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  • 発売日:2016/01/28
  • 価格:通常版:9800円(税抜)
    TREASURE BOX:1万4800円(税抜)
    GAMECITY限定セット:6万9800円(税抜)
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シブサワ・コウ,「川中島の合戦」から「三國志13」までを語る。コーエーテクモを引っ張るクリエイターは,筋金入りのコアゲーマーだった
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印刷2015/12/29 00:05

インタビュー

シブサワ・コウ,「川中島の合戦」から「三國志13」までを語る。コーエーテクモを引っ張るクリエイターは,筋金入りのコアゲーマーだった

パッケージでF2Pのビジネスをするということ


4Gamer:
 とはいえ,これだけスマホが普及すると,もう世界最大のゲームプラットフォームと呼んでも差し支えないですよね。

襟川氏:
 確かに世界最大ですね。

4Gamer:
 パッケージに伴う製造原価はかかりませんし,チェックボックス1つをONにするだけで,海外にも簡単に販売できてしまいます。また,ひとたびヒットすれば継続的に売り上げが立つのも,既存のパッケージゲームにはない概念ですよね。そういう部分から見ても,既存のゲームプラットフォームは,なかなか厳しい戦いを強いられると思うんですが。

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襟川氏:
 そうですね……。フィーチャーフォンのころは,パズル系とかカードゲーム系がメインで,ゲーム機との住み分けがハッキリとできていましたが,スマートフォンの性能が上がってきて,スマホでも3Dアクションゲームができるようにさえなってきました。こうなってくると,パッケージのゲームをメインで作ってきた当社としても,1つのゲームプラットフォームと捉えて,今後真面目に作っていかねばならないと思っています。

4Gamer:
 具体的な方針のようなものはありますか?

襟川氏:
 単純にスマホでたくさんゲームを作って……というのもいいのですが,パッケージゲームを作るときの“マルチプラットフォームのなかの1つ”として捉えられると思っていて,そちらの方向での検討を始めています。

4Gamer:
 そっち方向の展開は,確かにまだあまり目にはしませんね。

襟川氏:
 例えば当社は「DEAD OR ALIVE 5 Last Round」という作品をパッケージで販売していますが,無料のダウンロード版というのを出したところ,その前に出していた「DEAD OR ALIVE 5 Ultimate」の無料版と合わせて,ワールドワイドで500万ダウンロードを越したところです。

硬派でストイックな“格ゲー”に,エンターテイメントの要素を多分に持ち込んだ「DEAD OR ALIVE」シリーズ。初代が出たときには,個人的には「一発芸で終わっちゃうかな?」と思ったものだが,予想はまんまと外れ,今に至るまでなお健在の「歴史ある格ゲー」のシリーズに
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4Gamer:
 結構いきますね。

襟川氏:
 2〜3人くらいのキャラクターで戦えるゲームを無料でダウンロードしてもらう感じです。そのあとのキャラクターやコスチュームについては,別途それぞれ買っていただく,と。そうしたFree to Playのビジネスを初めてやってみたのですが,それがすごく好評で,売り上げも私どもが想定していたものをはるかに超えるものとなりました。

4Gamer:
 格闘ゲームはコンテンツが並列で増えていくものだから,確かに意外に向いてるのかもしれませんね。

襟川氏:
 パッケージ版でもそういう可能性があることが分かってきましたから,パッケージで売るときも,F2P版と共存させていけるのではないかと思っています。

4Gamer:
 スマホへの進出は,やはり業界が長いメーカーさんほど,最近までまだ迷いが見えていた感じがするんですよね。

襟川氏:
 うちもたくさん怪我をしていますしね(笑)。でもこれまでもそうですが,いろいろなチャレンジをして,そこで初めて成功の可能性が見えてくるんじゃないかと思います。チャレンジしないと成功の可能性すら見えないわけですからね。

4Gamer:
 実際にやってみて初めて分かることって結構多いですし。

襟川氏:
 さすがに失敗ばかりだとノーサンキューですが(笑)。

4Gamer:
 まぁ経営側としてはそうですね(笑)。

襟川氏:
 でも,失敗を恐れては新しい展開や新しい成長の可能性がなくなってしまいます。そこはやはりチャレンジしていかなくちゃいけません。それは,こうしたビジネスをしている人達の宿命ですから。マシンが変わる,環境が変わる,ユーザーさんも変わる……どんどん状況が変わっていくので,結局は自分が動いて,何かを成し遂げて,お客様や業界のリアクションを見て,また新しいことを始める。この繰り返しじゃないかと思います。
 スマホではまだ世界が驚くようなゲームを出せていないですけど,そういうチャレンジをし続けるのは大切だと思っています。

4Gamer:
 御社はこのご時世にコンシューマゲームが調子いいので,新しいことへのチャレンジも比較的容易なのでは。

襟川氏:
 いくつか遅れたりはしてしまいましたが,おっしゃるように非常に良い状況です。

4Gamer:
 コンシューマゲームが良い状況というのも,最近では割と珍しい気がします。世界に名高い特別なIPを持っている会社は別として。

襟川氏:
 スクウェア・エニックスさんは好調ですね。アメリカのパッケージメーカーもすごく好調です。Activisionさんも良いし,Electronic Artsさんも良いし,各社非常に良い状況ですね。UBIさんも良いですね。


仕事が終わって家に帰って,時間があったらまずゲームですね


4Gamer:
 向こうの“据え置き”は強いですからねえ。でも日本で考えると……どうでしょう。

襟川氏:
 確かに,日本ではスマホのゲームメーカーさんがヒット作を連発して出されていますからね。パッケージメーカーも頑張らないといけないかなと思うのですが。

4Gamer:
 そんな中でさまざまな施策で健闘していてさすがです。最近ではコラボが盛んですね。

襟川氏:
 おっしゃるようにパッケージ作品は,日本国内でいろいろなメーカーさんや出版社さんとのコラボレーションを進めています。近々リリースする大きなコラボタイトルが「進撃の巨人」で,これはぜひとも成功させたいと思っています。
 でも日本国内のコラボレーションに留まることなく,アメリカとかヨーロッパ,中国などの,キャラクターであるとか,映画であるとか,メディアであるとか,そういうコラボレーションもどんどんやっていこうと,いま積極的に動いています。

4Gamer:
 最近のコーエーテクモのコラボは,それぞれがなんかトンでていいですよね(笑)。この前のポスターもそうでしたけど,「信長の野望 201X」のコラボとかになると,もう「何コレ?」としか。まぁ201Xに関しては,コラボどころかそもそも作品が“何コレ”なんですが(笑)。

この画面だけ見ると,もう一体なんなんだか分からない。この破天荒さもまた「信長の野望 201X」の魅力だ
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襟川氏:
 あれは,現場から「こういうのやっていいですか?」と恐る恐る持ってきたプロジェクトですね。きっと怒られると思って持ってきたんでしょうね(笑)。そのときはゲームの内容まで詳しくは聞かなったんですが,信長が機関銃を持って構えている絵を見ただけで,「良くやった!」と。見ただけで心を打つものがあって,すごく良い発想だなぁと。

4Gamer:
 うちのライターさんが,「ゲームはちゃんと作ってあるのに,イロモノっぽくてもったいない」と言ってましたよ(笑)。

襟川氏:
 でも結構ハマっちゃうんですよ,あれ。私もいま結構やっていますが。

4Gamer:
 相変わらずなんでも遊んでるんですね……。ちなみに,最近はどれくらいゲームで遊んでるんですか?

襟川氏:
 空いてる時間はずっとゲームをしていますね(笑)。テレビはニュース番組とゴルフ番組,たまにアニメを見ますが,基本的にはずっとゲームです。

4Gamer:
 いま一番時間を割いている作品は?

襟川氏:
 「Bloodborne」と信長の野望 201Xです。

4Gamer:
 Bloodborne……ホントに何でもやりますね(笑)。

由緒正しい「死にゲー」。これほどまでに暗く,これほどまでに陰鬱で,これほどまでに死にまくるゲームが素晴らしい評価を得たあたり,日本にもコアゲーマーは大勢いるんだなぁ,と認識を新たにさせられた一作だ
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襟川氏:
 死にゲーって悔しいじゃないですか。アッという間に時間が経ちますよね(笑)。

4Gamer:
 ま,まぁ確かにそうなんですが。

襟川氏:
 もちろん社内のゲームのチェックもやっていますよ! でも仕事が終わって家に帰って,時間があったらまずゲームですね。

4Gamer:
 ちなみに,Bloodborneの前は何をしてました?

襟川氏:
 ええとその前は……ポケモンだったかな。

4Gamer:
 落差がスゴイ(笑)。

襟川氏:
 ポケモンの前はP4G(ペルソナ4 ザ・ゴールデン)でしたね。

4Gamer:
 P4G,ポケモン,Bloodborneですか。

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襟川氏:
 P4Gって,4〜50時間で最後までいけるんですけど,やっぱり女の子とは,一人一人ちゃんとお付き合いしなきゃいけない気がするじゃないですか(笑)。なので,全員をキチンと攻略するために5周しました。

4Gamer:
 5周!?

襟川氏:
 いったんゲーム世界に入ると,抜けたくなくなるんですよ……。ドラクエなんかでもそうなのですが,最後まで進めてラスボスを倒して終わりではなくて,ゲーム世界から離れたくないもんだから,ゲームのワールドを延々と歩いたりして。

4Gamer:
 ああ,余韻というか,そういうのはありますね。

襟川氏:
 「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」もそうで,エンディングまで40時間くらいかかったんですけど,終わったあとにそこから離れたくないので,ラスボスを倒す直前でセーブしておいて,そこでグルグルまた遊んじゃうんですよ。地図も全部把握しているし,どこに行ったら何ができるとか,誰と会えるとか全部分かっているのだけど,何かもっと新しいものがないかな……と探し回ったりして。

4Gamer:
 いつも思うんですが,ホントに「ゲーマー」ですよねえ。

襟川氏:
 ゲームは楽しいですからね。


充実した豊かな時間を提供するのが,ゲーム業界の役割


4Gamer:
 ゲームが好きで,作るのも好きで,この会社をここまで大きくしてこられた襟川さんですが,そんな襟川さんは,「ゲームができる社会貢献」ってなんだと思ってますか?

襟川氏:
 社会的貢献,ですか。それはやっぱり,お客様に幸せで充実した時間を提供することで,そこが存在意義だと思います。映画を見るのも本を読むのも同じですが,そういった,生きてくうえで大切な,充実した豊かな時間を提供できるというところが,ゲーム業界の重要な役割でしょう。

4Gamer:
 “充実した豊かな時間”を提供するものはほかにも数多くありますよね。

襟川氏:
 今まで,本や映画,テレビなどいろいろなメディアがありました。次の時代というものは一方通行ではなくて,自分がインタラクティブに参加して楽しんでいくものだと思います。アクションとリアクションの繰り返しによって,なんらかの面白さを感じるという,新しいエンターテイメントがもっと伸びていくと思います。そしてそれはゲームが担うべきジャンルなんです。

4Gamer:
 卑下するわけじゃないんですが,ゲームって基本的に世の中にとって不要なものですよね。不要というといくらなんでも言葉が悪いですが「なくても困らないもの」というか。

襟川氏:
 確かにそうですね。

4Gamer:
 だからこそ何か一本,どこかに“幹”を通しておかないと,自分達の存在意義がどんどん揺らいじゃうと思ってるんです。襟川さんはここをどうお考えなのかな,と思ったんですが,シンプルそのものですね。

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襟川氏:
 豊かで充実した時間を提供していくことが我々の仕事だし,面白いと感じていただけることを追求するために,常に新しいものを作っていかなくちゃいけないわけです。同じものを繰り返し作るとお客様から「ノーサンキュー」と言われてしまうので,常に新しいチャレンジをして,新しくて面白いものを,いろいろなやり方,いろいろな切り口でやっていかなくてはいけません。

4Gamer:
 それが御社のモットーなわけですね。

襟川氏:
 そうです,それが「創造と貢献」です。創造することによって,社会に貢献していくという我々のコーエーテクモの精神です。

4Gamer:
 だから……というわけでもないでしょうが,三國志が毎回違うシステムを持ってくるのって本当にすごいと思います。

襟川氏:
 同じ三國志を作っていたら,お客様から怒られると思いますよ(笑)。

4Gamer:
 でも一方で「安心のクオリティ」という考えかたもできますよね。同じものだから安心する,といいますか。にも関わらず毎回変えてきているというのは,やはり基本となっている精神が生きているということですよね。

襟川氏:
 確かに,何らかの形であたらしい面白さをお客様ご提供しなくてはいけないというのは,いつも強く感じています。

4Gamer:
 毎回出るたびに,プレイヤーの間では新要素の話題が盛り上がりますし。

襟川氏:
 お客様は新しさを求めていると思いますし,ゲームのユーザーさんも,どんどん新しい年代層が入ってきます。そうすると,生まれた時代や育った環境が全然違うので,面白いと感じるものや要素が変わってくるわけです。そういうところを敏感に感じ取って,時代に合わせて提供していかなくてはいけませんよね。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。でもやっぱり素直に,あれだけのIPを持っていて毎回“冒険”するのはすごいと思います。あえて言いますが,それこそ「無難に」収めればいいことも多いわけですし。

襟川氏:
 創造と貢献が当社の精神ですから(笑)。とにかく新しいものを作っていこうということです。

公益財団法人 科学技術融合振興財団(FOST)。ロゴからも分かると思うが,コーエーテクモが……というより襟川陽一氏が大きく絡む財団だ
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シニア向けのエンターテイメントも意識に入れてます


4Gamer:
 とても正直な話をすると,最近のゲームのルールとかスピードにもう私はついていけない部分があるんですね。でも,何か「新作」で遊びたいなとも思っているわけです。
 私のような,子供のころに“パソコン”と“ファミコン”の洗礼を浴びた世代は,それぞれがもういい歳なわけで,そういう人達って結構な数いるんじゃないかと思うんですよ。“シニア”と呼ぶにはまだ早すぎですが,そういう世代向けのエンターテイメントを考えたりはしないんでしょうか。

襟川氏:
 おっしゃることはよく分かりますよ。50代,60代,あるいは70代の方でも楽しめるゲーム,ということですよね。自分がそういう世代なので,そこはいつも意識しています。

4Gamer:
 おお,それはちょっと嬉しいです。

襟川氏:
 そういう,自分の世代でも楽しめるというゲームが作れればいいなと思っているんですが,いま目の前にやることがたくさんありすぎて,そっちまで手が回らないんですけどね(笑)。

4Gamer:
 まぁそうですよね(笑)。でもそう思っているうちに時間はどんどん経ってしまうんです!

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襟川氏:
 そうですね(笑)。

4Gamer:
 自分の都合ですが,あと5年くらいで何か作ってほしいです(笑)。でも襟川さんは,65歳でBloodborneを最前線でやっておられる人だからなぁ……。

襟川氏:
 いまは「仁王」の開発でずっとプレイしているんですけど,敵を強くしすぎちゃっていて,やっぱり悔しいんですよね。うまくクリアできなくて(笑)。“接待モード”じゃないですが,最強の武器と最強の防具で遊べるモードもテストプレイ用として教えられているんですが,それだとちっとも面白くないんですねこれが。

4Gamer:
 本当にゲーマーだ(笑)。
 ……しかし仁王といえば,ホントに久しぶりに名前を聞きました。

襟川氏:
 10年かかっているんですよね……。結局2回作り直して,いまが3度目の正直なんですけど,やっと路線が固まって,「戦国のダークファンタジー物にしよう」ということで,いま一生懸命作り込みをやっています。

4Gamer:
 東京ゲームショウで「4Gamer Award」を決めるときに,「ひさしぶりで賞(=リターン賞)」がほしいよねという話をしていて,仁王とトリコだね,ってみんなで話してました。でも,作っていて本当に良かったです。

正直なところ,久しぶりに名前を聞くまで筆者はその存在を忘れていました。作っていてなによりです!
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襟川氏:
 ありがとうございます。発表したのに途中で開発中止というのは,現実問題としてある話ですからね……。

4Gamer:
 ちゃんと“開発中止”と言ってくだされば諦めもつきますけど,ずっと名前が挙がっていることもありますしね。もともとはいつ頃から始まったお話でしたっけ。

襟川氏:
 PlayStation 3と同発ということでスタートしたんですよ。

4Gamer:
 覚えてらっしゃったらでいいんですけど,1回目はなんで作り直しになったんですか?

襟川氏:
 1回目は,戦国時代をRPGで表現したいと思ってやってみたんですが,やっぱりアクションのほうが面白いなと……。戦国時代をRPGで表現しても結構おとなしい感じになっちゃって,自分で考えていた面白さがテストプレイで出てこなかったんですよ。手を変え品を変え,いろいろ作り直してみたのですが,どうもおとなしいままでして。

4Gamer:
 確かに躍動感というか,いい意味での「カオス感」を出すのは難しいかもしれませんね。

襟川氏:
 そうなんです。すでに真・三国無双や戦国無双がありましたから,実際の戦国時代の合戦のなかで躍動感を出して戦っていくというのは,RPGじゃなくてアクションが合ってるぞ,と。それでアクションゲームに振り直したんですよ。

4Gamer:
 ゲームシステム以外にも変更は入ったんですか?

襟川氏:
 金髪碧眼の西洋人の武者が活躍するという本筋は同じです。表現するのをアクションに変えただけですね。

4Gamer:
 「だけ」っていうレベルじゃないと思いますけどね……(笑)。

襟川氏:
 確かにそうですね(笑)。それで,そのときにはテクモと経営統合が終わっていましたから,Team NINJAを率いる新進気鋭の早矢仕に,無双系とは違った形でアクションゲームとしての合戦をやりたいと伝えてみました。そうして出てきたプロトタイプ版をプレイしてみると,やればやるほどNINJA GAIDENに似てきちゃったんですね(笑)。

紆余曲折を経て“和製ダークファンタジーの死にゲー”として生まれ変わった「仁王」
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4Gamer:
 まぁでも,そうなりますよねえ。

襟川氏:
 確かに面白くはあるんですが,でもこれだと同じゲームになっちゃいそうなのでそのまま仕上げるのは危険な気がしたんですね。それでもう1回振り出しに戻って,何をやりたいのかと見直したんですよ。

4Gamer:
 それが「ダークファンタジー」だったんですか?

襟川氏:
 「決戦」のときに原作を作ったうちの社員と私とで,仁王の原作を何度も見直しているときに,これはダーク戦国ファンタジーなんだと気付いたんです。もともとは合戦RPGにするために,妖怪や怪獣といったモンスターがたくさん出てくる荒唐無稽な話でしたが,ストーリーとの関連をもっと深めたほうが,システム自体が自然に浮かび上がってくるんじゃないかと思ったんです。

4Gamer:
 そして“戦国死にゲー”につながったんですか?

襟川氏:
 はい。もっと根本的にストーリーに検討を加えて,戦国時代で妖怪やモンスターが出てくるとなると,これは“戦国ファンタジー”であって,それは決して明るいものではないだろう。なのでもっとダーク系にしよう……と変わってきて。

早矢仕氏/鯉沼氏というコーエーテクモを支える二人と,単なるコアゲーマー(褒め言葉です)の襟川氏が作っているこの作品。一体どういうプレイフィールになるんだろうか……
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4Gamer:
 それが突き進んじゃった感じなんですね。

襟川氏:
 ええ。どうせダークにするんだったら死にゲーにしようと。最初は「これどうなんだろう」と思ったんですが,早矢仕と鯉沼がタッグを組んで,絶対これにしましょうと言われて。じゃあ,それでいこう,と。もう若い人にお任せしました(笑)。

4Gamer:
 あぁ,そういうのありますよね(笑)。

襟川氏:
 でも,ゲームにもいろいろな楽しみ方がありますよね。実は死にゲータイプというと,「Demon's Souls」は投げ出しちゃったんですよ。あのころは,こんなに人をバカにしたゲームはない,これはエンタメじゃない,と思ってしまったんですね(笑)。

4Gamer:
 ま,まぁお気持ちは分かります。

襟川氏:
 ですよね? まぁそう思っていたんですけど,仁王のプロトタイプをやってみるとこれが結構楽しめて。

4Gamer:
 作品のチェックですし,何回死んでも遊ぶ必要もあるわけですし(笑)。

襟川氏:
 はい(笑)。それで,こういうタイプのゲームもあるんだなと分かって,いまは考えが変わりました。

4Gamer:
 Bloodborneをずっとやっているくらいですからね……。


シブサワ・コウという名前が付いている作品は自分の責任


4Gamer:
 もうそろそろお時間のようなので,最後にもう1つだけ社会貢献のことを聞かせてください。
 SteamやSCEなど,昨今はインディーズをプッシュする環境というものが整ってきているわけですが,コーエーテクモとして何かその辺りの開発者にコミットするプランというのは考えていないんでしょうか。

襟川氏:
 どういうことを想定されてますか?

4Gamer:
 お察しだとは思うのですが,インキュベーションについてです。

“立志伝”と付くと,どうしても秀吉を思い出す。ぜひ次回は,久しぶりにそっちも!
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襟川氏:
 なるほど。今はそういう考えはありませんね。社内で作るだけで充実した……いや充実しすぎている毎日です。それに,自分が見られるプロジェクトはせいぜい10個くらいだと思うのですが,いまは30プロジェクトくらいが同時に動いていますので……。

4Gamer:
 それは大変ですね……。

襟川氏:
 それら30個のα版だ,β版だ,ファイナル版だと毎日もって来られるので,時間がいくらあっても足りません(笑)。私だけではとうてい回せないので,若い世代ということで鯉沼に社長をやってもらっているわけです。

4Gamer:
 その鯉沼さんについては,どのあたりを“信頼”してらっしゃるんですか?

襟川氏:
 このゲームが「良い」とか「悪い」とか,「ここを直したほうがいい」とか,そういうことについて私とほとんど同じ感覚を持っているんですよ。

4Gamer:
 おや,そうだったんですね。それは頼もしい……。ポスト シブサワ・コウだ。

襟川氏:
 感覚が同じである若い世代に任せることにした感じですね。

4Gamer:
 でも襟川さん自身,いまでもタイトルはチェックしてますよね?

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襟川氏:
 ええ,できるものはやっていますよ。それに「シブサワ・コウ」ブランドがありますから。信長の野望とか,三國志とか,仁王もそうですが,シブサワ・コウという名前が付いている作品は自分の責任があるので,それは最後までやらなくてはいけません。

4Gamer:
 最近その名前,結構付いてると思うんですけど……。

襟川氏:
 それもそうなんですが,信長の野望 201Xみたいにサービスがずっと続いちゃうと,ずっと遊んでなきゃいけないんですよね……。

4Gamer:
 (笑)。

襟川氏:
 毎日1〜2時間,空き時間や移動時間にやっていますけれど,毎週火曜日になると定期メンテナンスで,いろいろ新しい要素が入ってきます。それが良いとか悪いとか,あそこのレベルの上げ方がどうだとかを見るんですよ。

4Gamer:
 201Xのディレクターが,なんかタクシーでの移動中に襟川さんが(201Xを)プレイしてたら問題を見つけたみたいで,その場で電話が来て説教されたって言ってましたよ(笑)。

襟川氏:
 プロデューサー シブサワ・コウと書いていますから,やらなくちゃいけないんです(笑)。ずっとサービスを続くものが増えると,自分が見られる時間が少なくなるので,少しずつ分けています。

「信長の野望 201X」を見ていると,かつてMacintosh用RPGとして売られていた名作RPG「サムライメック」を思い出す。和風の世界観とSFが融合したサイバーパンク的世界観が,201Xに通じるものがある
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4Gamer:
 真剣に見ようと思ったら,どんなに効率良く動いても10本くらいが限界ですよねえ……。

襟川氏:
 ええ。そういうのがいっぱいあるので,とてもインキュベーションまで手が回らないんです。自分のところのインキュベーションがたくさんあるわけですから(笑)。あと,もし本当にインキュベートするなら,ちゃんと向き合って真剣にやらなくちゃいけませんよね。でも残念ながら今の私にはその時間がないんです。

4Gamer:
 なるほど。ゲーム開発で身を立てたいとか,名を上げたいとか,まぁ何でもいいんですけど,そうした人達にある程度の資本を渡せる人というと,どうしても今だと金融周りの人がメインになるじゃないですか。

襟川氏:
 “ファンディング”になっちゃうんですよね。

4Gamer:
 そうなんです。それが悪いとは言いませんし,実際に活用されている事例も多くあるとは思うんですが,結果としてはいろいろな芽が摘まれていってる気がしていて,もったいない話だな……と。

襟川氏:
 ファンディングはその性質上,どうしても「お金儲け優先」になっちゃいますからね。ゲームの内容面がメインではなく。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。もしかしたらイコールになることもあるかもしれませんが,そうそううまくいくものでもないでしょう。だから,そういうことをちゃんとやってくれる会社なりがあってもいいのなぁ,と思ってるんです。

襟川氏:
 以前は,フィーチャーフォン系のゲームなら1000万とか2000万の開発費で作れたわけですけど,いまは開発費だけで億超えちゃいますしね。

4Gamer:
 作ったら作ったで「目立つ」のが大変ですし,維持していくのがまた大変ですよね。

襟川氏:
 そうですね。シングルゲームならまだしもオンラインだと,作るだけじゃなくて運営費用が同じくらいかかりますし,マーケティング費用も同じくらいかかります。1年間で通して見た場合,パッケージのゲームとあまり変わらないビッグビジネスになってしまっているんです。

4Gamer:
 なので“ファンド系”が頑張ってしまうんだろうなぁ,という気がします。
 ……さて本当にお時間になってしまいました。最後に「三國志」を心待ちにしている人に,ここはすごくがんばったのでぜひとも見てほしいというポイントはありますか。

襟川氏:
 30周年を記念した「三國志13」というタイトルのなかで一番力を入れているのは,先ほども申し上げたように“人間ドラマ”です。ぜひその部分をお楽しみいただけたら嬉しいです。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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 記事中にも出てくるが,筆者が始めてお金を出して買ったゲームソフトは,コーエーテクモ(当時は光栄マイコンシステム)の「川中島の合戦」だった。12歳のころだ。
 身長185cmの,物腰柔らかな紳士である襟川氏(シブサワ・コウ)は,そのころから自らがゲーマーであり,開発者であり,染料販売会社から転身したゲームメーカー“光栄”を引っ張り,当時に比べて遥かに責任とタスクは増えたものの,いまだ変わらぬ業務を遂行している。

 襟川氏は今回のインタビューだけでなく,お会いしたときの雑談の中でも,ゲームの話になると途端に表情と空気が変わる。Call of Dutyのインターネット対戦で夜寝られないとか,信長の野望 201Xにお金を遣いすぎたとか,それはもう楽しそうに話すのだ。そのときの襟川氏は,ただのゲーマーでしかない。

 おそらくは多くのゲーム会社でそうなりがちだと思うが,経営サイドは,なかなか細かいところまで見ることはできない。彼ら経営陣にとっての最優先課題は「会社の行く末を決めること」と「利益を出して株主に還元すること」であって,(やや言い方に難があるが)「面白いゲームを作ること」は絶対条件ではないのだ。しかしそれはそれで仕方のないことだし,誰かがそれをやらねばならないのだから,経営者がやるのは理にかなっている。逆に,社員全員がそれを考えていたりしたら,それもちょっと違うと思うし。
 しかしコーエーテクモは,この規模になってもまだトップ自らがコアゲーマーだ。FPSやJRPG,MMOやソーシャルゲームなど,なんでも遊んでいるのをいつも聞いているので,筆者としてはそれ自体は驚く情報ではない。がしかし,還暦をとうの昔に迎え,若い4Gamer読者のご両親よりさらに年齢が上であってもいまだ現役で,そのモチベーションとゲームの“好き度合い”については,本当にかなわない。

 そもそもからしてコーエーという会社は,優良経営のゲーム会社として名が通っている。「世界で○百万本!」と謳われるような超絶メガヒットこそ飛ばさないものの,確実に売れる作品を数多く手がけ,一方で時代を先取りするかのような実験的作品にも多くチャレンジしている。“利益を外に出さない”会社と違い,社会貢献事業も幅広く数多く手がけていることでも有名だ。
 ここ数年,テクモ,ガストと立て続けに良質なコンテンツメーカーを手中に収め,さらなる躍進を図るコーエーテクモだが,きっとこの路線のままさらに大きくなって,PC/コンシューマ/スマホ/VRと,あまねくプラットフォームにその名を刻む会社になるのだろう。

ーーー2015年11月30日収録

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