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下火と見られた物語重視のエピソディックゲームは,どのように“今のヒット作”となったのか。話題のヒーロー派遣ゲーム「Dispatch」が生まれるまで[GDC 2026]
登壇したのは,AdHoc Studioの共同設立者であるNick Herman氏とDennis Lenart氏。本セッションでは,Telltale Games出身の2人がスタジオ設立の経緯と,そのデビュー作であり,ヒット作となったヒーロー派遣ゲーム「Dispatch」(PC / Switch2 / PS5 / Switch)の開発を振り返りながら,ストーリー主導型ゲームというジャンルをどう見直し,どのようにして広い層に届く作品へと育てていったのかが語られた。
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講演の出発点となったのは,Telltale Gamesの崩壊だった。
Telltale Gamesの事情については下記の記事が詳しいが,「The Walking Dead」や「The Wolf Among Us」といったストーリー性の高い作品で知られた同スタジオは,エピソード単位で配信する“エピソディックゲーム”の代表格として存在感を示していたが,2018年に経営不振などを背景に閉鎖へと追い込まれた。
Access Accepted第589回:エピソディックゲームをメジャーにした老舗デベロッパTelltale Gamesが閉鎖へ
「The Walking Dead」などで知られるTelltale Gamesが現在,深刻な経営危機に陥り,大量のレイオフを行ったと発表した。エピソード単位でゲームを販売する「エピソディックゲーム」を成功させ,最近,矢継ぎ早に新作をリリースしていた感のある同社に何か起きたのかを紹介したい。
当時,2人はすでに同スタジオを離れており,業界の多くの関係者と同じくその結末を見守る立場にあったという。
とはいえ,それは完全に予想外の出来事だったわけではない。長く在籍していたからこそ,内部のさまざまな問題を理解していた。
彼らは以前から,Telltaleのようなストーリー主導ゲームのフォーマットをどう革新し,どう改善していくべきかを話し合っており,自分たちのスタジオを立ち上げる構想も持っていた。
そして偶然にも,AdHocを立ち上げたのは,Telltale閉鎖からわずか1か月後のことだったという。
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しかし当時は,物語主導型のシングルプレイ作品,とくにエピソディックゲームへの風当たりが強かった。投資家やパブリッシャは,この種のゲームに十分な成功例が見当たらないとして,「ニッチ」あるいは“死んだジャンル”と見る向きもあったという。
それでも2人は,このジャンルにはまだ可能性があると信じていた。こうしたタイプのゲーム作りに関して,自分たちは業界でもっとも経験豊富な側にいるという自負があったからだ。
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当初,2人はエピソディックゲームの具体的な作り方こそまだ見えていなかったものの,少なくともスタジオとして守るべき“3つの柱”については意見が一致していた。
それは,「自分たちが本当に得意なものに集中すること」「妥協のないクオリティを目指すこと」,そして「批評面だけでなく商業面でも成立する,より広い訴求力を持つ作品にすること」だ。
この考えは最終的に,「シネマティックな分岐型ナラティブ」「妥協のない品質」「幅広いアピール」というプロダクトの柱に整理された。
物語面で彼らが掲げた信念の1つは,「インタラクティブな物語はすべての人のためにある」というものだった。
ここでいう「すべての人」とは,ゲーマーだけを指していない。TVドラマのシリーズ作品を追いかける人のように,優れた物語を楽しみたい人に届く作品を目指したわけだ。
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実際,「Dispatch」の原型となる企画は,ストリーミングプラットフォーム向けに制作するはずであった,実写のインタラクティブドラマ作品だったという。
だが,COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックによって計画は頓挫。その後は自分たちのオリジナル作品作りを目指しながら,他スタジオの案件を手伝って資金を確保していった。
オリジナルゲームとして再出発を迎えたのは2022年のこと。そのとき悩みの種になっていたのが,世にヒーロー作品があふれ,“スーパーヒーロー疲れ”という空気すら漂っていた時代状況だった。
そんな中で新しいスーパーヒーロー作品を立ち上げて勝負になるのか。新規IPでやる意味はあるのか。そんな不安があったという。
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そこで向き合ったのが,これまで他社IPの中でオリジナルの物語を作ってきた経験だった。大事なのは題材そのものではなく,その中に自分たちが面白がれる角度を見つけること,というわけだ。
この点で大きなヒントになったのが,ESPNの往年の「This is SportsCenter」のCMだったという。
有名アスリートがオフィスの同僚のように振る舞う,アメリカではおなじみのユーモラスなCMだが,「この軽妙な雰囲気をスーパーヒーローものに持ち込めないか」という発想に至った。
その結果,「超人たちがごく普通の職場の中にいる」という構図が見えたことで,ヒーロー会社を舞台にした「Dispatch」の世界観とトーンが一気に具体化していったと語られた。
なお,当初はもっと暗い設定も存在していたそうだ。映像作品が前提だったころは,予算面の制約もあって,ヒーローたちも意図的に“ちょっと残念な存在”として設計されていた。
しかし新たな方向性を定める中で,彼らは「プレイヤーをみじめな気持ちにさせたくない」と考えるようになった。そこには,パンデミックを経た時代感覚もあったのだろう。
広い層が楽しめる作品であり,「喪失」よりも「希望」を感じられるものへ。「Dispatch」のトーンは,そこで大きく方向転換した。
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ストーリー作りについて2人が強く語ったのは,「文章そのものの良さ」という点だった。
この業界では“ナラティブ”や“ストーリー”という言葉が多用されるが,映画やテレビの話をするとき,人はたいてい「脚本が良かった」と口にする。それなのにゲームの話になると,そうした評価の感覚が曖昧になってしまうと彼らは指摘する。
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2人にとって「優れたストーリー」とは,大筋のプロットだけを指すのではない。それはキャラクターの口から出る言葉の質であり,記憶に残る会話であり,その結果として生まれる人物同士の関係性にもあった。
「Dispatch」では,物語自体は意図的にシンプルにした。その代わり,ヒーローたちのキャラクター性は複雑にし,瞬間瞬間の会話に力を注いだという。脚本段階からインタラクティブに試せる専用ツールも用意し,プレイテストも重ねた。
プロットよりも,目の前のシーンをどう感じるか。そこにこそナラティブゲームの強さが宿ると考えたからである。
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その脚本には,プレイヤーから見れば,前段のプレイ結果とそぐわない展開になるものもある。
しかしそれはプレイヤーの自由度を制限するためではなく,主人公Robertの苛立ちをプレイヤー自身にも体感させ,ほかの登場人物との関係性を“見せる”のではなく“プレイさせる”ための判断だったという。
脚本でいう“show, don’t tell(説明するな見せろ)”は有名だが,インタラクティブ作品ではさらに一歩進んで,“play, don’t show(見せるな遊ばせろ)”が必要になる。
ときにはプレイヤーに裏切られた感覚を与えることもあるかもしれないが,同時に,このゲームのキャラクターたちは単なる駒ではなく,それぞれが主体性を持っているという事実を強く印象づける。物語を進めるためではなく,感情をプレイヤーと共有するための設計となるのだ。
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物語重視ゲームにおいても,アートの重要性は極めて高い。
プレイヤーが購入を決める前の段階では,ストーリー以上に,まず絵作りや見た目が判断材料になる。とくに投資家やパブリッシャに企画を売り込む局面ではなおさらだ。そのためAdHoc Studioは,初期段階から「見た目で引きつける」ことを強く意識していた。
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当初はさまざまなアーティストと組んでスタイルを模索していたが,最終的に見えてきたのは,コメディ寄りすぎてもダメで,シリアスになりすぎてもダメという,かなり繊細なバランスだった。
その過程で出会ったのが,Lap Pun Cheung氏のイラストだった。これを機に「Dispatch」の方向性が決定づけられたという。
のちにアートディレクターとしてDerek Stratton氏も加わり,それは単なるピッチ用の絵ではなく,世界観とキャラクターを本格的に築くための土台になっていった。
さらに,キャラクターデザインではコスプレのしやすさも意識したという。多様な体型や個性の人が「自分にも着られる」と思えるルックを目指し,さまざまな人が親しみを持てる衣装設計にすることで,ファンの広がりも視野に入れていたわけだ。そしてそれは結果的に,キャラクター性そのものを押し出すことにもつながった。
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さらに特徴的だったのが,プリレンダー映像を軸にしたビジュアルパイプラインである。
リアルタイム描画ではどうしても理想の品質に届かず,AAA作品であっても技術的な妥協が避けられない。そこで彼らは,アニメ作品のような見た目をゲームの中でどう成立させるかを真剣に考えた。
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その発想の参照点として挙げられたのが,1983年のアーケードゲーム「Dragon’s Lair」だった。アニメーション作品をそのままゲーム体験として成立させるこの古典に触発され,「Dispatch」でも高品質な映像をゲームに組み込む方向へと踏み出したという。
そのためにと,タイのIgloo Studiosと組み,3Dキャラクターと手描き風2D背景を組み合わせる表現にたどり着いた。
大手ではなく,まだ若く意欲的なスタジオと組んだのはリスクでもあったが,そこには“一緒に挑戦する”感覚があったと振り返る。
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このアプローチに合わせて,制作体制そのものも変わった。
従来のゲームシネマティクス的な作り方ではなく,アニメ制作に近いストーリーボードチームを社内で組織し,実写ドラマのような感覚で画面を設計していったのだ。
絵作りも,物理的な撮影現場の制約をあえて意識しながら設計し,実際のドラマのような落ち着いた画面作りを目指す。
感情表現でも,誇張より自然さを優先し,重要な場面では参考資料となる実写映像を撮影してまでニュアンスを詰めていたそうだ。
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一方,ゲームプレイ部分では,これまでのナラティブゲームの“お約束”をかなり大胆に見直している。
それというのは探索,パズル,ミニゲーム,QTEなどのこと。これら従来作にあった要素を1つひとつ棚卸しした結果,「物語を鈍らせるだけの要素は削る」という判断が下された。そこで掲げられたのが,「ゲームプレイはファンタジーに奉仕する」という方針だ。
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「Dispatch」の主人公Robertの仕事が“ディスパッチャー”である以上,ゲームの中心メカニクスもその仕事に直結するべきだ。こうした考えから最終的にたどり着いたのが,スーパーヒーローたちを出動させて状況に対処させる,管理シミュレーション的なゲームプレイだった。
この発想の参照元として挙げられたのが,「This is the Police」だ。警察組織の運営と判断を軸にしたこの作品から着想を得て,「警官の代わりにスーパーヒーローを管理する」形に落とし込んだという。
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最初はヒーローごとに特性を持たせ,シナリオに適した特性を持つ者を送り出す設計だった。ところがプレイテストでは,その仕組みを理解して最適解を選ぶプレイヤーほど,かえって面白さを感じなかった。
一方で,ルールをよく分かっていないプレイヤーたちは,キャラクターの見た目や雰囲気から直感的に選んでいて,そちらのほうがむしろゲームを楽しんでいたという。
この結果を受けて,チームは設計を見直した。キャラクター特性のマッチングゲームではなく,プレイヤーが文脈やキャラクター理解から推測し,リスクを取って判断する仕組みに寄せていった。
つまり「正解を探す」のではなく,「このキャラならこういう場面で活躍しそうだ」と考えながら選ぶ体験へ変えていったのである。
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また,より幅広い層に届くゲームにするため,彼らは“カジュアル”ではなく“低摩擦”なデザインを意識したという。その象徴が,「ゲームオーバーをなくす」というルールだ。
プレイヤーがどんな選択をしても物語は止まらず,失敗しても前に進む。選択の重みやプレイングの結果が軽く見える危険はあるが,それでも物語主導体験との相性を優先した。
QTEについても,最初は排除したかったと率直に語られた。過去作では何度も使ってきたが,QTEはフラストレーションを生みやすく,楽しいものにはなりにくいと理解していたからだ。
しかし彼らが問題視していたのは,あくまで“悪いQTE”だった。ストレスを最小限にする内容で作り変えれば,物語主導のゲームのテンポを阻害せず,程よいアクション要素にできる。
操作入力の種類を絞って分かりやすくし,ボタン連打には寛容にし,必要なら設定で無効化もできるようにする。つまり,「好きな人だけ付き合えばいい」程度の軽さに調整したわけだ。
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さらに,ランダム性の扱いにも工夫があった。
ゲーム中には確率が絡む要素があるが,それらは表面上の数字だけではなく,裏側で“公平に感じられる”調整を適用している。これはカジュアル層に希望を残しつつ,慣れたプレイヤーにはリソース管理の余地を与えるための設計だ。そのため,高確率なら自動的に成功させ,逆に低確率でもわずかな希望を残す。プレイヤーに不条理さを感じさせないよう,かなり細かく調整されていたことが明かされた。
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こうした判断の積み重ねは,「Dispatch」を予想以上の成功に導いた。ゲームデザイン以外にも,Steam Next Fest向けのデモを優先して作り込んだこと。キャストにハリウッド俳優や著名声優,クリエイターなど幅広い顔ぶれを起用したこと。そして“死んだ形式”と見られていたエピソード配信を,長い待ち時間を空けず週1更新というスピーディさで成立させたことなど,成功を支えた要素は多い。
それでも2人は,「この作品は完璧な計画から生まれたわけではない」と強調する。スタジオ閉鎖も,パンデミックも,当時は行き止まりに見える出来事ばかりだった。
だが,シンプルな理想を手放さずに進み続けたことで,結果的にそれらが「Dispatch」を今の形へ押し上げていったのだという。
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“死んだジャンル”を蘇らせる話でありながら,実際には自分たちが何を信じ,何を削り,何を変えずに残すのかを問い続けた開発の話。
ストーリー主導型ゲームの未来について語るセッションであったと同時に,小さなスタジオが自分たちの強みを見失わず,作品を作るうえでの実践的な知見と,そして“希望”が詰まった講演だった。
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(C)2025 AdHoc Studio Inc.
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