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孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
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印刷2016/08/24 00:00

インタビュー

孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く

画像集 No.002のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
 国内どころか,海外のプロゲーマーやコアゲーマーからも高い支持を集めながら,その実態が謎に包まれている日本のマウスパッドメーカー,ARTISAN(アーチサン)。使ったことがないという人でも,「疾風」(はやて)に「飛燕」(ひえん),「雷電」(らいでん),「」(ぜろ),「紫電改」(しでんかい)と,旧大日本帝国陸海軍の戦闘機からその名が取られたマウスパッドの名前を聞いたことがあるというケースは多いのではなかろうか。

小林敏博氏
画像集 No.003のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
 そんなARTISANを率いる小林敏博(こばやしとしひろ)氏は,実のところ,PC業界で「超」の付く有名人だった。
 かつてBTO PCメーカー兼PCパーツメーカー兼輸入販売代理店,そしてPCパーツショップを経営していた氏は,当時から歯に衣着せぬ発言で知られていた。その一端はARTISANのWebサイトにある文章からも窺い知ることができるわけだが,果たして氏はどういう経緯でARTISANを立ち上げ,いかにして国産マウスパッドを開発・生産し,そしていまどこへ向かっているのか。

 ARTISANの立ち上げ後,一時は製品開発にも協力したことのあるBRZRK氏が,ARTISAN,そして小林氏に迫った。


ARTISANを展開する小林敏博氏とは?


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。

小林敏博氏:
 よろしくお願いします。

4Gamer:
 小林さんは日本のPC業界における超有名人なのですが,とはいえそれは業界の中の話です。4Gamerの読者にはそもそも「ARTISANの社長」を知らない読者も多いはずなので,簡単に自己紹介をしていただけますか。

小林敏博氏:
 自己紹介ですか,難しいですね。元自衛隊です。なので,思想的にはニュートラルよりちょっと右です。

ARTISAN公式Webサイトより
画像集 No.004のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
4Gamer:
 どんな自己紹介ですか(笑)。
 でも,それって割と製品名に表れていますよね。

小林敏博氏:
 ですねぇ。でまぁ,そこからの発想で「メイドインジャパン」にこだわっているわけです。「海外の製品に負けてたまるかよ」ってね。

4Gamer:
 Webサイトからも,それは強く感じられますよね。

小林敏博氏:
 私はもともとコンピュータのシステム開発技術者でした。そのあと起業して,いろいろありましたが,ハードの販売をやるようになりました。で,その頃に台湾製とか中国製の製品が市場で幅を利かせてきたわけです。

4Gamer:
 はい。

小林敏博氏:
 その中には(品質面や完成度の面で)首を傾げたくなる製品もあり,「何でこんなものを嬉しがって買うんだろう?」というところから,自社製品の開発を始めたんですよ。

4Gamer:
 小林さんから見て品質の著しく低いものが多かったということですか。

小林敏博氏:
 低い。具体的に言うとサーバーケースでもネジが斜めに入っていたりするんですよ。彼らは「留まっているからいいじゃないか」と言うんだけど。

4Gamer:
 それは日本におけるものづくりの考え方からすると……。

画像集 No.005のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 ありえない。PCケースの建て付けが悪くてカタカタ言うとか,スパッと手が切れちゃうようなエッジがあるとか。こんなものを買ってどうすんだろうと。そこでPCパーツの製造を始めたりしていますね。

 その流れの中で,ゲーム用マウスパッドの輸入販売も手がけたんだけど,入荷してきた製品を見て,「なんでユーザーがこれを欲しがるのか」が,正直,理解できなかった。
 素人目にも,とてもじゃないけど褒められた品質には見えなかったし。

4Gamer:
 その感想こそがARTISANの萌芽であると。

小林敏博氏:
 だって当時は小汚い,長尺の連泡スポンジ(※1)に訳の分からない布を乗っけただけのシロモノだったじゃん。
 (製造法は)ゴムをところてんみたいにズラーッて出すのね。それは出てきたときに熱を持ってるんだけど,その上下に布を置くわけ。すると付着するんだけど,そこで裏側をバリバリと剥がすと,それが“裏面の加工”になる。
 工業製品とか,重いものを乗せる場合には有効なんだけども,重量が軽いと滑り止めが効かないんですよこれが。

※1 連続気泡ゴムスポンジの略。連泡ゴムとも言う。目の粗い天然ゴムという理解でいい。

4Gamer:
 そんな製品が市価では数十ドル。

小林敏博氏:
 ほんとにメチャクチャ高いですわ,どう考えても。
 しかも,作ってるのは中国とかだけど,日本では絶対にやらないような方法で作ってるんですよ。

4Gamer:
 と言いますと?

小林敏博氏:
 中間の層がひどい。(連泡スポンジなので)発泡体なんですが,泡の大きさが均一じゃないし,表面に孔が空いていたり,表面がうねってたりする。
 だから,使用していると滑り心地というか抵抗が一定じゃなくなっていたり,波打った凸凹が操作に影響したりする。しかも上層は薄い布だから,布のうねりとか孔の空き具合とかがモロに分かっちゃう。

4Gamer:
 ふむふむ。

小林敏博氏:
 たとえば,BRZRKは選手だったから分かると思うけど,間一髪で勝敗が分かれるときとかあるでしょ? 優勝賞金1200万円を賭けた戦いだったとして,最後のエイミングで勝敗が決まったとする。その勝敗の分け目をマウスパッド(のうねりとかそういった問題)が左右するとかね。そういうのって絶対にあるんですよ。

4Gamer:
 選手本人が気付いているかどうかは分かりませんが,そういった事例もあったはずですよね。

小林敏博氏:
 リスクのあるものを使うのか,リスクをなくしたものを使うか。これはもう,プレイする選手のリスク管理の問題だよね。
 明らかに分かっているリスクは最初から排除しておかなければならない。そういう意味で,海外製の,品質の悪い,ああいったマウスパッドなんかは使ってはいけないと私は思ったわけですよ。

4Gamer:
 それはいつ頃のことなんでしょうか。

小林敏博氏:
 (ARTISANは)そういう(ひどい完成度の)マウスパッドを見てすぐ立ち上げたから……2009年ですね。

4Gamer:
 2009年でしたか。「これはなんとかしないと駄目だ」と思ったわけですか。

小林敏博氏:
 うん。「そもそも嬉しがって売るようなもんじゃないだろう」と思ってね。

4Gamer:
 国内のシーンからすれば,ARTISANってある日突然出てきて,口コミで存在が知れ渡るような感じだったと思うんです。なので,登場の経緯を今回初めて知ったという人も多いと思いますが,どのメーカーのマウスパッドがきっかけだったかって覚えてますか。

小林敏博氏:
 どのメーカーだったかなぁ……。今も残っているところだけど。コアなんたらとかそんな名前だったような。

Corepad公式Webサイトより
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4Gamer:
 Corepadか!

小林敏博氏:
 確かそこかな。
 あと,品質とは別に,当時お金払ったのに全然商品を送って来なかったりもしていて,「どうなってんだよ! じゃぁもう作っちまえ!」って(笑)。

4Gamer:
 それがARTISAN誕生のきっかけだったんですねえ。

小林敏博氏:
 ほかにも理由はいくつかあるんだけども,それが一番大きいかな。

4Gamer:
 それで,通販メインでARTISANを展開しているわけですが,海外通販もやっていますよね。売り上げ比率って,国内と海外でどんな感じなのですか。

小林敏博氏:
 国内だといくつかの量販店でも出回るようになったから,日本のほうが多いですね。ただ,比率は6:4くらいかな。

4Gamer:
 意外と均衡してますね。

小林敏博氏:
 不思議なことに中国でけっこう売れてるね。

4Gamer:
 それも日本からせっせと発送している感じですか。

小林敏博氏:
 いや,なんか業者がうちから仕入れていく。中国ってなんか海外にお金を持ち出すのが大変らしくて,うまく買えないというケースもあるみたいで,その対策というか。
 それがなければもっと買ってくれるはずなんだけど。

4Gamer:
 中国からが多いというのは想像してませんでした。

小林敏博氏:
 うーん,やっぱり日本製っていう信頼感じゃないですかね。

4Gamer:
 逆に売れにくい国とかってありますか?

小林敏博氏:
 ドイツと台湾が売れないなあ。台湾は近いんだけど,なんでだろうねぇ。マーケットとしてそれほど大きくはないので,そこはまあいいんだけど,ただ不思議で。
 あとは,インドネシアには売ってない。カード詐欺がものすごく多いから,そもそも買えないようになってる。ただ,それでも欲しいって人はメールしてくるね。で,「カードじゃなくてPaypalで入金確認したら送ってあげるね」って返すという。

4Gamer:
 こんな所からも注文が!? みたいに驚いたことってあります?

小林敏博氏:
 南アフリカかな? あ,それと先日初めて中東で売れた(笑)。ビックリしたよ。これで五大陸全部制覇したねって。あとは,ギリシャの向かいの島からも注文が来たことあったなぁ。

4Gamer:
 キプロスですか。

小林敏博氏:
 どうやって知ったんだろうね?

4Gamer:
 RedditやOverclock.netとか,そういうコアなところから情報が出ることもありそうですよね。

世界規模で定番となっているマウスパッド,QcK
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小林敏博氏:
 まぁでも,宣伝というかプロモーションに全然お金をかけないでそれなりに売れているんだから,大したもんかなと思ってますよ。
 でも,正直言って日本のお客さんにももうちょっと買って欲しいですね。もう,「QcK」(※2)とか卒業して,次のステップに進んでも良いんじゃないかなぁって。で,売れれば大会とかも開催しますよ。売れればね。

※2 ドのつく定番となっているSteelSeries製のマウスパッド。布系の代名詞的に扱われることも多い。

4Gamer:
 大会は大事ですよね。シーンとしても。

小林敏博氏:
 最初は大きな金額の大会を……って考えてたけど,最近は少額でも多くの大会を開催するほうが大事だなと考えていて。
 マウスパッドがすごく売れたらやりますよ。冠にARTISANの名前なんかなくたっていいし。

4Gamer:
 ちなみにいま「宣伝,プロモーションにお金をかけない」という話が出ましたが,それ以前に,小林さんってほとんどメディアに出ませんよね。何かそうなったきっかけってあるんですか。

小林敏博氏:
 メディアは信用しない。嘘つきなんだもん。
 あとは,俺が基本的に引き籠もりっていうのもある(笑)。

4Gamer:
 ブフッ(と吹き出す)。
 「メディア」はどこからどこまでが対象ですか?

小林敏博氏:
 いやもう,PC関連も含めて全部。嫌というほどそういうのは見てきたから。

4Gamer:
 何かあったんですか?

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小林敏博氏:
 昔,○○○○○っていう(PC)ショップがありましたよね。

4Gamer:
 ええ。

小林敏博氏:
 んでまぁ,『○○○○○○○○』(編注:雑誌名)が「どのショップのマシンが最速か?」とかやるわけです。

4Gamer:
 ありましたね,当時はそういう企画をよく見ました。

小林敏博氏:
 あれ,やる前から順位決まってんのよ。

4Gamer:
 ほう。

小林敏博氏:
 ○○○○○のところのマシンが1位取るようになってんの。

4Gamer:
 へえ……。

小林敏博氏:
 ほんとフザケたことだよね。
 で,『○○○○○○○○○○○』(編注:雑誌名)ってまだあるんだっけ? あそこもクソみたいな電源を「これは良い電源だ」って書いたり。そういうのはユーザーを騙していることになるんだぞ,とね。そんなことを書いていていいのかよと。

 あと○○(編注:人名)っているじゃん,『○○○○○○○○○○○○○』(編注:媒体名)の。あいつなんかもうち(※3)によく来ていたんだけど,「そういうのダメだろ!」って言ったら,小声で「いや,その,これには色々ありましてぇ」って。
 色々ありましてもへったくれもねえよ。専門誌って名乗っている以上,ちゃんとやれよと。

※3 当時小林氏が経営していたショップ。ARTISANのことではない。

4Gamer:
 実名が出すぎて,これはもう伏せ字にするほかないという顔でうなずくだけですが……。

小林敏博氏:
 『CAR GRAPHIC』がそんな嘘つきますか? あそこは,自動車メーカーから宣伝料をもらっていても,ダメなとこはダメだとハッキリ書くじゃない。だから専門誌であって,権威があってってなるわけじゃないですか。
 だからそういう過去のこともあったりでメディアは信用しない。「うちを褒めろ」じゃないの。ダメなものはダメとちゃんと書かないと。

4Gamer:
 メディア側としてはなんと返したらいいのかという感じなんですが(苦笑),ではなぜ今回,4Gamerのインタビューは受けていただけたんでしょう?

小林敏博氏:
 いや,それは大したことじゃないんですけど,久しぶりに東京行くかぁと。

4Gamer:
 あははははははは。

小林敏博氏:
 まぁそれだけじゃなくて,さっきも言いましたけど,うちってプロモーションをやってないじゃないですか。だから巷では「小林,死んでんじゃねぇの?」と言われたりしてるんだよね。

4Gamer:
 いやいやいやいや。それはないでしょう。

小林敏博氏:
 マジで! 本当に言われてるんだよ。

4Gamer:
 死亡説がでちゃうんですか。

小林敏博氏:
 なので,「生きていますよ」という生存報告をね。

4Gamer:
 業界関係者の皆さん! 小林さんはものすごく元気ですから!!


画期的な新製品は「剥がして捨てられる」のがキモ


小林敏博氏:
 あと,(インタビューを受ける理由のもう1つは)これね(と,サーフェスを出す)。

小林氏が机の上に広げた「サーフェス」
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4Gamer:
 ……和紙?

小林敏博氏:
 これは開発中の滑走面で,完成にはまだまだ時間がかかりそうだけど,和紙と不織布と真ん中にPP(polypropylene,ポリプロピレン,熱可塑性樹脂)が入ってるマウスパッド(のサーフェス)。丈夫なんですよ。
 しかも,「トラッキングが〜」ってよく言うじゃないですか。で,これは対トラッキングとしては無敵。

4Gamer:
 和紙だから,パターンが一般的なゲーマー向けのマウスパッドより複雑ってことですよね,つまり。

小林敏博氏:
 そう。だからこれで(トラッキングが)飛ぶマウスは捨てたほうがいいですね(笑)。
 過去のARTISANのマウスパッドって,海外製品よりも整然とパターンが並びすぎていたことがあって,当時のマウスのセンサーだと読み取れないことがあったんですよね。そこから出た発想が紙だったんですよ。

4Gamer:
 (ワシャワシャと触りながら)和紙と不織布で,表と裏の質感がまるで違いますね。

小林敏博氏:
 これ元々は何だと思う?

4Gamer:
 え,何か別の製品で採用されているものなんですか。

小林敏博氏:
 ホームセンターとかでよく売ってるんだけど。

4Gamer:
 うーん,壁紙くらいしか思い浮かばないですね。

小林敏博氏:
 障子紙なんですよ。

4Gamer:
 おー! 言われてみれば確かに!!

小林敏博氏:
 うちが出すときはたぶん,不織布は貼らない。和紙にPPで表面加工するだけ。

4Gamer:
 ということは,その下にゴムを敷くって感じですか。

小林敏博氏:
 うん。だから布マウスパッドみたいな感じになりますね。

4Gamer:
 これはかなり興味深い製品の情報ですねぇ。

小林敏博氏:
 で,直近の新製品がこれ(と言って,机の上に置く)。

「これ」と言って,小林氏が机の上に置いたもの
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4Gamer:
 ん? 「刃」(やいば)って書いてありますが。

小林敏博氏:
 表面の模様はあんま関係ないんだけど,これはコストカットモデルです。

4Gamer:
 んんん? と言いますと?

小林敏博氏:
 このマウスパッド,置いた状態で,左右に揺すっても動かないですよね?

4Gamer:
 まぁ,マウスパッドですし。

小林敏博氏:
 でね,これ実は2枚組で上面の布が剥がれるんですよ。

ペリッと上面の布を剥がした状態
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4Gamer:
 (瞬時に気付いて)あああああああっ!!

小林敏博氏:
 そう。消耗したら上面の布を捨てちゃえと。そうすると,下層のスポンジ部分は残るやんけと。

4Gamer:
 はいはいはい! 上だけ着せ替えられるようにするんですね。

小林敏博氏:
 マウスパッドって,上層と下層の両方でやってるから高いんですよ。

4Gamer:
 だったらもう個別の扱いにしちゃえばいいと。

小林敏博氏:
 そう。だから下層のスポンジ部分を最初に買っといてもらえれば,あとは上層の布を取り替えるだけで済む。今はまるごと買い換えなければならないから高くつくけど,上面が取り替えられれば安く済むでしょ。

4Gamer:
 これは面白い! でも,上層と下層でズレそうって思われそうな気がしますね。

小林敏博氏:
 これねぇ,バリっとひっつくワケじゃないから滑りそうに見えるんだよね。本当は現状でも十二分にズレないんだけど,お客さんが不安に思っちゃいそうだから,製品版ではもう少し貼り付く感じを出します。

4Gamer:
 確かに,一度触ってくれた人は良さそうですけど,そうでないと「ただ載っているだけ」だと思われかねませんね。

小林敏博氏:
 で,これが実際の製品版(サーフェス)なんだけど(と言って下の写真で示したサーフェスを置く)。
 裏側をもうちょっと工夫しようかなと。「サロンパス」と同じで剥がしちゃえばいい。どんどん使ってどんどん捨てちゃえという。

製品版サーフェスの裏側(左)。出荷時点ではフィルム付きだが,右のように剥がして使うことになる
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4Gamer:
 で,さっきの和紙サーフェスだということですね。
 このサーフェス部はいくらぐらいで売る予定ですか?

小林敏博氏:
 和紙タイプはまだ先。こっちは布だけだからできるだけ安価にしたいんだけど,市場構造による制約もあるんですよ。ほら,量販店に商品を入れているでしょ?

4Gamer:
 はい。

小林敏博氏:
 そうすると中間に商社が入ってるのね。そこはビジネスなんで,両方に利益を残してあげないとダメだから,価格設定が難しいんですよ。直販だけで(たくさん)売れるのが理想だけど,それはあくまでも理想なので,数を売るには,やっぱり量販店が必要なんです。

4Gamer:
 何枚かまとめて売るというのはどうです?

小林敏博氏:
 3枚とか5枚セットのやつとかは作ろうと思ってますよ。量販店では1枚単位だけども,サイトだとセットがあったりとか。ただ,現行品も売らないといけない。ほつれ止めの加工とかで苦労したわけだし。

4Gamer:
 ほつれ止めの加工?

小林敏博氏:
 そう。実は地味に現行品の改善もやり続けているんですよ。順次,全製品を波刃で打ち抜いた形にします。これで,ほつれ止加工によりエッジが硬くなるとか,エッジが粘着剤でベトつくとかいった欠点が解消します。

4Gamer:
 ああ,それはいいですね。

小林敏博氏:
 まぁそんな感じで今は自分たちが食えればいいという規模でやっていますんで,大変は大変だけど,「とにかく数を売らなければ」とか,そういったプレッシャーが少ないんだよね。だから,大胆にやれてるのかなとは思ってるんだけど。
 まあでも,これが完成したら俺も終わりかなと。

4Gamer:
 いやいや,和紙のほかにも何か,画期的なものがあるかもしれないですよ?

小林敏博氏:
 俺自身が「勘弁してよ」と思ってるもん。「もう誰かやってよ!」って。
 まぁ,そうは言っても,今後も色々やらないといけないことは山積みなんですが。

台座の上に和紙サーフェスを置いたイメージ。最終製品ではないので,サイズ感は異なる
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4Gamer:
 しかし,和紙は可能性がメチャクチャありますね。

小林敏博氏:
 なので,まぁ標準品(=これまでの製品)プラス,こういった尖ったやつをやっていこうと思っています。だって,スポーツの世界にはシューズだったりクラブだったりグローブだったり,色々なものがあるじゃないですか。

4Gamer:
 ええ。

小林敏博氏:
 もっといっぱいないとおかしいんですよ。だって,e-Sportsってスポーツでしょ?
 確認したいんだけど,スポーツなんだよね?

4Gamer:
 スポーツですね。

小林敏博氏:
 そう言ってもらえないと,ここの話が何の意味ももたなくなっちゃうんだよね。これまでの下りが。だから,いつも腹が立つんですよ,これスポーツじゃないの? って。

4Gamer:
 確かに。プロも存在しているスポーツですもんね。

小林敏博氏:
 ですよね? なのに,選手のアプローチが全然そこまで行っていない。おかしくないか? ってSNSで書いたら,某掲示板ですごく叩かれましたよ。言い方も悪いんだけど(笑)。
 ちなみにこの滑走面を貼り替えられる新商品はね,Yossy(※4)にも使ってもらったのよ。

※4 e-Sports系個人サイトとして国内最大手であるNegitaku.orgの管理人。業界関係者とのつながりも深い。

4Gamer:
 お,マジですか。

小林敏博氏:
 うん。で,Yossyに紹介してもらった5人くらいにも渡して,使い心地とかではなく,「上層と下層で動かないか」「ゲーム中にズレないか」とかの確認をしてもらってね。今のところは全然問題ない。

4Gamer:
 おー,テスト段階まで来てるんですねぇ。

小林敏博氏:
 ズレないことの確認はできたんで,あとは売り方と,商品化するにあたって克服しなきゃならない問題がいくつか。

4Gamer:
 と言いますと?

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小林敏博氏:
 滑走面を丸めたときに,布と剥離フィルムの間に空気層ができちゃう。剥離フィルムは剥がして捨てるから問題ないんだけど,買った人が気にすることもあるんで,もうちょっと(品質面の)テコ入れをしないとね。安心感を持ってもらうためにも。

4Gamer:
 丸めることを想定するってことは,つまり丸めて販売するということですか? それって,ARTISANとしては初の試みですよね。

小林敏博氏:
 初。だからケース(=製品ボックス)も今度変えるんだけども,これが上手く行けばXLのサイズも作る。
 コストはアップするけど,マウスパッドの持ち運びにも使えるケースにしますよ。

4Gamer:
 あー,いいですね! 個人的にXLサイズは大好きです。

小林敏博氏:
 いまの平らな状態でXLを出すと運賃もかかるし,お店が怒っちゃいますからね。これで,ユーザーの以前からのリクエストに応えられますよ。


ウレタンフォーム「PORON」との出会い


4Gamer:
 さて,先ほど,ARTISANというブランドが立ち上がったのは2009年という話が出てきましたが,それから現在に至るまでの話を聞かせていただければと思います。国内製造にこだわるとして,最初は何からスタートしたのでしょうか。やはり工場探しですか?

小林敏博氏:
 ですね。安いからって中国に工場が移転しちゃって,国内に工場がほとんど残ってないんですよ。
 残ってる工場に直接交渉したけど作ってくれなくて,仕方なく間に商社を入れて作ってみたんだけど,「うねり」がどうしても消えない。で,色々と調べた結果,連泡スポンジ,連泡ゴムの宿命だと分かって。

4Gamer:
 つまりCorepadがうねるのも宿命だったと。

小林敏博氏:
 本当はうねらないようにもできるんですが,コストがとてつもなく上がってしまう。で,「上手くいかないから代わりを見つけよう」となるわけですよ。

4Gamer:
 ということは,ARTISANの初期製品ではうねりの問題はあったんですね。

小林敏博氏:
 そうそう。「欠点が分かっているのに解決できないのは駄目だ。違うものを使わないと」と,探し始めたわけです。

4Gamer:
 それはどれぐらいのタイミングでですか?

小林敏博氏:
 作り始めて1年くらいのときかな。

4Gamer:
 じゃぁ2010年になるかならないかくらいですね。

小林敏博氏:
 それで見つけたのが「PORON」(※5)ってやつです。これね,(値段が)メチャクチャ高いんですよ(笑)。

※5 ポロン。発泡ゴムやポリエチレンフォームと比べて微細かつ均一なセル構造を持つウレタンフォーム。

ロジャースイノアックのPORON製品情報ページ
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4Gamer:
 PORONというのは日本製の素材なんですか?

小林敏博氏:
 はい。これはロジャースイノアックという会社(※6)の特許製品です。これのライセンスを受けた国内工場で作っています。中国にもライセンスを受けて作っている工場はあるけど,正直,中国の工場で作ったやつは,中に何が入っているか分からないからね。
 たとえばSteelSeriesのQcK,箱から出すとものすごく臭いでしょう?

※6 ウレタンフォームのメーカーとしてよく知られる日イノアックと,電子部品や樹脂材料メーカーである米ロジャースの合弁企業。

4Gamer:
 安い麻雀マットみたいな,独特な臭いはありますよね。あれってゴムベース素材だからですか?

小林敏博氏:
 いや,作り方の問題です。単純化して話しますけど,普通のプロセスでいけば日本で10分かける工程を,向こうだと5分で済ます。なぜかと言えば,工程を短くすれば,それだけ効率よく生産できてコストを抑えられるから。なので,加硫剤をバッカンバッカンぶっ込んじゃう(※7)。

※7 硫黄や過酸化物などからなる加硫剤(かりゅうざい)を加えると,ゴム分子を強固に結合させ,温度変化による塑性流れや,弾性,強度などゴムの性状を改善することができる。

4Gamer:
 ははぁ。あのケミカル系の臭いの原因はそれだったんですね。

小林敏博氏:
 無臭ではなくとも,日本の連泡ゴムであそこまでの臭いはしないよね。

4Gamer:
 つまり,開けたときにヤバイ臭いのするマウスパッドはそもそもヤバイと?

小林敏博氏:
 ヤバイ! だから,「こんな臭いを発するようなマウスパッドを有難がってんじゃないよ!」と,また腹が立ってくるんですよね。

 というか,(そういう文句はユーザーが)メーカーに言うべきなんですよ,「いい加減に改善してよ」と。ユーザーのほうが強いんだから。
 誰も疑問に思わず,何も言わないから,メーカーはあぐらをかいて,同じものを出し続けているんですよ。

4Gamer:
 確かに,「くさい」という話はあっても,「何とかしてくれとメーカーに談判した」といった話は聞いたことがないですね。

一部が丸くカットされた特殊仕様だが,飛燕
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小林敏博氏:
 うちの飛燕だって,とくに公表はしていないですけども,樹脂の加工を変えているんですよ。理由は,あまりにも耐久性耐久性と言われるから,少しでも耐久面で好影響のあるものに変えているんです。

4Gamer:
 なんとまぁ。それは気付きませんでした。

小林敏博氏:
 もちろんコストはかかります。また,布メーカーからは,「小林さん,そういう素材は使ったことないんですよね」とよく言われます。ただ,使ったことがあろうがなかろうが「オーダーだからやってよ」と。で,実際にやってもらうとできるんですよ。それで,加工業者側の「引き出し」も増える。

4Gamer:
 両者プラスになる感じですね。

小林敏博氏:
 で,話をゴムに戻して,なんとか業者を見つけて,「コストは高いけど,頑張ろう」と思ったら,ゴムに滑り止めがない。ツルツルだと不都合なわけですよ。「じゃぁ滑り止めも見つけないといけないな」と,最強のを見つけたわけです。

4Gamer:
 最強の滑り止め,ですか。

小林敏博氏:
 そう。「鉄壁」という製品で,これも日本の技術(がベース)なんですが,これを貼って3層構造のマウスパッドを出したわけです。
 そうしたら,予想もしなかった難題が……。

4Gamer:
 具体的にはどんな問題だったんですか。

小林敏博氏:
 3層で素材が全部違う。それぞれ収縮率とか吸湿性も全然違う。そんなのが3つ合わさっちゃったもんだから,湿度が変わると反ってしまうんです。

4Gamer:
 ああ,いわゆる「飛燕反り反り問題」ですか。パッケージから出した時点でマウスパッドが反り返る初期不良。

小林敏博氏:
 うん。で,(鉄壁の素材として使っていた)「ダースボンド」(※8)を止めて,素材を見直して,新しい工場を探して作ったんだけども,その工場が値上げしたうえに納品してくれなくなっちゃった。このときは弱った。

※8 日本ダースボンド製の滑動停止材。軽い荷重での滑り止め効果が高いとされる。

4Gamer:
 でも,いまのARTISANマウスパッドは2層ですから,つまり最終的には2層になったわけですよね。

小林敏博氏:
 そう。いま依頼しているPORONの工場に,こういうことができないかと相談して。
 技術者とか若い人は話を聞いて面白がってくれるんだけど,上のほうの人が首を縦に振ってくれない。それでも「技術的に求められているものはクリアできる」と技術者が目処を付けてくれて,さらに若い人が上の人達を説得してくれたんですよ。

4Gamer:
 で,2層で済むようになったと。

小林敏博氏:
 そう。これでリスクとコストがだいぶ減った。貼り付ける手間も一度で済むからね。いまこの会社は,うちのためだけに専用のPORONを作ってくれています。ARTISANなんていう,小さな会社のためだけに。

4Gamer:
 それは本当にありがたいですよね。

小林敏博氏:
 本当にありがたい。
 でも,うちはそんなにお金があるわけでもないじゃん? そんなにものすごい量を仕入れることなんてできないんですよ。
 そこで,「うちの会社で,年間にある一定の量を買うことをコミットします。その代わり,少しずつ買わせてほしい」とお願いしたわけ。

 で,間に商社が1社入っているんだけど,そこと一緒になんとか説得したの。あれから4年経って,今でも商品は動いているから,一定量がずーっと出る(=出荷できる)。だから文句も言わずに作ってくれているんですけど,いまでもいつ「もう駄目」って言われるか,ヒヤヒヤもんですよ。

4Gamer:
 確かに……。

小林敏博氏:
 ただ,このPORONを,こんなにデカい面積で使ってるのはうちだけというのはある(から,その意味では先方にとっても意味のある顧客にはなっている)ね。
 PORONって普通は,電子部品の中で耐震とかに使うから,ほんの小さなものをワッシャーとして使ったりといった感じになるわけ。「iPad」の中にも入っていたりするんですよ。

4Gamer:
 へぇ。

小林敏博氏:
 お金のある企業だから,ものすごく贅沢な作り方をしているんですよ。こう,輪っかみたいに形取って,内径部分の切り落とした端材とか全部捨てちゃう。

4Gamer:
 うわ,もったいない。

小林敏博氏:
 めっちゃめちゃもったいない! ただ買う量がハンパじゃないから相対的に値段が安くなるんですよね。
 だから,うちも年間で1億円分くらい買えれば,半分の価格に落とせる。1億くらい買えればね。

4Gamer:
 もっと作ってもっと売れれば,どんどん安く出せると。

小林敏博氏:
 そういうこと。そうなればコストは半分になるんですよ。
 だけどそれは鶏と卵の関係なわけで。資金も限りはあるから,「誰か3億円くらい出さないかなぁ?」ってよくぼやいてます。

4Gamer:
 あははは。

小林敏博氏:
 ただ,BRZRKなら分かると思うけど,世界市場を前に,3億円(の投資)なんて,はっきり言ってしまえば屁でもないでしょ。

4Gamer:
 最近はとくに市場が大きくなってますしね。

小林敏博氏:
 3億円なんてアッという間に回収できちゃう。だけど,日本ではe-Sportsに対する理解のあるヤツがいないから,誰も引っかからない。

画像集 No.019のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
 「3億円あったらどう使うんだ?」とたまに聞かれるけど,2億円はプロモーションに使う。内訳はプロゲーマーを札束で叩いて雇うのが半分,残り半分で世界中にマウスパッドをばら撒くかな。あとの1億円は素材のPORONを買う(笑)。それだけやれれば2年後には札束で左団扇。

 まぁ,そんな感じで今の形に落ち着いているのね。簡単な道のりじゃない。だから「たかがマウスパッド,されどマウスパッド」って言い方をよくするんですよ。

4Gamer:
 ちなみに現在はARTISANを何人くらいの規模でやっているんですか?

小林敏博氏:
 今は私を含めて2人だけ。俺は企画開発が中心で,もう1人は営業と管理。

4Gamer:
 えええ,マジですか。2人だけで,これまで伺ったことを全部やっているというのは,にわかには信じがたいレベルですね。

小林敏博氏:
 マウスパッドの設計開発から,サイトの更新とか,バックグラウンドで動いているプログラムまで全部私がやってるんですよ。
 ただ,試作も,発送業務も製造工場でやってしまっているし,量販店への営業は商社に委託している。俺の仕事はルーティンワークにならないのよ。だからできてしまう。

4Gamer:
 それでもすごいですよ。

小林敏博氏:
 でも疲れた!(笑)
 いま一番しわ寄せが来ているのがうちのページで,更新する気力が起きないんだよね。気力が湧かないのよ。

4Gamer:
 ブランドの立ち上げからずっと2人だけなんですか。

小林敏博氏:
 最初は俺のほかに開発担当がもう1人いたかな。あとは途中でアルバイトを雇ったりとかしてるけど,「ほぼ2人」というのが正しい。
 まあ,チームワークが必要ないし,意志決定も自分だけだから,開発は1人のほうがいいよ(笑)。

4Gamer:
 後は,国内に協力してくれるゲーマーがいて。

小林敏博氏:
 そう。トラッキングの飛ぶ飛ばないくらいは解るけど,細かい部分はプレイヤーじゃないとね。でも,本音を言うとあんまりゲーマーの声は聞かないようにしている。

4Gamer:
 その心は?

小林敏博氏:
 ゲーマーだからこその固定概念とかがあるから。

4Gamer:
 バイアスはあるかもしれないですね。

小林敏博氏:
 究極的に言ってしまえば,「滑って止まる」のができればいいわけでしょ。マウスの操作性を支援するのがマウスパッドの役割なんだから,それを物理的にどうすればいいのかを論理的に考えていく。それだけの話なんですよ。

4Gamer:
 ふーむ。

小林敏博氏:
 だって,ゲーマーの話を聞いたからって(サーフェスの)摩擦係数が変わるわけじゃないからね。物理的には決まってるわけだし。

4Gamer:
 確かに。となると,ゲーマーに頼る部分は使用感ですかね?

小林敏博氏:
 うん。それだけ。で,やたらと滑れば良いってわけではないというのが,やっているうちに分かってきた。最初は何が何でも滑らしてやると思ってたけど,そういうのは違うなとね。

4Gamer:
 その点ですけど,個人的には,マウスパッドって「筆」に近いのかなと,最近思うようになってきたんですよ。

小林敏博氏:
 へえ。

4Gamer:
 滑るように書けたり,止めるべき場所で止められたりってところが割と近いのかなって。使えば紙との摩擦で摩耗して寿命が来たりするところも。

画像集 No.018のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 それは言い得て妙だよね。ゲーマーが言う滑って止まると同じ。
 面白いのはさ,マウスパッドに関しては「滑って止まる」のが重要なのは当然なんだけど,(評価の仕方は)各人各様なんだよね。

4Gamer:
 感覚的な問題がありますから,それこそ十人十色でしょうね。

小林敏博氏:
 プレイするゲームによっても違うし,QUAKE系とCounter-Strike系でユーザーに求められるものが違う。だから1種類でいいわけがない。

4Gamer:
 スポーツウェアで喩えると,数年前に競泳だと「レーザーレーサー」が誕生したり,陸上競技だとシューズの素材が変わっていたりしますよね。年々モデルが更新されて進歩している。スポーツギアであるなら,マウスパッドも年々進化していかねばならないですし,一種類でいいわけもないと。

小林敏博氏:
 まったくそう思いますよ。うちはよく卓球のラケットで喩えるけど,ラバーなんて何種類もある。みんな選手のタイプによって使い分けているんですね。
 だから,マウスパッドの硬さも5〜6種類は作りたい。だから,プレイヤーにもその硬さをちゃんと感じられる選手になってほしいと思います。

 だいたいねえ,20年も同じものを使っていられるスポーツなんて聞いたことがないですよ。

4Gamer:
 スポーツウェアとして見ると不健全な状態なのかもしれませんね。


ARTISANのマウスパッドはいかにして作られるのか


4Gamer:
 いま,ARTISANのこれまでを伺いました。そこで製品作りの話も出てきましたが,新製品を開発から発売までに至るフローは,ユーザーには分からない部分だったりもします。具体的にはどういう流れなのでしょうか。

小林敏博氏:
 基本的には最初に「どういったサーフェスが良いのか」を考えるんだよね。僕としては,一定のスピードで滑るようにしたいけど,そういうのが実現できるサーフェスってどういうのだろうと。

4Gamer:
 ええ。

小林敏博氏:
 考えたものを実際に工業製品として作らなければならないから,次に,具体化できる素材や加工方法を探す。

4Gamer:
 実現できる会社を探す感じですか。

小林敏博氏:
 それが,「できる会社」はほとんどないんですよ。なので,「技術的にできそうな会社」を探して(やり方を)教える。でも,「今までやったことがない」って必ず言われるんです。

4Gamer:
 ノウハウがないからおっかなびっくりな状態なんですね。で,少しずつ理想に近付けていくと。

小林敏博氏:
 そうそう,時間とコストがかかる。試作を何度かやらせるんだけど,金を捨てている状態だよね。ココに関しては教育代だと思ってます。

4Gamer:
 何回くらい試作します?

小林敏博氏:
 最低3回は試作しないと覚えてくれないんだよね。で,ようやく「あっ,表面のテクスチャってこういうのが大事なんですね」って覚えてくれるようになる。

4Gamer:
 そういうレベルなんですか,それはびっくり。

画像集 No.020のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 そう。こんだけ何度も話をしてきたのに,やっと気付いたのか! ってね(笑)。「見た目が云々」よりも,「物理的に凹凸がどうなっているか」とか,そういった部分のほうが大事だと覚えてもらうのが本当に大変。

4Gamer:
 なんというか,聞いているだけでもキツそうなのが分かりますね……。

小林敏博氏:
 とくに糸の業者とかは大変。もう,いい加減なんですよあの人達は。公差なんてない(世界だ)から。ものすごくアバウトなんですよ。「見た感じキラキラしていて良い感じですよね」って。

4Gamer:
 あー,取引先が主にアパレル系なんですね。

小林敏博氏:
 そう。見た目の話題しかしないから話が噛み合わないの。

4Gamer:
 もう完全に異文化交流。

小林敏博氏:
 30デニールから100デニールって感じで糸の太さが色々あるんだけどね,たとえば旅行鞄などで使っているのは100デニールと太いんですよ(※9)。
 うちはだいたい50デニール以下を使っている。実際にね,糸の太さを変えて織ったり編んだりすると全然感触が違うの。

※9 デニール(denier)は,糸や繊維の太さの単位。1デニールは,長さ9000mで重量1gとなる糸や繊維の太さを示す。

4Gamer:
 どんな感じで変わるんですか?

小林敏博氏:
 太いやつだと感触が荒くて,細いと滑らか。

4Gamer:
 となると,糸の太さの最適解を探しつつ,となりますね。

疾風(ARTISANの製品情報ページ
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小林敏博氏:
 だから会社を変えると教え直さないといけないから大変なんですよ。
 疾風の布は本当に大変だったから……。

4Gamer:
 疾風は僕もテスト段階のものを触らせてもらう機会がありましたが,それからリリースまで,ずいぶんと長くかかりましたよね。

小林敏博氏:
 どの製品もそうだけど,品質を気にしなければいつでも出せる。ただ,今のままだと「トンネル」ができちゃったりするのよ。
 巻いたりしたときに上下で生地が分離しちゃう。

4Gamer:
 貼り方の悪いスマホの保護フィルムみたいに,空気溜まりができちゃうんですね。

小林敏博氏:
 お金を出して購入してもらうわけだから,商品としてそうならないようにしないとダメなんですよ。
 ゴムはとくにダメで,巻くと元に戻らなくなる可能性が高い。でもPORONは戻る。マイクロセルといって,縦横に気泡が規則的に綺麗に並んでいるから。

4Gamer:
 ほう。

小林敏博氏:
 普通のゴムは化学薬品を入れて泡立てるのね。だからよその(マウスパッド)は(気泡が)ランダムなんですよ。

4Gamer:
 ルーペとかで見て分かるものですか?

小林敏博氏:
 ルーペじゃ分からないかな。顕微鏡があれば見えると思うけど,それがPORONの特許(技術)なのよ。だから他社もPORONを使えばいいんだけど,コスト的に見合わないから使わない。
 うちはQcKとかに合わせた値段で(零を)売っていたりするけど,あれは商売的に見れば間違い。無理して,単価で1000円くらい安くしているからね。
 QcKはあれが年間で500万枚くらい売れているって言いますよね。ボロ儲けですよ。

4Gamer:
 一時期「QcKだけで食ってる」って言われていたほどですしね。

小林敏博氏:
 俺が思うには,SteelSeriesは「これが売れているからいいや」みたいに,あんまり考えてないんじゃないかなぁ。で,他のメーカーはQcKをベンチマークにして真似っ子しているだけだから,結局QcKになる。

4Gamer:
 業界的に思考が止まっちゃってるんですかね?

小林敏博氏:
 止まっちゃってる。もっと良くしようという意識が感じられない。
 そもそも昔のRazerなんかは,マウスパッドの真ん中にシルクでバーっと印刷なんかしてたんですよ? 最近はマシになりましたけど,ありえないでしょそれって。トラッキングしにくくなって,マウスパッドとして機能しなくなるじゃんってね。

4Gamer:
 あー,表面のプリントは,トラッキングできなくなるのがほとんど。

小林敏博氏:
 うちが前にプリントをしていたときは,影響が出ないように表面層じゃないところにやってましたね。もしくは,染色系のインキを使う。糸に染みこむタイプなら読み取りになんの影響も与えないし,物理的な滑りにも関係がない。それか昇華プリントね。

4Gamer:
 プリントした状態としてない状態だと,どれくらいのコストの違いがあったりするんでしょうか?

小林敏博氏:
 うーん,プリントは高いとだけ言っておきます(笑)。

4Gamer:
 開発手順のついでにお聞きしたいのですが,飛燕が現在の形に至るまではブランドの立ち上げからどれくらいかかりましたか(※10)。

※10 飛燕は,マウス操作時に適度な滑りと止めやすさが得られるだけでなく,マウスパッドのうねりによる微小な上下のブレが生じづらいとして,ユーザーからの評価が高い。

小林敏博氏:
 3年じゃきかないですね。もっとかかっていると思います。

4Gamer:
 飛燕自体も,発売予定がかなり遅れたりと色々ありましたよね。

小林敏博氏:
 自分で作っているから,悪い点は分かっているんですよ。それをどう解決すれば良いのかって,寝ても覚めても考えていましたね。お金をかければ当然解決はできるけれども,今まで以上に値段を高くしたんじゃ,お客さんが買うわけない。

4Gamer:
 二の足を踏んでしまいますね。

小林敏博氏:
 たとえば,ワッペンみたいに,外周をロックミシンで縫ったやつあるでしょ? あれは中国でやれば安上がりだけど,日本国内でやったらとんでもない値段に跳ね上がる。

4Gamer:
 縫うだけでも国内だと加工代が大変なことになってしまうんですね……。

小林敏博氏:
 ほつれ止めなんかも頭を悩ませてくれた。まぁ結局コレはカバン屋の技術なんだよね。焼いて止めるみたいな。でも,焼くと硬くなって手が痛くなる。だから削っているんだけど,十分ではない。
 で,やっとこさ,さっきも言ったけど,波刃で抜く方式に辿り着いたんですよ。
 これでマウスケーブルの引っかかりは大丈夫。もしこれでも引っかかるならマウスバンジーで対処して,と。あとは,安いフッ素系テープをマウスパッドの角に貼るのも簡単でいいですよ。

 でね,紫電改のサーフェス作ってた会社が去年倒産しちゃったんだ。それを,会社更生法で八王子の会社が買い取ったんですよ。で,なんとか工場が続いている。でも,その過程で,サーフェスを作っていたラインの機械が壊れちゃって新しく新調したんです。それで,前とテイストが少し変わっちゃうんですね。それの解決に時間がかかった。
 滑走面の素材はアナログな製品なんで,「いつもまったく同じ」にはできないから。

4Gamer:
 おっと,それは困りますね。テイストが変わってしまうという告知は?

小林敏博氏:
 「同じ」と言い切れない場合は,する。

4Gamer:
 でもそれは仕方ないというか,どうにもならない問題ですよね。

紫電改(ARTISANの製品情報ページ
画像集 No.022のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 いろんな企業に素材を造ってもらってるんだけど,それらを取りまとめるのは難しい。特殊な素材もあるしね。
 とくに紫電改のサーフェスだと,製造の歩留まりが悪いから,コスト的には高くなってしまうんだよ。50m製造して,使えるのは5mなんてときもあるくらい。

4Gamer:
 大部分が無駄に……。

小林敏博氏:
 だけども,値段をそんなに上げるわけにもいかないじゃない。だから,紫電改は売っても売っても儲からない。で,やめちゃおうかって言ってたんだ。だけど,営業担当が「ダメ! ファンが多いんだから」って。

4Gamer:
 紫電改のユーザーの行き場がなくなっちゃいますしね(※11)。

※11 紫電改は極めて滑りがよく,使いこなすのが難しい,ピーキーな作りのマウスパッドだ。それだけに,使いこなしたユーザーには「もう他には移れない」と言わせしめるレベルで愛されている。

小林敏博氏:
 だから止めるわけにはいかねぇなぁと。だもんで,利益はほとんど出ないけど,これもひとつの特徴だから続けようと。もう,頭痛の種(笑)。

4Gamer:
 聞けば聞くほど大変ですね。いや,ほんとに。

疾風乙(ARTISANの製品情報ページ
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小林敏博氏:
 疾風乙とかもほんとに大変。疾風乙は疾風より密度が低いんですよ。細い糸でやってるんで糸が切れる。(布部分は)反物として出てくるわけで,マウスパッドのサイズに合わせて出てくるわけじゃないから,使えない部分が出てきちゃう。

4Gamer:
 どんどん歩留まりが下がっていくんですね。

小林敏博氏:
 布を作るところも音を上げちゃって「小林さん,もう勘弁してくれない?」って。勘弁してくれないって,お前らが提案してきた布じゃないか! ってね。

4Gamer:
 あ,疾風乙のサーフェスは工場側からの提案なんですね。

小林敏博氏:
 そう。それで今は対策も考えて試行錯誤しているんだけど,別の業者も捕まえて,似たようなテイストの物をトライしている状況です。まったく同じ感じにはならないけど,「いいんじゃない?」って思えるレベルになったら,そっちも買えるようにします。
 コストも今までの半分ぐらいにする予定なんで。疾風と疾風乙はコストがヤバくて,アパレル感覚ではトンデモなく高い。桁も1つ違って,1mで○○○○円。だから利益率も低いんですよ。

4Gamer:
 あ,それは高い。

SMART PAD。現在は販売されていない
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小林敏博氏:
 飛燕の布だと1mあたり○○○円。
 思い出したけど,(飛燕のサーフェスで採用しているのは)「SMART PAD」(※12)のときにも検討された布だったんだけど,当時,うちにいたスタッフが「日本人はザラザラした表面が嫌いだから」って言ってポイッとしたんですよね,これ。それを当時うちにいた若いのが「これ面白いからやったほうがいいですよ」って(言うので採用した経緯がある)。
 これアムンゼン(※13)なんだけど和装用の布なんだよね。

※12 ARTISAN初期のマウスパッド。現在は生産されていない。
※13 アムンゼンは愛知県尾州で開発された梳毛織物と,そのメーカーの名称。ここでは日本独自の織り方でできている生地のことを指している。ちなみにこの生地,コスプレ衣装用の生地として使われることも多い。


4Gamer:
 へぇ,アムンゼンなんですか。確かにそう聞くと納得できますね。

小林敏博氏:
 これパターンがバラバラなんで,当時は「こんな品質が低いのはダメだ!」って言ってたんだけど,「滑りの抵抗がいい感じだからアリじゃないか」と言われて出してみたら,けっこう受けが良くてね。

4Gamer:
 飛燕にはそういう経緯があったんですね。

小林敏博氏:
 しかも,上下と左右で摩擦係数が違うから,「Counter-Strike」とかの,比較的上下の動きが少ないゲームを遊ぶプレイヤーには好評だったね。リコイルコントロールがしやすいって。

4Gamer:
 マウスパッドといえば,更新が止まり気味だという話のあったARTISAN公式Webサイトには,滑りやすさと止まりやすさだけでなく,厚みも大事だと書いてありますよね。これについても具体的に説明をお願いできますか。

小林敏博氏:
 マウスパッドって,押し込んだときに表面が歪んで,引くと戻りますよね? でもこれって,ある程度の厚みがなければ机の上で動かしているのとあんまり変わらないんですよ。

4Gamer:
 そうですね。

小林敏博氏:
 だから厚みって結構重要で,最低でも3mmは必要です。
 あとマウスって,止まっているときは,上から加圧している状態ですよね。

4Gamer:
 ええ。

小林敏博氏:
 そうすると中間層が歪んで「山越え抵抗」というのが発生するんですよ。
 柔らかいほうが凹みが大きくなり山越え抵抗が起きるのでマウスを止めやすくなる。逆に硬いマウスパッドだと凹みにくくなるので……。

4Gamer:
 山越え抵抗が小さくなって,止まりにくくなると。

小林敏博氏:
 その代わり,柔らかいと,マウスを振ったときの安定性に欠けます。クルマで言えばスタビリティが悪くなる。だから,どっちを取るかなんですよ。

4Gamer:
 その塩梅は難しいですね。

小林敏博氏:
 難しいし,使用者のプレイスタイルに依存しちゃうからね。だから,自分のプレイスタイルはどうなのかっていうのを考えてから(マウスパッドの)硬さを選択するのがいいでしょうね。

ARTISAN公式Webサイトにある,マウスソール販売ページ
画像集 No.025のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
4Gamer:
 そういえば,ARTISANってマウスソールも公式サイトで売ってますよね。マウスのメーカーごとに貼ってあるソールの形状は違い,当然,マウスパッド側の沈み込み具合も変わってくると思いますが,ARTISANのソールというのは,それへの対策だったりするんですか。

小林敏博氏:
 というか,今売られているマウスに貼られている全部が失格なんですよ。

4Gamer:
 それはつまりテフロン加工がダメだということですか?

小林敏博氏:
 違う違う。形状が問題。あんな形はありえないってこと。

4Gamer:
 あ,形状ですか。最近のマウスで,たとえば「G900」(※14)とかだと形状の異なるソールが計6枚張られていたりしました。

※14 Logicool G(日本以外ではLogitech G)製のワイヤレス・ワイヤード両対応マウス「G900 Chaos Spectrum Professional Grade Wired/Wireless Gaming Mouse」のこと。詳細はレビュー記事を参考にしてほしい。

小林敏博氏:
 だいたい,マウスを移動させる方向の違いで摩擦係数が変わるなんておかしいじゃないですか。マウスなのに方向性(指向性)があるというのはダメに決まってる。

4Gamer:
 そう言われてみれば変な話ですよね。

小林敏博氏:
 よく喩えるんですが,お風呂の中にタライを浮かべて,上からキュッと沈めてみてください。大きいのと小さいのだとどちらが抵抗が大きいですか?

4Gamer:
 そりゃでかいほうですよね。

小林敏博氏:
 でしょ? じゃぁ小さいほうが,マウスに荷重をかける力が小さくていいじゃないですか。小さいほうが,中間層を歪めやすくて,止めやすい。

4Gamer:
 ですね。滑らすとなれば尚更。

小林敏博氏:
 本当はソールが3点のほうがいいんですけど,3点はバランス的に難しい。だから4点かな。

4Gamer:
 4点で丸型と。では,楕円形のソールとかは?

小林敏博氏:
 厳密に言えばそれも方向性が発生するからダメ。そもそもソールがテフロンでできている理由って,マウスパッドの滑りが悪いから補完するために採用しているわけでしょ?

4Gamer:
 つまり,マウスパッドの滑りが良ければ……。

小林敏博氏:
 テフロンなんていらない。だからうちのはナイロン66で,滑らすためじゃなくて止めるため(のソールになっている)。
 ちなみに,現在販売しているソールは全部新型になっているんですよ。

4Gamer:
 昔のやつってエッジが立ってて,滑り出しが重かったんですよね。

小林敏博氏:
 それが嫌で積極的に売ってなかったんだよね。ただ,型から抜く刃とかを研究して滑らかに改善していったのよ。地道にね。

4Gamer:
 もう1つ聞きたいのは,布製マウスパッドの買い換え頻度です。海外の,熱のあるプレイヤーだと,割と1か月とかそういうペースで買い換えるって言いますよね。言い方が悪いかもしれませんが,消耗品であるマウスパッドを1年使って滑りや劣化についての文句を言うのも,何か違うよなぁとは思いますが,その点はどう考えていますか。

小林敏博氏:
 そのとおりで,「勘弁してくれよ,マウスパッドに耐久性なんて求めないでくれよ」というのが本音ですね。だいたい,F1のタイヤに耐久性求めますか?

4Gamer:
 そうですよねぇ。

小林敏博氏:
 耐久性の高い製品だって作れはするんですよ。でも,対価としてマウスソールが異常な速度で削れてしまいます。

4Gamer:
 ガラスのマウスパッドは1年とか2年は持ちますけど,ソールのほうが1週間で死にますからね。

小林敏博氏:
 クルマのシートベルトってあるじゃないですか。あれって布でしょ。耐摩耗性があって,かつ,滑らなければならないんで,ウレタンの樹脂で表面を加工しているんですよ。

4Gamer:
 ええ。

小林敏博氏:
 布にしても何にしても樹脂なんですよ基本は。それをどう加工しているかの違いでしかない。
 フィラメント(=糸)にして織ったら布になる。溶かして固めたらプラスチックの板になる。アクリルやウレタンなどを持ってきて,硬化剤の割合を変えて柔らかくすると糊になる。そういった加工法の違いで,出来あがるものが変わってくる。だから,それらを上手く組み合わせてあげればマウスパッドなんていくらでもできるんです。


ARTISANのマウスパッドはどう選べばいいのか


4Gamer:
 ただ,その結果としてARTISANのマウスパッドは多品種展開になっていて,「最初の1枚」でどれを選べばいいのかよく分からないというのもありますよね。

小林敏博氏:
 難しいよねそれ。よく言われるけど。

4Gamer:
 これは一般のスポーツでもそうですが,どんな選手でも,最初はエントリーモデルから入って,徐々にグレードを上げていきますよね。その「普通のエントリーモデル」をARTISANとしてどうするのかというのはとても気になります。

「サーフェスを貼り替えられるマウスパッド」の台座側
画像集 No.026のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 それは本当に難しいんだけど,サーフェスを貼り替え可能なのが出てくれば,いろいろ試せるようにもなるでしょ?

4Gamer:
 あー,ここにつながるのか!

小林敏博氏:
 そういうこと。だから,(さっき複数枚セットという話が出たが,それは同じサーフェスではなく)違うものを3種類入れて売るつもりなんですよ。で,滑りの違いを試してごらんなさいと。

4Gamer:
 ははあ……。

小林敏博氏:
 うちで「コレにしなさいよ」って言うことも可能なんでしょうけど,(向き不向きが)個人個人で違うから。

4Gamer:
 基準の置き場所が分からない。

零(ARTISANの製品情報ページ
画像集 No.027のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 そう。どういう所に基準を置いていいのか分からない。
 たとえば,QcKをベンチマークにするなら,うちの基準は零かなぁとは思いますね。なんか最近よく零が売れているんですよ。MIDがね。

4Gamer:
 でも,あの謳い文句を見ると零を選びたくなりますよ。素人としてARTISANのサイトを見ると,これが一番安全そうかもって思います。

小林敏博氏:
 なるほどねぇ……。零は一番安全ですよ。
 飛燕も安全なんだけれども,移ってくるなら零にしたほうがいいでしょう。(一方)何の予備知識もない人だったら飛燕でいいんじゃないですか,っていう感じ。

4Gamer:
 ちなみに,今一番売れている製品ってどんな感じなのでしょうか?

小林敏博氏:
 一番売れているのは疾風乙。

4Gamer:
 飛燕よりも売れてるんですか?

小林敏博氏:
 もちろん飛燕も売れているけど,疾風乙だなあ。

4Gamer:
 紫電改とか意外と今年は売れるんじゃないですか? 「Overwatch」というFPSがいま流行していますが,このタイトルはQUAKEとかCounter-Strikeよりもマウスを振り回す必要があるので。

小林敏博氏:
 へぇ,そうなんだ。
 そういえばQUAKEの新しいやつも発表されたよね?

4Gamer:
 あれはまだ登場まではしばらくかかるはずですよ。


評価している海外ブランドはない。「マウスパッドに関しては世界一」


4Gamer:
 ところで,小林さんが評価している海外ブランドってありますか。

小林敏博氏:
 ない。マウスパッドに関してはうちが世界一です。それでも,理想にはほど遠い状況で,自社製品でも改善点が浮かび続けて悩ましいから,表立って(「世界一」とは)言わないんだよ。あと,そういうこと言うと他社製マウスパッドのファンに怒られる(笑)。

4Gamer:
 (笑)。

小林敏博氏:
 マウスパッドメーカーの中には,「工業製品としては」敬服する製品を造ってる会社が1社だけあるんだけど,そこのはゲーム用マウスパッドとしてはNGなんだよね。すごく惜しい。

4Gamer:
 その1社からかもしれませんが,ARTISANの性能に追いつくような製品が海外から出てきたら?

小林敏博氏:
 歓迎。それは ARTISANの主張が認められたということでもあるだろうし。

4Gamer:
 ARTISANとしてはマウスパッドの究極系は布と紙だと。

小林敏博氏:
 うん。金属とかあのへんは絶対ダメ。布と紙は使用感が優しいでしょ。
 それに,アルミとかは,過去に試作して完成まで持っていったけど,マウスが止まらない。薄くすれば止められるんだけど,そうすると金属だし,剃刀の刃みたいになっちゃうから危なくて。

4Gamer:
 安全性に問題があると。

小林敏博氏:
 陶器でも試したことあるけど,止まらないよ。耐摩耗性なら陶器が最強だけど,あえて不利になるような製品なんて作る必要ないし,買う人だっていないんじゃないかなと思います。
 ガラスも歪んだり(=凹んだり)しないのでありえないです。しなやかさに欠けますから。

4Gamer:
 夏場にヒンヤリして気持ち良いかもしれませんよ?

小林敏博氏:
 あはは。でもやっぱりマウスパッドはしならないとね。

4Gamer:
 紫電はガラスの採用を謳っていますよね。

小林敏博氏:
 あれはPPの上に細かいガラスのボールが付いている感じですね。ただ,ビックリするくらいの速度でソールが削られちゃうんだよね(笑)。


ARTISANはこれからどうなるのか


4Gamer:
 ARTISANとして,今後何をしようと考えていますか?

小林敏博氏:
 1つは現行品の改善で,地味だけどこれまでにも少しずつやってきていますね。もう1つはコストダウン。もう,ずーっと,ストリートプライスは下げたいと思ってきました。とにかく,安くないと売れないから。

4Gamer:
 コストダウンは,今日見せていただいた「捨てられるサーフェス」が大きく貢献してくれそうですね。

小林敏博氏:
 で,3つめは(コストダウン品として今回披露したのとは別の)新製品。「マウスパッドって熟成したのでこれ以上変わらないだろう」と言われてるのを聞くと,首を絞めて焼きごてでも当ててやろうかと思ってしまいます(笑)。

4Gamer:
 また物騒な(笑)。

小林敏博氏:
 でも,実際は「マウスパッドが熟成した」なんてことは全然ないんですよ。
 で,ありがたいことにうちの製品を良いと言ってもらえるのですが,それは他(=他社製品)が悪すぎるだけで,相対的にARTISANの製品が良くなっているだけの話でね。
 もちろん,こうすればもっとよくなるという方向性も持ってはいるんだけど,それを具現化しようとなると,正直,もう限界。

4Gamer:
 えっ。どういうことですか?

画像集 No.028のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 ARTISANの限界。もう,私1人では資本規模とか色々な面を含めてね。ここから先はもう,スポーツ用品メーカーの仕事なんです。

 たとえば(自動車用の)エコタイヤって,転がり抵抗をメチャクチャ小さくしている。だけど,止まらなければならないし,曲がらなければならない。そのためにトレッドパターンを研究したり,コンパウンドを変えたりと,いろんなことをずっとやっているわけじゃないですか。
 ものすごい研究開発をしているわけですよ。

4Gamer:
 ええ。

小林敏博氏:
 マウスパッドも,本気で取り組むならその(レベルの)世界なんですよね。だから,ブリヂストンさんが作ってくれないかなぁなんて(笑)。

4Gamer:
 ただ,タイヤと比較するとマウスパッドの市場は小さすぎて,参入できなさそうですが(笑)。

小林敏博氏:
 あとは,アシックスさんも,ミズノさんもウォーキングシューズとかノウハウあるじゃない?

4Gamer:
 シューズメーカーはノウハウは蓄積してそうですよね。

小林敏博氏:
 あのあたりの企業が参入してきて,それまでに培った技術やノウハウを活かしてマウスパッドを作るべきなんですよ,本来的には。
 だから正直に言うと「完成している」なんてフザケたこと言ってんじゃねぇよと。なに寝ぼけたこと言ってるのよと思いますね。

 そうそう。この間たまたま知ったんですけど,イチロー選手って,4日でシューズを履き替えるそうなんですよ。

4Gamer:
 シューズの形が変わってしまうからですかね?

小林敏博氏:
 感覚が変わるからなんだって。超一流のスポーツ選手は,それくらいの感受性でパフォーマンスを大事にしているわけですよ。
 さすがにマウスパッドに対してそのレベルになれとは言わないけど,「同じマウスパッドを買い換えずに1年間使い続ける」なんて言うのは……。
 もちろん遊びで使うなら良いですよ。その代わり,それでe-Sportsとか言ってほしくない。eは付けていいけどSportsのほうは言ってほしくない。

4Gamer:
 “eマット”とかですかね。

小林敏博氏:
 eマット!(笑)。
 とにかく,スポーツって単語を(eの後ろに)つなげる以上は,ほかのスポーツと同じレベルで考えてくれよと。

4Gamer:
 あ,そうそう,聞かなければならないなと思っていたのですが,なぜマウスパッド1本に絞っているんですか。

小林敏博氏:
 お金がないから。

4Gamer:
 予算の都合でしたか……。
 ではちょっと質問を変えますが,仮に予算があったとして,他に手を伸ばすということは考えないんでしょうか。

小林敏博氏:
 全然考えてない。
 (正確を期せば)マウスは一度考えたことがあるんだけど。ただ,昔からいまのARTISANも含めて,決めていることがあるんだよね。

4Gamer:
 何ですか?

小林敏博氏:
 「可動部分があるものは作らない」。回転したりとかそういうのはね。まぁ,多少ならいいんだけど。
 あとは「電子回路を要するものも作らない」。簡単なパターンくらいならいいんだけど,開発しなければならないから。リスクが大きすぎる。

4Gamer:
 ミスったときのリスクが甚大ですよね,しかも金がかかる。

小林敏博氏:
 PC関連で物を作るときは(たいてい)ハイリスクハイリターンじゃなくて,ハイリスクローリターンだから。

4Gamer:
 いままでずっと,なんでマウス作らないんだろうと思っていたんですが,初めてその理由を聞くことができました。

小林敏博氏:
 マウスに関しても言いたいことはあるんですよ。でももういいやって。

4Gamer:
 小林さんのこだわり具合からすると,センサーの中身とか突き詰めたりして,15年くらいリリースされなさそうですけど(笑)。

小林敏博氏:
 あっはっは(笑)。
 1回,(既存のマウスの)改造品を作って売ろうかなと思ったことはあるんだけど,でもマウスは色々なところがやってるし,いいかなと。梅村さん(※15)だっけ? いま彼はキーボードをやっているんだっけかな。ああいうところがやればいいんじゃないかな。

※15 梅村匡明氏。かつてゲーマー向け周辺機器ブランド「DHARMAPOINT」を立ち上げたときの主要人物で,現在はビット・トレード・ワンにて製品開発に携わっている(関連記事)。

4Gamer:
 小林さんの手がけたマウスというのは一度見てみたいですが……。

小林敏博氏:
 (マウスを開発していない,マウスパッドメーカーの立場からすると,)マウスに関してはねえ,マウスはトラッキングできないとマウスじゃないんですよ。飛んだときにマウスパッドメーカーに文句を言ってくるんじゃないっての! ってのがあります。

4Gamer:
 正論ですね。

小林敏博氏:
 (マウスがトラッキングできないときに)なんでマウスのメーカーに文句を言わないんだよと不思議でしょうがない。

4Gamer:
 いまだに言われますか?

小林敏博氏:
 言われる。

4Gamer:
 それは今でも「IntelliMouse Optical」を使ってるからとかじゃないんですかね。

小林敏博氏:
 あはは。でも,どこのどのマウスがどれで飛ぶのか,ちゃんと報告してほしいとは思ったね。

4Gamer:
 ボクが発売前の検証をお手伝いしていた頃,小林さんがご自身で検証をガッツリなさってたのを今でもよく覚えてますよ。

画像集 No.029のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 でももう止めたよ。
 でね,少し話がずれるけど,俺ZOWIE GEARさん(編注:現BenQ ZOWIE)のマウスの作り方が大っ嫌い。せっかく良いセンサーを使っているのに,それを仕様から外したような実装の仕方してリフトオフディスタンスを小さくしましたとかって,違うだろそれは! という。
 ちゃんと実装仕様に合わせて作って,リフトオフディスタンスが大きくなったら別の対策法を考えろと。

4Gamer:
 正しい解決法ではないと。

小林敏博氏:
 あんなのは正しいアプローチではない。あれは明らかにイレギュラーで,工業製品を作る姿勢としては間違ってる。だったら1個センサーを付け加えればいいじゃない。距離を測るやつを。

4Gamer:
 確かに,そういうセンサーを搭載するマウスって,いままでに出たことがありますね。

小林敏博氏:
 そう。それで測って信号をカットすればいい。それならいくらでも自分で調整できるじゃないですか。で,トラッキングをピーキーにしちゃってさ,それって(「トラッキングできなければマウスではない」という前提からすると)マウスじゃないじゃん。

4Gamer:
 一家言ある小林さんだけに,やっぱりマウスが見てみたいですねえ……。
 次に,ARTISANというブランドとして,これはしてみたいというのってあります?

小林敏博氏:
 うちの目標というか,夢は「DreamHackに行く」ってのがありますね(※16)。

※16 スウェーデン発祥となる,世界最大のLANパーティ。万単位の来場者が,思い思いにゲームやコスプレなどを楽しんだり,ゲーム大会を行ったりする。最近はスウェーデン以外での開催も盛んだが,小林氏がここで言っているのは本家スウェーデン版DreamHackのこと。

4Gamer:
 DreamHackに行ったとして何を?

小林敏博氏:
 ブースなんか畳一枚分くらいでいいんですよ。(そこで)日の丸を巻いて(マウスパッドを)ばら撒く。

4Gamer:
 「お前ら使ってみろオラー!」みたいな。

小林敏博氏:
 そうそう。あとは,BYOCのエリアとかで夜中にゲリラ的に配ったりとか……でも,それやると怒られてつまみ出されちゃうかな。

4Gamer:
 つまみ出されるような雰囲気じゃないらしいですよ。
 QUAKECONとかだと,セキュリティがしっかりしていて,持ち物とか全部登録するじゃないですか。だけど,ボクが聞いている限り,DreamHackってほとんど何もないらしいです。
 パスとか持ってない,入場料を払っているのかどうかすら怪しい人とかが,BYOCコーナーを行き来してて,スーパーフリーダム。

小林敏博氏:
 とりあえず,DreamHackには絶対に行こうと思ってます。

4Gamer:
 QUAKECONはもう行きましたもんね。

小林敏博氏:
 QUAKECONはもう何回か行ったからいいかな。
 だいたい計算してみたんだけど,(DreamHackに行くのは)500万円もあれば十分に足りるかなって。で,ブース出してばら撒いてみたらどうなるかやってみたいなと。

4Gamer:
 QUAKECONだと,ARTISANのブースに30分ごとに来てはサーフェス触ってビビってるゲーマーとか,マウスをブースに持ってきて衝撃を受けては友人を連れてくる人とか多かったですよね。また同じ光景が見られそうですね。
 
小林敏博氏:
 この紙のやつとか,衝撃を受けると思うよ。「お前らタコメーカーの使って何がスポーツだコラ! 笑わせるんじゃねぇ!」って。

4Gamer:
 そんなに口の悪いスポーツ用品メーカーなんていませんて!

小林敏博氏:
 あはは,そうっすか(笑)。
 まぁでも世界のトッププレイヤーたちも,スポーツギアとしてマウスパッドを見るんなら,そういう部分の意識をもっと上げていかないとダメだよね。

4Gamer:
 あ,そうだ。これは伺っておきたいんですが,ARTISANとして未来のビジョンはどう描いていますか。

小林敏博氏:
 何にも。俺が死んだら終わり

4Gamer:
 えええ。そういう感じなんですか? 後継者育成とか考えていないんですか?

小林敏博氏:
 育成は大変だからねぇ。「やりたいって人がいれば,やればいいんじゃない?」という感じです。

4Gamer:
 いるならウェルカムだと。

小林敏博氏:
 いままで何人かとやってきましたけど,コイツ分ってないなぁというのの連続だったんで。だけど,分かっている人ならチャンスはメチャクチャある。
 もし,火が点けばものすごいことになる。QcKであれなら,夢でも何でもないんですよ。だから,「やらせて下さい!」って人がどんどん出てきてもいいのに。

4Gamer:
 ビジネスチャンスとしては大きいですよね。

画像集 No.030のサムネイル画像 / 孤高の国産マウスパッドメーカー「ARTISAN」インタビュー。PC業界の有名人・小林敏博氏に来し方行く末を聞く
小林敏博氏:
 開発に何千万もかからないし,時間はかかるけどコストが異常にかかるわけでもない。リスクは小さいし,失敗してもたかが知れているレベル。

4Gamer:
 極論,ファーストロットで問題があったらラインを止めて改善するだけですもんね。

小林敏博氏:
 ローリスクでハイリターンという可能性を秘めている。必要なのはプロモーションとブランドの確立だけ。私個人のブランドのままで,死んで終わりってのはもったいなさすぎない?

4Gamer:
 僕はもったいないと思いますね。ここまでこだわっているマウスパッドって,正直,どこにもないですし。

小林敏博氏:
 さっき,ほかに何かやらないのかと聞かれたけど,これが世界的に売れたら,そこを切り口に何かを始めればいいって話になるのかね。やりたいことは本当はいっぱいあるんだ。

4Gamer:
 最後に,何か言いことや主張し足りないこととかありませんか?

小林敏博氏:
 いやーもうないですね。あんまりしゃべり過ぎると載せられないことばっかりになっちゃう。敵が多くてどうしようもないんで(笑)。業界の村八分ですから。

 ……ああでも,ARTISANを使っていただいてる国内、海外のユーザーの皆さんにはありますね。心からお礼を言いたいです。
 いくら性能に自信があるとはいえ、有名海外プロとか日本国内のプロとかが使ってるわけでもない,世界的にはマイナーな製品。にもかかわらず使っていただいてることには,本当に感謝しています。これからも,とにかく多くのユーザーに喜んでいただけるように精進します。

4Gamer:
 最後に,とても前向きな発言をいただきました。本日はありがとうございました。

小林敏博氏:
 いえいえ,こちらこそありがとうございました。

ARTISAN公式Webサイト


■2016年 夏の特大プレゼントに関する種明かし
 本稿を読み終えた読者はピンときたかもしれないが,2016年 夏の特大プレゼント企画において「マウスパッド新製品の量産試作品」としてARTISANから提供された製品は,氏がインタビュー中で言及している「サーフェスを剥がして交換できる製品」である。台座と布製サーフェスのセットでお届けすることになるので,まだ特大プレゼントに応募していないという人は,ぜひご検討を。応募締め切りは8月29日21:00だ。

構成,撮影:佐々山薫郁
  • 関連タイトル:

    ARTISAN

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