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Unityがもたらしたのは“ゲーム開発手法の民主化”。Unityの現状と将来に関するトークが繰り広げられた「黒川塾(九)」聴講レポート
第9回となる今回のテーマは,「Unityによるゲームの民主化は共産化か・・・?!」。PCやモバイル端末,コンシューマゲーム機などさまざまなプラットフォームに対応し,現在,世界で180万人以上のユーザーを誇る統合型ゲーム開発環境であるUnityが,ゲーム開発およびゲーム業界にもたらすメリット/デメリットについて,黒川氏と3名のゲストがトークを繰り広げた。
ゲスト
- ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 日本担当ディレクター 大前広樹氏
- イレギュラーズアンドパートナーズ 代表取締役 山本一郎氏
- ユビキタスエンターテインメント 代表取締役社長 兼 CEO 清水 亮氏
黒川文雄氏 |
大前広樹氏 |
山本一郎氏 |
清水 亮氏 |
氏は大手メーカー/個人ベースのインディーズを問わず,リリースするゲームの“弾数”が多いほうがいいとし,たとえば一つのプラットフォームでセールスが奮わなかったとしても,ほかのプラットフォームでヒットする可能性があると述べる。さらに大前氏は,Unityを使った事例ではないが,カプコンのニンテンドーDS用ソフト「ゴースト トリック」がiOS版でもヒットした例を挙げ,「作りがしっかりしているゲームであれば,可能性も高まる。Unityでは,そうした展開を促進したい」と付け加えた。
そうした状況について,黒川氏と大前氏は,これまでは大企業が提供するプラットフォームに,開発者側が合わせてきたが,現在はコンテンツ側でプラットフォームを選ぶ状況になっているとまとめた。さらに大前氏は「今まではコンテンツを成功させるために,プラットフォーム側でいろいろ戦略を練っていたが,現在はコンテンツ側でプラットフォームを選択し,複数プラットフォーム展開やコラボ展開などを考えるようになっている」と補足し,「それを“ゲーム開発の民主化”と言うのであれば,そうかもしれない」と持論を述べた。
しかし,そうは言ってもビジネスを構築していくうえでは,プラットフォームを通さないときちんと決済できないと山本氏。そう考えると,果たして現状のUnityのやり方を踏襲するべきか,新たな何かを加えるべきなのかを検討しなければならないし,また個人のクリエイティビティを発揮できるがゆえに,それを統合できる場を用意しないと,結局,ビジネスとしてのコンテンツ作りが立ち行かなくなってしまうと,氏は指摘する。
また清水氏は,プラットフォームを選ばないという点に対して,経営者としては歓迎しても,クリエイターとしては魅力がないと語る。すなわち,クリエイターとしてはハードの性能を突き詰めて,ほかより少しでも抜きん出た部分,尖った部分を表現したいのに,Unityを使った開発では,どうしてもほかと似たような感触が残ってしまうというわけである。清水氏は,Unityが便利で面白いものであり,それがもたらすゲーム開発の普遍化はいいものであると認めた上で,そこにはクリエイターにとってのチャレンジがないことを指摘した。
ここで山本氏が,Unityは,導入やオペレーションにかかるコストの低さにより注目を集め,さらに予想以上に実用的であったことから,一気に普及したことに言及。いわば「今はUnityのターン」という状態だが,たとえば「次はクラウドゲームのターン」となった場合に,今,Unity向けに最適化されている組織などがどこまで機能するのか。氏はそんな疑問を口にし,「民主化はいいんだけど,漠然とした不安が残る」と話す。
それを受けた清水氏は,今のUnityの状態を「民主化ではなく,官僚型社会主義。一部のエリートが中枢を握っている」と表現。それはUnityがオープンソースではないこととも関連しており,たとえばユーザーがある機能に不満を抱いても,自分で手直しすることができない点は,まず民主化とは言えないと清水氏。また,大手ライバル企業が自社の技術を普及させるためにUnityを買収し,その時点から一切Unityを使えないようにしてしまう可能性があることも指摘した。
なお,Unityをはじめ従来の技術が抱えていたこれらの問題に,ユビキタスエンターテインメントの提供するゲームエンジン「enchant.js」は,オープンソース化することで対応していると清水氏は説明。これにより生ずる大きなメリットは二つあり,一つは不満が生じてもユーザーが自分で改善可能で,どんどん進化していくこと。もう一つは,仮に清水氏が何かしらの事情で同社を離れることになったあとも,氏自身がenchant.jsを使い続けられることだ。
清水氏の発言を受けて,山本氏は「開発者としては,縦軸も横軸もUnityに依存するのではなく,常にプランBを用意しなければならないのに,今やUnityでないと何もできないような人達が生まれており,将来的な不安がある」とあらためて発言した。
その指摘に対して,必ずしもオープンソースだけが,そうした不安を回避する策ではないと大前氏。例として,あるデベロッパが5つの開発ラインを抱えていたら,そのうち1ラインはUnity以外で開発する,あるいは1ラインしかないような小規模デベロッパであれば,全体の20%はこれまでと異なるチャレンジをしてみるといった取り組みを挙げた。
以上を踏まえて,清水氏はトークのテーマに立ち返り,「“ゲーム開発の民主化”とは,一度提供された技術を永続的に使うことができる状態であり,現時点のUnityにはその保証がない」と述べ,その一方で「長年にわたり,ゲーム開発経験のない人材が作った環境下で不自由な作業を強いられてきた開発者の視点で見ると,やはりUnityは素晴らしい」と語る。その発言を受けて大前氏は,「180万ユーザーとの合意を得られたという意味では,Unityが“ゲーム開発手法の民主化”を促したと言っていいのではないか」と,イベントをまとめた。
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