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TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い
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印刷2021/12/29 00:20

インタビュー

TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い

 2021年10月18日,アークライトとKADOKAWA,グループSNE,F.E.A.R,冒険支援といったテーブルトークRPG(以下,TRPG)の大手パブリッシャの連名による「テーブルトークRPGに関する二次創作活動のガイドライン」が,TRPGライツ事務局から発表された

画像集#004のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い

 このガイドラインは,近年盛り上がりを見せるTRPGの二次創作活動について,パブリッシャまたはタイトル側から守ってほしい基準を表明したものだ。その内容は,権利表示の明示やデータの転載禁止など一般的な内容ではあるものの,これに伴って制定された「SPLL(スモールパブリッシャーリミテッドライセンス)」が,大きな話題を呼んだ。
 具体的な内容は,ガイドラインのサイトに掲載された文言を確認してほしいが,要約すれば登録されたTRPGタイトルの二次創作を有料で頒布・販売する場合は,一定のライセンス料を事務局へ,ひいてはタイトルの権利者側へ支払わなくてはならない,というもの。その金額は紙媒体――いわゆる同人誌の場合は売上見込額(製造数×頒布価格)が20万から70万の場合に1万6500円,デジタルのダウンロード販売では販売額の10%になるという。

画像集#005のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い

 しかし二次創作界隈ではあまり前例のない試みであることや,発表から12月1日の運用開始までの準備期間が短かったこと,発表当初はデジタル販売の規定が「後日発表」と記載されるなど,さまざまな点で“粗さ”が目立ったことから,一部には困惑や不安視する声も囁かれた。

 サイトの文言によれば,今回のガイドライン制定は二次創作の自由度を制限するものではなく,あくまでトラブルを未然に阻止し,著作権者への支援を意図したものと言うが,その真意はどこにあるのか。
 TRPGライツ事務局の代表であるアークライトの梶原佳介氏と,SPLLのローンチから提携サイトとして名乗りを上げたDLsiteの影山周平氏に話を聞いた。

テーブルトークRPGに関する二次創作活動のガイドライン

「DLsite」テーブルトークRPG関連作品一覧



なぜガイドラインとSPLLが必要なのか


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。SPLLの運用が12月1日に開始となりました。いわゆる“公式側”からの二次創作へのアプローチとしては,かなり挑戦的な試みと感じていますが,まずはこの成り立ちからお聞かせください。

アークライト 開発事業本部出版グループ 出版事業部部長の梶原佳介氏。ガイドライン策定にあたってはその中核を担い,TRPGライツ事務局の代表も務めている
画像集#003のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い
梶原佳介氏(以下,梶原氏):
 流れとしては,「クトゥルフ神話TRPG」(以下,CoC)が動画リプレイなどの影響により2011年頃から大きな盛り上がりを見せ,それまで大きいとは言えなかったTRPGジャンルが活況になったのが発端です。それに伴って,「二次創作のためにガイドラインを示してほしい」という要望が,ファンの側から出てくるようになったんです。

4Gamer:
 要望が届くようになったのは,いつ頃のお話でしょうか。

梶原氏:
 各社のクリエイターさん達との間で話題に上がるようになったのが,5〜6年前だったと思います。それを受け,ガイドラインを具体的に策定しようということになったのが2020年の年末頃でした。

4Gamer:
 なるほど。ではSPLLによるライセンス制度よりも,ガイドラインを出したいというのが先にあったわけですね。

梶原氏:
 はい。ライセンスの方は,実はCoCの版元である米ケイオシアムとの調整の中で生まれてきたものなんです。日本におけるTRPGの二次創作は,CoCが8〜9割を占めているのが現状なんですが,そのケイオシアムから日本の権利者側――この場合はKADOKAWAとアークライト――に「日本の状況はどうなっているのか」と問い合わせがあり。早急にルールを決める必要が出てきました。
 そこでケイオシアムが海外で運用しているSPLLをベースに,日本の状況に合わせて調整を加えた日本版SPLLを作ることにしました。これが現在のものの原型になっています。

4Gamer:
 ケイオシアムのSPLLはどんな内容なのでしょうか。

梶原氏:
 二次創作物には「Non-Commercial(非商業),Non-Retal(非販売),Unofficial(非公認),Unbranded(ロゴなど使用不可)」といった条件があり,かなり厳しいものになっています。例外的に小規模出版者向けとして,同人誌なら2000ドル以内の売上で一律100ドル,デジタルなら指定のサイトで販売して50%(ケイオシアム社20%+ショップ側の取分30%)が差し引かれる形でロイヤリティを支払う設定となっています。

4Gamer:
 日本の二次創作文化を考えると,確かに厳しい内容ですね。

梶原氏:
 はい。そもそも「二次創作でロイヤリティを支払うこと」が一般的ではないですし,版元側も膨大な数の申請にいちいち対応しなくてはならないと考えると,とても現実的ではない。

4Gamer:
 日本の二次創作――というか同人文化は,他国から見ると確かに特殊かもしれないですね。あえて白黒をつけずに“グレー”の状態を維持することで,権利者側と二次創作者側双方の手間を省いている。例外があるとすれば,模型やフィギュアにおける当日版権制度でしょうか。

※個人やサークルなどのアマチュアが制作するガレージキットについて,権利元が即売会(ワンダーフェスティバルなど)の会期中および会場での販売に限定し,展示・即売の許諾を出す簡易的な商品化許諾制度。対応は権利元によって異なるが,基本的に審査やロイヤリティの支払いが発生する。

梶原氏:
 そうですね。しかしTRPGの二次創作では,そこに一歩踏み出すことにしました。

4Gamer:
 決断の理由はなんだったのでしょうか。

梶原氏:
 やはり「売上をちゃんと原著作者に還元して,自分達がやっていることが問題にならないようにしたい」という声が,二次創作者さん達の側から出てきたことですね。そして,それはアークライトのみならず,各社さんとも同じ状況だったんです。

4Gamer:
 ファンの側が“グレー”でなく“白”であることを望んだと。

梶原氏:
 我々側では,そう考えています。ファンの皆さんが,安心して二次創作に打ち込める状況を作りたい。それならばガイドラインできっちりと線引きをしたうえで,日本の状況に合ったライセンス制度を設けた方がいいと。

画像集#008のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い

4Gamer:
 今回のガイドラインには,アークライト/新紀元社のほか,KADOKAWAとグループSNE,F.E.A.R,冒険支援が賛同した形ですが,それぞれの反応はいかがでしたか。

梶原氏:
 基本的には,皆さん同じ方向を向いているようでした。どこか一社だけなら勇気のいる決断だったと思いますが,一つのガイドライン/ライセンスに統合して運用できるならぜひ,と。調整に時間がかかったのは,ライセンス料の部分くらいでした。

4Gamer:
 なるほど。そのライセンス料について詳しく聞かせてください。現在発表されている内容では,紙媒体・グッズ類の場合,売上見込(製造数×頒布価格)が20〜70万円で一律1万6500円,デジタルのダウンロード販売では販売額の10%という料率ですが,これはどのように決まったのでしょうか。

梶原氏:
  “現在の二次創作活動”で,“趣味の範囲内”と言われて納得できる範囲を考えた結果です。もちろん正解があるわけではないんですが……できるだけ自由な二次創作の妨げにならないように配慮したつもりです。
 例えばケイオシアムのSPLLとは違い,紙媒体なら20万円を下回れば申請が不要ですので,その範囲でしたらガイドラインさえ守ればこれまでどおりに活動いただけます。

4Gamer:
 紙媒体のとき,実際の売上や利益でなく,売上見込をベースにしたのはなぜでしょうか。

梶原氏:
 実売上や利益ベースでの計算になると,実売数や経費について考えなくてはならなくなりますし,その定義も難しい。分かりやすく目に見える形ということで,現在の形になりました。また商業出版でも印税の計算は発行部数がベースですから,各社さんとも理解しやすかったのではないかと思います。

4Gamer:
 売上見込が70万円を超えた場合はどうなるのでしょうか。SPLLのページには事務局と相談とありますが……。

梶原氏:
 個別の契約になるので詳しい内容はお知らせできませんが,すでに数件の相談を受けています。そこまでの大口は多くないだろうと考えていましたし,その形態や状況――同人誌なのかグッズなのか,あるいは何かのデータなのか――によっても都度検討が必要になるので,一律に何%などと決まっているわけではありません。

4Gamer:
 作品の内容に審査が入るわけではないんですよね。

梶原氏:
 内容の審査はしません。SPLLは内容にまで踏み込んで公認の証を与えるものではないですから。あくまで形態や状況を鑑みて判断するだけです。

4Gamer:
 現在5社が賛同している形ですが,このほかのパブリッシャのタイトルはいかがでしょうか。現時点では賛同を得られなかったという理解でいいのでしょうか。

梶原氏:
 アークライトと新紀元社でやっている「Role&Roll」という専門誌がありまして,そこに参加しているクリエイターの皆さんと相談しながら進めた経緯があります。まずは距離が近いところから足場を固めて,広げて行こうという狙いですので,現在参加していないパブリッシャにも話をしていきたいと思っています。

影山周平氏(以下,影山氏):
 そもそもの話として,現在参加を表明しているパブリッシャの作品すべてが含まれているわけでもないんです。パブリッシャの意向というより,それぞれのクリエイターの考えを尊重していますので。例えば今回のガイドラインより,もっとファンに対してフレンドリーにしたいと考えている著者さんのタイトルなどはリストに含まれません。ですから,今後もガイドラインから外れたり,新たに加わる作品が出てくると思います。

4Gamer:
 分かりました。ガイドラインの発表後,TRPGファンの反響はいかがですか。

梶原氏:
 概ね肯定的に捉えていただけたように思います。もちろん一部には「同人活動をいちいち制限されるのはちょっと」という反応もありましたが,イベントでヒアリングしたものも含めると,「ガイドラインが引かれたことで活動しやすくなった」という声が多く聞かれました。

4Gamer:
 事務局に届く申請や問い合わせは,やはりCoCに関連したものが多いのでしょうか。

梶原氏:
 ライセンスの申請で言えば8〜9割がCoC関連です。問い合わせなら,大部分は具体的な質問ですね。

4Gamer:
 サイトに掲載されている許諾済頒布作品リストを見ても,そんな印象を受けました。紙媒体とデジタルの比率で見るといかがですか?

梶原氏:
 現状だとデジタルが7割くらいですね。紙媒体の場合,売上見込が20万円未満は申請が必要ないですから。1000円の本を100部作っても10万円にしかならない。その範囲内で活動されている人が大半ですので,世の中に出ている作品全体でみれば,紙媒体のほうがはるかに多いと思います。


加速するデジタルシフトと,立ちはだかる問題


4Gamer:
 では,そんなデジタル販売について聞かせてください。SPLLに対応した配信プラットフォームとして,まずはDLsiteが,続いてBOOTHが参加を表明した形ですが,そもそもDLsiteが最初に名乗りを上げたのはどういった経緯からだったのでしょうか。

DLsite 事業推進部 同人チーム販促プランナーの影山周平氏。普段はゲームマーケットやコミックマーケットなどに出店する,同人サークル向けの営業を担当しているという
画像集#002のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い
影山氏:
 はい。発端としては,DLsite内でTRPGジャンルを強化したいという計画がありました。これはインディーズで活動している人が多いジャンルでありながら,DLsiteとして作品発表の場をうまくご提供できていない現状があったためです。またコロナ渦の影響でオンラインでプレイする機会が増え,デジタルコンテンツの需要が高まっていたことから,検討していたものになります。

4Gamer:
 それはいつ頃のお話ですか。

影山氏:
 2020年の5月頃だったと思います。そこでアークライトさんにご相談したところ,それがちょうどガイドラインとSPLLの案が練られている最中でした。でもあの当初は,デジタルは一律禁止で話が進んでいて……。

梶原氏:
 そもそも一度刷ったものがなくなれば終わりの紙媒体とは違い,デジタル販売というのは恒久的に売り続けられる性質を持っています。経費が限りなく0に近づき,売れた分だけ利益になるわけで,それは「非営利を目的とした二次創作」から大きく外れかねない。各タイトルのクリエイターさんの側からしても「それはもう商売では?」という考えが拭いきれないため,当初デジタルは一律禁止で考えていました。

4Gamer:
 無償であれば問題ないわけですよね。

梶原氏:
 それはもちろんです。一昨年,F.E.A.R.さんが「無償でない限りデジタルの二次創作は禁止」という発表をされた経緯もありました。ただそのときは「一切禁止」という部分だけが独り歩きしてしまい,それはそれで問題だったのですが。

4Gamer:
 なるほど。その点,DLsiteさんはどうお考えなんでしょうか。

影山氏:
 ……なかなか線引きは難しいですが,デジタルに需要があるのは確かだと思います。紙媒体は在庫の問題があるので,気軽に再販もできません。
 なので「それならウチも協力しますから,デジタルも可能になる条件を模索してみませんか」という提案を,アークライトさんにさせていただきました。そんな風に案作りの段階から関わらせていただいたことから,結果的にファーストローンチがDLsiteになったというのが,今回の経緯だったりします。

4Gamer:
 ああ,なるほど。ガイドラインの発表当初,デジタル販売への言及が後日発表とされていたのは,その調整に時間がかかったから,でしょうか。

影山氏:
 そうです。最初はデジタル禁止の方向でかなり調整が進んでいたところに,「こういうやり方ではどうですか?」と提案していった形なので,当初はお待たせする形になってしまいました。

4Gamer:
 結果として落ち着いたのが,10%の料率ということなんですね。元となったケイオシアムの料率が20%だったことを考えると,かなり低いと感じます。

梶原氏:
 ファンの皆さんが窮屈にならないように,というのが大前提ですので。とはいえ,これより低いとやる意味がなくなってしまうので,そのギリギリを攻めたつもりです。

4Gamer:
 各社さん,あるいはファンの皆さんの反応はいかがでしたか。

影山氏:
 どちらも前向きにとらえてくださっていると思います。
 例えばですが,CoCのシナリオを創作されている作家さんのなかには,「デジタルは商業に近い印象を与えてしまうのでやらない」というスタンスの方もいらっしゃいました。ですがSPLLの発表を受けて,「権利者に利益還元ができるのであれば,再販が難しい本をデジタルで出そう」と動いてくれたケースもあります。そんな風に,著作者への還元があるなら,デジタル販売は双方にとって悪い選択肢ではないと考えています。

4Gamer:
 分かりました。DLsiteとBOOTHに加え,次はコノスTALTOが準備中とのことですが,対応するプラットフォームは今後も増えていくと考えていいのでしょうか。

梶原氏:
 事務局としては,ファンの皆さんの選択肢が増えるのはいいことだと思っています。協力していただけるプラットフォームがあれば,ぜひお願いしたいです。

4Gamer:
 DLsiteとしてはライバルが増える形になりますが,DLsiteならではの強みをどう考えていますか。何か具体的な施策などはあるのでしょうか。

影山氏:
 DLsiteは,もともとTRPGに強いプラットフォームではなかったので,むしろこれからTRPGに興味を持ってもらえるような施策を打ち出していければと思っています。会員数は720万人と,他社さんと比べても引けは取りませんので,そうした新しい層にアピールできるのが,強みではないかと思います。
 具体的な施策としては今もTRPG特集のバナーを展開していますし,こちらはTRPGに限った話ではないですが,手数料が大幅値下げ(販売額次第で最大50%→キャンペーン適用で10%)となる「創作活動応援キャンペーン」も実施中です。こちらはTRPGファンの皆さんにも,ぜひ利用してほしいです。

画像集#006のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い

4Gamer:
 公式の製品――いわゆるコアルールブックやサプリメントなども買えるようにはなりませんか?

影山氏:
 DLsiteの姉妹サイトですが,商業出版を扱う「DLsite.comipo」では,すでにルールブックなどの販売も行っています。商業と同人で分かれているので,同じカートに入れて一括で買うことはできませんが,アカウントやポイント制度などは共通で利用いただけます。

梶原氏:
 コロナ禍の影響もあって,オンラインでプレイする機会が増えていますので,デジタル版ルールブックの需要も高まっていると感じます。紙媒体ではオンラインで購入しても,届くのは早くて翌日になるでしょうし,思い立ったらすぐ購入してプレイできるのはデジタルの強みですね。

影山氏:
 DLsiteは確定申告に関するセミナーを定期的に行うなど,売りっぱなしではなく,その後も含めて創作活動がしやすい環境を提供するプラットフォームです。安心して創作活動が行えるSPLLの仕組みとも相性はいいので,その辺りに魅力を感じてもらえたら,ぜひ利用してほしいですね。


初動時の顛末と,成長するガイドライン


4Gamer:
 経緯は概ね掴めましたので,ここからは少しツッコミも入れさせてください。10月の発表時点では,ガイドラインの文言やFAQなどに不備が目立つように感じました。正直なところ,準備不足を感じてしまうくらいに。この点はどうお考えですか。

梶原氏:
 はい。準備不足だった面は否めないと思っています。

影山氏:
 手探りで進めていましたので,初動が雑だったというご批判は当然だと思います。

4Gamer:
 少なからず,この点に不安や不信を抱いた人がいたのではないかと思います。なぜそんな不完全な状況でGoを出したのでしょう。

梶原氏:
 2021年内にスタートさせたいという前提がまずありました。できれば夏頃に発表したかったのですが,各社の調整に時間がかかってしまい。12月に施行することを考えると,最低でも1か月半くらいの準備期間は必要ですし,そうなると,どうしても10月には発表せざるを得ませんでした。

4Gamer:
 それは2021年末のコミックマーケット99に間に合わせたかった,ということでしょうか? 告知から施行まで1か月半というのも,かなり急な話ではありますが。

梶原氏:
 いえ,それはあまり関係ないですね。調整が長引いた結果,ある程度まとまったところで年内の発表に向けて走り出さざるを得なかったというのが正直なところです。最初から完璧は難しいとも考えていたので,最初の線だけ引いておいて,あとは走りながら修正していこうという考えでした。

影山氏:
 事務局さんとの打ち合わせで,私も聞いてみたことがあります。そのときの回答は,「このガイドラインはファンの皆さんの意見を聞きながら成長していくべきものだから,最初からガチガチに決めてしまっては,よけいにこじれてしまいかねない。なので,あえて緩く作っている部分もある」というもので,自分としてはなるほどと思いました。

4Gamer:
 ではもう一つ,ライセンスを発行する以上,必然的に違反を取り締まる必要が出てくると思います。サイト内のFAQによれば,「ガイドラインに沿って頂くよう,制作者の方にお願い致します」という書き方になっていますが,これはどのような意図でしょうか。

梶原氏:
 安心して二次創作ができる環境を作ることが大前提なので,我々が積極的に取り締まりを行うつもりはありません。それは各社さんとも共通の認識です。結果的に皆さんの善意にゆだねることにはなってしまいますが,そこは信頼していますので。

影山氏:
 そもそも作品に対するリスペクトがあれば,自然と守られる形になるのではと思っています。

4Gamer:
 事務局側で取り締まりをしないということは,その判断をコミュニティに丸投げしているのと同義だと思うのですが。いわゆる“二次創作警察”が現れて荒れるのが目に見えるというか……。

梶原氏:
 むしろガイドラインという明確な線引きができたことで,それらのいざこざも落ち着いてくれるのではないかと期待しています。何か言われたとしても,「これはガイドラインに沿っているので問題ありません」と,言えるようになるわけですから。

4Gamer:
 一部の二次創作者からは,SPLLの申請自体が手間であるのに加えて,そうしたいざこざへの対応が増えるのは困るという声も聞かれました。それこそ非営利の同人活動であるからこそ,そうしたものに煩わされることがモチベーションを削ぐことにつながりかねないと。

影山氏:
 作家さんの負担にないようにしたいですね。申請に手間がかかる点は,プラットフォーム側で代行できるようになればと思っています。

梶原氏:
 将来的には可能だと思います。手続きについても改善の余地はあると思っていますので,今後の成長に期待いただければと思います。

画像集#009のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い


TRPGシーンと二次創作,その未来に向けて


4Gamer:
 ライセンスからは少し離れますが,お二方から見た現在のTRPGシーンについて聞かせてください。活況と呼んでいいように思いますが,実際のところどうなんでしょうか。

梶原氏:
 そうですね。15年前と今とでは,景色がずいぶんと変わりました。動画がきっかけでTRPGに興味を持つ人が増え,今や「オンラインでしか遊んだことがない」という人も少なくありません。昔は遠出してコンベンションに参加するしかなかった地方のファンにとっては,とくに利便性が上がったように思います。

影山氏:
 男女比もかなり変わってきました。かつては98%ぐらいが男性でしたが,最近のデータを見ると,過半数以上が女性です。オンラインセッションの普及と共に性別や年齢の幅が広がって,距離を意識しなくてもよくなったのはいい形の進化だなと思います。

梶原氏:
 「Role&Roll」のアンケートでも,やはり55%くらいが女性でした。年齢層で言うと20代は圧倒的に女性が多くて,40代は逆に女性がほとんどいないという。30代は半々からやや男性が多めで,世代でくっきり分かれています。

影山氏:
 昔は男性ばかりの中に女性が入っていくのはハードルが高かったですが,オンラインセッションなら,顔を合わせることもありません。おじさん側としても,立ち絵さえ出しておけば若い人とプレイすることにもあまり抵抗がなく,気楽ですしね(笑)。

4Gamer:
 やはり動画の影響が大きかったのでしょうか。

梶原氏:
 そうですね。CoCの動画が2011年頃にニコニコ動画で大人気になって,その中心層だった中高生が成長し,現在の層を形成しているのだと思います。我々古い世代からすると,CoCがそんなに人気になるとは思いもしなかったですが(苦笑)。

4Gamer:
 少なくとも,最初にプレイするタイトルではなかったですね(笑)。

影山氏:
 「デモンベイン」シリーズ「這いよれ!ニャル子さん」といった作品の影響もあって,クトゥルフ神話がカジュアル化していたのも大きいですね。ただ,これだけ多種多様な娯楽が溢れる今の時代に,なぜTRPGだったのかは不思議ではありますけど。

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4Gamer:
 では,TRPGシーンがよりいっそう発展するためには,なにが必要だとお考えですか?

梶原氏:
 TRPGという遊びが特別なものではなくなってほしいな,と思っています。
 ほかのホビーと比べて,TRPGはなにかとハードルが高い印象を持っている人が多いと思いますが,実際はもっと気軽に遊んでくれていいものなんです。ルールが分からなくても,周りが教えてくれますしね。

4Gamer:
 もっと気軽に遊べる環境を作るべき?

梶原氏:
 そうですね。若い世代はとくにコミュニケーションへの忌避感がなくて,ネット越しで初対面でもためらいなくやりとりできます。そうした層に,会話で物語を作るTRPGの楽しさをアピールしていけたらと思っています。

影山氏:
 TRPGって,自分ではプレイはしないけど動画や紙媒体のリプレイは見る/読むという人がいっぱいいて,そういう人に話を聞くと「最初のきっかけがない」と言うんです。なので,「皆で遊ぶ機会を作りましょう!」という方向で盛り上げられたらと思っています。ただ,「TRPG=CoC」ではない,ということも同時に啓蒙したいですね。

4Gamer:
 そこはけっこう,課題ですよね。「このシナリオ,CoCじゃなくてもよくない?」みたいなのって,いっぱいありますから。

梶原氏:
 謎解きやキャラクター同士のコミュニケーションがメインになり,神話生物すら出てこない,ルールすらほとんど使わないセッションもあるくらいです。何でもできるからCoCでいいやという人がいるのは分かりますが,TRPGはほかにもいっぱいあるので,もっと広い世界に触れてもらいたいという気持ちは,正直あります。
 しかしまあ,昔は何でも「ダンジョンズ&ドラゴンズ」で済ませてしまう,みたいなこともありましたし,そのとき流行っているタイトルが雪だるま式に大きくなっていく傾向は,仕方ない側面もあるのでしょう。

影山氏:
 母数が大きいタイトルはゲームマスター(キーパー)の絶対数が多いので,入口になりやすいですよね。そこは我々も努力して,いろいろなタイトル――遊びがあることを伝えていきたいです。

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4Gamer:
 今回のガイドラインやSPLLは,そうしたTRPGの未来でどういう役割を果たすのでしょうか。

梶原氏:
 TRPGのシナリオって,昔はマスターが自分で作る文化でしたよね。だからシナリオ集は売れない本の筆頭でしたが,今はまったく違います。シナリオは既存のものを回すのが普通になって,シナリオが潤沢にあることが,プレイ環境の豊かさにつながるようになりました。二次創作を豊かにするガイドラインとSPLLは,そのスパイラルの中でますます重要になるものと思っています。

4Gamer:
 ファンからすれば,もう少し公式側に,オンラインセッションなどの実際のプレイシーンに寄り添った動きを期待する側面があるように思います。例えば公式シナリオをデジタルでバラ売りするとか,そういったことは難しいのでしょうか。

影山氏:
 弊社が手がけるサービスの一つに「Ci-en」というクリエイター支援サービスがありまして,その仕組みを活用した新しい取り組みが準備中です。まだ詳細は発表できませんが,クリエイターを支援されたTRPGファンの皆さんには,きっと喜んでいただけるものになるのではないかと。
 またデジタルを活用することで,もっと画期的な取り組みが可能になるのではとも思っているので,継続的に考えていきたいです。

梶原氏:
 デジタルプラットフォームの重要性は今後も大きくなっていくものと思いますので,そういった試みもやっていきたいです。またライツ事務局はそうしたファンの皆さんの声を各社さんに伝える窓口でもあるので,要望があればぜひ送ってもらえたらと思います。

4Gamer:
 分かりました。最後にTRPGファンに向けたメッセージをお願いできますか。

梶原氏:
 とにかくいろんなTRPGをどんどん遊んでほしいですね。事務局のサイトに載っているリストを見るだけでも「TRPGってこんなにあるんだ」って分かってもらえると思います。どんどん遊んで,二次創作もしてもらって,全体が盛り上がったらみんなハッピー。なにせ日本のTRPG業界は,クリエイターとファンが一体となって盛り上げてきた歴史があるわけですから。そういう方向を目指して,これからもやっていきたいと思っています。

影山氏:
 そんなサイクルの中で,DLsiteが大きな役割を果たす存在になれるよう,頑張りたいと思っています。作品をDLsiteでデジタル販売し,その売上でまた,公式の製品をDLsiteで買ってもらうというような。ファンの皆さんが使いやすい環境が作れるよう動いていきますので,時間はかかるかもしれませんが,ぜひご期待ください。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。



 ガイドラインやライセンスというといかにもお堅いイメージがあったが,お二人が語る言葉からは,TRPGを取り巻く諸問題に真摯に向き合い,より良い形を模索しようとする熱意が感じ取れた。
 もちろんインタビュー中でも両者が認めたように,発表時には不備もあり,現状も有償の動画配信についての規定が決まっていないなど,まだ曖昧な部分が残されているが,今後より使いやすいガイドラインになることに期待したい。

画像集#001のサムネイル/TRPGの二次創作に激震を与えたライセンス制度「SPLL」とは何か。ライツ事務局の代表者に聞く,その意図と狙い

――2021年12月16日収録

テーブルトークRPGに関する二次創作活動のガイドライン

「DLsite」テーブルトークRPG関連作品一覧

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