繰り返すうちに,資料をひと目見るだけで「おかしいな」と勘が働くようになっていく。違和感を察知してからの作業もスムーズになり,さながらマシーンのように「お祈りラベル」を貼れるようになる。

あの短大,生命科学部なんてあったっけ……? などと保留できるようになる。嫌な成長具合だ
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 自分が「企業の歯車」として仕上がっていく実感。だがその裏には,人生を左右される多数の人々がいる……。これを「ディストピア」と呼ばずして何と呼ぶべきだろうか。


求められる効率と正確性,身につまされる生活費のリアル


 しかし,どれほど業務に慣れたとしても,心の底からの安心は訪れない。なぜなら,つねに「罰金」と「精神崩壊」の影がつきまとうからだ。

 本作は,大量の応募者をさばけばさばくほど日給がアップするという,この手のジャンルにはよくあるシステムを採用している。そしてスピードを優先するあまり不備を見落としてしまうと,容赦なく罰金が科せられる。丁寧な仕事を心がければ収入は増えにくく,かといってミスを連発すれば評価はガタ落ちだ。

慎重なほうが評価はされるが,収入が伸びない……
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 さらに,ミスによるプレッシャーは主人公の精神をガリガリと削る。そして,当局によって拘束されてしまう。なんとも世知辛いというか,緊張感のあるバランスになっている。

ストーリー体験重視の「補助モード」もある。ギスギスしたくない人は絶対に選んだほうがいい
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 また,ゲーム中盤からは「特定の条件を満たした人材を,募集とは別の部署へ,リファラル(推薦)してほしい」とのお達しも出てくる。
 成功すればそこそこの追加報酬が得られるものの,失敗すればこれまた罰金だ。ハイリスク・ミドルリターンな割の合わない賭けに挑むか,あるいは目の前の書類に向き合って消耗するか……そうこうしているうちに,面接官の1日は暮れていく。

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 職場での業務が終わると,ゲームは自宅パートへ移る。部屋で主人公を待っているのは,もちろん安らぎばかりではない。突きつけられるのは,「家賃」「滞在費」「電気代」「社会保険料」といった請求書の山だ。

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 これら生活費のバランスは,現実より少し大変な程度の絶妙なラインだ。ここ数年のインフレ環境下で,思うように収入が上がらない中を生きる身としては,お金(作中では社会ポイントと呼ばれている)の推移を見るだけで身につまされる。筆者にとっても他人事ではない。

中国沿岸部の巨大都市を思わせる
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 自宅のショップでは仕事が便利になるアイテム(要するにショートカットキー)や,壁紙や音楽テープなどの攻略に関係ないアクセサリを購入できる。しかし,先に待ち受けているであろう家賃の値上げなどを思うと,「これを買って本当に大丈夫だろうか」と真剣に悩んでしまう。また自宅の窓の外に見える風景は,お金を貯めて引っ越しをすればガラリと変わる。

都市上層は雲の上にある様子。まさに空島
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 業務の効率を上げる道具を買ったり,窓からいい景色を見たりするためには,より多くの他人の人生を左右し,金を貯めなければならない。……なんだかどこかで聞いたような話だ。
 そういえば最近,筆者も仕事用のPCにSSDを増設するかどうかで少々悩み,思い切って増設に踏み切ったばかりだ。そんな生々しい出費の記憶が,嫌なリアリティを伴って蘇ってきた。


人々が抱える現実は,ネットの海に解き放たれる


 自宅パートでは主人公の端末に,請求書以外にもさまざまな通知が飛び込んでくる。
 なかでも印象的なのが,故郷で暮らす母や妹からのメールだ。最初はうっとうしいが,懐かしい家族の温もりを感じさせてくれる。しかし,ゲームを進めていくとある変化が起きていくのだが……この点はゲームをプレイして確かめてほしい。

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 一方で,現実同様に大量の怪しいスパムや,詐欺まがいの高額請求も届く。まともに相手にする必要はないが,もしショップで購入できるロトくじ(実際はスクラッチくじだが)で大金を当てたら,あぶく銭であえて詐欺に引っかかってみるのも一興かもしれない。

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 また,フォーラム(掲示板)にアクセスして,匿名の人々の発言を眺めたり,自らレスを返したりする要素もある。自分が行った面接の結果(かもしれない)に対する反応を眺めていると,いろいろな思いが浮かんでくる。
 企業への愚痴や都市の不穏な噂など,ディストピアを生きる住民たちの「本音」「諦観」「冷笑」が溢れていて,世界設定の深掘りとしても楽しめる。

ひどいハンドル名が並ぶ
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そして私たちが生きる現実も「ハードモード」


 近年,中国発のSFやサイバーパンクは非常に熱い作品が多いが,本作もまた,東アジア全般の社会に共通する「生きづらさ」や「不条理」を鋭く射抜いている。
 ネタバレになってしまうので詳しくは書かないが,コンピュータが人に近づき,人がコンピュータに近づくことを求められる現代社会がしっかり描けていると感じた。

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 本作はマルチエンディングであり,主要なものだけでも6つ以上用意されている。それとわかる大きな決断や,日々の業務での小さな選択の積み重ねが,ストーリーを大きく左右する。
 企業に忠誠を誓い,従い続けるばかりが道ではないが,反抗すれば懐具合や精神が危うい。プレイヤーが下した「選別」が,どう跳ね返ってくるのかは,ゲーム内で1か月の勤務を終えたあとのお楽しみだ。初回プレイはエンディングまで10時間弱はかかるが,一度把握したあとはもう少しスムーズになる。セーブもこまめにとっておくといいかもしれない。

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 本作が描くディストピアはあくまでブラックユーモアの範囲だが,就職活動中の人はもちろん,すでに社会の荒波に揉まれている人にとっても,どうにも他人事とは思えないものでもあるはず。
 筆者から言えるのは,現実社会は本作ほど無慈悲ではないが,同じくらい「ハードモード」だということ。このゲームを「いやあ,ブラックだな」などと笑って楽しめるくらいが,キツすぎず緩すぎもしない,ちょうどいいワークライフバランスなのかもしれない。
 少なくとも筆者は,終始引きつった笑いを浮かべながら遊んでいた。

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