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【西川善司】3D立体視談義その3〜3DテレビだとフルHDで立体視ゲームをプレイできないワケ
西川善司 / グラフィックス技術と大画面とMAZDA RX-7を愛するジャーナリスト
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(善)後不覚 |
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とはいえ,フレームシーケンシャル方式(※前回参照)方式なら,テレビ製品自体に「立体視対応」を謳わせるのはそれほど難しくない状況になりつつあるのも,また事実です。
昨今,中級クラス以上の液晶テレビは,ほぼ例外なく倍速駆動120Hz対応パネルを採用していますから,ポテンシャル的には立体視に対応できるといえます。倍速駆動に対応した,現行の中級モデルをベースにしつつ,立体視対応のHDMI信号が受けられるよう,映像エンジン側をマイナーチェンジして,赤外線トランスミッタと,液晶シャッター機構付きの立体視メガネを純正オプション品として出してやれば,立体視対応テレビが一丁上がり,というわけです。
むしろ今後は,そうした製品――立体視対応だけしておいて,立体視に必要なアイテムは全部別売り――のほうが自然になるかもしれません。立体視対応することが,テレビ本体の価格上昇要因にならないなら,コスト上昇要因となるトランスミッタと立体視メガネをオプション扱いにすれば,立体視対応を謳えるうえに,見かけ上の価格は下げられますからね。
で,この動向が本格化すると,我々ゲーマーにとっては嬉しい事態になります。
なにしろ,わざわざ立体視対応の液晶ディスプレイを買わなくても,好きなテレビを買えばゲームの立体視プレイが楽しめるようになるわけですからね。
ただ,疑問に思う人はいるかもしれません。
「立体視対応テレビって,ゲーム機やPCとつないでも,そのまま立体視できるの?」と。
今回は,そんな話題について考えてみたいと思います。
立体視対応テレビで立体視ゲームプレイができるワケ
立体視対応テレビが表示できる立体視コンテンツは,現状,基本的にHDMI(端子)によって伝送されることが想定されています。そして,立体視コンテンツのフォーマット自体はHDMI 1.4aという規格で規定されていますから,このフォーマットに則って映像を伝送できれば,3D Blu-rayプレーヤー以外の機器,例えばゲーム機やPCでも,立体視映像を立体視テレビに映すことはできるのです。
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4月に公開されたファームウェア3.30では,初代機を含むすべての現行PS3で,立体視対応テレビへの接続が可能になっています。
立体視対応ゲームの発売時期はまだ明らかになっていませんが,ソニーは自社の液晶テレビブランド「BRAVIA」シリーズで,6月に立体視対応モデルの発売を予定していますので,きっと近いうちにファーストパーティタイトルとして,立体視対応ゲームがリリースされるはずです。
付け加えるなら,年末にはPS3用モーションゲームコントローラ「PlayStation Move」も出てきますから,“立体視×モーションコントロール”の両方を活用できるユニークなプラットフォームとして,大きく飛躍しそうな期待感があります。
ところで,PS3の仕様だと,HDMI規格1.3対応のHDMI端子しか用意されていないはずですが,そんなPS3が立体視に対応できるのはなぜなのでしょう。
実は,HDMI 1.4aの物理的な信号伝送速度仕様は,HDMI 1.3と同じなのです。HDMI 1.4aで規定されたのは立体視映像のフォーマットだけなので,HDMI 1.3の端子でも,伝送する映像のフォーマットさえHDMI 1.4仕様(の立体視映像形式)に整えられれば,立体視対応機器のフリ(?)ができます。
そう,PS3は,HDMI 1.3機器ですが,ファームウェアアップデートで「HDMI 1.4a対応機器のフリができるようになった」ということなんです。
PCではどうでしょうか。
既存のPCを立体視対応テレビに接続して,PCゲームを立体視プレイ可能にするソリューションは,技術的には可能ですし,実現に向けた動きもあります。NVIDIAが2010年夏に発売を予定しているドライバソフト(≒ミドルウェア)「NVIDIA 3DTV Play」(以下,3DTV Play)はその一例です。
技術的な側面から話をすると,3DTV Playは,NVIDIAのPC向け立体視ソリューション「NVIDIA 3D Vision」(以下,3D Vision)向け出力映像を,HDMI 1.4aで規定された映像信号に成形して出力させる機能を果たします。NVIDIAによれば,3DTV Playは,GeForce 8以降のGPUで利用できるとのことです。
そのため,3D Visionに対応したPCゲームなら,基本的に,3DTV Playを利用するだけで,市販の立体視対応テレビと組み合わせた立体視環境を構築できるようになります。
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3D Visionには,ゲーム側のレンダリングエンジンをオーバーライド(≒無効化)して,強制的に立体視対応レンダリングさせる機能まで用意されています。もちろん,実際にプレイできるか,安定した立体視が得られるかはタイトルに依存しますけど,相当な数のPCゲームを,立体視対応テレビでプレイできるようになるわけです。
意外にもPCゲームは,立体視対応テレビの“裏”プライマリコンテンツと言えるかもしれません。
え!? フルHDだと30fpsまでしか立体視できないの?
ただ,立体視対応テレビでの立体視ゲームプレイには,立体視対応の液晶ディスプレイにはない制限があります。
それは「解像度とフレームレートの上限がある」という点で,具体的には下記のとおりです。
- フレームレート60fpsだと1280×720ドットまで
- 1920×1080ドットだとフレームレート30fpsまで
要するに,フルHD解像度である1920×1080ドットだと,フレームレート60fpsでの立体視ゲームプレイはできないのです。
3D Visionは,1920×1080ドット環境での左右各60fps,計120fpsでのゲームプレイに対応していますし,最近NVIDIAが発表した“3画面立体視環境”,「3D Vision Surround」でも,フルHD解像度3面分,5760×1080ドットで,左右60fpsの立体視が可能ですから,PC側に明確な制限はないように思えます。
では,この制約は何と関連しているのかというと,HDMI 1.4a準拠の立体視フォーマットにまつわるものだったりするのです。
先ほど,HDMI 1.4a規格の話をしましたが,現状の立体視フォーマットでは大別して,
- フレームパッキング(Frame Packing)
- サイド・バイ・サイド(Side By Side,以下 SBS)
- トップ・アンド・ボトム(Top And Bottom,以下 TAB)
という,三つの立体視フレーム伝送方式が規定されています。
このうち,今回取り上げている「フルHDで60fps立体視できない問題」の主因となっているのが,フレームパッキングで,本方式では,左右の目それぞれに向けた1920×1080ドットのフレーム2枚を,1枚の「1920×2160ドットフレーム」としてHDMI伝送することになります。フレームパッキングで立体視映像を伝送すると,HDMI伝送帯域幅の消費量は,単純に,通常のフレーム伝送時比で2倍になる計算です。
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1920×2160ドットの30fpsは,1920×1080ドットの60fpsと,帯域幅消費量が同じになりますよね。HDMI 1.3の時点で,60fpsを超えるハイフレームレートが規格化されたはずなのですが,慣例的にHDMIは1920×1080ドットで60fpsを上限としているため,単位時間あたり,左右の目それぞれに向けた2枚の映像伝送が必要になる立体視だと,1920×1080ドット解像度を維持する場合,30fpsが上限になってしまっているようなのです。
液晶パネル自体は1920×1080ドット・60fpsの立体視に対応しているのに,HDMI 1.4aが抱える立体視フォーマット制限のためにできないというのは,なんとももどかしい話です。
もっとも,「1920×1080ドットだと,立体視時の上限フレームレートが30fpsに制限される」というこの制限,Blu-rayソフトの再生では,あまり問題にならなさそうです。
というのも,映画ソフトの多くが1920×1080ドットの24fpsでできているからです。立体視フォーマットで記録されたソフトでも,帯域幅的には1920×1080ドットの48fpsと同等ですから,この制限内に収まってしまうんですね。
ちなみに,解像度を1280×720ドット(=720p)まで落とすと,画素数的に,1920×1080ドット比で半分程度になるため,左右の目それぞれに向けて60fps,合計120fpsになっても,1920×1080ドット・60fps程度の帯域幅消費に収まります。3Dゲームを60fpsで立体視プレイする場合には,1280×720ドットがターゲットになるでしょう。
ところで,HDMI 1.4aで規定されている立体視映像伝送方式の残る二つ,SBSとTABですが,これらは,解像度を半分に落とすことと引き替えに,1枚の2Dフレームへ,左目用と右目用の映像を両方とも入れ込んでしまう方式です。SBSは1フレームの左右,TABは上下に配置します。
例えば1920×1080ドットのSBSだと,960×1080ドットのフレームが左右に並んだ形で伝送され,各フレームは,横方向の各ピクセルを2ドットずつ反復描画して表示されることになります。解像度的にフレームパッキング方式のちょうど半分なので,HDMI伝送帯域幅の消費量が少ない方式といえますが,画質的にあまりメリットの多い方式とはいえなさそうです。
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せっかくの大画面の立体視対応テレビなのに,1920×1080ドットでは60fpsのゲームプレイができないのはなんとも残念なことですが,ただPS3だと,GPUの能力的,あるいはバス性能的に,1920×1080ドットで60fpsの立体視(=120fps相当のレンダリング負荷)は厳しいという現実もあり,大半が1280×720ドット・60fps止まりになることでしょう。その意味で,「立体視対応テレビの1920×1080ドット・60fps立体視への対応」は,当面の間,PCゲーマーからの要望ということになるような気がしています。
次回は,もうちょっとだけ,ゲームと立体視の話題を続けます。
■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。4Gamerの連載「3Dゲームエクスタシー」をはじめ,オンライン/オフラインのさまざまなメディアに寄稿したり,バカゲーを好んでプレイしたり,大画面にときめいたり,観切れないほどBlu-rayビデオを買ったり,オヤジギャグを炸裂させたりして毎日を過ごしている。 |
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