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ついに吹き荒れる“二度目の嵐”。「放課後ライトノベル」第54回は『GOSICK ―ゴシック―』でアニメとは違うもう一つの結末を見届けるのだ
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印刷2011/08/13 10:00

連載

ついに吹き荒れる“二度目の嵐”。「放課後ライトノベル」第54回は『GOSICK ―ゴシック―』でアニメとは違うもう一つの結末を見届けるのだ



 むかしむかしあるところに,「富士見ミステリー文庫」というライトノベルレーベルがありました。その名のとおり「ミステリー」を中心としたライトノベルレーベルという,今振り返っても斬新なコンセプトのレーベルでした。初期には『Dクラッカーズ』『東京タブロイド』『ハード・デイズ・ナイツ』といった人気作が刊行され,とくに『Dクラ』はのちに富士見ファンタジア文庫から新装版が刊行されるほどの人気作となったのです。

 しかし,ミステリーという縛りはやはり厳しかったのか,2003年に大きな方向転換が行われることになった。「ミステリー」から「L・O・V・E!」へのテーマの変化は多くの読者を動揺させ困惑させたが,そうした中でも『ROOM NO.1301』『SHI-NO ―シノ―』などの人気作品が生まれていった。それでも読者を繋ぎとめ続けることはできず,2009年3月の刊行を最後に,ついに富士見ミステリー文庫は10年近くにおよぶ歴史に幕を閉じたのだった……。

 ……書きながら思わず自分でも涙ぐみそうになってしまったが,とにかくそういうレーベルが過去にあったのだ。当時はなにかと色物扱いされることが多かった印象だが,休刊後にいくつかの作品がほかの版元から復刊されるなど,このレーベルが残したものは決して小さくない。

 その中でも最大の功績と言えるのが,今や直木賞作家となった桜庭一樹の出世作『GOSICK ―ゴシック―』の刊行ではないだろうか。当時まだ知る人ぞ知る,いちライトノベル作家でしかなかった(と言っていいと思う)桜庭一樹の名前を広く知らしめた本作がなければ,今日の著者の活躍はなかったと言っても過言ではないだろう。

 もっともその『GOSICK』も,著者が活躍の場を広げていくのに反比例するように刊行が停止。その間に発行元のレーベルが消滅し,果たして続きが読めるのか,長らく読者をやきもきさせてきた。だが,2009年に角川文庫から復刊を果たし,TVアニメ化も果たした2011年7月,ついに最終巻が刊行された。54回目を数える今回の「放課後ライトノベル」では,多くの読者が待ち望んだその結末に思いを馳せてみる。

ついに吹き荒れる“二度目の嵐”。「放課後ライトノベル」第54回は『GOSICK ―ゴシック―』でアニメとは違うもう一つの結末を見届けるのだ
『GOSICK VIII 下 ―ゴシック・神々の黄昏―』

著者:桜庭一樹
出版社/レーベル:角川書店/角川文庫
価格:540円(税込)
ISBN:978-4-04-428124-3-C0193

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●始まりはヨーロッパの小国。少年と,少女の出会い


 1924年,ソヴュール王国。ヨーロッパにあるこの小さな国に,はるか東の国・日本から一人の少年がやってくる。少年の名は久城一弥(くじょうかずや)。帝国軍人一家の三男である彼は,優秀な兄たちへのコンプレックスから故国を離れ,アルプスの麓にある聖マルグリット学園に留学生としてやって来たのだった。だが,学園には「春にやってくる旅人が学園に死をもたらす」という言い伝えがあり,一弥は学友たちから距離を置かれる。そのうち本当に村で殺人事件が起こり,一弥はその容疑者にされてしまう。

 窮地の一弥を救ったのは,授業にも出ず,図書館塔の最上階にこもって本を読みふけっていた少女,ヴィクトリカ・ド・ブロワ。人形のような可憐な容姿に,艶やかな長い金髪,しわがれた老婆のような声を持つこの不思議な美少女は,一弥から事件の概要を聞くや否や,たちどころに真相を看破して――本人曰く,湧き出る“知恵の泉”によって,混沌(カオス)の欠片を再構成して――しまう。久城と同い年のこの少女は,その小さな身体の中にあふれんばかりの知性を宿していたのだ。ソヴュールに伝わる伝説になぞらえて“灰色狼”と称されるほどに――。

 かくして「春来たる死神」は「伝説の灰色狼」と出会った。二人はその後も,事あるごとにさまざまな奇妙な事件に巻き込まれながら,少しずつ親交を深めていく。二人の行く先に,大きな時代のうねりが待ち受けているのを予感しながら……。


●知恵の泉。それは,あらゆる謎を解き明かす知性の源泉


 もともと富士見“ミステリー”文庫から刊行されていただけあって,物語は基本的に一巻完結型のミステリー形式で進む。もっとも謎自体は複雑ではないので,「ミステリーを読むと頭痛が……」なんて人でも楽しめるはずだ。むしろ読みどころは,事件を通して描かれる一弥とヴィクトリカのやりとりだろう。パイプをくゆらせ,淡々と真相を見抜いていくヴィクトリカと,事あるごとに彼女に「凡人」と罵倒される一弥の関係は,名探偵シャーロック・ホームズとその助手ワトソンを彷彿させる。

 だが,ヴィクトリカがホームズっぽいのはそこまで。格闘技にも精通していたホームズと違い,ヴィクトリカは身体的には普通の女の子。ちょっとしたことですぐに痛がるし,運動も決して得意ではない。そんな彼女を危険から守るのが,“騎士”たる一弥の役目。普段は頼りなさそうに見えて,決めるときはしっかりと決める姿には,なるほど冷徹な灰色狼が心動かされるのも無理はないと思わされる。

 一方のヴィクトリカも,普段は傲岸不遜な態度をとっている分,ふとした時に見せる素顔の破壊力は尋常ではない。一弥と離ればなれになって独りでこっそり泣いたり,異国の着物にときめきを隠しきれなかったり。一弥に対しても最初はつんけんするばかりだが,次第にそれだけではなくなっていく。その過程をニヤニヤしながら楽しむのが,本作の醍醐味の一つと言えるだろう。

 なお本作は,富士見ミステリー文庫版のイラストを再収録したものが角川ビーンズ文庫で復刊されているのだが,その挿絵を手がけるのは,現在アニメが放映されている『異国迷路のクロワーゼ』の原作者である武田日向。西洋の精緻な町並みの描写と可愛らしい少女を描かせたら右に出る者はいない描き手とあって,作品とのマッチング具合はほかのライトノベルの追随を許さない。角川文庫版で読んだという人も,ぜひ一度はビーンズ版を手に取ってみてほしい。


●広がる戦火。それでも二人は,再会を信じ続ける


 物語は一弥とヴィクトリカを中心に据えつつ,ヴィクトリカの義兄・グレヴィールの淡い恋や,一弥の級友・アブリルのエピソード,学園の教師セシルと寮母のゾフィのほのぼの話などを交えながら進んでいく。しかしその陰で,悲劇の幕開けは刻一刻と近づいていく。

 作中世界では,かつて「一度目の嵐」が起こり,やがて「二度目の嵐」が起こることが,シリーズ開始当初から示されている。1920年代,ヨーロッパ,二つの嵐――これらのキーワードから,「嵐」の正体が人類史上に残る二度の世界大戦だと気づくのは容易だろう。ヴィクトリカの出生にも深く関わっている,来たるべき嵐。上下巻で綴られる最終巻『GOSICK VIII ―ゴシック・神々の黄昏―』では,遠くない日に訪れることが予言されていたそれが,ついに吹き始めることになる。

 世界が大きく動き始める中で,ヴィクトリカは国を守るための最終兵器として囚われの身となり,一弥は故国に送還されたのちに戦地へと向かう。かつての級友や教師たちが,戦火の中で必死に生きていこうとする中,一弥とヴィクトリカもまた,生と死の狭間をさまよい続ける。

 果たして二人は,生きて再会できるのか? 鍵を握るのは,それまで積み重ねられてきた二人の時間。常々「自分は帝国軍人の三男である」と主張し続けていた一弥と,退屈に倦んでいたヴィクトリカは,互いに出会うことで大きく変わった。誰のためでもなく,互いのために生き延びようとする二人の姿を見れば,これまで物語を追い続けてきた誰もが,幸福な結末を信じられるはずだ。

 戦争という嵐の中で生きる人々の描写がメインになったことで,それまで物語を動かしてきた「謎」は影を潜めている。だが,物語からそれが失われたわけではない。最終巻の冒頭で,ヴィクトリカが一弥に求めた15の謎。彼女がようやく最後に解き明かした15番目の謎とその答えこそが,7年半の長きにわたって語られてきた物語が残した,もっとも尊くて美しいものなのではないだろうか。

■“知恵の泉”が湧かなくても分かる,桜庭一樹作品

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』(著者:桜庭一樹/角川文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
ついに吹き荒れる“二度目の嵐”。「放課後ライトノベル」第54回は『GOSICK ―ゴシック―』でアニメとは違うもう一つの結末を見届けるのだ
 『GOSICK』の著者・桜庭一樹は1999年,第1回ファミ通エンタテインメント大賞(現・エンターブレインえんため大賞)佳作入選,『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』でデビュー。その後しばらくライトノベルレーベルで活躍していたが,2005年頃からライトノベル外にも活躍の場を広げ,『少女には向かない職業』(東京創元社),『少女七竈と七人の可愛そうな大人』(角川書店)などを発表。2006年の『赤朽葉家の伝説』(東京創元社)で日本推理作家協会賞を,2007年の『私の男』(文藝春秋)で第138回直木賞を受賞し,その評価を不動のものにする。
 ライトノベル時代から,10代の少女を描くことに定評があり,『赤×ピンク』『推定少女』(共にファミ通文庫),『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』(富士見ミステリー文庫)はのちに角川文庫から「桜庭一樹コレクション」として復刊されている。中でも『砂糖菓子〜』は著者がライトノベル外から注目される大きなきっかけとなった1冊であり,最初の刊行から数年後に単行本化され,のちに再文庫化されるという異例の刊行形態がとられている。
 なお,読書家としても知られており,自身の読書生活を綴ったエッセイ「桜庭一樹読書日記」シリーズも好評を博している。

■■宇佐見尚也(ライター/帝国軍人の三男のひ孫の友達の知り合い)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライターにして,「放課後ライトノベル」の自転車で通勤してるほう。『GOSICK』の完結で,また一つ今後の楽しみが減ったなあとしんみりしている宇佐見氏。「しかしビーンズ版で最終巻まで刊行されたら,きっとそっちも買い揃えるんだろうなあ……」とのことですが,それはもうカオスの欠片を再構成するまでもなく明らかにそうなるでしょう。
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