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“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
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印刷2014/07/26 00:00

インタビュー

“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載

画像集#023のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
 2014年7月17日,実に15年越しの完全新作となった「俺の屍を越えてゆけ2」(以下,俺屍2)がついに発売された。
 「俺の屍を越えてゆけ」は,「短命の呪い」「種絶の呪い」をかけられた一族を描く和風RPG。キャラクターが世代交代を繰り返しながら強くなっていくという,一風変わったシステムが特徴の作品だ。
 1999年に発売された第一作目は,最初こそ販売本数が振るわなかったものの,クチコミやアーカイブス版の発売で大きく売り上げを伸ばした。最終的にはアーカイブス版を含めて50万本以上の売り上げを記録。2011年には,PSP向けにリメイク版も発売されるなど,多くの根強いファンを持つシリーズである。

 まさに“待望の”続編となった「俺屍2」だが,その制作を手がけるゲームデザイナーの桝田省治(ますだしょうじ)氏は,「俺屍」シリーズに限らず,独創的な作品を作り続ける人物として知られている。今回4Gamerでは,そんな桝田氏にインタビューを行う機会を得て,ゲームのことや桝田氏自身ことなど,いろいろな話を聞いてみた。
 「俺屍2」にまつわる話を聞きながら,桝田氏のクリエイターとしての考え方や姿勢,あるいはその原点を探ってみた今回のインタビュー。桝田ファンの人はぜひ本稿に目を通してみてほしい。

「俺の屍を越えてゆけ2」公式サイト


画像集#009のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
桝田省治(ますだしょうじ):「俺の屍を越えてゆけ」のほか,「天外魔境II」や「リンダキューブ」など,数多くの名作を世に送り出してきたゲームデザイナー。近年は,小説家としても活動しており,「鬼切り夜鳥子」シリーズや「ハルカ 天空の邪馬台国」などを発表している。ちなみに「俺屍2」にも,「夜鳥子」や「ハルカ」などといったキャラクターが登場している


プロジェクトとしての「俺屍2」のユニークさ


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 今回は,「俺屍2」の内容についてだけではなくて,“プロジェクトとしてのユニークさ”や桝田さんご自身についても,いろいろとお聞きできればと思います。

桝田氏:
 ユニークか? 別に普通だと思うけど。

4Gamer:
 いやでも,15年越しに続編が作られた,という一点をとってみても,とても珍しいことだと思います。それに「俺屍2」の企画を通すにあたって,Twitter上でユーザーさんの参加を促したり,一風変わったプロセスを踏んできたじゃないですか。

桝田氏:
 なるほど。そう言われりゃそうかもね。

4Gamer:
 というわけで,まずは「俺屍2」制作に至った経緯からお聞きしたいんですけど――そもそも,「俺屍2」の構想が桝田さんの中で出てきたのっていつ頃だったんですか?

桝田氏:
 それたぶん,あれだよ。初代「俺屍」が出てから1年後ぐらい。当時は,まだマーズ()のホームページがあってさ。そこの掲示板で俺屍の「一周忌」とかいうイベントを勝手に立ち上げたユーザーさんがいて。それがあまりにも盛り上がったもんだから,僕としても,珍しく感謝の気持ちが芽生えてね(笑)

※桝田氏が代表取締役を務めるゲーム&企画会社。

4Gamer:
 な,なるほど。

画像集#002のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
桝田氏:
 僕自身は,あんまり続編とかは作らない方なんだけども,そんなにも好きになってくれたのだったら,この人達のために作ってもいいかな?という気持ちになったんだよね。で,作るんだったらどういう形や方向性があり得るのか?っていうのを考え始めたのが,確か初代「俺屍」が出てから1年後くらいの頃だったと思う。
 ただ,ユーザーさんが「俺屍2」に求めていたものって,世界観やシステムを引き継ぐタイプの,割と正統な続編を求めているのが分かっていたから,そっちの路線で詰めていってさ。案自体は,未来を舞台にしたものを含めて,3〜4つくらいは考えていたんだけどね。

4Gamer:
 確か以前,マーズの公式サイトに“俺屍2っぽい企画書”が掲載されていたじゃないですか。あれがその資料だったんですか?

桝田氏:
 いや,もっと細かい資料が本当はあったの。実際,「俺屍2」で使ってるシナリオも,その時点でほぼ完成していたんだよ。登場するキャラクターなんかが入れ替わっているだけで,大枠のお話自体はその時に考えたものなんだ。だから当時の時点で,企画書というよりも仕様書に近いレベルまで詰めていて。それを元にアルファ・システムの佐々木くん()が制作費の見積もりまで作って,SCEさんに提案をしたりしていたんだよ。

※佐々木哲哉(ささきてつや):「俺屍」の開発を担当しているゲーム会社アルファ・システムの代表取締役社長。桝田氏の盟友であり,数々のプロジェクトを共に手がけている。

4Gamer:
 そこまで話が進んでいて,企画が通らなかった理由はなんだったんですか?

桝田氏:
 細かい話の前後関係は忘れちゃったけど,一つは「日本でしか売れそうにないものは作らない」という,当時のSCEさんの方針があって,それで一回断られたんだ。その後は,確かPSP向けにってタイミングでまた提案をしたんだけど,その時はアーカイブス版を出すとか,そんな話で返されたのかな?

4Gamer:
 なるほど。でも,定期的に「俺屍2」の提案自体は続けていたということですか。

桝田氏:
 そうだね。で,どうにもSCEさんから良い返事がもらえないものだから,一時期は「アルファ・システムのブランドで出したい」みたいな話も動いていてさ。佐々木くんがいろいろ頑張って奔走してくれてはいたんだけど,結果から言うと,その時は開発費が集まらなくて断念したんだよね。

4Gamer:
 あらら。

桝田氏:
 SCEさんが出す気がないならもったいないから,権利を買い取るだとか,そういう形ではどうですか?とか,そういう具体的な交渉もしていて。これが今から5〜6年前になるのかな?

4Gamer:
 やっぱり,かなりの紆余曲折がありますねぇ……

桝田氏:
 権利を買い取るために,ゲームアーカイブス版はいくら売れてるんだとか,知名度はどうなんだとか,ブランド価値みたいなものをいろいろ調べることになったんだけど,そうしたら,結構とんでもない数値が出てきたんだよね。そんなの払えるわけないじゃんって金額が(苦笑)

4Gamer:
 そんなに価値があると思ってるんだったら,そもそも自分で作ろうよって話ですよねぇ。

桝田氏:
 その通り(笑)。実際,SCEの中でもそういう声が上がったみたいでさ。権利の買い取り云々って話も「ちょっと待ってくれ」ってことに。

4Gamer:
 ふむふむ。

桝田氏:
 その頃って,ちょうどPlayStation Vitaが出るって話が聞こえて来たあたりで。Vita自体の仕様も完全に決まっていなかった微妙な時期だったんだ。なので,まずはPSPでリメイク版を出して,その数値次第でVitaで「俺屍2」を出すかどうか判断しましょう――みたいな。そんな,いかにも日本人らしい解決の仕方で,「俺屍2」の話が決まっていったような気がする。

4Gamer:
 しかし,「日本でしか売れそうにないものは作らない」ということなら,昔よりも昨今の市場環境の方が,よりそういう傾向が強いような気がするんですが……。なんで,SCEさんはいまさら「俺屍2」の企画を通したんでしょうか。

桝田氏:
 そこについては,正直,僕もよく分からない(笑)。ただ,ある時点から明確にSCE側の方針というか,反応が変わったんだよね。あと,初代「俺屍」の時のスタッフが出世してて,彼らの協力があったというのも大きいのかも。さっき話した「俺屍」の権利買い取りの話にしても,交渉の窓口として金子孝弘さんって人に動いてもらったりしてて。彼は当時,コントレイル()って会社にいた「俺屍」の担当プロデューサーでさ。「俺屍」を外でも作れるように,ちょっと社内で根回ししてよ!みたいな無茶なお願いをしていたりしたんだ。

※プレイステーション用ゲームのプロデュースを行っていたゲーム会社。SCEの100%子会社で,「俺の屍を越えてゆけ」「ワイルドアームズ」などの制作を行っていた。2000年に解散,SCE本社に合流した。

4Gamer:
 「続編への道」なんかを見てても思いますが,「俺屍2」に関しては,SCE側の妙な情熱が感じられるんですよね。

画像集#004のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
桝田氏:
 初代「俺屍」の時のスタッフ達が,今や,課長さん,部長さんになってたりするからね。そんな状況もあったし,前述の通り「俺屍」のブランド価値がかなり飛び抜けたもので,かつ,僕からちょうどよいタイミングで提案も来た。SCE側としては,そういう条件が揃っているんだったら,やってみてもいいんじゃないかって。そういう判断が部長&課長のレイヤーであったようで。さらに,今はもう外れているんだけど,その話を振られた担当者が「俺屍」のファンだったもんだから,プロジェクトとしてもエンジンが掛かったと。僕が話を聞く限りだと,そんな流れだったみたいだよ。


「何をやってもいいですよ」はやっぱり難しい


4Gamer:
 そんな紆余曲折を経て制作に至った「俺屍2」ですが,続編を作るにあたって,桝田さんがとくに配慮した部分はどのあたりになるんですか?

桝田氏:
 一つは,さっきもちょっと話したけど「無理に変えなくていい」ってこと。ユーザーさんが「俺屍2」に期待しているのは,あくまでも「俺屍」が正統進化したものであって,違うものは望んでいないと思ったからね。グラフィックとかが良くなるのは当たり前のこととして,それ以外の変更点は,主にユーザーさんの要望が多かった部分や,明らかにハードルが高かったという部分に手を入れた感じで。

4Gamer:
 それは,「最初は何をやっていいのか分からない」ところとかですか?

桝田氏:
 そうだね。そういう部分であったり,煩雑な部分は,「コーちん」ってナビゲーションキャラを用意することで解決を図ったりしている。まぁ初代の「俺屍」でも,とりあえずコマンドを押したら全部説明してくれて,説明しきれない部分は「当主心得」という形でストックさせて,「後で見たい人は見てね」みたいな形でやってはいたんだけど,やっぱり「難しい」って意見が多くて。だから「俺屍2」では,とりあえずこのコマンドを押していれば全部やってくれるってものを用意しちゃえ!って感じでやってみた。

画像集#020のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載

4Gamer:
 「コーちん」の提案は,指示に従っていればとりあえずは無難という。「おまかせモード」みたいな感じになっていますよね。

桝田氏:
 コンセプトが「コーチ」だからね。だから,キャラの名前も「コーちん」にしたんだけどさ。

4Gamer:
 「コーちん」みたいなキャラを用意したのは,やっぱり今の時代背景(難しいゲームが受けづらい)に合わせての判断なんですか?

桝田氏:
 いや,そこは純粋に「俺屍」ユーザーさんのデータからだね。だって,「俺屍」を肯定している人ですら,「最初は何をやっていいか分からなかった」って意見が多かったわけだから。もちろん,「俺屍」が好きだった人は,そこからトライ&エラーを重ねて最適解を見つけていったわけだけど,その意見もあくまで「遊んだ人」の意見であって。最初に詰まった時点で止めてしまった人っていうのが,本当はもっとたくさんいたはずだからね。

4Gamer:
 なるほど。

桝田氏:
 やっぱり,難しいんだよ。「何をやってもいいですよ」っていうのはさ。なので,そのあたりのアプローチに関しては結構配慮してる。

4Gamer:
 ただ,そういう自動化をしてしまう部分を用意する一方で,ユーザーさんが考える部分というか,トライ&エラーをしていく部分の案配ってどうしたんですか?

桝田氏:
 その意味で言うと,「コーちん」の勧めるものっていうのは,あくまでも“無難な線”だからね。だから,そうじゃない選択肢を選んでいくっていうのが,そのプレイヤーさんの個性になると思う。実際,ゲーム内時間で2年もしないうちに「コーちん」の提案にばかり頼るってことはなくなっていくと思う。もちろん,大まかに遊んでる分には便利なんだけどね。まぁ,地味に「交神の儀」(こうしんのぎ)の相手の選択は精度高かったりはするんだけど。

4Gamer:
 「コーちん」の交神相手の提案って,そんなに精度が高いんですか?

桝田氏:
 うん。っていうのは,持ってる奉納点で交神できる神様をダーっと何度もシミュレーションしていて,1番いい結果が出た神様を提案する仕組みになっているからね。かなり正確な提案なんだ。

4Gamer:
 手持ちの奉納点に近い神様を単純に合わせてるのかなぐらいに思っていましたが,違ったのか……(汗)

桝田氏:
 ちゃんと「コーちん」が頑張って調べているんだよ(笑)。だから,意外な神様を推薦したりすることもあるよ。

画像集#003のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載


「俺屍」のストーリーテリング手法


4Gamer:
 しかし,前のインタビューでもお聞きしましたけれど,「俺屍」って“一人称視点”のゲームですよね。物語の語り方も,あくまで補助的というか,プレイヤー(一族)が置かれた状況を説明していくような構造になっていて。

桝田氏:
 「あなただけの物語」「あなただけの歴史」ってところに軸があるゲームだからね。

4Gamer:
 プレイヤー=劇中の主人公(一族)みたいな物語表現って,やっぱり「ゲームであるからには」みたいなこだわりがある部分なんですか?

桝田氏:
 うーん。こだわりっていうか,「俺屍」に関していえば,それが最適だろうなってだけなんだけど。

4Gamer:
 最適,ですか?

桝田氏:
 うん。さっき言った 「あなただけの物語」って軸に対して,何ができるのか,何をやっちゃいけないのかっていうのを考えていった結果,“ああいうもの”になっただけというか。それだけのことなんだよ。そもそも,「俺屍」で語られる物語ってさ,全部“ゲームが始まる前”の話しかしてないんだよね。なぜなら「俺屍」という作品において,“現在進行形で進んでいく物語”っていうのは,あくまでも「プレイヤーの物語」であるべきだから。

4Gamer:
 なるほど。

画像集#028のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
桝田氏:
 もちろん,「あなただけの物語」を表現するにあたって,プレイヤーさんが遊んでいる時間軸(一族が生きている時間軸))で物語を語りながら,シナリオに分岐を設けて緻密にやるとかって手法もあるわけだけど,それはそれでもの凄い大変な作業になる。だから「俺屍」では,その手法はあえて採らずに,一族が生きてる時間軸とは別のところ,つまり“過去に起こった話”を展開するって形になっているんだよね。
 この手法自体は別に珍しいものではなくて,例えば推理小説とかで,冒頭で殺人事件が起こって,その動機とかを遡って追いかけていくってやり方があるじゃない。あれを持って来ただけなんだよ。実は犯人にはこんな子供時代があってとか,関係ないと思ってたこの人とこの人が実は大学の同級生で,みたいなのが分かっていくという。

4Gamer:
 「プレイヤーの物語」を妨げないストーリーテリング手法として,そういう方式が最適であったと。

桝田氏:
 その通り。だから「俺屍」における“リアルタイムなドラマ”ってさ,結局はプレイヤーの側にしかないんだよね。この子を次の当主にするつもりで育ててたのに,元服する前にボカンってやられて死んじゃったとかさ。あるいは,死んじゃったと思ったらお母さんが「反魂の儀」(はんこんのぎ)で生き返らせてくれたとかっていうのが,「プレイヤーの物語」になるわけ。だけど,そこに“物語を見るか見ないか”っていうのは,プレイヤーさん次第でもあるんだ。本気で泣いちゃう人もいれば,そういうシステムなんだなって流す人もいる。

画像集#024のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載

4Gamer:
 ただ,そこに“自分だけのドラマ”が感じた人が多かったから,多くのファンが生まれたってことでもあると思うんです。

桝田氏:
 その意味でいうとね。「我ながらうまいな」と思うのは,二代目以降の当主に名前が受け継がれるところなんだよね(笑)

4Gamer:
 あー,確かに!

画像集#005のサムネイル/“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
桝田氏:
 要するに,あれは“すり替え”をしているんだよ。初代当主はさ,自分で名前を付けて,完全に「当主=プレイヤー」という,一人称視点のキャラクターじゃない。だから,その初代当主が死んだときに,プレイヤーさんの視点をどこに持っていくかっていうのは,ゲームデザイン的にはとても難しいところだったんだけど,あの仕様では,そこを上手にごまかすことに成功しているんだ。

4Gamer:
 なるほど……。


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