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またあるとき,ファーストフード店でメシを食っていたところ,隣に座っていたロシアンブルーのような印象の子に「……今何時です?」と聞かれたこともあった。すぐ近くの壁に時計がかかっていたのに,だ。
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そのあとどう応じて,どうなったのかはすでに曖昧になっているが(ブラッド・ピット主演の映画「セブン」はそんな流れで観た覚えがある),あのときの空気と胸のざわめきだけは,今も澱(おり)のように残っている。
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本日(2026年10月17日)よりSteamで配信される体験版をひと足早くプレイし,玲奈との奇妙な同居生活や,1998年の渋谷を描いた独特の世界を紹介する。あわせて,現地で話を聞いた開発陣へのインタビューもお届けしよう。
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1998年,ワンルームで始まる同居生活
暗い部屋で身を起こす,ひとつの人影。煙草を咥えた彼女は,気だるげに「……ライター,持ってる?」と問いかけてきた。そう,冒頭の思い出語りは,この場面でよみがえったものだ。
そこからさっそく彼女とのやり取りを進めていくが,どうにもこの子は一筋縄ではいかないらしい。こちらから距離を詰めようとしても,どこか軽く突き放されるような感覚がある。そんなつかみどころのなさに戸惑いつつ,オープニングを眺めることとなった。
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本作の主人公は,現代の閉塞感のなかを生きる青年だ。SNS越しに世界を知った気になり,ジャンクフードをエナドリで流し込む日々。そんな彼が,どういうわけか1998年の渋谷にある,雨原玲奈(CV: 土屋李央)という子の部屋へタイムスリップしてしまう。
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一度は追い出されるものの,なんだかんだでバスルームに居候することを許される主人公。そして玲奈は唐突に「私はアンゴルモアです」と打ち明けてきた。
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たしかノストラダムスの大予言に出てくる恐怖の大王,「アンゴルモアの大王」のアンゴルモアって地名だったよな……と心のなかでツッコミつつ,選んだ選択肢は「あんころもち?」。彼女のボケ(?)にあえてボケで返してみる。
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すると「死んでください」と即答された。茶化してすまなかった……。
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そんな奇妙な暮らしが始まって間もないころ,玲奈は急に床に倒れ込む。
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持病でもあるのかと一瞬だけ心配になるが,震える指先が指し示していたのは……ミニチョコ。なんのことはない,ただの空腹だったようだ。
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そういえば筆者の手元にも,コラボドリンク「メランコリックブルー」と一緒に供されたチョコが置かれている。ひとつ口に含んでみると,リアルとゲームの境界が少しだけ薄くなった気がした。
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思い出のシールを集め,世界を終わらせる
玲奈の腹を満たしてやるため,内職のミニゲームで金を稼ぎ,コンビニでおにぎりやら,ラーメンやら,おもちゃやらなにやらを調達する──。
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このノリ,なんとなく電気グルーヴがプロデュースし,自ら「ゲームジャンル:クソゲー」を名乗ったPS用ソフト「グルーヴ地獄V」(関連記事)を思い出させる。奇しくも同作の発売は1998年だ。まあさすがにそれは偶然だろうけど。
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大富豪で勝ち越してトランプを顔面めがけてぶん投げられたり,渋谷会館を思わせるゲームセンターで音ゲーに興じたり,コインランドリーでルーズソックスを履かせる手伝いをしたり,雨の中をひとつの傘で帰ったり。
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玲奈はそうやってひとつひとつ「思い出のシール」を集め,それを燃料に世界を滅ぼしたい,というようなことを言う。なにか「人々の心に希望を取り戻し,夢の世界を復活させる」といった魔法少女ものの基本フレームを,脱ぎ捨てたソックスのように裏返した趣きもある。
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その一方で,街を歩けば意味ありげな出来事にもいくらかぶつかる。
外食中に出くわした玲奈のクラスメイトたち,とある人物を探して遠くから来たという女性,謎めいた白い陶器人形……。だが,それらはどこか「98年の日常」に溶け込み,そのままシンクに流れていくかのような印象だった。
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ただ,作中に登場するキーホルダー型デジタルペット「でじっぴ」に触っていたとき,そのキャラクターのドット絵に描かれた髪型から,なにか意味深なものを感じた。
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……そうか,そういうことだったのかもしれない。
そこで確信めいたものを覚えた筆者は,その日同席していたディレクターのショーン・T氏と,デザインワークを担当するdada氏に直接話を聞いてみることにした。
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現代人のフィルターを通して描く1998年と「よどんだ水槽」のような渋谷
4Gamer:
ディレクターのショーン・Tさんは1991年生まれ,アート担当のdadaさんは1989年生まれとのことで,1990年代末当時はまだ小学生くらいだったはずですが,本作で描かれている事物やカルチャーにはどんなふうに接されていたのでしょうか。
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ショーン・T氏:
当時は単なる子どもだったので「世紀末」とか「未来」なんて大層なことは一切考えていませんでした。でも大人になってから,映画の「パーフェクトブルー」やアニメの「serial experiments lain」,あるいは当時の北野 武監督の作品など,90年代後半のカルチャーがすごく好きになって。
一方で,今のSNSなどを見ていると,現代の20代も世界や未来に強い閉塞感を抱いているのを目にします。その「現代の閉塞感」と,「90年代末の空気」がすごくマッチするんじゃないかと考えたんです。
現代で社会に息苦しさを感じている人間が,もし90年代にタイムスリップして「世界を終わらせるチャンス」を得たらどうするだろう? という発想から,この作品が始まりました。
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4Gamer:
なるほど。dadaさんも当時のカルチャーはお好きなんですか?
dada氏:
そうですね。子どもの頃に手に入らなかったレトロゲームなどを大人になってから摂取していたので,最初にプロジェクトの内容を聞いたときもイメージは自然と湧きました。
ただ,アート面で意識したのは「単に90年代をそのまま再現する」のではなく,あくまで「現代のフィルターを通した90年代」を作ることです。
ビジュアルを当時のアニメ風に振り切る選択肢もありましたが,あまりほかにはないオリジナルな組み合わせにしたくて。キャラクターの造形にはどこか現代っぽさも残しつつ,当時の空気感と融合させています。
4Gamer:
全体を包む青いトーンや,雨の質感,光の揺らぎについては。
dada氏:
最初のキーワードとしてショーンから出たのが「東京という,よどんだ水槽」でした。ベタ(熱帯魚)や水槽,水の揺らぎといったイメージですね。
最初は背景を実写加工にすることも考えたのですが,現代の渋谷でロケ撮影をしても,どうしても新しいタクシーなどが映り込んでしまって当時の空気感が出ない。であれば3Dで当時の湿度や空気感を構築しようという発想です。
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4Gamer:
また作中では,通常パートから急にドット絵の食事シーンが入ったり,90年代のホラーゲーム「クロックタワー」「トワイライトシンドローム」などを思わせる横視点だったり,ローポリゴンの音ゲーが始まったりと,さまざまな「作法」の絵が入り混じっていますね。
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dada氏:
玲奈と主人公がいる部屋では基本のテイストを崩さないようにしつつ,そこから派生するミニゲームや街の遊びは,いろいろテイストが出てきたほうが面白いよね,という話を初期からしていました。
ドット絵やローポリ3Dなど,僕たちが感覚的に通ってきたものを散りばめています。
ショーン・T氏:
90年代の渋谷って,いろいろなカルチャーがごちゃ混ぜになっていて,次々に新しいものが飛び出してくる熱量があったんだと思います。
あの「止まっていない」雑多な渋谷っぽさ,カルチャーを表現したかったという狙いもあります。
「たまごっちの中でたまごっちを育てる」ような多重構造
4Gamer:
作中に登場するキーホルダー型デジタルペット「でじっぴ」ですが,いい具合に“再現”されていて懐かしいものがありました。
ただ,でじっぴの髪型だったり,搭載されたミニゲームに勝つと不機嫌になるところだったり,どこか玲奈と共通するものを感じたんですよね。存在として重なっているのではないか? と。
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ショーン・T氏:
じつは「でじっぴ」は,初期のメモにも「たまごっちの中でたまごっちをやる」と書いていたくらいで(笑)。
「でじっぴ」をプレイしている自分,玲奈と部屋にいる自分,そしてそれをプレイしているプレイヤー自身……というように,このゲームは「世界の中に世界がある」ような多重構造で作られているんです。
ストーリーが進んでいくと,何が現実で,何が過去で,何が夢なのかがどんどんぐちゃぐちゃになっていく。そのなかでプレイヤー自身に何かを感じ取ってもらえたらな,と思っています。
4Gamer:
やはりそういうメタファー的なものでしたか。ところで本作は,実際に遊んでみるとかなり作り込まれているなと感じました。
もともと3時間程度のプレイ時間を想定したゲームとして開発がスタートしたという話を聞いたのですが……。
dada氏:
はい(笑)。最初はそれくらいの規模で2025年秋には出す予定だったのですが,出展したイベントなどでプレイヤーのみなさんの反応がすごくて。それなら「もっと良くしよう!」「この世界をもっと感じてもらおう!」とチームの熱量がどんどん上がってしまって,グラフィックスも一から作り直しました。
ショーン・T氏:
作っている側もライブ感のある開発を重ねてきたので,ぜひ本日公開された体験版を遊んでみていただき,感想やフィードバックを寄せてもらえると嬉しいです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
取材を終え,UKIYO GAME BARの店外へ出たあとも,胸の奥にはまだあの狭いワンルームの,青く湿った雨の匂いが残っていたような気がする。
「Rain98」は物語体験もさることながら,謎めいて,どこか危うい玲奈にルーズソックスを履かせ,内職やミニゲームに熱中し,ただただ部屋で同じ時間を過ごす──その「居心地」にも大きなウエイトがあるゲームのようだった。
まずは本日配信されたSteamの体験版で,この「よどんだ水槽」のようなワンルームに足を踏み入れてみてほしい。
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ん? 足を踏み入れるより,むしろ飲み干したい?
「ほんとにしょうがない人ですね。軽蔑します」などと冷たく言いつつ,玲奈は拒んだりしないだろう。
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