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「Grand Theft Auto」は,「進撃の巨人」は,「攻殻機動隊」は,「Red Dead Redemption II」はどうか。
どれも大成功した作品であり,名作でもある。それでもIPという言葉で呼ぼうとすると,どこかが引っかかる。ところが「スーパーマリオ」や「ゼルダの伝説」,「ポケットモンスター」を並べると,その引っかかりは消える。その差がどこから来るのか,ずっと気になっていた――そう切り出したのが,「SANABI」を作ったワンダーポーションのユ・スンヒョン氏だった。
セッション「SANABI,そしてインディーゲームとIP」は,この問いを2本の講演とパネルディスカッションで扱うものだ。話し手は2名。1人は,2023年11月にリリースした「SANABI」で4万4399件のユーザーレビューを集めたワンダーポーションのユ・スンヒョン氏。もう1人は,カカオトークのスタンプ発のキャラクターを原作にした「オグと秘密の森」を作る,シンクホールスタジオのクォン・ジュンギュ氏だ。
進行役は,BIC審査分科委員長も務める順天郷大学 韓国文化コンテンツ学科のイ・ジョンヨプ教授。パネルディスカッションにはNEXON Gamesでブルーアーカイブを統括するIO本部の本部長,キム・ヨンハ氏も加わった。
ユ氏はまず,自分はIPの専門家ではなく,小型のインディーゲームを1本作っただけの企画者でありコンテンツ好きにすぎないと断ったうえで,趣向と経験の領域に大きくまたがるテーマなので,面白い視点だな,くらいの軽い気持ちで聞いてほしいと前置きした。
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最初に示されたのは,知的財産権を説明するオンライン百科事典の項目だった。IPをこの辞書的定義で語ることには意味がない,これで話すならIPでないコンテンツは存在しない,というのがユ氏の主張である。
そこでユ氏が挙げたのが,自分にとっての「完璧な例」だ。「スター・ウォーズ」,「007」,マーベル,スパイダーマン,「スーパーマリオ」,「ゼルダの伝説」,アニメ「Arcane」でIP化に成功した「League of Legends」,ガンダム,「ポケットモンスター」,「Fate」シリーズ,そして「東方Project」などが並ぶ。
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対して,成功したコンテンツがそのまま成功したIPなのかという問いには留保がつく。「Minecraft」「Grand Theft Auto」などはIPではあるものの,前者とは何かが違う。作品性の高いコンテンツはIPなのか,という問いも同様で,「進撃の巨人」「攻殻機動隊」「Red Dead Redemption II」もまた,自分の頭の中にあるIPとは少し違う気がする,というのがユ氏の整理だった。
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ユ氏の定義はシンプルで,まったく別の方向に拡張しても違和感が出ないコンテンツがIPだ,というもの。その違和感のなさを生む要素として,4つの仮説が示された。
1つめは拡張性と独立性。コンテンツの中心となる人物や設定が,特定の物語に従属していないことだ。
「ポケットモンスター」は作品ごとに主人公が変わり,語られる物語も変わるが,ポケモンという核のコンセプトはまったく死なない。
対して「Red Dead Redemption」は,ゲームそのものがヴァン・ダー・リンデ・ギャングという集団に完全に従属しているため,別の人物が出てきたときにそれを同じものと呼べるのかが曖昧になる。ただしそれはIPとして曖昧なだけで,シリーズとしては非常に強力になりうる,というのがユ氏の見方だ。
2つめは未完結性。固有の物語の完結性が緩いこと,つまり物語が特定の人物に過度に依存していないか,物語を引っ張るキャラクターが複数いて,1人の完結がコンテンツの完結にならない状態を指す。
スライドでは「スター・ウォーズ」とアベンジャーズが例に挙がった。逆の例としてユ氏が口頭で挙げたのが日本のアニメーションで,「聲の形」は硝子と将也の関係がほぼすべての物語を牽引しているため,2人の関係が決着した時点でその先を作るのが難しくなる。
3つめは開放性。コンテンツ固有のアイデンティティが明確でありながら緩く,別のコンテンツに転換しても固有の感じが損なわれる不快感が少ない。まったく違うコンテンツとして出てきても,そういうものかと受け入れられる感覚だ。例に挙がったのは「ゼルダの伝説」と「東方Project」である。
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そして4つめが,ただそういう感じ,というものだった。二次創作が多い,流行したミームがあるといった理由で別のコンテンツやパロディとして多く露出していること。いくつかに圧縮できない無数の要因が合わさって,IPという抽象的な感覚を与えるのだという。このスライドに置かれていたのは,ミーム画像として知られるカエルの「ペペ」である。
厄介なのは,この境界が曖昧なうえ,ゲームというメディアでは問題なくても映像化すると変になる,あるいはその逆といったことが起きる点だ。さらに,制作会社が能動的に作れるものではなく,受け手が付与する概念であるためにさらに曖昧になる。
開発会社がいくらプッシュしてもIPに拡張されない例もある。だからこそインディーゲームでIPを狙いにいくのは危険で,生存が最優先の環境で,開発者のテイストが明確に溶け込んだ尖ったゲームを作ることこそインディーの核心なのに,IP化を意図して前述の要素をすべて盛り込もうとすれば,インディーゲームの魅力が死ぬ。無理に拡張しようとすると,調和していない感じが出てしまうという。
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では「SANABI」はIPなのか。現段階でIPと呼ぶのは少し気恥ずかしい,というのがユ氏の答えだった。広い意味ではIPかもしれないが,自身の基準には合致しない。ただし,強力なIPではないにせよ面白いシリーズにはしたいし,うまくいけばIPとして拡張したい気持ちはあるそうだ。
実際,主人公ではないサブキャラクターを主役にした無料の外伝DLCを出し,グッズのファンディングを行い,コラボカフェも準備中で,IPとして拡張できるようにさまざまな方面で慎重にビルドアップを続けているそうだ。
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なぜ「SANABI 2」より先に,まったくの新作なのか
講演の後半でユ氏が扱ったのは,ワンダーポーションが「SANABI 2」を今すぐ作らず,先に新作を開発している理由だ。ビジネスで会う相手にもファンにも,なぜ続編を先に出さないのかとよく聞かれるのだという。
「SANABI」は4年以上をかけて作り,評価も悪くはなかったが,惜しかった点は多かったとユ氏は振り返る。最も惜しかったのはゲームが一本道だったことだ。
ストーリーを見せ,ゲームプレイをさせ,またストーリーを見せるという構造を最後まで繰り返す。ボスもモードもあるが,結局はその反復である。
一本道のゲームだけが持つ魅力は確かにあるとしたうえで,それでもゲームでしか与えられない体験を出したかった,としてスライドに並んだのは「Fallout: New Vegas」「ELDEN RING」「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」「Outer Wilds」の4本だった。
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だから「SANABI」も当初はメトロイドヴァニアとして作ろうとしていた。しかし制作難度が数倍に跳ね上がったため断念している。面白いメカニクスとレベルデザインを作り,物語とカットシーンをうまく組めば,それなりに見られるものにはなる。だがメトロイドヴァニアとなると,それらをすべてやったうえでワールド設計が必要になり,物語もどの順番で触れられても成立するように作らなければならず,周回をまたいで引き継ぐ成長要素や,プレイヤーごとに違う育て方も要る。
動線は予測できず,探索の設計も成長曲線も必要で,ボスの数も増える。結果として完全に諦め,一本道のプラットフォーマーとして完成させたそうだ。
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その反省があるうえで,インディーゲーム開発者としては数少ない,次回作を作る機会を得た。だからこそ続編に直行するのではなく,開発チームの地力を固めたい――そう考えたのだという。
固めたい要素は3つ挙げられた。
1つめはオープンな構造と探索,成長,能動的な冒険で,これを「SANABI」の演出と独特のメカニクスと同居させること。
2つめは背景の3D化だ。「SANABI」で最も惜しかったのは背景が2Dだった点だという。2Dの背景は結局のところ板なのでライティングが使えず,使っても不自然になり,空間感を作るのも難しく,カメラが固定されることの影響も大きかった。
ただし,2Dの魅力を捨てたわけではなく,3Dでしか作れない背景のライティングと空間感を,2Dの魅力を保ったピクセルグラフィックスで解釈するという方向を取っている。
3つめはコンセプトだ。「SANABI」が掲げていた「朝鮮サイバーパンク」は,李朝期までの韓国の意匠を定番のサイバーパンクに掛け合わせた,という開発元自身によるジャンル表記である。
だが国内では人気を得た一方で,海外ではこの掛け合わせが理解されず,ただのサイバーパンクとして受け取られてしまった。そこでグローバルに通じる理解度の高いコンセプトを取りつつ,ありきたりにはしたくない。サイバーパンクを朝鮮という文脈で解釈したときのように,自分たちの特異な感性で再解釈したいという。
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これらを合わせて開発中なのが,新作「楽園工房」だ。ワンダーポーションはこの新作を先に出し,そのあとに「SANABI 2」を開発するという順序を明言している。
会場では開発中の映像も公開された。キャラクターは2D,背景は3Dで,ライティングが入ることで空間感が生まれ,光を変えれば昼夜も想起させられるという利点が説明されている。
「SANABI」とは異なり流血のあるアクションゲームで,主人公が振るうのはくぎ抜きハンマー。刃物系アイテムとパリィアクションを軸に組んでおり,背景には複数の種族が登場し,探索の合間にパズルも挟まる。ユ氏はこの新作を,くぎ抜きハンマーを持った天使のタイムループ・ノワールファンタジー,というジャンルとして作っていると説明した。公開目標は今年の年末頃だという。
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IPホルダーと同じオフィスで作る,シンクホールスタジオの5年
2人めのクォン・ジュンギュ氏は,「オグと秘密の森」というゲームそのものの紹介は昨年までのカンファレンスで済ませたとしたうえで,今回はIPホルダーとどう協業しているのか,そこで何を経験したのか,そして小規模開発会社がその経験をどう次につなげるのかというケーススタディに絞って話した。
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IPホルダーはMOONLAB STUDIOで,カカオトークのスタンプで継続的な売上を出し,IPライセンス企業と契約してオフラインの事業も広げてきた。求めていたのは,原作となる深みのあるコンテンツである。一方のシンクホールスタジオは2017年創業で,クォン氏とCTOのほぼ2人体制のまま,ビジュアル,音楽,映像,クライアントとサーバの開発までを自分たちでコントロールしてきた。足りなかったのは,大衆に届く手段だ。両者の利害が噛み合って協業が始まった。
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当時いちばん人気があったのは「ベビーオグ」というキャラクターだった。事業面だけを考えれば,メッセンジャースタンプの消費層に合わせてライトなモバイルゲームにするのが妥当だったはずだ。
だが2社が話し合って辿り着いた結論は,自分たちが作りたいものを作るのがいちばん強い,というものだった。自分たちはモバイルゲームをあまり遊ばないこと,MOONLAB STUDIO側は「ゼルダの伝説」や「ポケットモンスター」,そして子どもの頃の昆虫採集の記憶を好ましいものとして持っていたこと,シンクホールスタジオ側は「アドベンチャー・タイム」や「リック・アンド・モーティ」といった突拍子もないアメリカ式のユーモアと,「Diablo II」や「StarCraft」の世界観設定資料集を読むのが好きだったこと。そうした要素から,このキャラクターでアドベンチャーゲームを作ろう,おこがましいが韓国の任天堂になろうという理念で開発が始まった。
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ただし既存キャラクターのゲーム化といっても,Webノベル,Webtoonからの「俺だけレベルアップな件:ARISE OVERDRIVE」,ミニチュアウォーゲームからの「Warhammer 40,000: Mechanicus」,別のゲームからの「THE FIRST BERSERKER: KHAZAN」,小説・漫画からの「SNUFKIN: Melody of Moominvalley」といった例はあっても,メッセンジャースタンプのキャラクターからゲームを作るという具体的な前例がほとんどなかった。
最も近いものを探しても「ハローキティ」のアドベンチャーぐらいで,それとも違うものを作りたかった。このキャラクターでどこまでのジャンルをカバーできるのか,キャラクターが好かれている国を離れてもゲームとして成功できるのか。その問いに答えながら開発を続けている状態で,何かの境地に達したわけではない,とクォン氏は率直に語った。
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協業の実態は,きわめて物理的だ。MOONLAB STUDIOの1人と,シンクホールスタジオの4人が同じオフィスを共有している。リモートによるコミュニケーションの目減りが起きず,一緒にアイデアを出したものをシンクホールスタジオが実装し,これはどうかと見せればその場でフィードバックが返る。こういうキャラクターがもっと必要だ,アニメーションが必要だ,という要望もその場で受けられたという。
「オグと秘密の森」は,2022年6月にSteamでデモ版を出し,同月にクラウドファンディングで約2億ウォンを集めてから,3回のCBTを挟んで2023年3月にアーリーアクセスへ移行した。
港町,海,雪原と大型アップデートを重ね,2024年7月にSteamで正式リリース。その後Android版とiOS版を出し,2025年にはNintendo Switch版も投入している。企画の初期まで遡れば2020年で,各種アップデートを終えたのが2025年。1本のゲームを5年作り続けているうちに30代半ばになってしまった,というのがクォン氏の感想だ。
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次に作られた「Maltese's Fluffy Onsen」は,相対的にライトなジャンルだった。すでにファンベースがあったのに,なぜ次作をまったく別ジャンルにしたのか。理由の1つは,単純に疲弊していたことだという。
その頃,ゲームショウでの出展が増えていた。出展は足も疲れるし,普段はオフィスで作業しているのに知らない人と話し続けるので消耗する。そこで日本の開発者から,ゲームショウの合間に銭湯へ行くと良いと勧められ,MOONLAB STUDIO側の作家とともに銭湯通いが始まった。BitSummitで訪れた京都の四条南西にある五香湯,そして釜山の海雲台温泉センターが,クォン氏のおすすめとして紹介された。
そんな経験もあり,Steamに銭湯を題材にしたゲームがなかったので,1万5000ウォン程度のシミュレーションを作ってはどうかと提案した。だが作家側からは別の方向が示された。当時人気だった「Rusty's Retirement」のような,デスクトップ下部に置く放置型に近いモデルに合わせてキャラクターを載せてみよう,という案である。
その背景として示されたのが2つの問題だった。1つは,ゲームを開発しているあいだにキャラクターIPの生命力が消耗してしまうこと。キャラクター自体の魅力が落ちるという話ではなく,膨大な数のスタンプとキャラクターコンテンツが次々に登場する以上,長期開発では相対的に生命力が落ちうるということだ。
もう1つは,キャラクターのファンとゲームのファンの性向が異なることから来る乖離である。カカオトークとSteamはイコールではない。「オグと秘密の森」で強く感じたのも,他メディアにいるファンが自分たちの望む市場にそのまま入ってくるわけではないという事実だ。
そこで,プレイヤーがキャラクターに期待する点だけを生かし,キャラクターの生命力が削られる前に速く開発して出そう,というのが当時の合意点になった。
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ベンチマークが「Rusty's Retirement」1本に絞られていたことには,罪悪感に近いものもあったという。あちこちで言っていたが,先方の開発者からDMが届き,自分のゲームがヒットしたあとに出てきた同ジャンルのゲームをバンドルにまとめているので合流しないかと誘われ,現在はそのメガバンドルに収録されているそうだ。
軽く投げてみるように進めたプロジェクトだったが,指標は「オグと秘密の森」とまったく違うものになった。1か月ほど作って公開したSNSの投稿だけでアルゴリズムに乗り,ウィッシュリストが一気に1万件を記録。デモを作って参加したSteam Next Festでは,最もプレイされたデモの25位に入った。昨年のBICカンファレンスで紹介した時点でレビューは1100件だったが,アップデートを続けた結果,現在は2倍以上に増え,売上も伸び続けているという。
時期の巡り合わせも良く,Steamのデスクトップコンパニオン系のリリース本数は2025年の60本から2026年には100本を超えており,小規模開発会社がこのモデルを突破口と見ていることがうかがえる。
韓国の任天堂になろうという意気込みで始めたはずが,Steamのユーザーはこのキャラクターに休息と癒やしを求めているのではないか。2本めでそう考えるようになったクォン氏は,次に何を作れば生き残れるかを考えるなかで,客観的な基準を持つようになった。
1つはスペック的な要素,つまり価格・開発期間・コンセプトである。価格の話は生々しい。5年かけて作った以上,クォン氏は「オグと秘密の森」を3万〜4万ウォンで出したかった。だが,ある開発者のインタビューでは,2万ウォンで出したかったところ,パブリッシャや同僚開発者から1万ウォンを勧められたという。
理由は,そのゲームに2万ウォンの価値がないからではなく,遊んでいない人にトレイラーやデモだけで2万ウォン分の価値を確信させるのは難しいからだ。スライドには「Stardew Valley」と「Hollow Knight」が2016年から2017年に1万6000ウォン,「Loop Hero」が2021年に1万6500ウォン,「Lethal Company」が2023年に1万1000ウォンという価格が並び,その下にチキンの価格が2016年の1万5000ウォンから2020年に1万8000ウォン,2023年には2万2000ウォンへと上がっていく様子が示されていた。
物価は上がっても,Steamにある過去のゲームは残り続け,購入者は同じ環境でそれらと比較する。だから価格は,開発会社の欲というより,ある程度そうならざるをえない価格帯があるのではないか,というのが2社で話し合った結論だった。
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2つめの開発期間についても,参照したのは「Rusty's Retirement」の開発者のインタビューだ。新作を作るときは2週間という締切を決めてSNSに上げ,そのプロトタイプの反応を見てから肉付けするかを決めるという。次回作に3〜4年をかけて,期待と違う結果になったら次のゲームを作れるのか。そう考えて,開発期間はきわめて重要な客観的要素だと捉えるようになったそうだ。
3つめが認識,つまり一言で説明できるかどうか。ゲームショウでは業界関係者に1文か2文でゲームを説明する場面が多い。だがクォン氏は台湾で任天堂の関係者に説明するとき,愛情が溢れていたせいで,韓国のメッセンジャーがどうで,プレイ時間が50時間100時間で,と長々と語ってしまった。
数百本のゲームがある環境でそれは記憶に残らない。マーケティングのファネルを見れば,IPの認知度があるだけで購入者は検討に入り,強い場合は最初から買うと決めている。しかしそれはスタンプの環境でこそ成り立つ話で,Steamの環境で認知によって購入に近づけるなら,もっと明確で記憶に残るものでなければならない。会場で示された答えは,動物の銭湯版「Stardew Valley」という一文だった。
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クォン氏はこれを自分の消費行動でも説明した。「ポケットモンスター」の新作が出るといわれても,最近は「ポケットモンスター」なのか「デジモン」なのか,今回はソードなのかナイトなのかも分からず,感覚が鈍っている。
だが新作が「ポケットモンスター」と「Minecraft」と「あつまれ どうぶつの森」を合わせたものだと聞いた瞬間,買うと決めてNintendo Switch 2を実際に購入した。
「ウォーハンマー」の新作といわれても何の何作めか分からないが,Vampire Survivors系だといわれれば一発で伝わる。インディーゲームでも同じで,無数のトレイラーを見てきたなかで記憶に残るものは1文か2文に要約できる。ポーカーだがローグライク,といった形だ。ユ氏の新作が,くぎ抜きハンマーを持った天使のノワールという1文に要約されることも,きわめて有効だとクォン氏は評価していた。
これらの基準を得たことで,昨年の時点では抽象的だった反省も整理できたという。初期はキャラクターのファンがファンディングでグッズを得ることが非常に良い集客になり,それがそのままSteamに来ると思っていた。
だが,Steamでは同じ認知度はないので一から積み直す必要があり,その過程であの長々とした説明を手放せずにいた。そのうえで期間内にゲームを終わらせ,マーケティングも攻撃的に行ったからこそ,今になって売上が積み上がっている。その流れがようやく理解できたそうだ。
現在準備しているのは,超小型ゲームの「Hamster Time」,カード・戦略の「LUCKY HEROES」,そして新しいキャラクターを題材にした中規模のゲームの3本だ。
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ロングタームIPは必要か。パネルディスカッション
2本の講演のあとは,イ・ジョンヨプ教授の進行によるパネルディスカッションが行われた。イ氏によれば,このセッションは半年ほど前から準備され,キム・ヨンハ氏を招くために会社まで足を運んだという。ステージ後方には「ビハインドインディ」と題したIPウォールが設けられ,3社のゲームの初期コンセプトアートやキャラクタースケッチ,プロトタイプが展示されていた。
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共通質問は,1本のヒット作を超えて長く続くロングタームIPを作ることが重要だと言われる一方で,インディーゲームは新しいアイデアを次々に生み出す回転の速い領域でもある,それでも1本を長期的に拡張・維持する戦略は必要か,というものだった。
キム氏は,自分たちはインディーではないと断りつつ,悩みは似ていると答えた。まず必要なのは誰かが確実に好きになれるIPの核を備えることで,そこから始まる点はインディーでも自社でも同じだろうという。
学園ものの制服のキャラクターが多く登場してほしい,戦闘の見せ方はこうあってほしいというのが自分たちの核であり,長く続けるために,学校が複数登場できるようにしておく,拡張しやすいようあえて地図を作らない,といった検討もしてきた。
ただし常に思いどおりに動いたわけではなく,結局は自分たちの考える味を品質高く出せるかが重要で,展開はラフな計画にとどめて市場の反応を見ながら合わせていくことになる,というのが答えだった。
ユ氏は,インディーゲームと一括りにしても種類は多く,種類ごとに戦略は変わるとしたうえで,自社は数を作るより,代替できないコンセプトや独特の物語を作って,似たゲームが極力存在しない状態にするのが戦略だと述べた。
IPはプレイヤーが規定するもので開発側から誘導するのは難しいが,独特の物語・世界観・メカニクスによってゲームそのものが差別化され,他社が真似しづらいものであれば,そのナンバリング続編を作ることでIPに近い効果は作れると考えているという。
ただし普遍的な意味でのIPはインディーには難しく,追求を誤ればインディーの魅力を削りかねない,という警戒は講演と同じだった。
クォン氏は,長く生き残ることは全開発会社の目標でロングタームIPがあれば嬉しいが,作ろうとして作れるものではないとしたうえで,別の角度を提示した。
IPがユーザーの体験と期待・認識だとするなら,インディーでは開発会社そのものがIP的な役割を果たす場合がある,という見方だ。
例に挙がったのはルーカス・ポープで,「Papers, Please」と「Return of the Obra Dinn」はまったく別のゲームでジャンルも違うが,この人の作るゲームはこうだ,という認識が成立している。Steamで小規模開発会社が生き残るには,キャラクターの認知度を上げるより,クリエイターページや通知でユーザーとつながり続けることで,開発会社の認知度そのものをIPとして機能させる道もあるのではないかという。
これに続けてキム氏も,自分たちも似た考えだと応じた。ブルーアーカイブを作ったMXスタジオから始まった組織だが,別の新作を進めるなかで,開発組織そのものをブランディングする必要があると考え,IO本部という本部単位の組織を立ち上げてロゴも作ったという。
ゲームとしてのIPは連続しなくても,ブルーアーカイブが市場に訴求したものを次のゲームへつなぐ連結点をブランディングで作れるなら,それもIPになりうる。ビジュアルノベル的なゲームを熱心に作るオタクが集まっている,という訴求を機会あるごとに続けることが,新作を作るときの連結点になるのではないか,というのが最近の考えだそうだ。
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ブルーアーカイブについては,初期に考えていた核と成功後に発見した核の違いが問われた。キム氏によれば,学生たちがスクワッドを組んで銃器戦闘を行うというプロトタイプ時点の見え方は,そのままリリース版まで続いており,最初の味は出せたという。
想定を超えたのはその先で,ファンアートは期待以上に出てきて,二次創作イベントにつながる部分は期待を超えた。逆にゲームプレイ面では,当初考えていたギルド戦をプレイヤーが本当に嫌ったため,計画から大きく修正した状態でアップデートを続けているそうだ。
事前質問では,世界観とコンテンツが積み上がるほど既存ファンには深みになるが新規には参入障壁になる,両者を同時に満足させる方法は何か,という問いが出た。
キム氏は自分も知りたいと応じたうえで,最近のガチャ改編で相当に叩かれていると明かした。学生の数が増えたぶん新規プレイヤーが学生プールを得やすくなるように,という意図だったが,慣れ親しんだものが変わることへの強い反発を見て,意図が良くても共感を得られないことがあると痛感したという。
マーベルのIPも「アベンジャーズ/エンドゲーム」までは大きく盛り上がったが,その後もサーガが続き新キャラクターが増えることが参入障壁になっている。
調和させるテクニックはあるだろうが正解があるとは思えず,結局重要なのは受け止めるファンとどう温度を合わせるかだと語られた。完璧な戦略を立てるより,共感を得られるものをさまざまな試みのなかから見つけていくほうが重要ではないか,というのが現在の考えだそうだ。
会場からは,AI生成物を嫌うユーザーがいるなかでIPの立場としてどう考えるか,という質問も出た。キム氏はゲームによって異なるとしつつ,AIで作られたゲームが無条件に悪いとは思わないと述べたうえで,自社のゲームについてはアートワークにAIを適用してはならないという観点を明確に持っていると答えた。
アートワークもストーリーも,自分たちが最も重要だと考える味に当たる部分をAIで作れば,ファンは強い不快感を覚えるだろう。プログラミングで使う可能性はあっても,アートやテキストでは使わないという線を引いているという。ただしAIが多くを担う時代になった以上,今後はそれが認められるジャンルも生まれるのではないか,とも付け加えられた。
最後は,小規模チームが作れるゲームとプレイヤーが好むゲーム,そして自分たちが本当に好きなゲームのあいだのずれをどう調整するのか,という質問だった。
ユ氏は,規則があるとは思っておらず戦略と意図の違いだと答えている。海外の多くの開発会社は今人気のジャンルを2〜3か月で作る運営をしており,それは市場の空気を見て作るチームになるという。
流行を最初から考慮せず,自分たちが最も得意な好みを狭く踏み固めるなら,それ自体が戦略になる。韓国でそれをうまくやってきたのは,もはやインディーゲーム会社ではないがプロジェクトムーンだろう,というのがユ氏の見立てだ。
クォン氏は開発会社の現状を重視すると答え,大衆性が必要な状況ならそちらを選ぶのが正しく,今回は燃やしてみようという余力があるなら好みに寄ればいいとした。二者択一に見えて,市場を賢く読んだゲームも,「My Summer Car」のように独特なまま人気を得たゲームもSteamには存在する。
どちらを選んでもうまくアピールできるという確信さえあれば選べるのではないか,というのがクォン氏の結論だった。




















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