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大腸癌早期発見を目指すスマホアプリ「うんコレ」のリリース報告会をレポート。2週間で報告されたプレイヤーの推定総うんこ重量は約12万トン
この報告会では,同学会の会長を務める医師の石井洋介氏が,現時点までの「うんコレ」の利用状況や,今後の展望などを語った。
あらためて紹介しておくと,「うんコレ」は大腸癌の早期発見を目指すスマホアプリだ。大腸癌はステージが進行すると治療が極めて困難になる疾患で,診断後の5年間,生存率はステージ0なら9割以上だが,ステージIVになってしまうと2割以下となる。
現在,国内では1年に約5万人が大腸癌で死亡している。なぜ患者が大腸癌のステージ進行に気づかないかというと,痛みやかゆみのような目立った症状が出ないからだ。しかし石井氏によると,大腸癌になるとうんこの出方が変わるという。ただ,自分のうんこを日々チェックする人は少なく,結局大腸癌に気づかないままステージが進行してしまうのではないかというのが,石井氏の抱いた最初の課題意識だったそうだ。
それでは大腸癌になると,具体的にうんこがどう変化するのか。大腸はもともと柔らかい組織だが,大腸癌になると硬くなり,さらに腫瘍が大きくなると狭くなる。そこを無理に通ろうとするために,結果としてうんこは細くなる。また便秘と下痢を交互に繰り返すようになったり,残便感が出たりすることもある。そしてうんこは腫瘍を擦って出てくるので,血が混じることもある。
そうしたうんこの変化に気づいてもらうために,「うんコレ」ではゲーミフィケーションを採用し,プレイヤーのうんこチェックに対するモチベーションを高めている。すなわち本作では,ガチャを引くために購入したり,ゲーム内で獲得したりしたコインなどを消費する代わりに,プレイヤー各自に「うんこ報告」をしてもらうのである。
「うんコレ」は,ボランティアのクリエイターやクラウドファンディングのバッカーなど,500名以上のサポートのもとで完成した。
2020年3月頃には最初のAppleの審査を受けたが,通らなかったという。その後もなかなか審査は通らなかったが,石井氏によるとおそらくうんこを題材としていることが原因の1つだったのではないかとのこと。
しかし本作を企画開発したことにより,総務省の「異能(Inno)vation」プログラムにおいて2019年度「破壊的な挑戦部門」の最終選考通過者に,石井氏本人が選出されたことをアピールし続けたところ,ついに審査を通過できたという。
一般的なスマホゲームのガチャにあたる「カンベン」(観便)では,プレイヤーがうんこの報告をするとキャラクターを獲得できる。ここでうんこの色と形状を報告すると,血便や熱があるなど疾患の疑いがある場合は,さらに質問が追加され,回答次第では「診察を受けたほうが良い」といったアドバイスが行われる。
なおカンベンには,実際の医療で便秘や下痢の診断項目の1つとして使用されている「ブリストル便性状スケール」を用いているとのこと。
リリースから2週間経った11月29日現在のプレイヤー数は,1万5770人。これはほぼユニークユーザー数と一致すると考えられている。
またカンベン回数は11月28日15:00現在で6万4847回となっており,推定総うんこ重量は約12トンに及ぶという。
「うんコレ」のアプリ内には掲示板コミュニティ「腸内会」もあり,排便やうんこに関する疑問や悩みなどを気軽に投稿できる。何か気がかりなことがあるならここに報告すれば,ほかのプレイヤーから励ましやアドバイスなどを受けられることもある。腸内会には11月28日15:00現在で2900件以上の投稿があり,中には医療従事者と思わしきユーザーから受診勧告がなされたケースもあるそうだ。石井氏は「コピーライトさえ入れてもらえば2次利用はOKなので,医療現場や同人活動などで活用してもらえると嬉しい」と話していた。
ストーリーは定期的にアンロックされていき,2020年内には1章の「ハルトマン編」と「フォンタン編」を配信する予定。ちなみにハルトマンやフォンタンといったキャラクターの名前は医療・医学用語から採用しているとのこと。
また石井氏が,腸内会に投稿されたプレイヤーの疑問や悩みに回答する番組などを配信することも検討しているという。この取り組みについて石井氏は,「いきなり受診するのはハードルが高いが,ワンクッション置くことで受診しやすくなるのではないか」と期待を語っていた。
石井氏は「うんコレ」を企画する前にも,セミナーやテレビ番組への出演などで大腸癌の早期発見のためにうんこをチェックすることの重要性をアピールしてきたとのこと。しかし,実際に話を聞いてくれる人は健康意識が高く,大腸癌についてもしっかりした知識を持っているケースが多かったという。その一方で大腸癌の検診数は上がらず,死亡率は上がっている。つまり,本当に話を聞いてほしい人達は聞いてくれないという状況になっていたそうだ。
そこで,医療情報に関心のない人に届く医療情報とは何だろうと考え,漫画やゲームのような日常的で,かつあまり医療とは関係ないものと結びつけることに思い至ったという。その結果が「うんコレ」というわけだが,まだこうした事例は少ないため,本作の開発中は「この手法なら手に取ってくれる人が増える」ということを証明できれば良いな,と考えていたそうだ。
実際,SNSを見ると医療情報に関心のなさそうな人も本作のプレイヤーになっているので,今後はより定量的に測定することを検討しているとのこと。
うんコレ制作委員会は同人サークルやインディーズのような存在なので,「うんコレ」はLINEを使ってコミュニケーションを取りつつ,緩やかに開発を進めている。リリースの瞬間の様子は,リモート環境を使って多くの関係者と共有したそうだ。
また本作はボランティアで開発が進められているので,引き続きメンバーを募集しているとのこと。とくに現在は,ユーザーサポートの人材を欲しているという。興味のある人は,ぜひうんコレ制作委員会に問い合わせてみてほしい。
「うんコレ」公式サイト
「うんコレ」ダウンロードページ
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(C) うんコレ
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